計測器を地底湖に放ち、水中に潜っていくのを見守る。
とは言っても、ステルス機能で透明になってるからよく分からないんだけど。
それからしばらくは、引き摺り込まれるクラゲ(仮)達を眺めながらダラダラと待機していた。
いい加減退屈なので、大きく欠伸をしていたら、すぐ近くの水面がパシャリと撥ねる。
何かと思っていたら、ステルス機能を解いた計測器が無事に帰還していた。
「お、ちゃんと戻って来た。」
「早速、収集したデータをチェックしてみましょう。」
またもやリグリーの出番だ。
解析したデータがモニターに表示される。
「うっわ、やっぱりあのクラゲ(仮)でいっぱいだな。」
画面内には、至る所にクラゲ(仮)、クラゲ(仮)、クラゲ(仮)!
本当にクラゲ(仮)しかいない!
一体コイツらは何を糧にして生きているのか、甚だ疑問だ。
霞でも喰んでるのか?
スタートしてからしばらくの間は、計測器視点のカメラがスイスイと器用にクラゲ(仮)の群れの隙間を縫うように泳いでいる映像が、ひたすらに流れ続けた。
いい加減に飽きてきて、欠伸混じりにモニターから視線を逸らしかけたその時、リグリーが叫んだ。
「……これはッ!?」
「んー?」
何かに驚いているようなので釣られてモニターを覗き込んでみたら、確かに驚くべき映像が画面に映し出されていたのだ。
「えぇ?何これ?」
地底湖の底の方に、非常に巨大な何かが映っているのが分かる。
全体的に白っぽくて、楕円形をした装甲。
その隙間からはみ出している、無数の触手。
「……アレって、もしかして貝……なのかな?」
ツジが、何故か不安そうにそう呟く。
「確かに、形だけなら貝類に似てはいるけど…。」
でも、私の知っている貝には、あんな気色悪い大量の触手なんて付いていない。
しかもその触手は、全てが忙しなく動き回っていて、必死になって周囲のクラゲ(仮)をとっ捕まえては、二枚貝の隙間に吸い込んでいる。
間違いなくクラゲ(仮)を捕食しているのだろうし、これであの二枚貝(仮)が今回の件のクロとして確定した。
「恐らくは、あの二枚貝(仮)が、この地底湖の底に、一定間隔で何体も生息しているのでしょう。
でなければ、クラゲ(仮)の繁殖スピードを止めるのは不可能です。」
うん、その通りだ。
地底湖の謎が一気に解けた瞬間である。
「ふむ……ふむふむ……これは実に興味深い。」
どうやらリグリーの知的好奇心に火がついてしまったらしく、計測器の取得データを新たにモニターに表示させて1人で盛り上がっている。
このモードに突入してしまったリグリーは、なかなかに厄介だったりする。
「ワタクシは、しばらくここに残って研究を続けたいと思います。
皆さんは、先に帰っていても大丈夫ですよ。」
画面から目を離さないまま、私達にそう告げるリグリー。
もう彼女の頭の中には、〝研究〟の二文字しかないようだ。
「うーん、そう言われてもなぁ。」
「リグリーちゃん1人でこんな所に残るなんて、流石に危険だよ。」
いくら不変力があるとはいえ、非力なリグリーを単身で残していくのは気が引ける。
もしも凶悪な原生生物や、未知の自然災害に襲われたりでもしたら、大事だ。
「兎に角、リグリーちゃんをここにひとりぼっちにする訳にはいかないよ。
これはアタシ達の総意だから、出来れば言う通りにして欲しいな。」
カイちゃんが私の代わりにそう訴える。
ツジとレンちゃんからは何も言われてないけど、何も言ってこないから同意で間違いないだろう。
大切な仲間を危険に晒したくない。
そんな気持ちが通じたのか、モニターに釘付けだったリグリーの視線がこちらに向いた。
「…総意……ですか。」
「そう、リグリーは普段は聡明で理知的だけど、一度ゾーンに入ると危なっかしいって一面もあるからなぁ。
ほら、時間は腐るほどあるんだし、今日はもう帰って打ち上げでもしよう。」
「……フフ、そうですね。
すみません、ご迷惑お掛けしました。」
「いや、迷惑ってほどのもんでもないって。」
ペコリとリグリーは頭を下げて、研究用の機器類を仕舞い、帰り支度をする。
今から帰ればちょうど夕方くらいには家に着くだろうし、打ち上げをするにはちょうど良い時間帯だ。
「んじゃ、帰るか!」
◆◆
地底湖探索から1週間が経ったある日。
リグリー、ツジ、レンちゃんの3人が、カイちゃんと2人でゲームして遊んでいた私の部屋へ訪れた。
「え?どしたの急に?」
急な来訪だったので、出迎える準備はゼロだ。
私はいつも通りパンツ一丁でゴロゴロ寝っ転がりながら、カイちゃんと遊んでいる。
「いや、メッセージは送った筈だけど一向に既読にならないから、直接来たんだよ。」
苦笑いしながらツジがそう言う。
嫌な予感がしながらスマホを確認すると、確かにツジからメッセージが入っている。
それも3時間以上前に。
「あ……シンプルにごめん。
カイちゃんとのゲームに没頭してて、1ミリも気付かなかった。」
「まあまあ、別に謝るほどの事じゃないって。」
まあ、私達はどうせ年中暇してるからな。
アポがあろうが無かろうが、大した違いは無いのだ。
「アハハ、そんな事だろうと思ったよ。
まあ、今回用があるのは私じゃない。
リグリーちゃんから、地底湖の研究について報告があるらしくてね。」
「ほほう?」
そいつはまた、興味深いこって。
「まあ、そんなに大した報告ではないのですが………いや、大した事ある……のかな?」
どうにも微妙なリアクションを見せるリグリー。
何だろう、また妙な発見でもしたってのか?
「え〜、報告する前に、念の為皆さんにひとつ聞いておきます。」
「え?なによ?」
急に真剣な面持ちでそう言ってきたので、こちらとしてもちょっと気を張ってしまう。
「世の中には、知らない方が幸せな事がある。
かつて地球には、そんな言葉があると本で知りました。」
「まあ、あるっちゃあるけど。」
「今からする報告が、まさにそれです。
知らない方が良い事、かも知れません。」
「えぇ……でもそれってさ、『知らない方が良い』なんて言われると、余計に知りたくなるパターンのやつだぞ。」
「え?そうなんですか?
地球人は面白い感性を持っているのですね。」
面白いとか言われちゃったよ。
金星人は言われても気にならないのかな?
「取り敢えず、私は聞くよ。
めっちゃ気になるし。」
「アタシも気になるー!」
「私も、興味を唆られるね。」
「それじゃあワタシもだ。」
全会一致で聞くことになった。
そりゃ気になるわな。
「そ、そうですか。
では、報告させて貰います。」
コホンと咳払いをして、意を決したとばかりにリグリーは口を開いた。
「あの地底湖の洞窟で発生していた謎の熱波、覚えていますよね?」
「あぁ、うん。忘れたくても忘れらんないよ。」
かなり強烈だったからな。
あまりの熱さにとうとう死んだかと思った。
「えー、あの熱波の正体が判明しました。」
「え、マジで!?」
「それは凄い!」
パチパチと拍手しながら称賛するも、リグリーはどうにもバツの悪そうな顔をしている。
「それでそれで、正体は何だったんだ?」
「………奥の地底湖に、クラゲ(仮)を捕食していた二枚貝(仮)がいましたよね?」
「うん、いたね。」
「あの二枚貝(仮)の、オナラでした。」
「は?」
「熱波を噴出していた、天井からぶら下がっていた謎の物体は、二枚貝(仮)の肛門でした。
あの真上が地底湖の一部だったんです。
そこから下まで肛門が伸びていた訳です。」
「………それはまた。」
あの熱波は変な異臭がした。
オナラと言われてみれば、確かにそんな感じが……。
「知らない方が幸せだったなぁ。」
みんな、無言のまま首肯した。
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんが好きなテレビ番組は?
「うーん、アニメとかお笑い番組は結構観るな。」
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