スペースシップ☆ユートピア

永遠の時を旅する2人の少女の愛の物語
千葉生まれのTさん
千葉生まれのTさん

163話・55億年目・夢からの来訪者

公開日時: 2023年1月6日(金) 05:47
文字数:3,158




「よーし、押すぞ?」


「うん!いっちゃって!」


例のスイッチは協議の結果、私が代表として押す事になった。

恐る恐る、緊張で震える手をスイッチに近付ける。






「…本当に押しちゃうぞ?」


「うん、頑張って!」




プルプルと、緊張が高まる。








「本当の本当に押しちゃうぞ!?」


「もういいから一思いに押してくれたまえ!」


皆が痺れを切らしていそうだったので、勇気を振り絞ってスイッチを力いっぱい両手で押し込んだ。










「ん?何も起こらな…」


ピーーーッ!



と、時間差で耳障りな警告音みたいなのが、部屋中に鳴り響いた。


「何だこれ!うるさッ!」


「あッ!カプセルの液体が減ってるぞ!」


レンちゃんが両手で耳を塞ぎながら、カプセルの方に注目している。

つられてそっちを見てみると、彼女の言う通りカプセル内の培養液みたいな液体の水位が、徐々に低くなっているのが確認出来た。

恐らく、カプセル内の底に穴でも開いて、そっから排水されているのだろう。


液体は1分程で全て排水し終わり、それと同時に喧しい警告音もピタリと止んでくれた。



「お、おおぉッ!?」


驚きに身を震わせている私達を他所に、空になった円筒形のカプセルは、前半分がスライドして開き、中で尻餅をついたまま眠っている宝石の女性が露わになった。







「……えっと、こっからどうすればいいの?」


困惑しているのは、当然ながら私だけじゃない。

4人揃って顔を見合わせて、この状況に対してどう対応すればいいのか分からないでいる。




「うむぅ…我々に聞かれてもねぇ…」


「取り敢えず、その人を放置したままにするっていうのは不味いんじゃないかな。」


「確かにそうだけどさ。」


カイちゃんの意見ももっともだ。

この宝石の女性が生きてるのか死んでるのかも分からないけど、生きてた場合は保護しておかなきゃ色々と不味いだろう。

何より、この地下帝国(仮)や不変力、影人間について知る為の重要な鍵になるかもしれない人物なのだ。

死んで貰ってはこっちが困るってもんよ!




「そうだな、お持ち帰りしますか。」


満場一致で、私の家に連れ帰る事にした。













◆◆



体力のあるカイちゃんとレンちゃんが交互におんぶして、宝石の女性を私の家まで連れて来た。

まだまだ起きる気配が見受けられないので、昔、私のお母さんが使っていた部屋のベッドに寝かせておいた。


「なかなか起きそうにないし、今日はこれで解散しとこうか?」


「まあ、そうだね。」


ツジが賛同し、レンちゃんも首肯する。




「白狐ちゃん、本当にこの人の様子を見るの、任せちゃって大丈夫?

アタシの家でも良いんだよ?」


カイちゃんが気を遣って言ってくれるけど、私はそれを断った。


「いいんだよカイちゃん。

なんかコイツは、私が面倒見なきゃいけない気がするしさ。」


そう言って、宝石の女性に布団を掛けた、その時だった。






「………ッ!」


「うをォッ!?」


突然その女性が目を覚まして、ガバッと勢い良く起き上がったのだ。


私は思わず、腰を抜かして尻餅をついた。




「なッ!」


「お、起きちゃった!?」


皆が驚き警戒している中、宝石の女性は寝惚けているかのように細めた瞳で私達を見回す。


そして、ゆっくりと口を開いた。







「〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓?」


「ううッ!?」


その口から放たれたのは、言語というより音だった。

それも、とびきり不快な甲高い怪音。

思わず耳を塞ぎ、本能的に拒絶してしまうような音だった。


「…な、なんて声なんだ。」


私達の様子を見て、宝石の女性は少し動揺しているようだった。

そして口を少しモゴモゴさせた後、再び口を開く。

私達は一斉に身構えた。








「……う、えっと、失礼しました。

貴女方の言語に合わせて喋るのを、忘れてしまいました。

なにぶん、この肉体に戻ったのも随分と久し振りなもので。」


「…あ……え…?」


「し、喋ったァァァァ!?」


私の絶叫が、家中に響き渡った。








「あの、まずはあの場所から解放して頂いたお礼をしないといけませんね。

どうも、ありがとうございました。」


「あ、いえ、どうもご丁寧に。」


取り敢えず客間に移動した私達。

並んでソファに座っている私達に対して、長テーブルを挟んで宝石の女性が向かいに座っている。

宝石の女性は随分と礼儀正しい人物で、今もお礼を言いながら深々とお辞儀をしている。

凄い綺麗で謙虚な人だし、今のところ悪い異星人とかには見えないんだよな。


というかそもそも、そういうの抜きにしても私は不思議と、この人に対して微塵も警戒心を抱いていない。

他の3人は大なり小なり警戒しているようにも見えるけど、私だけはどうにもそういう気持ちになれない。

普段ならそんな事無いはずなのに、どうしてなんだろうな。




「うーん、貴女に聞きたい事は山のようにあるんだけどねぇ。

なにぶん、起きたばかりだろうし、最低限の簡単な質問だけでもさせて貰って構わないかな?」


ツジが、カウンセラーみたいに優しい口調で聞く。


「ええ、構いません。」


「と、その前に我々の自己紹介が先だね。

私の名前は京ば…」


「京終辻音さん、でしょう?

存じています。」


不意打ち気味にツジの名前を言い当てられ、私達は揃って動揺する。




「……何故、私の名前を?」


「上木戸蓮香さんに、山岸海良さん。」


「うッ!?」


「えッ!?」


今度はレンちゃんにカイちゃんの本名を言い当てる。




「こうしてお会いするのは初めてですね。

皆さんの事は、そちらの白狐さんから何度もお聞きしています。」


全員の視線が、一斉に私に集中した。



「はあッ!?ちょ、私ぃ!?」


「白狐ちゃん、この人と知り合いなの?」


「いやいやいや、んな訳ないじゃん!」


必死になって否定する私に向かって、宝石の女性は柔和な笑みをこちらに向けている。





「いえ、白狐さん。

貴女はワタクシの事を、よく知っている筈です。」


「……え?」



宝石の女性と眼が合う。

その瞬間、脳裏にとあるビジョンが過ぎり、私は全てを理解した。









「まさかお前、あの影人間か?」


「ええ、そうです。

ワタクシの肉体を見つけて下さり、本当に感謝しています。」








ずっと喉につかえていた小骨が、ようやく取れたかのようなスッとした気分だった。





「いやーいやいや、私の夢に出て来たあの影人間?」


「はい、あの影人間です。」


「いやいやいやいや!全然別人じゃん!

見た目も喋り方も全然違うじゃんッ!」


「ああ、あの姿は便宜上必要だっただけの、仮の姿です。

喋り方は……そうですね、何と言えばいいのやら…」


宝石の女性は、少し口籠もりながら…



「あの影人間の姿になると、多少人格が捻じ曲げられてしまうのです。」


「じ、人格が?」


「あれはまだ、試作品でしたから。」


「うん?よく意味が分からないんだけど。」


あの影人間は一体何だったのか。

話を聞けば聞くほど、訳が分からなくなってくる。




「あれは……そうですね。

貴女方で言うところの、宇宙服みたいなものでしょうか。」


「宇宙服?」


私の頭の中に、大量のカプセルに入った影人間の群れが浮かんだ。


あれはまさか……




「皆さんはもう、あの施設で大量の影人間を見たでしょう?

あれは全て、開発途中の影人間です。

時間が足りなくて、まともに稼働出来たのはワタクシが使っていた1体のみでしたが。」


稼働と言ってもあくまでも試作品で、不具合も多かったと。

そう付け加えていた。


「成る程、じゃあさっき言ってた人格が変わるってのも、不具合の一種なのか?」


「ええ、そうです。」


どうりで影人間の時とキャラが違う訳だ。

詳しくは分からんけど、そういうもんらしい。





「ところで、貴女の名前って聞いてないよね?」


カイちゃんが宝石の女性に聞いた。

そう言えばそうだったな。

聞きたいことが多過ぎて、質問が渋滞を起こしていた。








「名前、ですか。

えっと、そうですね……。

地球人っぽい発音で名乗るのでしたら、リグリーという名になりますね。」


何十億年も前からの付き合いがある影人間。

その名前がようやく判明した瞬間だった。



⚪︎2人に質問のコーナー


白狐ちゃんが好きなお酒は?


「いや、私はお酒飲めないって。

ちょびっと飲んだだけでへべれけになって、意識朦朧になっちゃうからな。」

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