海水浴を終えて、他の予定もクリアして、修学旅行2日目の夜。
それはつまり、2回目のホテルバイキングの時間がやってきた事を意味する。
「うまうま♪」
もはや、カイちゃんの大食いはクラスの名物と化していた。
担任の先生も、カイちゃんは特殊な訓練を受けているので、いくら食べても平気という嘘を吹き込んでおいたので、もう注意する事もなくなった。
ついでに、将来の夢はフードファイターだから、その練習も兼ねているという嘘も重ねてついておいた。
だから、カイちゃんは我慢する事なく、真の意味での食べ放題コースに興じる事が出来るようになったのだ。
私もカイちゃんには思う存分食べて欲しい気持ちはあったので、これが最適な落とし所なのだろう。
「うまうま♪う〜まうま♪
あ、でも今日はここまで。ご馳走様でした。」
それでも、一定の量さえ食べればちゃんと止まるよう、自制が効くようにはなったみたいだ。
誰に言われずとも、自らの意思で食事を終わらせるようになった。
「うんうん、これぞ成長の賜物。」
カイちゃんの成長をついつい親目線で捉えてしまい、なんだか感動してきた。
化け物を、人に戻す事が出来たのだ。
これで、カイちゃんに料理を食い尽くされて、好きなものが食べられないと泣き寝入りする人も減るだろう。
◆◆
修学旅行3日目の今日。
バスに乗ってやって来たのは、沖縄が誇るあの有名な観光施設、美ら海水族館だ!
正直言って、今回の修学旅行で私が一番楽しみにしていたビッグイベントである!
その為か、この日は朝起きた時からずっと、柄にもなく体がウズウズしててしょうがなかった。
「おほぉぉぉ!」
水族館の前で、班ごとに整列して点呼を取っていた時にも、ジンベエザメのオブジェクトを前にして、興奮が口から漏れてしまっていた。
「おお、白狐ちゃん嬉しそうだねぇ。」
真後ろに並んでいるカイちゃんが、こっそり声を掛けてきた。
「…う、うっさい。ちょっとあのジンベエザメから溢れ出る瘴気に当てられて、体が変な風に反応しちゃっただけだから。」
なんだその嘘、と自分でも思う。
「でも、さっきからずっと目が輝いてるよ?」
「いや、これは、目に入ったゴミを、瞳を潤して排出しようとしてるだけだから。」
「強がってる白狐ちゃんかーわいー。後でギュッてしていいかな?」
その一言を小さな声で耳打ちされて、怖気を感じた私は…
「はい、興奮してました。今日が楽しみで楽しみでヤバかったです。」
素直に敗北を認めてしまった。
「悔しがってる白狐ちゃんも可愛い。」
「だから!たまに立場逆転させるのやめろ!」
「あひィ!」
ムカついたので、周囲にバレないようカイちゃんの太腿をギュッて抓ってやった。
◆◆
水族館の中は、まさにワンダーランドだった。
「あはぁ〜、ナマコを触った時のこのフニフニ感、たまんないなぁ。」
入り口から間もない場所にあった、ナマコやヒトデなんかの浅瀬に棲む生き物と触れ合えるコーナー。
まずはそこの虜になっていた。
まさか、2日連続でナマコをフニフニ出来るとは。
「白狐ちゃん、ナマコ大好きなんだねー。」
「うん、好き。たまらんのよこの感触が。」
「そんなにナマコ好きなんだねー。」
「うん、好きだね。」
「アタシの事も好きなんだねー。」
「うん、普通。」
「………ぷう。」
私がナマコに夢中になっている横で、カイちゃんが頬を膨らませて顰めっ面になっている。
なんだコイツ、もしかしてだけどさ…
「カイちゃん、まさかナマコに嫉妬してるの?」
「ギクギックゥッ!?」
「図星かい。」
「…うぅ、いっその事アタシもナマコになりたい。
そして、ナマコになったアタシをお触りして貰うのも充分嬉しいけど、いっその事踏んで欲しい。」
「やだよ、内臓発射しそうだし。」
「ナマコって内臓発射するのッ!?」
「ああ、そうだよ。身の危険を感じたら、相手に噴き出すらしい。
しばらくしたら、再生するみたいだけど。」
「すっごい、生命の神秘!」
「そうだろうそうだろう。」
ナマコとの触れ合いを存分に楽しんでから、そろそろ野茂咲さん達も次に進みたそうな顔をしていたので、我慢してナマコ達とお別れをした。悲しかった。
◆◆
「ジンベエザメ、でっかい…!」
「地球上の魚の中で一番大きいやつだからな。」
巨大な水槽の中で、のんびり悠々と泳ぎ回っている巨大生物ジンベエザメ。
なんか、感動的だ。
テレビとかで見た事はあるけど、やはり実際にこの目で見てみると、感動のレベルが全然違うな。
「いいねぇ、ああやってジンベエザメみたいに、まったりのんびり生きるのも悪くないよねぇ。」
「確かに、一理あるかもな。ずっと水槽の中は、流石に勘弁だけど。」
いくらゲーム好きなオタクでも、一生部屋の中だけで完結する人生は駄目だと思う。
時には外に出て買い物したり、旅行したりするのも、自身にとって大事な栄養になるものだ。
カイちゃんに出会ってからというもの、こんな私でもそう思えるようになった。
カイちゃんも私も、お互い少しずつ成長しているという事だ。
「ジンベエザメって、何食べてるんだろ?」
「あの大きい口で、水中のプランクトンを大量に丸呑みしてるらしいぞ。」
「へぇ〜、豪快だね〜。」
カイちゃんと並んで、無心になりながら水槽を眺める。
このゆっくり流れる時間、嫌いじゃないな。
「白狐ちゃんは物知りなんだねぇ。」
「ただの雑学だよ。学校のテストには殆ど役に立たないし。」
「でも、知識はいっぱいあるに越した事はないよね。」
「まあね。」
時間まで、このゆっくり時間を大切にしたいな。
◆◆
水族館を回り終えて、最後の締めとしてのお土産屋にやって来た。
「よし、限られたお小遣いの中で、最高の買い物をするぞ!」
「アハハハ、尾藤さん張り切ってるねー!」
そう言う野茂咲さんは、ちんすこうや紅芋タルトなど、食品系のお土産を買い物カゴにどんどん突っ込んでいる。
さて、私は何を買おうか。
まず家族へのマストなお土産として、野茂咲さんが買ってるのと同じちんすこうをチョイスする。
それから続けて自分へのお土産を買う訳だけども、いかんせんお小遣いがそこまで無い。
私の家は結構金持ちなのに、親の教育方針の都合で、修学旅行のお小遣いはあまり持たせて貰えなかったのだ。
よって、この場で使えるお金は3000円以内に抑えたい。
何故なら、明日の最終日に国際通りでの本命ショッピングが控えているからだ!
そう、固く決意していた。
…その筈だった。
その筈だったのに、なんで私は4000円オーバーのLLサイズのジンベエザメのぬいぐるみを抱っこしているのだろうか。
気付いた時には心奪われて、次の瞬間にはレジで購入していた。
なんてこった!
「白狐ちゃんの買ったジンベエザメ可愛い!」
「うん、このモフモフ感が至高の快楽。」
「でも、お高いんでしょ?」
「ところがどっこい、私の予算を軽くオーバーする程度の驚きの価格!」
「あちゃー。」
「でも後悔はしてない!
この子が部屋にいれば、修学旅行の思い出が蘇るプラス、いつでもこのモフモフを味わえるという、一石二鳥なお得要素が得られるのだから!」
「まあ、白狐ちゃんが良いならそれで。」
「そう言うカイちゃんは何買ったの?」
カイちゃんが右手に持つ買い物袋を渡して貰い、中身を物色する。
「……これ、Tシャツ?」
ジンベエザメのイラストがプリントされているTシャツ。
それが、サイズ違いでピンク色のが二着。
「うん、アタシと白狐ちゃんので、ペアルック。きゃっ、恥ずかし!」
「こっちの方が恥ずかしいわッ!」
着るなんて一言も言ってないのに、勝手に買ってやがった!
……まあ、勿体無いし、着てくれって言われたら着てあげるだろうけどさ。
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんのチャームポイントは?
「チャームポイントぉ?あんまり意識した事ないけど、強いて言うならこのプラチナブロンドの髪かな。
綺麗でしょ?勿論地毛だから。親が外国人だからね。」
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