「ん?…お、おおうッ!?」
地面が揺れた。
ゴゴンゴンゴンと鈍い音を轟かせながら。
地震にしては不規則で不自然な音だ。
そもそも私達の町は浮いてるから、地震なんて普通は起こる筈ないんだけども。
自分の部屋でパンイチのままゴロゴロしていた私は、取り敢えずゆっくりと起き上がり、朝食を軽く摂ってから着替えて外に出てみる。
「んー、どっかの星に不時着でもしたのか?」
どこかの星に不時着するというのは、ちょくちょくある。
たまに変わった星に着く事はあるけど、殆どの場合は何も無いただの小惑星だ。
異星人が住んでる星は、未だにリグリーのいた金星以外に発見出来ていない。
「白狐ちゃーん!おはよー!」
家の門の前で欠伸をしていたら、カイちゃんが歩いて来た。
そろそろ来る頃だと思ってたよ。
「うん、おはよ。」
「さっき、どっかの星に不時着したっぽいね!
確認しに行こうよ!」
「ああ、そうだな。
こっからじゃよく見えないしな。」
不変力の影響で、空は地球にいた時と同じ青空のまま。
自宅周辺だと町の外の様子は分かりにくいので、外との境界付近まで出向く必要があるのだ。
「そんじゃカイちゃん、車の運転お願い。」
「お願いされましたー!」
◆◆
という訳で、近所に住んでいるリグリーを連れて町の端っこまで移動して来ました。
「おおー、これはまた。」
不時着した星は、一言で言えば殺風景。
金星の荒野と大差ない感じで何とも味気ないが、一つだけ非常に目を惹くものがある。
「あの洞穴、とても気になりますね。」
リグリーの言葉に同意。
その星はただ荒野が広がっているだけではなく、目の前に巨大な岩山が聳え立ち、まるで大口を開けた怪物のように、超巨大な洞穴が開いているのだ。
その穴の規模は、私達の町がすっぽり入ってしまいそうな程のサイズ感だ。
「ゲームやってると洞窟の入り口って小さいイメージあったけど、別にそうでもないんだな。」
「それでもこの大きさは異常だよ。」
「取り敢えず、計測器を使ってみますね。」
そう言って、リグリーは持参して来た握り拳サイズの球状の機械を取り出す。
機械は小さな駆動音を立てながら変形していき、細長い6本の脚が生えたテントウムシみたいな姿になる。
「おおー、いつ見てもカッコいい!」
「フフ、そうでしょう。」
コイツはリグリーが金星から持ち出して来た便利アイテムの一つで、現在地の温度や地質、空気中に含まれる気体の種類や細菌、ウイルスの類をパパッと計測してくれる、異星探索には非常に便利な万能優秀ロボットなのだ。
ちなみに開発者はリグリーらしい。
改めて、すんごい科学者だ。
「それじゃ、行ってきて下さい。」
リグリーが指示を出すと、その声に反応して計測器はシャカシャカと動き、町の端である崖を這い降りて謎の星に突撃して行った。
「さて、10分くらいしたら戻って来ると思うので、それまでゆっくり待ちましょう。」
「オーケイ。」
そして各々適当に時間を潰しながら、待つこと10分。
「お、戻って来た。」
計測器がこちらに向かって歩いてくるのが見える。
ひと仕事終えたからか、何だか健気に頑張っているように見える。
「早速、結果を見てみましょう。」
リグリーが計測器の頭頂部(?)のスイッチを押すと、リグリーが持参した小型コンピュータ(ノートパソコンみたいな物)のモニターに細々とした数値や文字列がズラッと並んで表示される。
「ふむふむ、見た目からは分かりにくいですけど、結構高温みたいですね。
金星の地表ほどではないですが、気温が200度近くあります。
大抵の生物は生存出来ない環境ですね。」
「うわー、迂闊に足を踏み入れないで良かった。」
不変力を使わずに突っ込んでたら、ど熱い思いをしてただろう。
「妙なウイルスとかは、取り敢えず無さそうですね。
というか、高温過ぎてそもそも生存すら出来ません。」
「でも、高温に適応したウイルスがいるかも?」
「それは………その時はその時です。」
「まあ、最悪感染しても死にはしないからな。」
不変力万歳!
「そう言えば白狐ちゃん、さっきツジちゃんとレンちゃんから連絡あったよ。
今こっちに向かってるって。」
カイちゃんが、スマホ片手にそう告げる。
「よし、じゃあ2人と合流次第、探索開始と行きますか!」
「オーッ!」
◆◆
「いやはや、こうして近くで見てみると、もの凄い迫力があるなぁ。」
私、カイちゃん、ツジ、レンちゃん、リグリーのいつメンで、入り口がやたらデカい洞穴の前に立つ。
いやしかし本当にデカい。
端と端が離れ過ぎて見えないくらいだ。
そして中は真っ暗で、内部が殆ど見えない。
「これは、懐中電灯5人分は必須だね。」
「確かに、無駄に広いぶん、充分照らせるようにしないと。」
ツジとレンちゃんの言う通り、照明は欠かせない。
そこで役に立つのが、金星の地下探索でも活躍した、高出力でエネルギー不変の懐中電灯だ!
きちんと人数分持って来た。
「いいですか、洞窟内はどんな危険が待ち受けているか分かりません。
不変力があるからと言って、油断することのないようお願いします。」
「オッケー。」
今までにも何度か未知の惑星探索はしてきたので、既に私達はプロの領域だ。(多分)
周囲を満遍なく警戒しながら、巨大怪獣の大口めいた洞穴へと足を踏み入れた。
◆◆
「おぉ、何なんだこの洞穴は。」
洞穴の内部は、別段突筆するようなものはない。
ただただ無駄に幅が広いだけで、他には何もない。
あと、生き物が全く存在しない。
外と同様で高温な環境だから、当然っちゃ当然だけど。
「奥には何があるんだろうね?」
「んー、あんま期待しない方が良さそうな気がする。
って言うか、段々幅が狭まってない?」
周囲を見てみると、進むうちにどんどん洞窟内の幅が狭まっているのが分かる。
初めはとんでもない広さだったのに、5分ほど進んだだけでもう、東京ドーム1個分くらいの広さになっている。
「ふむ、奥に向かって収束しているような構造だね。」
ツジの意見は正しい。
懐中電灯で周囲を照らすと、明らかにそういう構造になっているのが分かる。
「まるで半分に割った漏斗みたいだ。」
「………まあ、そのイメージでおおよそ合ってるね。」
私の見事な例えが、微妙そうな反応で返された。
まあいい、先に進むぞ。
とまあ、そっから更に3分ほど進んだら、もう最奥まで辿り着いた。
最終的には洞穴の広さは私の部屋くらいに収束していて、そこには〝あるもの〟があった。
「……ねえ、これって。」
「どっからどう見ても、水だな。」
行き止まりの壁際の地面に、ポッカリと空いた直径2メートルほどの小さな穴があり、そこに水が溜まっていた。
小さな池のようなそれは、懐中電灯で照らしても当然生物の姿は見えない。
ただ、かなり透明度の高い水のようで、懐中電灯の光線が奥の奥まで照らしている。
「全然底が見えないね。
意外と深いんじゃないかな。」
ツジが顎に手を当てながらそう呟く。
「でも、ただただ深いだけで、何にもなさそうだなぁ。」
「確かにね。」
何だか肩透かしを食らった気分になり、ちょっと残念な気持ちになる。
まあでも、こんなのは探索に於いてよくある事だ。
慣れたもんさ。
「一応、この水溜まりの調査もしときますね。」
そう言って、リグリーがさっき使ってた計測器を取り出す。
「ん?それ水中でも使えるの?」
「ええ、水陸両用です。」
水に触れると今度は計測器から鰭のようなものが生え、魚っぽい形状のまま水中を突き進んで行った。
「ちなみにあの子にはカメラも搭載されているので、水中の様子もこちらのモニターで確認出来ます。」
「そうか、結果を楽しみにしてるよ。」
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんが好きな観葉植物は?
「パキラかなー。子供の頃、家にあったんだ!」
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