翌日。
「よーしよし、さてカイちゃん、準備はいいな?」
「オッケー!いつでも出発出来るよー!」
外の世界探索の為の準備を一通り終えたので、カイちゃんの家の車庫まで重い荷物を背負ってやって来た。
この車庫は持ち主の財力に比例してデカくて、大型車が何台も入れられるほどのスペースがある。
勿論今回のキーパーソンであるスーパーキャンピングカー君は、車庫に入ってすぐの所に堂々と鎮座している。
「いやー、コイツも立派なもんだ。」
「アタシが今までした買い物の中でも、5本指に入るくらいの高い買い物だったからねー。」
「そんなにか!
まあ兎に角乗ろう。お邪魔しまーす!」
「どうぞー。」
私は大量の荷物が入ったバッグを引き摺りながら、キャンピングカーの中へと入った。
この車に乗ったのは久々だけど、相変わらず凄いのなんの。
高級リゾートホテルみたいな豪奢な装飾のローテーブルに、フッカフカのソファと大画面のテレビ。
便利な機能がてんこ盛りのキッチンは勿論、2段ベッドも完備している。
まさに快適さを凝縮したような空間に、思わず溜め息が漏れた。
「いやー、やっぱ良いなぁこのキャンピングカー。
私、ここに住んでもいいかも。」
「じゃあ、アタシと一緒に住む?」
「…あ、やっぱり遠慮しときます。」
「なんでー!?」
カイちゃんの目が危険な色をしていたので、お断りしておいた。
「まあともかく、白狐ちゃんはゆっくりしててね。
ここを自分の部屋だと思ってくつろいでていいから。」
「おうよ!遠慮なんて元よりするつもりは無いッ!」
私は本当に自分の部屋のようにくつろぐ。
ささっと服を脱いでパンツ一丁になり、ソファに寝転がってお菓子をつまみながらゲームを嗜む。
どうせ外には人なんてそうそう居ないだろうから、人の目を気にする必要も無いのだ。
つまり無敵!
「…白狐ちゃんの貴重な自室以外でのパンイチ姿。」
「ハッハッハ………なんか、自宅の外で服脱ぐと、ちょっと興奮するな。」
「まさかの露出狂の思考ッ!?」
「このまま外に出ても大丈夫だよな?どうせ人いないし。」
「…止めはしないけど、何か大切なものを失うかもしれないよ?」
「そんなもんにビビって、パンイチやってられっかー!」
私はパンツ一丁のまま、キャンピングカーから外へ飛び出した!
海沿いの町特有の心地良い潮風が私の肌を撫でて、謎の快感と謎の背徳感が湧き上がってくる。
「さて、冗談はともかく、さっさと出発しようか。」
これ以上外にいたら中に戻れなくなりそうだったので、早めに戻る事にした。
「運転はアタシが担当するねー。」
「私は免許すら持ってないもんな。頼んだ。」
車の運転経験ならゲームの中で散々した事あるけど、リアルでは皆無だ。
何となく運転出来そうな気もするけど、怖いからやめとこう。
ナメてたら危険そうだ。
そもそも無免許運転は良くない。
私は再びソファに寝転がって、いつでもくつろげるようスタンバイする。
カイちゃんの運転するスーパーキャンピングカーは、騒音を殆ど出さずに静かに出発した。
流石は人類の叡智と技術の結晶とも言える車よ。
運転してても揺れを全く感じないし、快適さが段違いだ。
ただ、今の状態じゃ外の景色が見えないので、こういう時に便利な機能が確かこの車にはあった記憶がある。
「カイちゃーん!窓のスクリーンの機能のやつって、どうするんだっけ?」
「そっちのテーブルの上に置いてあるリモコンの、青いボタン押せば大丈夫だよー。」
運転しつつも、私の曖昧な質問に的確に答えてくれるカイちゃん。
「えっと、リモコンリモコン……って、これか。」
カイちゃんの言っていたリモコンを発見して、青いボタンとやらを押してみる。
するとなんと、私のいる居住スペースの壁部分が徐々に薄くなっていき、透明になってしまったではないか!
「うぎゃー!?丸見えじゃねーか!」
ガラス張りみたいになって外の景色が丸見え。
そして私は当然の如くパンツ一丁。
つまり、そういう事だ。
「大丈夫だって。これ、外からは見えないようになってるから。」
「…あー、うん、そうだよな。そうだったな。」
そうだと分かってはいても、反射的に羞恥心が先行してしまう。
いや、さっきまでパンイチで外に出てた人間が何言ってんだって感じかもしれないけど、それとこれとは話が違うんだ。
「あと、青いボタンの横にある十字キーで、透過の範囲とか細かく調整出来るよ。
説明書が側に置いてあるから、読んでみてね。」
「はいよー。」
「あ、そうだ!あともう一つお願いがあるんだけど、テーブルの上にアタシのノートパソコンあるよね?」
「あぁ、うん、そう言えばあるな。」
確かにテーブルの上には、カイちゃんが電波の発信源を特定するのに使っていた、流線形でメタリックなカッコいいノーパソが置いてある。
「それ、立ち上げて貰っていいかな?
それで、アタシが使ってた電波特定のアプリを開いて欲しいんだ。」
「んー、オッケー。」
カイちゃんに指示されるがままに、私はノーパソを操作していく。
初めて使ったパソコンなのに、ビックリする程使い勝手が良い!
やっぱ最高級のパソコンはものが違うなオイ!
「…んっと、取り敢えずこの電波探知ってアプリ開いたけど、これで良いのか?
なんか、潜水艦のソナーみたいなのが出てきたけど。」
パソコンの画面には浅葱色の円が映し出され、その中心部に黒い二重丸が表示されている。
恐らくこの二重丸が、私達の乗っているスーパーキャンピングカーなのだろう。
円の四隅には方角を指し示しているNSWEの四つのアルファベットが書かれていて、それら以外には特に何の表示も見当たらない。
「うん、それで大丈夫だよ。
ラジオの電波をキャッチしたら音声と画面表示で知らせてくれる筈だから、そしたら確認して貰っていいかな?」
「いいだろう、お安い御用だ!」
役割を与えられて、一層気合が入る私。
ゲームに夢中になり過ぎず、適宜パソコンの方にも注意を向けておくべきだろう。
と、そうこうしているうちに、私達の車は町と外の世界との境界線まで辿り着いていた。
「おお、いよいよだなカイちゃん。」
「うん、行くよ!」
眼前に広がるのは、汚染され、壊れ果てた建物が立ち並ぶ終末世界。
ゴクリと息を呑みつつ、スーパーキャンピングカーは私達の未来を開拓する為の、偉大なる第一歩を踏み出したのである!
…まあ、少々誇張表現が過ぎると思うが。
◆◆
「道はガタガタ、悪路も悪路。
でも、流石はスーパーキャンピングカー!
この程度のデコボコ道じゃあ、ビクともしないな!」
荒廃した死の世界のど真ん中を、我らが無敵のキャンピングカー様は意にも介さずズンズン進んでいく。
お陰で私は、呑気にゲームタイムを満喫出来るってもんだ。
まあ、こんな荒れ果てた世界じゃ、景色を楽しめないってのが難点だけどな。
廃墟マニアなら垂涎ものかもだけど、生憎私にそのきらいは無い。
外はひたすらに崩壊した建物や道路が続き、なんの風情も色気も感じられない。
「しっかし、本当に世界がこんな状態で、生き残ってる人類なんているのかねぇ。」
ゲームの画面から目を離さないまま、そう呟いた。
「どうだろうねー。でもやっぱり世界は広いんだし、被害が少ない場所もきっとあると思うよ。」
「だといいなぁ。」
「その証拠に、ラジオの電波が発信されてたんだし。」
「んー、そりゃそうか。」
私達は向かう。
人類の希望を探し求めて。
…まあ、希望が見つかろうが私達の生活が変わる訳でもないから、あんま関係無いんだけどな。
希望なのかどうかも分からんし。
今回の旅は単に、私達の好奇心から生まれる行動に過ぎないのかもしれない。
それでも、しばらくの暇潰しにはなるだろう。
私達は基本、暇だからなぁ。
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんが好きな武器は?
「アタシも白狐ちゃんと同じで刀かなー。日本人だしね。」
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