「ただいまー。」
「お、おおお邪魔します…!」
返事は返ってこない。
どうやら留守のようだ。
まあ、表に車が無かったし、鍵も掛かってたから分かってたんだけど。
「そんな緊張しなくていいって。
どうせまだ誰も帰って来てないし。」
「い、いやいやや、白狐ちゃんの家ってだけで、む、無性に緊張するぅ…!」
ううー!と目を瞑りながら唸っているカイちゃん、マジに緊張しているみたいだ。
カイちゃんのこういう態度、なんだか新鮮な感じで見応えあるなぁ。
「それにしても、今日もまた一段と疲れましたねぇ。
てゆうか、ここ最近どっかの誰かさんのお陰で、心身共にやたらめったら疲れてるんですけどねぇ。」
「だ、誰かさんッ!?」
「あ、2階に私の部屋あるから先入ってて。」
私はいつも通り玄関で靴を脱ぎ、そのまま風呂場へ直行。
手洗い場で制服という名のしがらみを脱ぎ捨て、黒に白い水玉模様の下着姿となる。
「パージ完了!これで無敵だ。」
やはり人間、服を着ていては駄目だ。
こうして装備を削り取り、身軽になればこそ頭も冴え、身も心も身軽になり、何もかもが捗るようになるのだ。
これこそが、真理なのだよ。
2階へ上がり、〝白狐ルーム〟と描かれたプレートが掛けられている扉が、神聖なる私の部屋の入り口だ。
「お待たせー。」
私が部屋に入ると、相変わらずカチンコチンでぎこちない座り方で待っているカイちゃんがいた。
「あ、うん、良い部屋だねってブォッ!?」
そして、こっちを見るなり盛大に鼻血を噴いた。
何故に?
「ちょっ、カイちゃん!?どうしたのよいきなり!」
なんだなんだ、高まり過ぎた緊張が遂に臨界点突破して鼻血ブーしたんか!?
「びびびゃびゔぃびび、白狐ちゃんッッ!?
ちょ、ちょちょ、刺激が強過ぎるッ!」
「は?刺激?何言ってんの、大丈夫?」
様子がおかしいカイちゃんの事が心配になった私は、彼女の隣で背中をさすってやった。
こういう時は、取り敢えず背中をさすればいい気がする。
「ブフッ!?ち、ちちっちち、近いッ!?
が、眼福ッ!ありがとうございます!ありがとうございます!」
意味が分からんコイツ。
何故か感謝の言葉を二度も言われた。
「え、なに?そんなに近づかれるのが嫌なの?」
「そ、そうじゃなくってッ!
そそそそうじゃなくて、その格好が刺激が強過ぎて、もはや誘ってるのッ!?」
「はい?格好?」
私は、自分の今の格好を確認する。
…うん、普通にブラとパンツの下着姿だ。
いつもなら自室の中だとパンイチだけど、今はカイちゃんが来てるから一応上も着てて…
「……って、あッ!」
あぁ、そういえばカイちゃんは、私が裸族なのまだ知らないんだっけ?
私は帰宅するなり即脱ぐのが昔からの習慣になっていたので、ほぼ無意識に脱いでいた。
まあでも、こういうのってあるあるだよね。
「…えっと、私は家だといつもこうだから、慣れて。」
「なッ!なあァァッ!?」
「ていうか上下着てるのもまどろっこしいわい。てーい!」
私は我慢するのも馬鹿らしくなって、ブラを外し丸めて部屋の隅に投げ捨てる。
これぞ我が伝家の宝刀、パンイチスタイルの極み!
「ぐぼほォゥッ!?」
カイちゃんが更に鼻血を噴き出し、きりもみ回転しながら床に頭から激突した。
不変力のお陰で失血状態にはならないし怪我もしないだろうけど、部屋を真っ赤な塗料だらけにされて凄惨な事件のあった事故物件みたいにされるのはご勘弁願いたい。
「あーもー、ほら鼻血拭いて。」
必死に鼻血と興奮を抑えているカイちゃんに、ティッシュを手渡す。
「…は、はいぃ、ありがとうございます。」
「つーか、私の裸なんか見て興奮してんの?キモいわー。」
取り敢えず、カイちゃんが喜びそうな台詞を言っといた。
「あ、ありがとうございますゥッ!どうしようもないロリコンでしゅみませぇん!」
結局、私の格好に慣れるまで、1時間はかかった。
という訳で、1時間後。
「慣れた?」
「…うん、うん、慣れ、慣れました。うん。」
カイちゃんは自分にそう言い聞かせるように、何度もうんうんと頷いている。
「ウチで遊ぶのなら、ちゃんと適応して貰わないといけないからねぇ。」
私はドカッとテレビ正面のソファーに腰を下ろす。
座り心地の良い、座り慣れた私の相棒的ソファーだ。
「ほら、座って座って。」
私はソファーの隣、一人分の空いたスペースをポンポンと叩き、カイちゃんに座るよう促した。
「…は、はい、座らせて貰いますです、はい。」
あらら、折角緊張が解けたと思ったのに、また緊張しちゃったよ。
でも、そんなところも可愛げがあっていいね。見てて面白いし。
ほぼ裸の私の隣に、カイちゃんがギクシャクしながら座るさまをクラスの人間が目撃したら、一体どんなリアクションをするのだろうと考えてもみる。
私がカイちゃんを引っ叩いて言葉攻めするさまも、もし見られたら2人とももれなくクラスに居場所は無くなるだろう。
いや、普段から人気者で優等生のカイちゃんはまだ挽回の可能性もワンチャンあるけど、私なんかは確実に公開処刑されて、社会的に抹殺されるのは間違いない。
「それじゃ、折角ウチに来た事だし、ゲームでもしよっか。
カイちゃん、ゲーム経験は?」
「えッ!?…えっと、そんなには無いかな。
スマホゲームを、ちょこちょこやるくらい。」
「成る程、確かにスマホゲーも面白い。私もやってる。
だからこそ今日は、コンシューマーゲームの面白さも教えてあげよう。」
「へ?コンシュ……何?」
「コンシューマーゲーム、家庭用ゲームの事ね。
もっと分かりやすく言えば、家でプレイする所謂テレビゲームの事。」
「ふむふむ、流石は白狐ちゃん、博識だね。」
「いやいや、一般常識だから。」
ゲーマーの間ではね。
そしてゲームというフィールドに限っては私の方が圧倒的に優位!
この場に於いては、カイちゃんと私のカーストは逆転し、私こそが支配者なのだ!
「フッフッフ、カイちゃんはゲーム初心者みたいだし、仕方ないからこの私が師事してあげよう。
ほら、2人で遊べるゲームだと、これとこれと、あとこれも遊べるかな。カイちゃん選んでいいよ。」
私が取り出したのは、双六形式のパーティゲームとレースゲーム、そして格ゲー。
基本的にずっと一人でゲームしてるから、あんまり複数人で遊べるゲームが無い事に気付き、ちょっと悲しくなった。
「うーん、それじゃあこれかな。」
カイちゃんが選んだのは、レースゲーム。
てっきり初心者には無難なパーティゲームを選ぶかと思ってたから、少し意外だ。
「お、これでいいの?
運要素の強いパーティゲームの方が、カイちゃんには向いてると思うけど?」
私はちょっぴり挑発的な笑顔をカイちゃんに向ける。
「ムム、これでもアタシ、ゲーセンのレースゲームで友達に三連勝したんだよ。」
「ハッ、その程度のヘボい戦果で、私に勝てると思うなノロマな亀め!
こちとらゲーマーやぞ!」
「あひィ、調子に乗ってすみませんッ!」
謝ってるのに嬉しそうな顔をしている女は置いといて、私はゲームのディスクを本体に挿入して起動させる。
フフフフ、初心者狩りは本来の私の趣味ではないけれど、カイちゃん相手なら話は別だ。
徹底的にボコボコにして心をへし折って、ご主人様である私に完璧に屈服させてくれるわ!
それから罰ゲームの名の下に私の足を無様に舐めさせ……
「…って、何考えてんだ私ッ!?」
「え、どうしたの!?」
「何でもないッ!」
邪念をッ!
邪念を振り払え私ッ!
何度も言うけど、私とカイちゃんはただの友達だから!
それ以上でも以下でもないからッッ!!
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんの好きな本は?
「推理小説とか、結構読むかなー。」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!