ゲーセンでカイちゃんにボッコボコにされて赤っ恥を掻いた後、私達はモール内をグルグル回り、やがて昼食を食べる為にフードコートへとやって来た。
なんだかんだで買い物は盛り上がり、私もカイちゃんも両手いっぱいに買い物袋をぶら下げていた。
「いやー、いっぱい買ったねー!白狐ちゃんも楽しんでくれたみたいで何より!」
「そうだなー。買い物ってやっぱ、楽しいもんだな。」
人混みさえ慣れれば、大型ショッピングモールというのは実に面白い場所なのだ。
色んな商品が陳列されていて、見る物感じる物が多く、どこも刺激や発見に満ち溢れている。
自宅に篭っているのも悪くないけど、こうして定期的に外出して、未知のものや面白いものに触れるというのも、なかなかどうして気持ち良いものだ。
「カイちゃんは、服とか化粧品とか色々買ってたけど、そんなに買う必要あるの?
化粧なんて、不変力があるんだから別にする必要無いのに。」
「そんな事ないよー!一口にお化粧って言っても、色々あるんだから!
モデルっていう人に見られる仕事をしている以上、こういう部分は日頃から特に気を付けなきゃだし。」
「成る程、プロ意識ってやつか。」
つくづくこの子は、私関連の事以外に関しては、結構しっかりしてる人間なんだよなぁ。
「ま、折角ここに来たんだし、休憩だけじゃなくてお昼でも食べて行こっか。」
「さんせーい!何食べよっかなー!」
「そういや私の事だけじゃなくて、食事関連も駄目だったな、カイちゃんは。」
「ん?なんの話?」
「いや、何でもないから気にしないで。」
私とカイちゃんが手近なテーブル席に腰を下ろし、空いた椅子に荷物を置いていると、不意に近くの席に座っていた女子高生二人組が近付いて来た。
なんだなんだ?
「…あ、あのー?」
「え?アタシ?」
JK二人が声を掛けたのがカイちゃんだったので、私は内心ホッと胸を撫で下ろしていた。
知らない子達に突然話しかけられて、まともに返答出来る自信なんて無いからな!エッヘン!
「えっと、間違ってたら申し訳ないんですけど、モデルの山岸海良さん、ですよね?」
「あ、うん、そうですけど。」
流石カイちゃん、慣れた様子で返している。
「良かった!あの、先月の〝ぱすてる〟読みました!
なんて言うか、その、すっごく可愛くてカッコよくて、いつも憧れてますッ!応援してますッ!」
「わ、私も同じです!まさかご本人に会えるなんて、光栄です!
実際の山岸さんも、マジで美し過ぎますッ!」
私から見てもゴリッゴリに緊張している様子の女子高生達が、捲し立てるようにそう言った。
ちなみに〝ぱすてる〟っていうのは、カイちゃんがモデルとしてよく載っているティーン向けのファッション誌の事だ。
「フフ、ありがとう。アタシの事応援してくれてるなんて、嬉しいな。」
「よ、よよ良かったら、お写真一枚大丈夫ですか?」
「いいよー、どうせなら連写で撮ってあげる!」
おお、何という神対応。これぞ人気の秘訣ってやつか。
ノリ良く笑顔で対応して写真撮影し終わり、JK達は何度も感謝の言葉を述べて去って行った。
「いやはや、カイちゃんは人気者ですなぁ。」
「エヘヘ、白狐ちゃんごめんね待たせちゃって。」
「別に謝らんくていいよ。カイちゃんと出歩く以上、仕方のない事だし。
それにカイちゃんにとっても、ひいては私にとっても必要な事なんだから。ああいうサービス精神はね。」
「そうなの?」
「そういうもんなの。」
そう、カイちゃんの稼いだ銭でご飯を食べさせて貰ってる私にとっては、カイちゃんの人気の維持がそのまま私の生活にも直結しているのだ。
モデルというのが人前に出る仕事である以上、イメージというのは何より重要。
だからカイちゃんが先程のようにファンの子に対して神った対応をするのを、私はひたすら指を咥えて見ていなければならないのだ。
ま、友人であるカイちゃんが人気者なのは、一緒にいる私としても鼻高々だし、見てて面白いから苦ではない。
「にしても、変装とかしないの?」
「うーん、一応普段あまり着ないような服装を着てはいるんだけど…。」
成る程、だからボーイッシュ寄りな雰囲気だったのか。珍しいと思った。
「でも、折角の白狐ちゃんとのデートだから、あんまり変装し過ぎるのも雰囲気台無しで嫌だなって思って。
念の為にサングラスとマスク持ってるから、白狐ちゃんがお望みならバレないように変装するけど?」
「いや、いいよ別に。私は絡まれてるカイちゃん見るのも楽しいから、気を遣わないでいいから。」
「そっか、そう言って貰えると、少し気が楽かなー。」
「よし、じゃあここはひとつ、私が注文してこよう。カイちゃんは何食べたい?」
「んーと、それじゃあカレーにしよっかな。辛口の超大盛りで!」
「ほほう、いいねぇ。だが私はラーメンにする!」
「そんなッ!?」
私はカレーのお店とラーメンのお店に順番に注文をしに行き、それぞれで番号が書かれた小さな機械を手渡された。
料理が出来上がると、ピーピー音が鳴って知らせてくれるやつだ。
取り敢えず席に戻って、カレーのをカイちゃんに渡した。
「ありがと白狐ちゃん、楽しみ楽しみ♪」
「また食い過ぎるなよぉ?」
「大丈夫大丈夫、もうカンのペキに食べる量は調節出来るんだから!」
確かに、カイちゃんはここ最近になって、食事量がかなりセーブ出来るようになった。
前から私が注意してたからというのもあるけど、主な要因はやはり、彼女が大食いタレントとしてもデビューしたからだろう。
隠れた大食い女子として、テレビにもたまに出演しているらしい。
カイちゃんが本気になれば、不変力によって無限に暴食して一気にお茶の間のスターになれるのに、そうしないのはカイちゃんの良心あっての事だろう。
あんまり食べ過ぎると、大食い界のパワーバランスが崩壊するとかなんとか。
私にはよく分からんけど、芸能界とはそういうものらしい。
そうこう会話しているうちに、先にカイちゃんのカレーが出来上がったようで、機械端末がけたたましいピーピー音を鳴らした。
「お、カイちゃんいってらっしゃい。」
「行ってきまーす!」
料理を取りに行ったカイちゃんを待つ間、頬杖をついて席に座りながら、ふとカイちゃんの姿を目で追っていた。
カレーの乗ったトレイを両手で持ちながら、こちらへ戻って来る途中、カイちゃんの元へ誰かが近づいているのが見えた。
「うん?」
その人は女性で、遠目だけど物凄く美人だというのが分かる。
金髪ロングでカイちゃんよりも背が高く、そして大人っぽい。
というか、いかにも妖艶な大人の女性というところか。
普段は大人っぽく見えるカイちゃんも、その人と比べたらまだ子供っぽい妙齢な女の子に見えてしまう。
そして何よりその女性、何故だかどこかで見た事がある気がする。
どうやらカイちゃんとはお知り合いのようで、二人でお話ししているようだ。
「んー、誰だっけな?」
カイちゃんの知り合いみたいだし、仕事関係の人だろうか。
だとしたら、過去にテレビで見かけてるのかもしれないな。
「んん?」
その様子を見ているうちに、次第に異変に気付いた。
カイちゃんの表情が暗い。
一見すると明るく振る舞っているようにも見えるけど、付き合いの長い私だからこそ分かる。
あれは明らかに作り笑いで、無理して顔面の筋肉を取り繕っている。
「……。」
私は眉を顰めながら、その様子を黙って見ていた。
もしかして最近、仕事終わりに憂鬱そうな表情を垣間見せるのは、あの人が原因なのか?
私の知らないところで、カイちゃんは何をしているのだろうか。
不安と懐疑の念が、私の胸で渦巻いていた。
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんの好きな恐竜は?
「トリケラトプスだよ!カッコいいし、ロマンだよね!」
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