「これはアノマロカリスのエビフライ風で、こっちはアヒージョにしたもの。
ダンクルオステウスはお刺身もあるし、煮物にもしてみた。」
我が家の広い食堂のテーブルに、大量のダンクルオステウス&アノマロカリス料理が並んでいる。
それらに舌鼓を打つ私達。
「んー、美味しい!」
「そうだね、思っていたよりも繊細な味わいだし、これは期待以上の逸品だよ。」
美味しそうに食べている皆からは、かなり好評のようだ。
みんな長い付き合いなだけあって、私の料理に対してはいつも忌憚なき正直な意見を浴びせてくれるので、これは本当に美味しいという事なのだろう。
「そうかそうか、やっぱ熟練の料理人である私の腕あっての結果だもんな。
まだまだお肉は沢山あるから、遠慮なくおかわりしてくれよな!」
みんな、ガツガツと食べている。
カイちゃんは通常の料理に加え、特製のドッグフードも喜んで食べている。
ほんのジョークで言った事なのに、どうしても食べたいとカイちゃんが言い張ってきたので、ついでに作ってやったのだ。
「ワウーン!」
しかも、床に置かれた餌皿に四つん這いになりながら食いついている。
いやはや、人権などという概念は、とうの昔に忘れてしまったと言わんばかりの光景だ。
まあ、憲法も法律も存在しないから、実際そうなんだけど。
「ハッハッハ、カイちゃんの駄犬っぷりは、今日も健在だな。」
「ワンワンワンッ!」
嬉しそうに上目遣いで尻尾を振ってやがる。
あ、コスプレ用の犬耳のカチューシャと犬尻尾を付けてるから、比喩じゃなくてガチで振ってる。
可愛いうえに、同時に私の嗜虐心を刺激してくる。
「おいそこの駄犬!3回回ってワンって言えよ。」
「イエスワンワーン!」
カイちゃんは四つん這い姿勢のままクルクルと3回回って
「ワンッ!」
と吠えた。
「はーしょーもな。
そんなつまらない芸しか出来ないとか、ホント使えない駄犬だよな。」
「クゥーン!ワウワウッ!」
瞳を輝かせるほど喜んでいる。
「この発情するしか能のないエロ駄犬めッ!」
「ワフーン!エロ駄犬でしゅみましぇーん!」
「馬鹿!犬のクセに日本語を喋るな!」
「……えっと、お取り込みの最中で申し訳無いけど、そろそろ良いかな?」
私達のイチャイチャ(?)でお腹いっぱいになったのか、ツジがそう言ってきた。
「ああ、ごめんごめん。」
「ちょっとエスカレートしちゃったワン。」
カイちゃんはまだ四つん這いのままだ。
「…まあ、取り敢えずはご馳走様。
初めての古代料理、とっても美味で堪能させて貰ったよ。」
テーブルマナーも完璧なツジは、料理をひとかけらも残さずに、食器も私達の中で一番綺麗だ。
こんなに綺麗に食べてくれると、料理人冥利に尽きるって感じで本当に気持ち良い。
「見事に食べてくれて嬉しいよ。
四つん這いで食べてるどっかの駄犬とは大違いだ。」
「ワフーン!」
「……えっと、良いかな?」
「オーケー。」
「……じゃあまず、こちらの料理となって私達の胃袋へと収まってくれた、アノマロカリス君とダンクルオステウス君。
調理前に両者の胃袋の内容物をちょちょいと調べさせて貰った結果、やはり重要な事が分かったよ。」
ツジは小さな笑みを浮かべながら、そう言い切った。
「あのさ、今更だけど、胃の中身を調べただけでそんなに色々分かるもんなのか?」
「勿論だよ!それを調べるだけでも、あの近海にはどんな生物が生息していて、どんな生態系を展開しているのか、わざわざ海中を直接調査しなくても、おおまかな状況が把握出来るのだから!」
「ほえ〜、そいつは凄いなぁ。」
「ちなみに内容物の分析には、リグリーちゃんの超先進的な科学力に力を貸して貰ったよ。」
「えっへん!
ワタクシの所属していたウルブラの化学班御用達の研究設備にかかれば、たとえ胃袋の中で溶かされつつある肉片からでも、あっという間に高度なDNAの解析が出来るのです!」
ドヤ顔で胸を張っているリグリー。
かなり自信満々な感じに水を差したくなかったのか、誰も言い出したくても言えなかった。
〝ウルブラ〟って何だっけ?……と。
頑張って過去の記憶を辿ったら、何とか思い出せた。
そうだ、確かリグリーの故郷である、金星の地下帝国の名前だったわ。
故郷へのプライドが強いリグリーの事だから、忘れてたって言ったら怒られるだろうなぁ。
余計な事言わないで正解だった。
「……で、その分析で分かった重要な事って?」
「端的に言うと、この星は古代の地球と全く同じ環境の星だと断言出来るね。」
澱みなくそう言い切るツジ。
言い切れるだけの確信があるという事だろう。
「やっぱりそうなのか。
でも、ただ単に生態系が似通ってるってだけじゃなさそうだな。」
アノマロカリスやダンクルオステウス、三葉虫(仮)が生息しているというだけで、ここが過去の地球だと断言するにはちょっと弱い。
その他にも、ここを地球たらしめる確固たる証拠を、ツジは見つけたのかもしれない。
「フフ……尾藤ちゃんはこういう時鋭いね。
悪くないと思うよ、その感覚は。」
「ツジちゃんにそう言って貰えるとは、光栄だな。」
「それで、尾藤ちゃんの疑問への返答だけど、まさにそうさ。
生態系が似てるというだけで、過去の地球と断言した訳じゃあない。
きっかけは、そもそもこの星に降り立つ前から感じていたんだ。」
「ほう、そんなに前から?」
聡明なツジの事だ。
私達では気付けなかった視点での発見があるという事か!
「うん、我々の町がこの星に降り立つ前、宇宙空間からこの星を俯瞰して見ていた際に、私はどことなく違和感を感じていたんだ。
この星を、どこかで見た事があるという、既視感めいたものをね。」
「既視感、ねぇ……」
私はピンと来なかったけど、リグリーはどうやら思い当たる節があったのか、ツジの言葉を聞いてから何やら考え込んでいる。
「そう、気になった私はその時、咄嗟にスマホで写真を撮っておいたのさ。
私の機転の良さが恐ろしいよ。」
「うわ、抜け目ないな!」
フッフッフと自慢げな笑みを浮かべながら、スマホをスイスイ操作して、その画面を私達に見せてきた。
「これは……ッ!?」
スマホに表示された画像を見て、私達は息を呑んだ。
「…………レンちゃん?」
「気持ち良さそうにぐっすり眠ってるねー!かーわいー!」
「……は、はあッ!?」
画面に映っていたのは、図書館のソファでだらしない格好で眠りこけているレンちゃんの姿だった。
服装は盛大にはだけていて、はみ出たお腹をポリポリ指で掻いている。
顔面は楽しい夢でも見ているのかニヤけた笑顔を浮かべており、半開きの口からは涎が一筋垂れている。
正直、普段の彼女からはまるで想像出来ない姿だ。
ギャップ萌えだ!
「ツジ姉、何これ?」
静かな怒りのオーラを纏ったレンちゃんが、短くも的確にツジを威圧する台詞を放った。
「えッ!?な…ままま間違えた!この画像じゃない!」
己の盛大なミスに慌てふためきながら、急いでスマホの画面を切り替えるツジ。
だが時既に遅し。
「…ツジ姉、後でゆっくり、ね。」
「……ごめんなさい、つい出来心だったんです。
レンちゃんの寝顔が可愛すぎたもので…」
「アハハ、ツジちゃんはレンちゃんの寝顔を盗撮してたんだねー。」
「………最低だよ!」
「ほんとごめんなさい!」
カイちゃんの言葉が火に油を注ぐ。
「アタシもよく白狐ちゃんを盗撮してるから、気持ちは分かるよー!」
「おっと、こちらも後で詳しく話を聞かせて貰おうか。」
ついでに私にも飛び火してきた。
迷惑な話だ。
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんが苦手な野菜は?
「えっと…特に無いかな。食べれれば何でもOKだよー!」
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