「お邪魔しまーす!」
今日はカイちゃんに誘われて、カイちゃんの家に来た。
カイちゃんは今や、日本人なら誰もが知ってる有名企業の社長さんだけど、実家はカイちゃんと出会った当時からずっと変わらない、ごくごく普通の二階建て一軒家だ。
まあ、私が不変力で変わらないようにしてるっていうのも理由だけど、カイちゃんの財力なら私の家を優に越える大豪邸でも建てられる筈。
なのにそれをしないという事は、よっぽどこの家に愛着があるという証拠なのだろう。
「ささ、どうぞ遠慮なくお邪魔しちゃって下さいな。」
「うん、カイちゃんはいつも私の家にアポ無しで突撃してきたり、私の家にわざとパンツ置いていったりするから、こちらも一切遠慮しないでお邪魔するー。」
「ううッ、いきなり過去の過ちを掘り起こされたッ!?」
私は我が家のように玄関で靴をポイポイと脱ぎ捨て、山岸家へ上がる。
どっちみちこの家にはもうカイちゃん一人しか住んでいないのだから、元より遠慮など無用なのだ。
「しっかし、カイちゃんちに来るの久々じゃない?
ここ2、3年来てなかったよね?」
「それはまあ、いっつもアタシが白狐ちゃんのおウチに押しかけてるからねー!」
「私自身、基本的に出不精だしな。」
「はいはい、アタシの部屋へようこそー!」
話してるうちに、カイちゃんの部屋に着いた。
〝海良の部屋〟とシンプルに書かれたプレートが下げられたその扉を開けると、そこにはカイちゃんのプライベートルームが……ッ!
「うわ〜……」
カイちゃんの部屋……
それはなんと言うか、いかにもカイちゃんらしい部屋と言うべきだろうか。
壁一面に私の写真が額縁に入れられて、大量に飾られていた。
学生の頃の写真や、家で遊んでいる時の写真、海でかき氷を食べている写真、撮られた覚えの無い盗撮みたいな角度から撮られた写真などなど、更には特製のポスターやタペストリーまで。
テレビの横には私を模したぬいぐるみまであるし、やたらクオリティの高い私のフィギュア、パンツ一丁の私が妙に色っぽいポーズと目つきをしている抱き枕もある。
これどんな魔窟?
「ねえカイちゃん?」
「んー?」
「これを見せられて、私はどうすればいいの?」
「そうだねー、アタシの溢れ出る愛情に感動してくれたら嬉しいな!」
「うーん、それはちょっと難しいな。
完全に拗らせたストーカー相手に、恐怖の感情しか湧いてこんわ。」
「恋人に対してストーカー呼ばわりは酷いよッ!」
「呼ばれたくなかったら、日頃の行いを少しは反省するんだな。」
「うえーん!」
「つーかこの変な抱き枕、どうやって作ったの?
私、こんなエロいポーズ取った覚え無いんだけど?」
「あー、それはだいぶ昔に撮影したやつだね。
ほら、二十歳になってお酒飲めるようになって、白狐ちゃんが初めてお酒にチャレンジするって言って、居酒屋でビール一杯飲んだ事あるでしょ?」
それは思い出すまでもなく、苦い思い出として私の記憶フォルダに深く刻み込まれている。
「ああ、少し覚えてるよ。
意識が朦朧としてて飲んだ後は殆ど覚えてないけど、悪酔いした私が色々とやらかしちゃったんだろ?
具体的に何をしたのかまでは聞かされてないけどな。」
ちなみに、この事件があったのと、私の舌に酒の味が合わなかったので、以後一切お酒を口にしていない。
私にとって最初で最後の飲酒経験だ。
まあ、私は不変力で体が子供のままだから、舌的にも法律的にも、これからずっと酒は飲めないのかもしれないがな。
「その時に白狐ちゃんが、めっちゃエロい感じの台詞と動作をし始めてね。
ここぞとばかりに撮影させて頂いたのが、この抱き枕の写真です。」
クソ、話を聞けば聞くほど頭が痛くなってくる。
「いや待て、聞かなければ良かったような話を笑顔でしないで。
記憶に無いのに、めっちゃはずいじゃん。」
まさか、カイちゃんの家に遊びに来て、己の黒歴史を一つ発見してしまう羽目になってしまうとは。
恐ろしや、山岸家。
「それで、今日はカイちゃんの部屋で何するの?
こんだけ私の写真が飾られまくってると、なんか落ち着かないんだけど?」
「まあまあ、今回は白狐ちゃんにちょっとお願いがあって呼んだんだ。」
「お願い?どうせロクなもんじゃないんだろ?」
「酷いッ!ロクなもんだよ!ロクなもん!間違いない!」
うーん、メチャクチャ胡散臭い。
なんかあたふたしてるし、絶対ロクなもんじゃないだろ。
「…一応聞くけど、何をお願いしたいの?」
「えっとね、白狐ちゃんに着せるように買ってた衣装がかなり溜まってきちゃったからね。
ここらでひとつ、白狐ちゃんに色々と着せ替えしちゃおっかなって思いまして!」
満面の笑みでそんな事を抜かすカイちゃん。
「よし、帰ってゲーム進めよ。」
「もし付き合ってくれたら、来月発売の『暁のガレオーネ』初回限定版、買ってあげるよ?」
「よし、ちょうど今日一日コスプレしたい気分だったんだ。喜んで付き合おう。」
『暁のガレオーネ』、来月発売の新作ゲーム。
それの初回限定版を出されてしまったら、カイちゃんの趣味に付き合ってやるのも苦ではない。
「はぁ〜ッ!白狐ちゃん素敵〜ッ!
可愛いッ!セクシー!サイッコー!」
「……そうですか。」
しかしまさか、グラビア的な事をやらされるとは思ってもみなかった。
カイちゃんの甘い誘惑にまんまと乗せられてしまった私は、いきなり水着を着せられて写真撮影に参加させられてしまった。
衣装って言ってたから、てっきりコスプレかと思ってたぞ。
白いフリル付きワンピースの水着を着て指定されたポーズを取る私に、カイちゃんが黄色い声援を送る。
さながら、たまに見かけるやたらハイテンションなカメラマンみたいに、テンションが高い。
しかも、用意周到な事に海の写真が表示された書き割り(それもかなり画質が良い上に幾つもパターンもがあるデジタルなやつ)まで設置していて、それを背景に撮影を続けている。
「白狐ちゃん、次これ!この水着着てみて!
これも今回のとっておき水着の一つなんだー!」
「……ほう。」
更に言うと、この水着でもう既に10着目だ。
一つの水着でしばらく撮影した後、新たな水着を手渡されて、隣の部屋で着替えては戻って来て、撮影を再開。
この流れをさっきからずっと繰り返している。
私は正直、最初は不安だった。
カイちゃんの事だから、マイクロ水着みたいな際どいやつ着せてくるんじゃないかと。
でも、暁のガレオーネの為だと我慢する覚悟を決めていたのと裏腹に、カイちゃんの要求は意外とライトだった。
私でも着やすくて可愛いと思えるようなステキな水着をカイちゃんは用意していた。
これはなんと言うか、悪くはないかも。
って言うか、だんだん楽しくなってきた。
次に渡されたのも、薄いピンク色のフリル付きビキニ。
ヤバい、めっちゃ可愛いんですけど!
「カイちゃん、思ったよりエロいやつ要求してこないよね?」
「え?うーん、だって白狐ちゃん、そういうのあんまり好みじゃないでしょ?
意外と可愛いもの好きな白狐ちゃんには、乙女チックなのが似合うかなって。」
「……あ、そう。」
乙女って……初めて言われたわ。
やっぱカイちゃん、伊達に私と長年一緒にいる訳じゃないんだよな。
間違いなくこの子が、この世で最も私の事を理解している、最大の理解者だ。
「あ、でも、白狐ちゃんが良いなら、この限界ギリギリまで透けさせたウルトラシースルースク水を…」
「お前ホント最低だな。」
「大丈夫!最新技術で作られてるから、すっごく見えそうだけど絶対に見えないようになってるから!」
「最新技術の無駄遣いだなオイッ!
つーか寄るな!その変態水着を持ちながら私に近付くな馬鹿ァ!」
やっぱり、変態は何年経っても変態でした。
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんの好きな貝は?
「スケーリーフット!何となくロマン感じるしな!」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!