※投稿後、公開設定し忘れてたので、少し遅れました。
「……あ、あの、私は、え〜と、そのですね……」
くそッ、なんで花見の席にまで来て、こんな追い詰められるような構図に陥らないといけないんだよ!
もうイヤだ、早く帰りたいと願いつつも、今はまず、この場を乗り切る方法を模索せねば!
てか、こういう時の誤魔化す文言くらい事前に用意しとけよ、私!
「えっと……えっとね、白狐ちゃんは………う〜ん。」
なんか、私と同じくらい頭を悩ましてるカイちゃんがいる。
やめろ、お前が余計な事言うと、余計に厄介な事態になってくのが、目に見えてるから!
「……そうそう、白狐ちゃんはね、あんまり人には言えないような仕事をしてるんだ!」
「……え?」
はい?
何を言ってるんだこの女は!?
人に言えない仕事って、どういう事だよ!
確かに自宅警備員は人には言いにくい仕事かもしれないけどさー!
この空気でそんな事言ったら、水商売とか犯罪臭のする仕事してると思われるだろがいッ!
「人には言えない仕事、かぁ。」
「……え〜っと?」
「それってもしかして、スパイとか?」
「ほえ?」
なんと野茂咲さん、スパイときたか。
まあ、確かにそれも人には言えない仕事かもしれないけど。
「ああ、うん、それそれ!」
カイちゃんも同調している。
いや、スパイならスパイで、そんな簡単にバラすなや。
「なるほど、確かに尾藤さんの小学生っぽい見た目なら誰だって油断しちゃうよねー。」
「うんうん、それに尾藤さんハーフだから、髪とか顔立ちも日本人離れしてるし、潜入しやすいのかも?」
「アハハ、スパイ凄いねー!お巡りさんの私より、ずっとエリートだよ!」
「…え、えへへへ、他の人には内緒にしててね。」
そうだった、私はロシア人のお母さんと日本人のお父さんとの間に生まれたハーフだった。自分でも忘れかけてたぞ。
ちょっと見た目イジりっぽい感じにもなったけど、私はそこまで気にしない方だし、何より上手く誤魔化せたみたいだから良しとしよう。
スパイだったら、他の人に言いふらす事も出来ないだろうし。
カイちゃんが人に言えない仕事とか言い出した時は焦り散らかしたけど、結果的には切り抜けられたので許してあげよう。
「それじゃあ、みんなの近況も聞けた事だし、お待ちかねのご馳走タイムだよー。」
そう言って野茂咲さんが取り出したのは、よく運動会とかでお母さんが持ってきそうなデカい弁当箱。
いくつも並べられたその箱の中身は、おにぎりに唐揚げ、サンドイッチにポテトサラダなどなど、皆が大好きなご馳走がギッシリと詰まっていた。
「うわー!お弁当美味しそー!」
カイちゃんが早速目を輝かせている。
「この日の為に、頑張って作らせて貰いました。美味しいと思うから、お腹いっぱい食べてね。」
ほほう、野茂咲さんの手作り弁当か。
どこからどう見ても美味しそうだ。堪能させて頂くとしよう。
「おお〜、おにぎりうまうま〜♪」
「いや食べんの早ッ!」
食いしん坊過ぎるカイちゃんが、いただきますも言わずに食べ始めていた。
「全く、ウチのカイちゃんがすみませんねぇ。」
「ご、ごめん。すっごく美味しそうでつい…」
「アハハ、いいのいいの。作り過ぎちゃったくらいだから、バンバン食べちゃってねー!」
「やったー!」
「私達の食べる分は残しとけよ?」
「……は、はい。」
念の為にカイちゃんに釘を刺しておいてから、私達の宴は始まった。
学生の頃の話から、今に至るまでの様々な話題で盛り上がり、結果的には私も充分に楽しめた。
私の職業の話になる度になんとか誤魔化すのに苦労したけど、新藤君の勤めているゲーム会社の話や、野茂咲さんがひったくり犯を捕まえた話など、色々と興味深い話題もいくつかあって、思いの外楽しい。
何より、友人達とワイワイ話せるのは良かったな。
人が多いのと無職バレする恐怖は難点だけれど、たまにはこういうのも悪くないかもしれない。
……うん、まあ、途中までは、私もそう思ってたんだよ。
だけどさぁ……
「ウヒヒヒぃ、白狐ちゃんってホント可愛いよねぇ。みんなもそう思うでしょぉ?」
「……。」
「え〜と…」
「うん、可愛いね。」
「でしょ〜?野茂咲さんは分かってるね〜!」
クッソベロンベロンに酔っ払ったカイちゃんが、私の体に抱きつきながら酒臭い息を吐きかけてきている。
物理的な意味でも酔っ払い的な意味でも私に絡み付いているカイちゃんを前に、新藤君も野茂咲さんも絶賛ドン引き中だ。
いや、野茂咲さんはちゃっかり持参してたビデオカメラで撮影してやがる。
この人は何年経ってもブレないな。
「白狐ちゃん、チューしよチュー!」
「やめい、離れんかい。」
「んもー、そんな事言っちゃってぇ、エヘヘ。
本当はして欲しいんでしょぉ?照れなくていいってぇ。」
「あーもう、やだコイツ!離せお馬鹿!」
私が無理矢理カイちゃんの拘束を解こうにも、単純に力が足りなくてビクともしない。
なんなんだこの、獲物に絡みつくタコみたいな女は!?
なんという吸着力!
「ちょっ、2人も見てないで助けてッ!」
思わず野茂咲さんと新藤君に助けを求めるも…
「いやー、お熱いお二人を邪魔するのも、無粋ってなもんで…。アハハ。」
「うん、まあ、女子2人がいちゃついてる中に、男が割り込むのなんて、普通は出来ないよね…。」
……え?なに?私を助ける気ゼロ?
もしかして、この状況を楽しんでんのか?
酔った勢いで調子に乗ってるカイちゃんに諫言する事も無く、ニヤニヤ笑って面白そうに見守っている。
「あ、そこ、山岸さん!もっと、尾藤さんに強めに絡み付いていいよー!」
むしろ煽っている!
「ウヘヘへ、こうかなぁ?」
「うんそう、いい感じいい感じ!あ、でも、もうちょい顔近めでお願い!」
野茂咲さん、もう己が欲望を隠す事もせず、撮影に夢中になっている。
きっと、ここ数年私達に会えなかった分、色々と溜まっていたのかもしれない。
「うがー!離せー!」
「もう、遠慮しなくていいんだよ、白狐ちゃん。
白狐ちゃんが本当は喜んでるの、アタシが一番よく分かってるから。」
「ぬあー!」
私の必死の抵抗虚しく、この時点から花見の終わりまで、ずっとカイちゃんが私を拘束する絵面が続いた。
後半の私はもう、全てを諦めてされるがままの傀儡と化していた。
「……これが、花見か。」
花見、恐ろしい。
花見、怖い。
花見、私にはまだ早過ぎた。
もう、無理……
◆◆
「アハハ、みんなお疲れー!楽しかったねー!」
宴もたけなわ、私達のお花見はお開きとなった。
ブルーシートもしまい、片付けもほぼ終わったにも関わらず、カイちゃんは未だに私に絡み付いている。
私はもう、この女の事をアクセサリーの一種だと思う事にした。
下手に抵抗しても無意味なので、ポジティブに考え方を変えるようにしたのだよ。
「今日は楽しかったよ、じゃあ。」
新藤君は、一足先に帰った。
残ったのは、私とカイちゃんと野茂咲さん。
私は、酔い潰れたカイちゃんに絡みつかれながらも、頑張って背負っている。
野茂咲さんもすぐに帰るのかと思いきや……
「尾藤さん、もしかして無職?」
「うん、もち無職だけど。」
「あ、やっぱり。」
…………ん?
「へ?……って、あああぁぁぁァァッッ!!?」
しまったぁぁぁッ!!
つい口が滑ったぁ!
動揺し過ぎた所為で、背負ってたカイちゃんを地面に落としちゃったけど、グースカ寝てるから別にいいや。
「いやそれよりも、どうして私が無職だなんて!?」
その事に勘付いてたって事は、さっきスパイだとか言ったのはわざとか!
新藤君を誤魔化す為に、嘘付いてくれたのか?
「だって、前に私が尾藤さんの事を盗聴してた時に、尾藤さんが将来は絶対に働かないって言ってたの聞いちゃったし。
それに、さっきのあの反応見てたら、ねえ?」
「うぐッ!」
これはもう、言い逃れ出来ないやつ…!
「尾藤さんが無職って事はつまり、尾藤さんは山岸さんに養われてるって事だよね!?」
何故か、目を輝かせてそう聞いてくる野茂咲さん。
「……まあ、そうなるね。」
「うはァァ!尊いッ!養い百合夫婦尊いッ!」
……どうやら、私とカイちゃんは尊いそうです。チャンチャン。
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんの好きな妖怪は?
「んー、青行燈。ほら、百物語で出て来るの。」
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