包み隠すことなく、私は正直な想いを全て曝け出した。
カイちゃんの事が好きだと。
何よりも大好きだと。
それに対してカイちゃんは、少しの間呆然と目を見開いたあと、涙目になって駆け出し、私の身体を思いっきり抱き締めた。
「うわぁぁぁん!白狐ちゃん大好き!
好き好き好き好き好き好き好きィィィィィッ!!」
「わっ、分かった!
分かったから、苦しいって!
つーか痛い痛い!骨が折れる勢い!」
不変力のお陰で骨折れるまではいかないけど、痛覚はまだ不変にしてないので痛みは感じる。
つまり、カイちゃんの暴走する感情に任せた鯖折りハグは、めっちゃ痛い!
「ご、ごめん!つい感極まり過ぎちゃって。」
私の悲鳴で我に返ったカイちゃんが、慌てて私を解放した。
「全く…
でもまあ、そういう素直過ぎるところも、私は好きだよ。」
「…白狐ちゃんッ!」
「あーもー!また抱き着こうとするな!」
再びあの鯖折りを味わうのは御免なので、カイちゃんの顔を手で押さえて止めておいた。
「それで白狐ちゃん、アタシの事大好きって事は、正式に恋人になってくれるって意味で受け止めて良いんだよね?」
「…ああ、うん、そうなるわな。
そもそもそういう約束だったしな。」
「やったやったー!白狐ちゃん大好きー!」
子供みたいにはしゃいでいるカイちゃん。
この子は普段は大人っぽくてしっかりしてるのに、私の前でだけこんなにも無防備に、アホっぽくて子供みたいな素のカイちゃんを曝け出している。
当たり前過ぎて殆ど気にしてなかったけど、改めて意識すると、なんて可愛らしい奴なんだと思えてしまう。
「んで、恋人になったらまずは何すればいいの?
初めての経験だから、なんにも分からないんだけど?」
「うーん、そうだね。
アタシも初めてだからいまいちピンと来ないんだよね。」
「なんだよ、この後の事なんも考えてなかったのかよ。」
「うん、どうしよっか。
白狐ちゃんと恋人になれるってだけで頭の中いっぱいで、その先のビジョンが何にも思い浮かんでなかった。」
「オイオイ、立派な社会人たるカイちゃんらしくないなぁ。」
「エヘヘ、ごめんごめん。」
照れるように頭を掻いて笑うカイちゃん。
「まあでも、逆にその方が良いのかもな。」
「え?どういう事?」
「だって、カイちゃん1人で考えるより、私達2人で考えた方が共同作業感あっていいじゃん?」
何気なくそう言ってみると、カイちゃんはハッとしたように手のひらを口に当てて驚いていた。
「…そ、そうだね!うん、間違いないよ!
アタシと白狐ちゃん、2人で考えよう!今後のこと!」
「そんじゃまず、今日はこの後どうする?」
私の出した議題に、カイちゃんは「うーん」と少し考えを巡らせた後……
「なんか食べに行く?」
「元旦だし、どこもお店閉まってるでしょ。」
「フッフッフ、そんな事もあろうかと、実はおせち料理があるんだよね!
ウチの焼肉店特製の、高級焼肉おせち!」
「お、マジで!?いいね食おう食おう!」
そんなノリで、私の家でおせち料理を食べる流れになった。
ようやく正月っぽくなってきたな。
まだ恋人同士になったという実感がいまいち湧いてこないけど、そこはおいおい理解出来てくるのだろう。
確か、前に読んだ恋愛漫画で、主人公がそんな事を言ってたような気がする。
◆◆
「高級焼肉おせち美味い!サイコー!」
「でしょー?ウチの自慢のおせちですから!」
私の家の食堂で、テーブルいっぱいに大量のおせち料理を広げて、それをカイちゃんと2人でひたすらに食べまくっている。
本来なら20人分くらいの量らしいけど、私達2人なら余裕で食べ切れる。
「それにしても、恋人になったからには何か変わるのかなーと思ってたけど、まだそんな感じしないな?」
「それはまあ、ついさっきなったばっかりだしね。
でも、別に白狐ちゃんは無理して変わったりしなくてもいいんだよ?」
「そういうもんなの?」
「うん、そういうもの……だと思うよ。
アタシも別に変わるつもりは無いけど、距離感は今まで以上に縮めていこうね?」
「あー、うん。私もその方がいい気がするな。」
焼肉を頬張りながら、私もカイちゃんの考えを肯定する。
「でも私ら、距離感ならこの100年でかなり縮まってるよな?」
「うん、そうだねー。」
「これ以上は、どうやって縮めればいいんだろ?」
「それはねー、アタシの事を人間椅子にして、激しくなじりながらお尻ペンペンしてくれたら縮まると思うよ。」
笑顔でエグい事を言ってくるカイちゃん。
「……あのー、恋人って辞退出来ますか?」
「ごめんごめん!まだ人間椅子は早かったよね!?」
「そういう問題じゃねーよッ!
……まあ、それでカイちゃんが喜んでくれるんなら、やってやってもいいけどさ。」
「うえッ!?ホント!?」
「…カイちゃんが喜ぶ顔、見たいし。」
喜ぶ顔というか、悦ぶ顔と言った方が正しいか。
「白狐ちゃん…ッ!」
本日何度目か分からない回数のカイちゃんの笑顔を拝みつつ、ひたすら大量のカズノコを貪り続ける私。
「カイちゃんの笑顔をおかずにご飯が進むわー。」
「それ、喜んでいいのかな?」
カズノコエリアを制覇した私は、続けてチャーシューゾーンへと突入する。
その時、ふと〝ある人〟の顔が脳裏に浮かんだ。
「そうだカイちゃん、私達付き合う事になったんだしさ、折角だから〝あの人〟のところに報告に行かない?」
「え?
あー、いいね!行きたい!」
「多分、連絡したらすぐに会ってくれるだろうから、早速連絡しちゃうよ?」
「うん、オッケー!」
「なるべく早めに会わないと、あとどれだけ会えるか分からんしな。」
私はスマホの連絡先をホログラムで開いて、ある人物の元へメッセージを送った。
◆◆
数日後、昼の東京都日暮里駅。
「へぇ、日暮里なんて良いところに住んでるねぇ。」
「こっから少し歩いた先の高級住宅街に住んでるらしいね。」
「それも一軒家か。
結構お金持ちになったもんだよ。」
まあ、全国チェーンの会社経営で成功してるカイちゃんの方がよっぽど金持ちだがな。
◆◆
日暮里駅から谷中銀座商店街を抜けて(途中で色々食べ歩きしました)、目的の邸宅へと辿り着いた。
立派な造りの鉄製の門がまず出迎えてくれて、広く手入れの行き届いた綺麗な庭園の中心には、天使めいた彫像が飾られた大きな噴水があって、その奥にファンタジー異世界に出てきそうなデカい洋館が見える。
自分で言うのもなんだけど、私の家も元々親が素封家なだけあって、結構大きなお屋敷だ。
この館は、ウチに匹敵する程の規模を誇っている。
こんな良い場所にこんな立派な家を建てられるなんて、相当なもんだ。
カイちゃんが門の横に設置されたインターフォンを押すと、すぐに返事がきた。
「あらあら、お久しぶりね。
どうぞ、遠慮なく入ってちょうだい。」
インターフォンから聞こえてきた声は、老齢の女性の声だった。
それもかなりの高齢で随分と皺がれていたけれど、しっかりとした品性と力強さを感じられる声だ。
「うん、じゃあお邪魔しまーす!」
「私も、お邪魔します。」
相手は私達がよく知る人物なのに、家まで来たのは初めてなだけに、妙に緊張する。
門を潜り、庭園を抜けて、お屋敷の扉を開く。
家の中も中世ヨーロッパ風の、かなり凝ったアンティーク調でお洒落な内装だ。
玄関ホールで靴を脱ぐと、奥の部屋の扉が開き、先程の声の主が車椅子を漕ぎながらこちらへやって来た。
「フフ、久しぶりね尾藤さん、山岸さん。
2人とも、昔からちっとも変わらないのね。」
「うん、久しぶり、野茂咲さん。」
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんの好きな人は?
「白狐ちゃん以外は有り得ないッ!」
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