甘い。
甘い。
甘いぞこれわぁッ!
「甘いッ!」
まあ、そういうファッションだからなぁ。
「白狐ちゃん、可愛いよッ!」
「は?」
「白狐ちゃん、世界一可愛いッ!」
「あ?」
「何度でも言うよ!今の白狐ちゃん、意識飛びそうなくらい可愛いッ!
理性を保つのがもはや困難な領域でありますハイ!」
カイちゃんが興奮し過ぎて、口調がおかしくなっている。
その理由は実に明瞭。
私が、めっちゃ可愛らしい洋服を着ているからだ。
具体的に言うと、部屋の雰囲気に見事にマッチする、白とピンクを基調とした甘ぁ〜いロリータファッション。
全体的にフリルの量が多めなドレスで、通称甘ロリというジャンルの格好だ。
私には似合わないといくら訴えても、聞く耳持たないカイちゃんに無理矢理着させられた。
『アタシだけ着るのは不公平だから、白狐ちゃんもコスプレしてねー。』と笑顔で言われ、否応無しに私もコスプレする事になったのだ。
とは言えこの格好は、私なんかにはちょっと可愛さが過ぎるんじゃないのか?
「カイちゃん、流石に私にロリータファッションは、無理があるんじゃない?」
こういったジャンルの服は初めて着るから、どうにも体が慣れない。
「そんな事ないよ!むしろ白狐ちゃんだからこそ似合ってるんだよッ!
もっと自分の生まれ持った体型と見た目に自信持って!白狐ちゃんは最高のモデルなんだからッ!」
「えぇ〜。」
熱弁するカイちゃんに引きつつも、そこまで言うのならと思いながら、私は自分の事を改めて考えてみる。
そりゃ私は、小学生の時の見た目のまま成長が停止しているので、お世辞にもセクシーでグラマラスな体型とは言えないだろう。
だけど、だからこそ、この見た目でこそ、マッチする服装というのも、確かにあるんだろうな。
「う〜ん、そうだな…」
私はふと、ドレッサーのミラーに映った自分の姿を見つめてみる。
今まではずっと、無骨でオシャレに興味の無かった私の色眼鏡の所為で、こういう可愛さ全振りな服装は似合わないし恥ずかしいからと一方的に拒否していたけれど、考え方を改めてからよーく見てみると、意外と悪くないのかもしれないぞ。
フリフリな服は小柄な私だからこそ似合ってるのかもしれんし、カイちゃんのプチメイクのお陰で更に可愛らしさが際立っている。
うん、可愛い!私は今、めっちゃ可愛いぞ!
「……可愛い。」
「でしょー!やっぱり可愛さっていうのはちゃんと自覚して、そっから磨き上げていかないといけないものなんだよ。」
「……そういうもんなの?」
「そういうもんだよ。アタシの持論。
そもそも白狐ちゃんは元から最高に可愛い幼女なんだから、もっと胸を張ってオシャレして良いんだよ!抱いていい?」
「いやどさくさに紛れて抱こうとするなオイぃぃぃ!!」
私の返事を待たずに、我慢しきれなくなったカイちゃんが抱き付いてきた。
なんかもう、この流れに慣れてきてしまっている自分が怖い…。
◆◆
「…で、次の舞台は…。」
「凄いねぇ、お城だよお城!ジャパニーズ・キャッソォッ!」
「無駄に発音良いな。」
次の撮影スタジオは、江戸時代の日本のお城をイメージした場所だった。
壁の飾り付けの意匠なんかも本格的で、美しい金箔付きの襖で四方を囲われた、時代劇なんかでよく見る、殿様と謁見する部屋っぽい。
ってか、それこそこんな場所、時代劇くらいでしか見た事ないぞ!
「それにしても白狐ちゃん、和服も似合ってるねー!ソゥキュートゥ!」
「……そう、かな?ってか、何故にさっきから英語?」
カイちゃんは黄色が基調の着物を着ていて、私は水色っぽい着物を着ている。
「カイちゃんが似合ってるのは当然として、黒髪じゃない私が和服着ても、あんまり似合わないんじゃ…?」
「そんな事ないよ白狐ちゃんッ!!」
「うわッ!?」
どうやら、再びカイちゃんのスイッチを押してしまったようだ。
「確かに白狐ちゃんの言う通り、着物というのは日本の伝統的な衣装で、古来から黒髪の日本人女性が主に着ていたからこそ、黒髪女性が似合うという意見は理解出来る。
でも、時代が進むにつれて近代化してきたこの時代だからこそ、海外の人達が日本の文化に触れる機会が急激に増加して、自然に外国人女性が和服を着る機会も増えたの!
そのお陰で、日本人は気付いた!外国人女性の着物姿も、黒髪女性と同様に美しいものだとッ!
特に、銀髪の幼女が着物を着ると、グッとくるものがあるとッ!
特に特に、白狐ちゃんが着物を着るのを見ると、なんかこう、アタシとしてはムラムラしてくるものがあるとッ!」
「熱く語ってるとこ悪いけど、後半は個人的な欲望がダダ漏れだからな。」
しかし、カイちゃんにそう言われてみると、確かに着物も悪くない。
成人式は余裕で私服だったから和服なんて生まれて初めて着るし、不安もいっぱいだったけど、いざ着てみたらこう、言葉で言い表せないような侘び寂び的感覚に身を包まれた。
これが、和の心ってやつなのか?
違うか。
あと、抱きつこうとしてきたカイちゃんを、扇子で引っ叩いた。
◆◆
次にやって来たのは、日本ではなく洋風のお城をイメージしたスタジオだった。
「お嬢様、お茶とお菓子は如何ですか?」
「うん、ありがと。」
今度の衣装は、カイちゃんがクラシックな感じのメイドさん。
そして私が、城の主という設定のゴスロリファッションなお嬢様。
ゴスロリと言っても、先程の甘ロリとは対照的な、シックな雰囲気の黒を基調としたゴシックロリータ。
オーソドックスなだけに、かなり可愛い。
私的には、今日着た衣装の中では一番のお気に入りだ。
「んー、これは凄く良いね、気に入った。カイちゃん、褒めてつかわす。」
「身に余る光栄でございます、お嬢様。」
なんだかカイちゃんの丁寧な物腰が妙に板についてる気がするんだが、気の所為かな?
「カイちゃんのメイド服も、めっちゃ似合ってて可愛いじゃん。メイドとしての所作も完璧だし。」
「ッッ!?……み、身に余る……光栄……ッ!?」
「ん?」
「……白狐ちゃんが可愛いって言ってくれたァァ!!嬉しいッ!」
「ぐえッ!?」
メイドモードになっても、我慢出来なかったらしい。
抱きついてきたカイちゃんを引っ叩き、落ち着かせた。
「ハァ…ハァ…、今日抱きつかれてばっかだな。」
「それじゃあ次は、白狐ちゃんをお嬢様からランクアップさせよっか?」
「ランクアップ、だと?」
お嬢様から格上げって事はまさか、お姫様にでもなるのか?
ちょっと期待に胸を膨らませてしまう私がいた。
◆◆
連れて来られたのは、暗い地下室のようなスタジオ。
まあ、この時点でお姫様っぽさは無いわな。
「うん、嫌な予感はしてたよ、若干。」
「白狐ちゃん、ナイス女王様!」
「ランクアップってこういう事かよオイ!」
私が着せられてるのは、黒いボンテージ。
お察しの通り、SMの女王様だ。
つまり、今回のオチはそういう事。
しょーもな。
ちなみにカイちゃんは、胸部分に〝奴隷〟と書かれたぼろ切れみたいな服を身に纏っている。
さっきまでとの落差よ。
「つーかこれもう、コスプレじゃねーよお馬鹿!」
「あひぃん!ありがとうございます!女王様!」
四つん這いになっているカイちゃんの尻を、鞭で引っ叩く。
その度に、カイちゃんが嬌声を上げる。
ただそれだけだ。それ以上でも以下でもない。
「あーもう、こうなったらとことん、このお馬鹿奴隷を調教してやる!」
「ウェヒヒヒ、この卑しい奴隷如きに、身に余る光栄でしゅぅぅぅッ!!」
……さっきまでとの落差よ。
◆◆
「今日は楽しかったねー。」
「……。」
私達は最後に寄った、カイちゃん行きつけのSMクラブ(ガチだった)から出て、帰路についていた。
カイちゃん、相当気持ち良かったのか、顔がツルツルのテカテカだ。
「……まあ、最後のSMはともかく、ゴスロリだったら、たまに着てやってもいいかもね。」
「ホントッ!?やった!」
「たまにだからなッ!」
それからしばらくの間、ほぼ毎日のようにカイちゃんに色んなゴスロリ衣装を着せ替えさせられた。
…まあ、悪い気はしなかった。
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんの好きなピザは?
「マヨコーンピザだね!マヨもコーンもたっぷりでお願い!」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!