多摩市の動物園を満喫してから数日後。
第4回目となる東京観光が今、始まろうとしていた!
「ていうか、今回でラストな。」
「えー、もっと白狐ちゃんと一緒にお出掛けしたーい!」
「そうは言っても現実的な話、ここ最近観光しまくってた所為で、我々の軍資金が想定以上に減ってしまっていてですね、はい。」
「…分かりました、あんまりワガママ言うのは控えます。」
私に諭され、カイちゃんはしゅんとしてしまった。
普段ならお財布の管理をするのはカイちゃんの役目だけど、私に関する事なら際限なくお金を使おうとするのが玉に瑕だからな。
こういう時だけでも、私がストッパーにならなくてはいけないのだ。
「という訳で白狐ちゃん、ラストの舞台はここ、秋葉原でーす!」
「よっしゃー!めっちゃ金使っちゃいそー!」
最後に観光する地は、聖地秋葉原。
今まで何度も足を運んできた、私にとってはお馴染みの街である。
「…カイちゃんがアキバにしよって言うからアキバにしたけど、これって観光になるの?」
「うん、安心して。
今日はいつものアキバ散策と違って、楽しいイベントも控えてるからね。」
「…へえ?それじゃあ、楽しみにさせて貰おうかな。」
つまり、カイちゃんからの何らかのサプライズがあるって事か。
フッ、ワクワクさせてくれるじゃん。
「まあ、まだしばらく時間があるから、それまで普通にアキバ巡りでもしよっか。」
「よっしゃ、私VRやりたい!
VR体験しに行こカイちゃん!」
「いいねー、面白そう!」
こうして私達は、秋葉原の街の中へと突撃していくのでありました。
◆◆
「うおー!凄い凄い何これ!?
早い早い酔うーッ!」
「うひィー!白狐ちゃん大丈夫!?」
「VRだから別に大丈夫だけど、分かってても怖ぁーッ!?」
私達は宣言通り、VR体験が出来る施設へとやって来て、絶賛お楽しみ中だ。
ジェットコースターをVR世界で体験出来るゲームをやってるんだけど、これがまた予想を遥かに越えてリアル!
カイちゃんは前に何かの番組でVRは経験済みらしいけど、私自身は全くもって初めて。初体験!
本物さながらの臨場感、スリル、スピード感を直に味わった私は、ゲームというものの新たな可能性を感じ取った。
…カッコつけて言ってるけど、要するに超怖かった。
「白狐ちゃん、本当に大丈夫?
凄く怖がってたみたいだけど。」
終わってから、カイちゃんにやたらと心配された。
そんなに怖がってたのか、私は?
なんか、恥ずかしいわ。
「いや、大丈夫だから。
ジェットコースターは怖いけど、あのスリルが堪んないだよね。」
「…白狐ちゃん、もしかしてドMの素質ある?」
「いや、それとはまた違うやつだから。
君とは違うのだよ。」
「ちぇー。」
露骨に残念そうにするカイちゃん。
私を仲間に引き入れようなど、まだまだ早いわ。
「他にも色々体験ゲームあるみたいだし、やってみようよ!」
「おうともよ!
余裕こいてるカイちゃんを、徹底的にボコボコにしてくれる!」
「余裕こいてないし、目的がおかしな方向に向かってるよ!?
…あ、でも、ボコボコにはされたいかも。」
「あ、そう…」
◆◆
「はぁ〜、めっちゃバーチャルがリアリティしてた〜。」
「満喫し過ぎて、白狐ちゃんの語彙力が死滅してる!」
「いやもう、VR楽し過ぎるでしょ。
カイちゃん、今度家庭用のやつ買お?」
「オッケー!一緒にやろうね!」
VR体験を終えた私達は、ちょっとした近未来体験に大きな感動を覚えていた。
この脳に溢れる満足感、筆舌に尽くしがたしッ!
「それじゃ充分遊んだ事だし、今日はもう帰ろっか。」
「そうだねー、いっその事帰り際にゲーム売ってるお店寄って、VRのセット一通り買ってっちゃうってちょっと待ったァァァァッ!!」
「何だよもう、いきなり大きい声出すなって。」
カイちゃんがこんなノリツッコミみたいな事してくるなんて、珍しい。
「アタシの予定!忘れないで欲しいなッ!」
必死に訴えてくるカイちゃん。
「…ああ、うん、ごめん。忘れてたわ。」
「んもぅ〜!酷いよぉ!」
「うんにゃ、あれはVRが悪い。
VRが楽し過ぎた所為で、私の記憶は霧散した。」
「何その責任転嫁ッ!?」
「まあ、それはともかくとして、時間は大丈夫なの?」
「…そうだね、ちょっと早いかもしれないけど、もうそろそろ行こっか。」
「カイちゃんのサプライズかぁ。
ちゃんと成功するのを期待してるよ?」
私はわざとらしくニヤニヤ笑いながら、カイちゃんの脇腹を肘で小突いた。
「うぐぅ…、なんか変に緊張してきた。」
◆◆
「……えっと、カイちゃん。ここは一体?」
「あれ、白狐ちゃんはこういうお店初めて?
ライブバーって言ってね、ライブハウスとバーが一体化した感じのお店なんだよ。」
今までテレビとかでしか見た事ないようなオシャレなバーのテーブル席に、私とカイちゃんは向かい合って座っている。
店内はあまり広い訳ではないけれど、奥の方にライブステージらしきものがある。
しかし、落ち着かない。
どうにも落ち着かない。
「…そ、そうなんだ。
初めてだし、私みたいなニートで引きこもりのオタク女じゃ、こういう所って完全場違いじゃない?」
チラチラと店内を見回す私。
他のお客さんもちらほらいるけど、誰も彼も私の目から見るとオシャレな陽の者に見えてしまう。
いや、実際そうなのだろう。
私もカイちゃんのお陰で一応シャレオツな服装はしているものの、内面が人見知りな所為でどうしてもこういう空間は落ち着かない。
「ってかそもそも、私って見た目未成年なのに、こんなお店に居て大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫。」
「根拠が不明瞭なんだよ。」
わざわざ私をこんなお店に連れてきて、どういう用事だ?
ライブハウス的なお店だから、音楽に関する何かなのか?
私が頭を抱えていると、不意に店内の様子が変わった。
店内の照明が暗くなったかと思うと、ライブステージが色とりどりにライトアップされる。
クッソ、私が戸惑っている様子を、カイちゃんがニコニコ笑って見てやがる。
なんか悔しい。
「ねえねえカイちゃん、誰かのライブが始まるの?」
「まあまあ、見てなって。
絶対に後悔はさせないから。」
「?」
不安で仕方ないけど、ここはカイちゃんを信じるとするか。
どうせ逃げたりする事も出来ないんだし。
さて、そうこうしているうちに、ステージの奥の扉から誰か出て来たぞ?
見た目は、50〜60代くらいの男性か。
シュッとした顔立ちでダンディな雰囲気を醸し出している、燻し銀なおじさんだ。
「ん〜?」
あれ?
私は、この人に見覚えがあるぞ?
なんだっけ、どこでだっけ?
思い出せそうで思い出せない!
私が記憶を探っていると、ダンディな男性が決定的な一言を口にした。
「皆さん、今日はこのボク、IWASEのシークレットライブにお集まり頂き、心から感謝します。
短い時間になりますが、どうか楽しんでいって下さい。」
「あッ!?」
思い出した。
「…ま、マジか。本物のIWASEさん?」
「そうだよ、本物のIWASEだよお嬢さん。」
IWASEさんが、微笑みながら私にそう言った。
狭い建物だから聞こえてたのか、恥ずかしい。
作曲家、IWASE。
本名は岩瀬 徹生、ゲーム音楽専門の作曲家。
数多くのゲーム音楽を世に送り出していて、業界ではカリスマ的存在の偉人。
そして何より、私の大好きなゲーム、コーラルアドベンチャーズのBGMも、全シリーズ全曲この人が手がけているのだ。
私にとって、まさに神様的な存在。
カイちゃん、とんでもないサプライズを用意してくれたな、このヤロー!
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんの好きなご飯のお供は?
「ラー油だよラー油!ご飯にかけるタイプのやつ!」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!