カイちゃんと出会ってから、早くも1年が経とうとしていた。
あれからというもの、私とカイちゃんは週1くらいのペースで会って遊んでは、ゲームしたり出掛けたり、罵倒したり引っ叩いたり蹴飛ばしたり…。
普通の女子高生の友達関係とはちょびっとだけズレた感じの、奇妙な関係性を築いてきた。
自分で言うのもなんだけど、お互いに大なり小なり特殊な人間だからなのかもしれない。
高校2年の5月、そろそろ修学旅行のシーズンにもなってきてクラス中がソワソワしてる雰囲気になってきたけど、私にはこれっぽっちも興味が無いので、いつもより一層クラスメイトとの温度差を感じる。
ちなみに学年が変わってクラスは変わったけども、カイちゃんとは運良く今年も同じクラスだ。
「はぁ…、ダルい。」
帰りのホームルームで修学旅行の予定についてクラスの皆で話し合っている様子を、私は隅っこの自分の席に座って外の景色を見つめながら、誰にも聞かれないように小さく呟いた。
修学旅行なんて、何が楽しいのかまるで分からん。
旅行自体は楽しいのは分かる。
知らない土地に行って、知らない料理や知らない景色、知らない歴史を学んだり堪能するのは、確かに好奇心を刺激されて非常に楽しい。
だけど、それは一人で行った場合のお話。
浮き足立ってキャーキャーワイワイ騒いでるだけの馬鹿丸出しな連中と一緒に行っても、楽しいものも台無しになってしまう。
中学の時の修学旅行なんて、もう最悪そのものだった。
旅行先が京都に決まった時は内心ワクワクしていたけれど、班決めの抽選でクラスの陽キャ達が集中していた班に組み込まれ、それからは語るも恐ろしい、私の繊細なメンタルがバッキバキにへし折られる死出の旅になったのだった。
あの時の出来事は未だに思い出すのも憚れる程の最悪のトラウマになっている。
「はーい、それじゃあそろそろ皆さんお待ちかねの、各班のメンバー決めを行います!」
担任の先生のその一言で、更にクラス内がざわめいた。
どうやら今回も抽選で決めるらしく、先生がくじ引きボックスを取り出してきた。
…頼むから、ヤバい奴らと一緒の班だけは勘弁して欲しい。
出来る限り、おとなしめなグループにしてくれ。
さもなくば当日、何がなんでも仮病使って休んでやる!
お願いします、どうか何卒…!
何卒、カイちゃんと同じ班にして下さいッ!
…あ、いや、今のはクラス内でまともに会話した事ある人間が、カイちゃんだけだからそう思っただけで、他意は無いから!
カイちゃんが、一番マシって思っただけなんだからねッ!
ちなみに、班は男女混合の4人で1組。
そして私のクラスは人数が28人なので、ちょうど7分の1の確率でカイちゃんと同じクラスになれる。
私の心の中の不安を含めた視線を、離れた席のカイちゃんに向けたら、アイツは呑気にも隣の席のお友達と楽しくお喋りしてやがった。
クッソー、カイちゃんには私みたいな悩みが無くていいなぁ、オイ。
「はい、中西さんは4班ね。
じゃあ次、山岸さーん。」
「はいはーい。」
先生に名前を呼ばれ、カイちゃんがくじを引きに前へ出る。
「はいっと。」
「えっと、山岸さんは6班。
じゃあ次は、岡くーん。」
カイちゃんは、6班か。
6班はまだ1人目の選出。
ここから更に大人しい性格のクラスメイト2人が6班を引き、尚且つ私も6班になるという超薄い確率を引き当てるのが、今の私の最大のミッション!
そう、私は孤高のギャンブラー!
その後、私の番になるまでに、一人の生徒が6班に加わった。
確か彼の名前は新藤 丈、私と同ランクでオタク趣味の持ち主である、カースト低めで口数少ない草食系男子だ。(失礼)
よし、女子とロクに会話してるとこを見た事ない新藤なら当たりだろう。そうそう私に絡んでくる事は無い筈!
「はい次、尾藤さんね。」
「…ぁ、はい。」
くぅぅ、くじ引きの緊張と、クラスの人間に注目されている緊張とのダブルパンチで、胃がキリキリと痛んでるような気がする。
先生の前に立った私は、汗ばんだ手をボックスの中へと突っ込んだ。
(お願いします!お願いしますぅ!どうか一番マシな班に入れますようにッ!)
祈りと念を込めて、私は一本のくじ引き棒を手にした。
せいやッ!
と、気合を入れて、そのくじを引く!そして見る!
「はい、尾藤さんは6班ね。
次、工藤さーん。」
……マジかッ!
やったやったやったよっしゃあああァァァァッッ!!
これぞ我が狙い通り!全ては計画通り!ミッションコンプリート!
心の中の世界でで雄叫びを上げながらパンイチで踊り狂うも、表の態度には一切出さずに平静を装う。
でも、少しはニヤついていたかもしれない。
危ない危ない、誰にも見られてないよね?
カイちゃんの方をチラ見したら、私の視線に気付いて満面の笑顔を送ってきた。
どうやら向こうも、私が同じ班になったのが相当嬉しいらしい。ウキウキしているみたいだ。
こうして見ると、愛い奴よのう。
◆◆
「やったね白狐ちゃん!アタシ達、同じ班だよッ!」
放課後、デャスコ内のフードコートにカイちゃんとコーヒー飲みに行ったら早速、修学旅行の班決めの話をしてきた。
「うん、まあ、たまたまでしょ。」
ここでも私は平静を保つ。
実際にはたまたまなんかじゃなく、私の強力な念の力が超自然的にくじ引き因果へと干渉し、偶然を必然に変えたお陰で同じ班になったんだがな。
目の前の能天気女はそんな事、夢にも思わないだろう。
…いや、何言ってんだ私は。ただの偶然だろ。
「白狐ちゃんも決まった時、凄く嬉しそうだったもんね。
あんなにニコニコしてた白狐ちゃん、初めて見たかも。」
「えッ!?ウソ!私、そんなニヤついてた?」
嘘だ!そんなまさか!あの時、表情筋の動きには細心の注意を払っていた筈だぞ!
「うんうん、ニヤついてた。
アタシの周りの席の人達も、白狐ちゃんが嬉しそうな顔してるの見て、ちょっとだけ驚いてたみたいだよ。」
おおォォォォ……!!
シット!想定外の失態だ!
メインクエストはクリア出来たものの、その途中の任意クエストに失敗していたとは!
「おかしい。あんなに表情には気を付けてたのに。
まさか、無意識に感情が表に出ていた?」
「って事は、白狐ちゃんもアタシと同じ班になれて、すっごく嬉しかったって事だよねー?」
ニマニマ笑いながら、そう聞かれた。
「っだから、そういうんじゃ…!
……いや、そうなんだろうね。正直言って、メチャクチャ嬉しい。」
そうやって素直に答えてやったら、カイちゃんの笑顔度数が急上昇し、お得意の花が咲くような百花繚乱笑顔を炸裂させてきた。
「アタシも、白狐ちゃんがそう言ってくれて嬉しいなぁ。」
うっわ、コイツ、感動し過ぎて泣いちゃってるよ。
…そうかい、そうかい。そんなに私の事が大好きか。
ま、カイちゃんの愛の重さは、この1年で散々思い知った事ではあるからなぁ。
重いけど、それだけ私の事を想ってくれてるのは、こちらとしても嬉しいよ。
「か、勘違いすんなよ!
別にカイちゃんが一緒だから嬉しいって、それだけじゃないからな!
面倒な奴が同じ班にならなかったから、その喜びも含めての〝嬉しい〟だからな!」
でもでも強がってしまう。
「はいはい、分かってるって〜。」
「ったく…」
私は甘いココアを啜りながら、ココアよりも甘々な顔になっているカイちゃんを見る。
ちなみにカイちゃんはコーヒーはブラック派だ。無駄に大人。
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんの好きなお菓子は?
「シュークリーム!だーいすき!」
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