「さてさて、3問目は不正解だったから、ご褒美だった赤貝のお寿司は残念ながらアタシが頂きまーす。」
また廊下に出て、取って来た赤貝の寿司を美味しそうに頬張っているカイちゃん。
クソッ、なんか無性に悔しくなってくる!
「気を取り直して、次の問題だ!」
『問4、おでんを漢字で書くとどう書くのかな?』
「うわッ、またもや普通に難しい問題!
そんなん普段意識した事無いしなー。」
「ヒントが必要だったら、またアタシにご褒美をプリーズ!」
一生懸命考える私の横で、カイちゃんがニヤニヤ笑いながらそう言ってくる。
まさか、コイツの目的は最初からこれか!?
「……いや、これは前にテレビで見た事あるんだよ。
えっと確か……!」
うーん、喉まで出かかってるんだけど、あと少しの所で引っ掛かってしまっている。
「あ!そうだッ!」
思い出した!
「〝御田〟だよ〝御田〟!間違いない!」
そうだ、前に見てたクイズ番組で、ちょうどおでんを漢字表記したらどう書くのかってクイズがあったのを思い出した!
私は、思い出した勢いそのままに、御田の漢字を解答欄に殴り書きする。
「おお、正解正解!よく分かったね。」
「フフ、正直無理かと思ったけど、私の記憶力もまだ捨てたもんじゃないな。」
「そんな優れた脳細胞の持ち主である白狐ちゃんに、ご褒美のおでんをあげちゃうよー!」
カイちゃんが手渡してきたのは、コンビニなんかでよく売っているタイプの、プラスチック製の容器に入ったおでんだった。
具材は牛すじ、ちくわぶ、大根に卵、ハンペン、昆布と、私の好きな具材で固められている。
カイちゃん、よく分かってるじゃないか。
「ん?なんか変じゃない?」
「え、何が?」
「いやだって、しっかり熱々なんですけど?」
このおでん、まるで茹でた直後のように熱々。
これ、廊下から持って来たんだよな?
「細かい事は気にしない気にしない。」
「…あ、はい。」
カイちゃんの謎の笑顔が、私にそれ以上詮索させる気を失せさせた。
『問5、たこ焼きによく似た見た目の、この料理の名前は?』
「お、写真付きか。」
今度の問題は、カラー写真付きの問題だ。
確かに問題文通り、写真に写っているのはたこ焼きによく似た球形の食べ物。
恐らくピンポン球くらいのサイズのその食べ物が8つ程並び、傍らに液体の入った容器が置いてある。
「フフン、これは簡単な問題だな。
答えは〝明石焼き〟だろう?兵庫県名物の。」
「さっすが正解だよー!
正確には玉子焼きって言うんだけどね。」
「ああ、そうなんだ?
んん?卵焼き?」
「漢字がちょっと違うなー。
アタシ達に馴染みのある卵焼きと区別する為に、明石焼きって呼ぶようになったらしいよ。」
「へぇ、一つ賢くなった気分。」
カイちゃんの食べ物に関する知識は、なかなか賞賛に値する。
というかこの子、学生の頃から成績優秀な才媛だったな。
その後食べた明石焼きは、やはり作りたての感じだった。
美味しかった。
『問6、インド発祥の米料理の名前で正しいものはどれかな?』
A、ビリカニ
B、ピリヤニ
C、ビリヤミ
D、ビリヤニ
「む、また四択問題か。しかも引っ掛け。
でも、この問題も楽勝だな。
答えはDのビリヤニで。」
「おおー、流石に簡単過ぎたかな、正解!」
「まあ、ビリヤニなら何度か食べてるしな。
美味しいよね、あれ。」
「うんうん、分かるー。
ちょっと待っててね!」
またもやカイちゃんが廊下に出て行く。忙しい奴だ。
この後はどうせ、出来たての美味しいビリヤニが出てくるんだろう。
いい加減そのカラクリが気になってしょうがないので、カイちゃんにバレないように私もこっそり廊下の様子を覗き見た。
「フンフーン♪」
カイちゃんは鼻歌交じりに、私の部屋から二つ離れた部屋へ入っていく。
あの部屋は何も無い空き部屋の筈だが?
「……怪しい。」
あまりにも露骨に怪し過ぎる。
さっきは気圧されて詮索するのを諦めたけど、ここまで怪しいともう逆に、詮索してくれというフリなんじゃないか?
そう思えてしまうレベルの怪しさだ。
「だったら、徹底的に調査すべし!」
美少女名探偵・白狐ちゃん!久々に登場ッ!
この謎はもう、私の手のひらの上だ!
という訳で、例の空き部屋の中をこっそりと覗き見た。
「えっと、ビリヤニビリヤニっと。
お、出来た出来た!」
カイちゃんが弄っているのは、なんかよく分からないデカい機械。
業務用の冷蔵庫くらいのサイズがあるその機械の取り出し口らしき部分から、まさにビリヤニが出てきたのだ。
「な、なんじゃこの機械ッ!?
一体、いつの間にこんなもの!」
「あ、白狐ちゃん!?見ちゃったんだ?」
「見たもなにも、人んちに何勝手にこんなクソデカいマシーン持ち込んでんだよ!
つーか何これ!?冷蔵庫?」
自分で言っておいてなんだけど、冷蔵庫とはまた雰囲気が違う気がする。
「…まあ、冷蔵庫の機能もあるけど…
正確にはこれは、我が社で開発中の超本格派&高速調理が可能な、最先端技術の結晶でもある、大型クッキングトイなんだよ!」
…クッキングトイ、だと?
「えっと、クッキングトイって確か、色んな食べ物が実際に作れるオモチャの事だよな?」
「そうそう、でもこれは、そこらのクッキングトイとは根本的に違うスーパーハイテック自動調理機なのです。」
自信満々に胸を張りながらご高説垂れてるカイちゃん。
「この機械の中に食材を入れてる状態で食べたい料理を指定すると、内蔵されてるAIが超高速で調理してくれるんだ。
今のビリヤニも、ほんの10秒で出来上がったんだよ!」
「じゅ、10秒ッ!?
……す、凄い。
凄いんだけどさ、なんでそんな凄いマシーンを私の家に持ち込んでんのかって聞いてんの。」
「…やっぱり怒っちゃう?」
「そら怒るわ。」
とは言っても、全然使ってないただの空き部屋だから、言うほど気にしてはいないんだけどね。
「う〜ん、単なるサプライズと言うか、白狐ちゃんへの新製品のデモンストレーション、みたいな感じかな。」
「へえ?」
「ほら、白狐ちゃんってアタシの会社の事にあんまり詳しくないでしょ?
会社見学にも、一度も来た事無いし。」
「あーうん、そりゃあね……
私みたいな就職の意思の欠片も無いパンツ一丁の駄目ニートが、そんな今をときめく立派な社会人に囲まれたら、一瞬で浄化されて溶けて死んじゃうからな。
行けない理由としては充分だろ?」
要するに、アウェイ過ぎて立ち入る事が出来ないって訳だ。
「えー、そんな事言わずに遊びに来てよー!」
「それは無理!ホントに無理!
ほら、ビリヤニ食べてとっとと勉強会再開するぞー。」
「はーい。」
その後も、勉強会という名のクイズ大会兼食事会は結構盛り上がった。
あのクッキングトイの範疇を明らかに逸脱したスーパーマシーンは、本当に便利だった。
こんなん家にあったら、折角高めた私の料理スキルも一気に落ちちゃうなと、戦慄したものだ。
一応会社でも使う物だからと、勉強会が終わり次第カイちゃんが持って帰ったけど。
カイちゃんが帰宅して部屋に一人になった私は、大の字になって寝転がっていた。
「全く、なんて勉強会だよ。」
結局、ちょっとした雑学が少し増えただけで、あまり実になるような勉強会にはならなかった。
テストの結果は上々で、最終的には結構な量の食事をする事になった。
「変な勉強会だったけど、別に楽しかったからいっか。」
うん、そうなんだよ。
私の人生に、波瀾万丈なんてのは必要ない。
ただただ、平穏で楽しい生活が続いてくれれば良いのだ。
私は、そんな永遠に変わらない日常を愛しているのだからな。
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんの誕生日は?
「10月5日だよ。祝え祝え。」
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