スペースシップ☆ユートピア

永遠の時を旅する2人の少女の愛の物語
千葉生まれのTさん
千葉生まれのTさん

177話・57億年目・知らない方が幸せなこと

公開日時: 2023年3月30日(木) 16:15
文字数:3,061




計測器を地底湖に放ち、水中に潜っていくのを見守る。

とは言っても、ステルス機能で透明になってるからよく分からないんだけど。


それからしばらくは、引き摺り込まれるクラゲ(仮)達を眺めながらダラダラと待機していた。

いい加減退屈なので、大きく欠伸をしていたら、すぐ近くの水面がパシャリと撥ねる。

何かと思っていたら、ステルス機能を解いた計測器が無事に帰還していた。


「お、ちゃんと戻って来た。」


「早速、収集したデータをチェックしてみましょう。」


またもやリグリーの出番だ。

解析したデータがモニターに表示される。


「うっわ、やっぱりあのクラゲ(仮)でいっぱいだな。」


画面内には、至る所にクラゲ(仮)、クラゲ(仮)、クラゲ(仮)!

本当にクラゲ(仮)しかいない!

一体コイツらは何を糧にして生きているのか、甚だ疑問だ。

霞でも喰んでるのか?


スタートしてからしばらくの間は、計測器視点のカメラがスイスイと器用にクラゲ(仮)の群れの隙間を縫うように泳いでいる映像が、ひたすらに流れ続けた。

いい加減に飽きてきて、欠伸混じりにモニターから視線を逸らしかけたその時、リグリーが叫んだ。



「……これはッ!?」


「んー?」


何かに驚いているようなので釣られてモニターを覗き込んでみたら、確かに驚くべき映像が画面に映し出されていたのだ。





「えぇ?何これ?」


地底湖の底の方に、非常に巨大な何かが映っているのが分かる。

全体的に白っぽくて、楕円形をした装甲。

その隙間からはみ出している、無数の触手。






「……アレって、もしかして貝……なのかな?」


ツジが、何故か不安そうにそう呟く。


「確かに、形だけなら貝類に似てはいるけど…。」


でも、私の知っている貝には、あんな気色悪い大量の触手なんて付いていない。

しかもその触手は、全てが忙しなく動き回っていて、必死になって周囲のクラゲ(仮)をとっ捕まえては、二枚貝の隙間に吸い込んでいる。

間違いなくクラゲ(仮)を捕食しているのだろうし、これであの二枚貝(仮)が今回の件のクロとして確定した。



「恐らくは、あの二枚貝(仮)が、この地底湖の底に、一定間隔で何体も生息しているのでしょう。

でなければ、クラゲ(仮)の繁殖スピードを止めるのは不可能です。」


うん、その通りだ。

地底湖の謎が一気に解けた瞬間である。




「ふむ……ふむふむ……これは実に興味深い。」


どうやらリグリーの知的好奇心に火がついてしまったらしく、計測器の取得データを新たにモニターに表示させて1人で盛り上がっている。

このモードに突入してしまったリグリーは、なかなかに厄介だったりする。


「ワタクシは、しばらくここに残って研究を続けたいと思います。

皆さんは、先に帰っていても大丈夫ですよ。」


画面から目を離さないまま、私達にそう告げるリグリー。

もう彼女の頭の中には、〝研究〟の二文字しかないようだ。


「うーん、そう言われてもなぁ。」


「リグリーちゃん1人でこんな所に残るなんて、流石に危険だよ。」


いくら不変力があるとはいえ、非力なリグリーを単身で残していくのは気が引ける。

もしも凶悪な原生生物や、未知の自然災害に襲われたりでもしたら、大事だ。


「兎に角、リグリーちゃんをここにひとりぼっちにする訳にはいかないよ。

これはアタシ達の総意だから、出来れば言う通りにして欲しいな。」


カイちゃんが私の代わりにそう訴える。

ツジとレンちゃんからは何も言われてないけど、何も言ってこないから同意で間違いないだろう。

大切な仲間を危険に晒したくない。

そんな気持ちが通じたのか、モニターに釘付けだったリグリーの視線がこちらに向いた。


「…総意……ですか。」


「そう、リグリーは普段は聡明で理知的だけど、一度ゾーンに入ると危なっかしいって一面もあるからなぁ。

ほら、時間は腐るほどあるんだし、今日はもう帰って打ち上げでもしよう。」


「……フフ、そうですね。

すみません、ご迷惑お掛けしました。」


「いや、迷惑ってほどのもんでもないって。」


ペコリとリグリーは頭を下げて、研究用の機器類を仕舞い、帰り支度をする。

今から帰ればちょうど夕方くらいには家に着くだろうし、打ち上げをするにはちょうど良い時間帯だ。



「んじゃ、帰るか!」












◆◆




地底湖探索から1週間が経ったある日。

リグリー、ツジ、レンちゃんの3人が、カイちゃんと2人でゲームして遊んでいた私の部屋へ訪れた。


「え?どしたの急に?」


急な来訪だったので、出迎える準備はゼロだ。

私はいつも通りパンツ一丁でゴロゴロ寝っ転がりながら、カイちゃんと遊んでいる。


「いや、メッセージは送った筈だけど一向に既読にならないから、直接来たんだよ。」


苦笑いしながらツジがそう言う。

嫌な予感がしながらスマホを確認すると、確かにツジからメッセージが入っている。

それも3時間以上前に。




「あ……シンプルにごめん。

カイちゃんとのゲームに没頭してて、1ミリも気付かなかった。」


「まあまあ、別に謝るほどの事じゃないって。」


まあ、私達はどうせ年中暇してるからな。

アポがあろうが無かろうが、大した違いは無いのだ。


「アハハ、そんな事だろうと思ったよ。

まあ、今回用があるのは私じゃない。

リグリーちゃんから、地底湖の研究について報告があるらしくてね。」


「ほほう?」


そいつはまた、興味深いこって。


「まあ、そんなに大した報告ではないのですが………いや、大した事ある……のかな?」


どうにも微妙なリアクションを見せるリグリー。

何だろう、また妙な発見でもしたってのか?




「え〜、報告する前に、念の為皆さんにひとつ聞いておきます。」


「え?なによ?」


急に真剣な面持ちでそう言ってきたので、こちらとしてもちょっと気を張ってしまう。


「世の中には、知らない方が幸せな事がある。

かつて地球には、そんな言葉があると本で知りました。」


「まあ、あるっちゃあるけど。」


「今からする報告が、まさにそれです。

知らない方が良い事、かも知れません。」


「えぇ……でもそれってさ、『知らない方が良い』なんて言われると、余計に知りたくなるパターンのやつだぞ。」


「え?そうなんですか?

地球人は面白い感性を持っているのですね。」


面白いとか言われちゃったよ。

金星人は言われても気にならないのかな?




「取り敢えず、私は聞くよ。

めっちゃ気になるし。」


「アタシも気になるー!」


「私も、興味を唆られるね。」


「それじゃあワタシもだ。」


全会一致で聞くことになった。

そりゃ気になるわな。




「そ、そうですか。

では、報告させて貰います。」


コホンと咳払いをして、意を決したとばかりにリグリーは口を開いた。




「あの地底湖の洞窟で発生していた謎の熱波、覚えていますよね?」


「あぁ、うん。忘れたくても忘れらんないよ。」


かなり強烈だったからな。

あまりの熱さにとうとう死んだかと思った。




「えー、あの熱波の正体が判明しました。」


「え、マジで!?」


「それは凄い!」


パチパチと拍手しながら称賛するも、リグリーはどうにもバツの悪そうな顔をしている。


「それでそれで、正体は何だったんだ?」






「………奥の地底湖に、クラゲ(仮)を捕食していた二枚貝(仮)がいましたよね?」


「うん、いたね。」






「あの二枚貝(仮)の、オナラでした。」








「は?」





「熱波を噴出していた、天井からぶら下がっていた謎の物体は、二枚貝(仮)の肛門でした。

あの真上が地底湖の一部だったんです。

そこから下まで肛門が伸びていた訳です。」






「………それはまた。」


あの熱波は変な異臭がした。

オナラと言われてみれば、確かにそんな感じが……。









「知らない方が幸せだったなぁ。」


みんな、無言のまま首肯した。



⚪︎2人に質問のコーナー


白狐ちゃんが好きなテレビ番組は?


「うーん、アニメとかお笑い番組は結構観るな。」

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