「うわあァァァァァーーッッ!!??」
とある日のお昼時、自室に私の悲鳴が響き渡った。
いや、これは悲鳴ではなく、歓喜の雄叫びと言ったところか。
「ど、どうしたの白狐ちゃん?」
隣りで私のベッドに座りながらのんびり漫画を読んでいたカイちゃんが、突然私が発した雄叫びにビビっている。
「あ、いや、私とした事がついつい取り乱してしまった。
いやでも、これは取り乱さざるを得ない案件!
一世一代のビッグニュース!」
「だからどうしたの白狐ちゃん?
一旦落ち着いて。」
息を切らし興奮の冷めない私を宥めるように、カイちゃんは私の両肩に両手を乗せる。
「はい落ち着いてー、深呼吸深呼吸。」
「スーハー、スーハー。
……ふぅ、ちょっと落ち着いた。
ん、ありがとう。」
カイちゃん、人を落ち着かせる天才か!
「はい、それじゃあ改めて、どうしたの白狐ちゃん?」
「……それがな、これだよ見てこれ。」
私はスマホの画面をカイちゃんに見せる。
画面からは『当選おめでとうございます!』の文字と、祝福の意を表すくす玉と紙吹雪のエフェクトが、ホログラムとして表示されていた。
最近のスマホは昔よりも大いに進化していて、立体的なホログラム映像をこうして表示する事も出来るのだ。
「…当選?雑誌の懸賞でも当たったの?」
「違う違う!まあ、それも嬉しいけど!
今回はなんと!遂にブレステ13の抽選購入に当選したんだよォ!」
「ええッ!?凄い!長かったねー!」
ブレステ13。
正式名称、無礼ステーション13。
世界的に人気なゲーム機で、1年前に高度なホログラム技術を取り入れた最新型の13が発売された。
しかし、昔からお約束なんだけども、供給が需要に追いつかず超品薄に。
抽選購入の倍率はなんと100倍以上に達し、手に入れた人は友人や家族から英雄視されるという逸話もある。
「…やった、遂に手に入れたんだ。
苦節1年、数えるのも億劫になる程の回数、抽選に申し込み、ようやくその苦労が報われる時が来たんだー!」
私の全身は歓喜と高揚に満ち溢れ、テンションが無尽蔵に湧いてくる!
「おおおー!今なら全裸で町内一周しても全然平気な気分だー!」
「いや駄目だよ!?
アタシが全裸になって首輪付けられて白狐ちゃんに犬みたいに散歩させられるならまだしも、白狐ちゃん一人で全裸徘徊は駄目だよ!」
「うわーい!カイちゃんがすっげえキモい事言っても全然気にならないくらい、最高の気分だー!」
無礼ステーション13は素晴らしい!
ここまで私に力を与えてくれるとは!
「よっしゃ、今すぐ高級特上寿司の出前取って、食べたら高級焼肉店でたらふく食った後、高級料亭で一番高い懐石料理食べに行くぞー!」
「おおー!いいねサイコー!」
よし、チョロい!
食べ物に釣られて、カイちゃんもノリノリだ!
その後、特上寿司の出前を取って、高級焼肉店でしこたま食べた後、高級料亭で一番高い懐石料理を平らげた。
それから、数日後。
「ルンルンルンルン♪フンフンフ〜ン♪」
抽選購入を申し込んでいた近所のデャスコにブレステ13を取りに行き、家に帰って来た私は、誰がどっからどう見ても上機嫌中の上機嫌だった。
「……白狐ちゃんが、ルンルン♪とかフンフン♪なんてファンシー寄りな鼻歌を歌うなんて…!
これは、お赤飯炊かなきゃ!」
「うんうん、炊け炊け!
今日は実にめでたい日だからなぁ!
尾藤白狐がブレステ13を手に入れた日として、国民の祝日になるだろう。」
「…ここまで調子に乗ってる白狐ちゃんも珍しい…。」
私は小躍りしながら、説明書を読みつつブレステ13を起動する為の準備を進める。
「えっと、これがコントローラーで、このプラグをそっちのコンセントに差し込む、と。
んで、電源がこの緑色のボタン……お、点いた!」
起動した瞬間、黒い円盤状の本体からホログラムの文字が浮かび上がる。
『⚪︎無礼ステーション13初期設定
フルホログラフィックモードをオンにしますか?
→YES NO』
「おお!これが噂の…!」
フルホログラフィックモード。
これこそが最新ゲーム機、無礼ステーション13の目玉機能である。
どういった機能なのかは、オンにしてからのお楽しみだ。
「よし、フルホログラフィックモード、オン!」
YESを選択するのと同時に、浮かび上がっていた文字列が緑や水色に変色し、細かい粒子状に霧散した。
それらが私の部屋の壁や床や天井に付着して、どんどん染みのように部屋中を埋め尽くし、やがて私の部屋は広大な草原へと変貌したのだ。
これぞ、フルホログラフィックモード!
ただ映像や文字を投影するだけのホログラムとは違い、これは辺り一帯の広範囲に渡って超リアルなホログラム映像を投影し、景色すら一変させてしまうという、驚愕の最新技術なのだ。
テレビや動画で何度も紹介されているのは見たけど、こうして実物を体験してみると感動のレベルが段違いだ。
粋な演出もしやがって!
「白狐ちゃん!凄いねこれ!白狐ちゃんのテンションが高かったのも頷けるよ!」
「そうだろうそうだろう!
いやー、しっかし想像以上に凄いなこれ。
本当にここ、私の部屋だよな?」
元の私の部屋の床、壁、天井はおろか、本棚もベッドも何もかも、私の部屋にあった物は全て草原の景色に塗り潰されて、見えやしない。
見えているのは自分とカイちゃんの姿だけだ。
ただ、景色が投影されているだけで、ここが私の部屋という事実は変わらないので、下手に動いてどっかにぶつかったり何かを踏ん付けたりするのは避けたい。
説明書にも、狭い室内で動き回るのは控えて下さいと書いてあったしな。
一応、事前に部屋は片付けておいたんだけど……
「白狐ちゃん、こっちこっ…あでッ!?」
こういう風に、ベッドの角らしき部分に足の指をぶつける羽目になるから、気を付けないとな。
「まあまあ、気持ちは分かるけどちょいと落ち着きなってカイちゃん。
こういう時の為に、フルホロ(フルホログラフィックモードの略称)対応の折り畳み椅子、買って準備しといたんだから。」
私達の足元に、サイバーチックな見た目の折り畳まれた椅子が置いてあるのが見える。
これぞフルホロ状態でもちゃんと見えるように作られた、専用のアイテムなのだ。
意外とお値段もお手頃です!
で、私とカイちゃんはそれに腰掛けた。
「ふぃ〜、しっかしホントにリアルな作りだなぁ。
この草も木も青空も、本物にしか見えん。」
「ほんとそれ。
あ、コントローラーを使えば、この景色を他のにチェンジ出来るみたいだよ。」
カイちゃんが、説明書を読みながら教えてくれた。
「ふむふむ、このボタンかな?」
私がボタンを押すと、様々な設定に関するメニューがホログラムで表示された。
私はそこからホーム映像の設定のページを開く。
そこには、最初に設定されている草原以外にも、雪山、深海、都会、江戸、砂漠など、デフォルトで用意されている物だけでも10種類以上はあった。
「カイちゃん、どれがいい?」
「んー、白狐ちゃんが選んだのでいいよ。」
「それじゃあ、リストの上から順にいくか。」
「オッケー!」
『雪山』
「おーさぶさぶさぶ……くない。寒くない?」
「白狐ちゃん、映像だから。」
リストから雪山を選択した瞬間、草原の景色が溶けるように変わり、雪山の山頂に姿を変えた。
「ビックリしたー、リアル過ぎて寒くないのに寒さを感じるぞ。」
「うん、同感。
説明読んだら、エベレストの山頂からの景色らしいよ。」
「確かに、ヒマラヤの山脈がよく見える絶景だ。
景色はホント素晴らしいな。」
「だねー、他にも色々試してみよう!」
続く!
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんが好きな猫の種類は?
「デヴォンレックスのあのシャープな感じが好きかな。」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!