「いやー、随分と沢山お買い物したねー、白狐ちゃん!」
「ああ、なんたって今日は、地元デャスコのオープン150周年記念で安売りセールだったからな。
この機を逃す手はないだろう!」
「抽選券もいっぱい貰っちゃったよ。」
本日は、カイちゃんと2人で近所のデャスコでショッピング!
今言ったようにセール中なので、ついついいつもの5割増しくらいの量を買ってしまった。
「抽選って、あのガラガラ回すやつ?」
「そそ、ガラガラするやつ!」
「ふーん、抽選券使わないのも勿体無いし、折角だからやって行こうか?」
「うん!何が当たるか楽しみだねー!」
まあ、どうせ何も当たらんよ。
100年以上生きてる人生の中でも、今までこういうので当たった試しが無いし。
◆◆
私とカイちゃんは、デャスコの1階エントランスホールに設置された抽選会場までやって来た。
賞品リストを確認すると、どうやら1等は世界一周の豪華客船クルーズ旅行120日コースのペア招待券らしい。
めっちゃ豪華じゃん。
こんな田舎でやってる抽選会とは思えない。
「よーし!白狐ちゃん、世界一周目指して頑張ろう!」
「いやいや、どうせこんなん当たらないようになってるんだって。」
「そんなー!やってみなきゃ分かんないよ!」
今までも何度かガラガラ回すやつはやってきたけど、残念賞のティッシュかお菓子しか当てた事がない。
どうせ今回も同じ結果だろうと思いつつも、カイちゃんがやたらノリノリなので、取り敢えずやるだけやってみた。
「……まあ、こんなもんでしょ。」
「うえー、全然当たんないもんだねー。」
10枚あった抽選券は、ラスト1枚を残して全部ハズレ。
世の中こういうもんだよ。
「でも、残り物には福があるって言うし、最後に大逆転出来るかも!」
「あのねぇカイちゃん、そういうご都合主義的な展開は、漫画の中だけのベタな出来事だから。
現実にはそう上手くいくなんて有り得ないのよ。
甘くないのよ。」
「うえーん、白狐ちゃんがやたらリアリストだよー!」
「んじゃ、ラス1とっとと回しちゃいますか。」
一欠片の期待も寄せずに、私はガラガラのやつを回す。
どうせまたハズレの白い玉が出てくるんだろう。
ガラガラ回して、玉が出た。
「ほら、やっぱハズレの玉だ。」
「ん?違うよ白狐ちゃん、これ金色だよ?」
「おおー!!おめでとうございます!
遂に当選者現れました!1等大当たりでーす!」
抽選会場受付のお兄さんが、ハンドベルらしき物をカランカランと鳴り響かせた。
「……ほ?」
「白狐ちゃん凄い!1等当てちゃったよ!」
何やら隣でカイちゃんが騒いでいるけど、今の私は目の前の衝撃的出来事を処理するのに脳がフリーズしていて、全く届かない。
「……ほ、ほんげーーーーッッ!!?」
ほんげーなんて、人生で初めて言った。
◆◆
「…どうしよどうしよどうしよどうしよう。」
自宅に戻り、私は部屋で頭を抱えていた。
悩みの種は勿論、ついさっき奇跡的に当ててしまった世界一周旅行についてである。
「白狐ちゃん、落ち着いて落ち着いて。」
「落ち着いてなんて言われても、落ち着きたくても落ち着けないんだよぉ!
相手は世界的に有名な化け物みたいな豪華客船なんだぞ!
ドレスコードとか礼儀作法とか、今から学ばないと。
一刻も早く、立派な英国紳士にならなきゃ。」
「もう、だから落ち着いてって!
白狐ちゃん女の子なんだから紳士じゃないし、必要最低限だけ予習しておけば大丈夫だから。」
完全にパニクってる私を、カイちゃんが両肩を押さえて必死に宥めている。
「…それホント?」
「うん、きっとそう。」
「パンイチでもいーい?」
「それは絶対ダメ。」
◆◆
世界一周旅行を当ててから1ヶ月後。
遂に、旅行当日の朝を迎えた。
昨日の夜は、今までの人生で緊張した夜ベスト3にランクインするほど、緊張でガッチガチだった。
だから、カイちゃんを家に呼んで添い寝して貰った。
お陰で、結構気は楽になった。
家を出る時には、これからしばらくはこの家に戻って来れないんだな、という寂しさもちょっぴり感じてたり。
でも、これから未知の外国を旅するんだと思うと、待ち受けているロマンと冒険を想像すると、不思議と緊張は薄らいでいき、高揚すら覚えるものだ。
例の豪華客船は、今日の昼過ぎに横浜港から出航予定だ。
私達は余裕を持って早めに地元の駅に着き、そこから横浜行きの高速バスに乗った。
ちなみにこの時代においてバスは全てAI制御の自動運転になっていて、昔よりも事故の発生率は大幅に下がってたりする。
「それにしても白狐ちゃん、荷物多いねー。」
「ああうん、必要なゲーム機一式持って来てるからな。」
私とカイちゃんは、バスでの移動中、隣り合った席で話していた。
荷物の話題だけど、今はバスの荷物入れるスペースに預けてある。
重かったから助かるわ。
「さっすが、暇な時は退屈しなくて済みそうだねー。」
「まあ、船の中にも色々と面白そうな施設が充実してるみたいだし、それだけでもかなり楽しめそうだけどなぁ。」
事前に読み込んだパンフレットによると、世界最大級の豪華客船なだけあって、その施設の充実度は私の想像を遥かに凌駕していた。
スパに劇場、映画館は勿論、水族館や大型ゲームセンターまであるらしい。
期待で胸が張り裂けそうだ。
◆◆
無事、横浜港まで私とカイちゃんは辿り着き、そこでこれから乗り込むであろう超弩級の豪華客船を目の当たりにして、2人して呆然としていた。
「…まるで、山の如し。」
「うん、想像以上にでっかいねー。」
やはり、写真で見るのと実際に見るのとでは、全然違う。
比喩的に〝山の如し〟とか言ってみたけど、本当にそのくらいありそうな圧倒的なサイズ。
竣工したのはほんの1年前らしいけど、世界最大級の名に恥じない貫禄を感じる。
その船の名は、〝キングオブクイーンwithプリンセス&プリンス号〟!
やたら王族を集結させた、やたら豪華で仰々しい名前の豪華客船だ。
強そう。
「これから私達、4ヶ月間もこの船で暮らすのか。
全くもって実感が湧かないな。」
「うん、これはとんでもないね。」
私の家もそこそこ金持ちで豪華だけど、これは明らかにそのずっと上を行っている。
今やスーパー金持ちとなったカイちゃんですら、舌を巻いてしまうほどだ。
「そんな事言って、カイちゃんクラスのセレブになったら、仕事でこういうホテルとか泊まっちゃうんじゃないの?」
「いやいや、アタシは仕事で出張した時とかは、基本ビジネスホテルだよ。」
「え、そうなの?
てっきり、何ちゃらグランドホテルみたいな超豪華なホテルに泊まって、取引先の人と酒池肉林で贅の限りを尽くしてるのかと思った。」
「白狐ちゃんはアタシをなんだと思ってるの…。」
「コンパニオンで来た大勢の美幼女に囲まれて。」
「何そのてんご…ッ!?」
「あん?」
「あーいや何でもないよ?
アタシはいつでも白狐ちゃん一筋だから!」
「ほんとぉ?」
冷や汗を流して焦ってるカイちゃんに、敢えて悪戯っぽく聞いてみた。
「ホントホント!
宿泊費も会社の経費だからあんまり無駄遣いしたくないし、自腹だったとしても白狐ちゃんに貢ぐ為のお金を出来るだけ確保しときたいから、自分の為にあんまりお金使えないよ。」
その台詞を聞いた私は、なんだかいたたまれない気持ちになった。
こんなにも私の事を第一に考えてくれてるカイちゃんの事をからかってしまったなんて、私はなんて恥ずかしい人間なんだ!
「カイちゃん、ごめん。」
「ほえ?何が?」
「いや、ホントごめん。」
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんが行ってみたい国は?
「アイスランドで、温泉入りながらオーロラ見たい。
めっちゃロマン感じる。」
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