スペースシップ☆ユートピア

永遠の時を旅する2人の少女の愛の物語
千葉生まれのTさん
千葉生まれのTさん

56話・17年目・ネーミングリチュアル

公開日時: 2021年9月19日(日) 20:26
文字数:3,035



とある日の正午。



「あー、ねっむ!」


私は強烈な睡魔と戦いながら、世界を守る為の戦いに没頭していた。

ちなみに眠気は不変にしてないので、普通の人間と同様に寝なければ眠くなる。

カイちゃんが、出来るだけ不変になる前と同じような生活サイクルで過ごしたいとの意見だったので、それに合わせたのだ。

どうせ私も同意見だしね。


「じゃあ、不変力で眠くならなくすれば?」


と、私の隣でおやつのプリンを食べながら、カイちゃんが言う。


「いや、今この状態で不変にしたら、永遠に眠いまんまになっちゃうだろ。」


「そっかー、案外不変力も、使いにくいところがあるんだねぇ。」


「万能な力なんて、この世にはないのよ。ふぁ〜あ、眠い眠い。」


ザシュッ!ズバッ!ドガーン!

激しい効果音と共に、私は世界の脅威である敵と戦い続ける。



はい、そうです。ゲームの話です。


本来、時間の有り余っているニートの私なら、日中好きなだけゲームをして眠くなったら素直に寝るという、欲望に忠実且つ至極健康的(?)な生活が常だったんだけれど、今回だけはちょいと事情が違ってくる。

私の好きなオンラインゲームで期間限定のイベントが開催されていて、それのイベント報酬を入手する為に期限である今日、時間ギリギリまで粘って頑張って戦っているのだ!


何故、ギリギリなのかって?

そりゃ、今までサボってたからに決まってんでしょ!


「白狐ちゃん頑張ってー!」


「応援ありがとう。イベント報酬である、狐耳カチューシャと狐尻尾、そしてミニスカ巫女服をゲットする為に、めっちゃ頑張るわー。」


「何そのロマンの塊みたいなコスプレセット!むしろ白狐ちゃんに着せたいんですけどッ!?」


「……確かに可愛いけどさー。」


私が着るのはなー。


「んー、でも意外と似合ったりする?」


「似合ってる絶対似合ってる!意外どころかむしろ白狐ちゃんの為にあるような衣装だよ!」


熱弁するカイちゃんに、少し気圧された感ある。


「…まあ、いつか機会があったら着てみてもいいかな。」


「やったー!今度準備しとくね!」


いや、なんかごくごく自然にコスプレするのを受け入れてるけど、昔の私だったらそんなの絶対に有り得なかったな。

だいぶカイちゃんに毒されてるというか、なんというか。

ま、そういうのも結構楽しいし、悪い気はしないんだけどさ。














◆◆



「う〜ん……」


数日後、ジャイアント(略)コオロギの入った飼育ケースの前で、何か考え事をしながら低く唸っているカイちゃんを発見した。


「カイちゃん、どうかしたの?」


下着姿のまま冷蔵庫を漁りに来た私が、絶賛悩み中のカイちゃんに聞いてみた。


「ああ、白狐ちゃん。実はこの子の名前をどうするか、ちょっと悩んでて。」


「この子って……あぁ。」




ジャイアント(略)コオロギ。

そういえば、こいつを捕まえてもう2年経つけど、名前とか付けてなかったな。

今まで特に気にしてなかったわ。


「そうだな、折角飼ってるんだし、名前くらい付けてあげないと可哀想だわな。」


「うんうん、だから白狐ちゃんも一緒に考えよ?」


「オーケー!…っとその前に、カイちゃんは何か良い案あるの?」


「うん、取り敢えず考えてた名前候補としては、ビッグマンと、デカ三郎と、コオロギングとかかな。

結構良い名前じゃない?」


「は?クッソダサいんだけど。何その頭悪いゴミカスみたいな雑魚ネーミングセンス。

宇宙人に開頭手術でもされて脳味噌掻き回されたの?」


「真顔で辛辣なお言葉、ありがとうございましゅッ!」


カイちゃんのネーミングセンスが人類の終わりレベルに壊滅的過ぎて、ついついオブラートに包むのも忘れて真顔のまま罵ってしまった。

まあ、目の前のドMが涎垂らしてハァハァ喜んでるからいっか。


「しょうがないなぁ、カイちゃんが命名したらジャイアント(略)コオロギに一生消えない十字架を背負わせる事になりそうだし、私が決めてあげるよ。」


「ほほう、お手並み拝見。」


「んっと、じゃあね〜……」


私は腕を組み、脳内の記憶回路を辿る。

何か、良い名前はないか。良い名前はないものか、と。








「……クソデカ君。」




「………白狐ちゃん?」


カイちゃんが、信じられないものを見るような目で、私を見てくる。

おいおい、カイちゃんにこんな目で見られたの、初めてだぞ!

完璧な名前だと思って内心自信満々だったけど、どこかが悪かったみたいだ。

急いで訂正しなければ!



「…えっと、今のは無しね!冗談だから!

う〜んと、えっと……………アンド◯・ザ・ジャイアント!」


「……プロレスラーじゃないよ?」


「あっ、じゃあ……ジャンボ◯崎!」


「……プロゴルファーでもないよ?」


「うぅ……こおろぎ◯とみ!」


「……声優でもないよ?」


「……ビッグ◯ディ!」


「…………白狐ちゃん、真面目にやってる?」


「…ご、ごめんなさい。」


カイちゃんに笑顔で凄まれて、メンタル貧弱な私は一瞬で縮こまってしまう。


「弱気な白狐ちゃんも可愛いから許しちゃうッ!」


カイちゃんが抱きついてきたけど、今の私は恐怖で抵抗出来なかった。

まあ、1分後に復活した私のライジングアッパーカットが炸裂して無事解放される訳だけども。








「ん〜、結局なんも決まらないな。」


「名前を付けるのって、案外大変なんだねぇ。」


「ゲームでキャラとかモンスターに名前付ける時は、すぐに浮かんでくるんだけどなー。

リアルだと、どうしても慎重になっちゃうな。」


「だねぇ。」


「カイちゃんは、何か新しい名前浮かんだ?」


「えーと、コロギスマン、ブラッくん、ジャイアントオブジャイアント……」


「聞いた私が馬鹿だった。」


案は沢山出てきたものの、どれも納得のいくような案が出る事はなく、ひたすら低レベルな大喜利をしてるだけの時間が過ぎ去っていく。

それから30分程経過して、そろそろ私達が飽きてき始めた頃……








「もうさ、名前付けなくて良くない?」


「…うん、アタシもそんな気がしてきた。」


「私達みたいなネーミングセンスの欠片も無い女どもに名前を付けられたら、この子が可哀想な気がしてきた。」


「…そうだね。悔しいけど、それが最善の選択だよね。」


結局、意味の無い時間を過ごしただけでした。












◆◆



「それにしても、ジャイアント(略)コオロギって全然鳴かないねー。」


就寝時間、私とカイちゃんは同じベッドに入りながら、少し話をしていた。


「言われてみれば、確かにそうだな。

コオロギが鳴くのは求愛とか喧嘩する時だから、そういうのに興味ないのかな?」


「凄いね、悟りでも開いたのかな?」


「さあ?コオロギの考えてる事なんて分からにゃい。

まあでも、サイズとか寿命とか性質からして、やっぱ尋常のコオロギじゃないのは確かだもんなー。

知能も高いらしいし。」


「もしかして、宇宙からやってきたエイリアンだったりして。」


「お、ロマンがあっていいねー。」


流石に宇宙生物なんてのは突拍子も無い話になるけど、例えば現存する大型コオロギの突然変異種だったり、どっかの研究所とかで品種改良した個体が逃げ出したり……



考えれば考える程、色々な可能性が広がる。

これもまたロマン。





「それにしても、宇宙か。

宇宙は良いよなぁ、ロマンの塊だもんなぁ。」


「白狐ちゃん、今日はやけにロマンについて語るね。」


「そりゃそうだよ。

未知への探究欲、溢れ出る好奇心!

つまりロマンこそが、人が己を満たす為に必要な最高の栄養なのだよッ!」


「おおー、白狐ちゃんの力説。」


「ま、こんなんベッドの中で言う台詞でもないけどな。おやすみ。」


「うん、おやすみー。」


こうして、私達のなんでもない一日は終わりを告げた。



⚪︎2人に質問のコーナー


カイちゃんの好きな戦国武将は?


「んー、島津義弘さんかな。鬼島津!」

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