忙しいドロテーアちゃんと鹿原さんとは一旦別れて、私達4人でお祭りを回る事にした。
〜射的〜
まず最初に寄ったのは、射的ののぼりを掲げた屋台だった。
覗いてみると、私達のイメージしていた射的とは少し違った。
大きなまん丸の木の板に小さな丸が幾つも描かれていて、それぞれの丸に10点やら20点やらの点数が書かれている。
それが屋台奥の壁に掛けられていて、銃で撃ち抜けというルールだ。
成る程、至ってシンプルで分かりやすいな。
「なんていうか、ダーツに近いものがあるな。」
「ダーツなら私の得意分野だ。
任せてくれたまえ!」
自信満々で前に出たのは、意外にもツジだった。
「え?ダーツ得意なの?」
「そうとも、シェルター内の娯楽室でよく慣らしたものだ。
銃を撃つのは初めてだけど、的を射るのは得意だよ。」
颯爽と射的用のライフルを手に取り、優雅さをアピールするように構え、迷う事なく撃った。
初めてなのに扱いが上手いのは、きっと本で予習してきたのかもしれないな。
ズドォォン!
「あひゃァ!?」
と、予想を遥かに上回る轟音がした。
度肝を抜かれた私達は、呆然としている。
撃った張本人のツジはというと、先程までの格好良さは何処へやら、音と衝撃にやられて奇声と共に腰を抜かし、尻餅をついている。
「ああー、嬢ちゃん悪い悪い!それマジモンの銃だったわ!
見た目がそっくりだから紛れ込んでたんだな。
はい、こっちが射的用のね。」
屋台のおっちゃんが悪びれる様子も無く、頭を掻きながら別のライフルをツジに手渡した。
いやいやいや、危な過ぎるわ!
その後、しばらく銃を持つのがトラウマになったツジは、射的を自ら辞退した。
〜焼きそば〜
「こ、これが念願の〝屋台の焼きそば〟!?」
出来立てほやほやの2種類の焼きそばを前に、まるで金銀財宝を目の前にしたかのような、大袈裟なリアクションを見せてくれるレンちゃん。
私達は今、ソースと塩の2種類の焼きそばを出す屋台で焼きそばを買い、近くのイートインスペースでいざ実食する直前だった。
「実はこの焼きそば、白狐ちゃんがドロテーアちゃんに教えたんだよ。」
「ええッ!?そうなの!?」
カイちゃんの発言に、瞳をまん丸にして驚くレンちゃん。
普段クールなこの子がここまで表情豊かになるとは、相当にビックリしたんだな。
「教えたって言っても、電話越しに作り方を伝えただけだけどな。
ほら、ドロテーアちゃんが調べた文献にはソース焼きそばのレシピしか載ってなかったみたいだから、塩焼きそばの作り方も教えたんだよ。」
「……そ、そうなんだ。」
なんかソワソワしているレンちゃん。
その様子を見て、鈍い私も流石に彼女の気持ちを察した。
「良かったらさ、今度作り方教えよっか?」
「ぜ、是非お願いしましゅッ!」
どうやら、レンちゃんは焼きそばに興味があるらしい。
まあ、あの食欲をそそる香ばしい香りと味を堪能しちゃったら、虜になるのも無理はないわな。
あと噛んでたのが可愛かった。
〜輪投げ〜
「輪投げ…
成る程、この輪っかを放り投げて、あの棒に上手く引っ掛ければ良いんだね。」
先程、射的の屋台で赤っ恥を掻いたツジが、雪辱戦とばかりに輪投げに挑んだ。
銃的な飛び道具を持つのがトラウマになった彼女だが、流石に輪投げの輪っかを投げるのは大丈夫そうだ。
「さて、今度こそ私の真の実力をお見せする時が来たようだね。」
自信満々のツジ。
私達が見守る中、ツジは輪っかを投げる!
「ほッ!」
投げる!
「はッ!」
入る!
「とあァ!」
シュバッと格好良く投げては入る!
どうやら、的を狙うのは得意と言っていたのは伊達ではなかったらしく、ツジの手から放たれた輪っかは、まるで魔法のように的の棒へと吸い込まれていく。
その脅威の命中精度はほぼ百発百中で、最高得点の賞品として、お菓子の詰め合わせセットを手に入れていた。
一番良い賞品の割にはちょっとショボい気もするけど、ツジとレンちゃんは何とも嬉しそうだ。
しかもよく見たら、周囲に人だかりが出来ていて、特に女性からの熱っぽい視線を数多く感じる。
確かにツジは中世的な見た目と態度が特徴的な人物だから、女性からの支持が多くても不思議じゃないけど。
「やあやあ、私を応援してくれる可愛らしい諸姉の皆さん。
私の活躍をもっと見たいかい?」
「「「キャー!見たーい!」」」
「オーケー!ならば刮目したまえ!
君達の今日の思い出に、私という名の優雅な華をひと添えして差し上げよう!」
どこから取り出したのか、ツジは薔薇の花を一輪懐から取り出し、宙に向かって放り投げる。
すると、ツジに魅了されていた女性陣が我先にと取り合いになった。
「何なんだこれは?私達は何を見せられてるんだ?」
「さあ?」
「ツジ姉、調子に乗り過ぎ。」
この光景がお気に召さないのか、レンちゃんはムスッとしていて機嫌が悪そうだ。
そりゃあ、自分の恋人が他の女にうつつを抜かしてたら、気に食わないのは当然だわな。
私も、カイちゃんがもしも他の女とイチャイチャしてたら、引っ叩いてエルボーかました後、顔面跳び膝蹴りをぶち込んでいる事だろう。
……あ、ちなみにツジとレンちゃんの2人はとっくの昔に恋人同士になってます。
〜金魚すくい〜
「やっぱりお祭りと言えば金魚すくいだよねー!」
「いや、マジで金魚すくいあるの!?」
金魚すくいの屋台を発見して、心底驚いた。
まさかこんな時代に、金魚すくいが出来るだなんて!
金魚なんて、どうやって調達して来たんだと思いつつ、屋台を覗いてみる。
「……ん?これってまさか、ホロ?」
「本当だ。かなりクオリティ高くて、ぱっと見じゃ分かりにくいけど、ホログラムだね、この金魚達。」
どうやら水槽の水も金魚も本物じゃなく、精巧に投影されたホログラム映像だ。
「フフフ、どうですか皆さん?
これぞ、元アンチョビ教団秘蔵の金魚すくいホログラムです!」
「うわッ!鹿原さん!?」
声を掛けられてようやく、屋台の店番をしていたのが鹿原さんだったという事実に気付いた。
自慢げに胸を張る彼女は、金魚すくいで使用するポイを私達に手渡してきた。
「すげーよこのポイ、紙の部分だけがホログラム!」
「本当だ。よくこんなの持ってたね。」
「ええ、私は元々、前文明の廃墟から使えそうなジャンク品を回収するのが仕事でしたから。
これは以前、汚染地帯を捜索中に見つけたホログラム装置なんです。
あ、ちゃんと洗浄済みで汚染物質はゼロなので、安心して遊べますよ。」
「へぇ〜、流石は元アンチョビ教団。
過去の遺物の扱いには精通しているみたいだね。」
感心しているツジの言う通りだ。
アンチョビ教団は以前から廃墟で遺物をサルベージするのに積極的だったらしい。
まあ、使いこなせれば色々と便利だもんな。
「それじゃあいっくよー!」
先陣を切ったのは我らがカイちゃん!
堅実でありながら決断的な攻め手で確実に金魚をすくっていく。
ポイが破れるまでに取れたのは5匹。凄い!
「では続いて私がいこう。」
次鋒はツジ。
エンタメ性を重視した派手な立ち回りで金魚をすくうも、1匹すくうと同時に破れてしまった。
とことん格好が付かないなぁ、この人は。
「……頑張る!」
三番手はレンちゃん。
緊張してるようで心配だったけど、どうやら杞憂みたいだ。
なんせ彼女は身体能力抜群の野生児。
並外れた動体視力に加え、適切なポイの扱いでヒョイヒョイとすくうすくう!
完全に入れ食い状態で、ポイが破れるまでに20匹以上取りおった。
何という金魚すくいの天才。
で、最後のトリを飾る事になった私だけど……結果はどうか察して下さい。
…うん、暫定最下位だったツジより悲惨なものでしたよ、ええ。
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんが好きな芸術作品は?
「んー、レンブラントの〝夜警〟かな。
色んな人がごちゃごちゃしてて面白いんだよな。」
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