スペースシップ☆ユートピア

永遠の時を旅する2人の少女の愛の物語
千葉生まれのTさん
千葉生まれのTさん

172話・57億年目・白狐ちゃんスペシャルとは

公開日時: 2023年2月26日(日) 19:50
文字数:3,117




「あれ……白狐ちゃん、もしかして泣いてる?」


「そりゃ泣くだろー!」


私は泣いていた。


「こんなとんでもないもん見せられたら、泣くしかないだろー!」


なんか感動し過ぎて、テンションが変になっていた。




「うんうん、その気持ち分かるよ。

尾藤ちゃんは、心からロマンというものを大事にしている子だからね。

志を同じくする私にも、その感動は理解出来るよ。」


感動に打ちひしがれている私の肩を、ツジがポンポンと叩いてきた。


「おお、同志よ!」


「これぞロマン!」






「……なんか、2人の世界に入っちゃったな。」


「だねー。」


少し離れた位置でレンちゃんとカイちゃんが何か言っているけど、気にする事はない。

それよりも今は、この素敵なロマン地底湖をもっと探索してみたい気持ちで頭がいっぱいなのだよ!





「おや?」


ふと、ツジが足元を見やる。

地底湖に興奮し過ぎて気付かなかったけど、そこにはリグリーが放った計測器が転がっていた。


「ああ、どうやらこの地底湖の環境を観測し終えたみたいですね。」


6本脚の虫みたいなモードになっている計測器を、リグリーはひょいと持ち上げる。

するとたちまち脚は収納されて、元の球状に戻った。

お利口なハイテクマシーンだ。


「蓮香さん、ワタクシのデバイスを渡して貰っていいですか?」


「あ、うん。」


レンちゃんが、肩から下げていた手提げ袋から、ノートPCみたいなコンピュータを取り出した。

水中を泳いでいた間、一番泳ぎが得意なレンちゃんが荷物持ちをしていたのだ。

勿論、このコンピュータには水に濡れても壊れないよう、不変力を施している。


「よいしょ。」


リグリーは、計測器のスイッチ(?)を押す。

するとまた、コンピュータのモニターに沢山の文字列が表示された。




「……ええと、あぁ、ここはどうやら涼しいみたいですね。」


「あ、そうなの?」


外が高温だったので、不変力で体感温度を不変にしていた。

だから、そんな些細な事に気付けなかった。


取り敢えず、体感温度の不変を解除してみた。




「おおぉ、本当だ。

めっちゃ過ごしやすい快適な温度。」


「そうだねー。

洞窟の中なのに湿度も少なくて、気持ちいいね!」


カイちゃんが、深呼吸しながらそう言う。


「ただ、水中にはどんな生物が潜んでいるのか未知数です。

探索する際には、くれぐれも注意して下さい。」


「フフ、探索というか、この格好じゃ半分行楽みたいなものだね。」


確かに、全員水着だしな。







「あ、そうだ。」


「どうしたの白狐ちゃん?」


「折角だし、みんなでここの生態系調査でもしない?」


「え?」










◆◆



私の提案で、全員一緒に再度町へ戻ってから、ある物を持って地底湖へと戻って来た。

何度も往復して少し面倒だったけど、そうするだけの価値がある事だと、私は思う。






「それにしても、生態調査でまさかの釣りですか。」


「そう、釣り!

これなら釣りというレジャーを楽しみつつ、どんな生き物が生息してるのか調査出来るだろう?

一石二鳥だ!」


「ついでに、釣ったお魚を食べてみよー!

未知の味にチャレンジチャレンジ!」


食欲に脳が支配されているカイちゃんは置いといて、我ながらこれは良い提案だと思う。


「ふむ、実にナイスアイデアだね尾藤ちゃん。」


「ワタシは、釣りよりも素潜りして捕まえて来ようかな。」


発想が一段上なレンちゃんは置いといて、私達は早速釣りの準備を始める。





「気合い入ってるところ水を差すようで悪いけど、ひとつ質問してもいいかな?」


ツジにそう聞かれた。


「ほいほい、どうぞ。」


「ここの魚は、何を餌にすれば釣れるんだい?」


そもそもな質問。

だが大丈夫!


「フッフッフ、そう聞かれると思ってさっき、私の最終秘密兵器を持って来たのだよ。」


そう、この地底湖の魚は何を食べてるのか知らないけど、その為に家から持って来たスーパーアイテムがあるのだ!


「秘密兵器だって?」


「イエス!それがこの、私特製の練り餌だ!」


私が取り出したのは、小さなタッパーに入った黒っぽい球状の物体。


「こ、これはまさか、前から白狐ちゃんが作ってたっていうッ!?」


「そうだ、様々な素材の配合を何パターンも模索して、つい最近ようやく完成した史上最高の練り餌、その名も『白狐ちゃんスペシャル』だ!」


驚いているカイちゃんのリアクション通り、これは釣りの腕前が一向に上がらない私自身の為に、頑張って作り上げた究極の練り餌なのだ。

どんな魚でも必ず食い付く、最高のご馳走なのだ!

これなら腕が悪くても大丈夫!な筈!


「魚にとって美味しいだけじゃなく、栄養価も満点!

それに粘り気も強くしてあるので、形も崩れにくい代物よ!」


「凄いよ白狐ちゃん!

餌に栄養価はあまり必要無いと思うけど、本当に凄いよ!」


「そうだろうそうだろう。

もっと褒め称えたまえ!」


ベタ褒めしてくるカイちゃんとは違い、意外と冷静な態度なのがレンちゃん。



「本当に凄いかどうかは、実際に魚が釣れてから評価するべきなんじゃないのか?」


そんな事を言ってくるレンちゃんに対して、私は鋭い視線を返す。


「言うねぇレンちゃん。

ならば実際に使ってみて、この餌がどんな魚でも必ず食らいつく本物だという事を、思う存分実感するがいいッ!」


大言壮語みたいな事を吐いている私だけど、この餌を実践投入するのは初めてなのだ。

だから、実はちょっと不安だったりする。

不安だけどまあ、何とかなるだろ!

自信のある逸品だし、あそこまで言った手前引き下がれないしな!





それから皆で釣りの準備を終えて、いざフィッシングスタートと相成ったのだが…










「おおー!凄いぞ凄い!

白狐の餌のお陰で、ガンガン釣れるぞ!」


もう何と言うか、予想以上に入れ食い状態だった。

釣り糸を水面に垂らした瞬間に釣れるわ釣れる。

いっそ怖いくらいに爆釣だった。


「フフン、どうだ思い知ったか!

まあ、私の白狐ちゃんスペシャルの凄まじさもそうだけど、ここは人跡未踏の秘境だからな。

魚達も、釣り人に対する警戒心がゼロなんだろう。」


みんながみんな、遠慮無しにどんどん釣り上げる所為で、あっという間に用意していたクーラーボックス×2が溢れ出してしまう。




「いやー、まさか開始10分ちょいで、もうクーラーボックスが満タンになっちゃうなんてねー。」


カイちゃんが苦笑いしながら、クーラーボックスに緑色の魚を詰めている。


「全く、自分の練り餌作成スキルの高さが恐ろしいよ。」


練り餌作成スキル。

自分で自慢げに言っといて何だけど、日常生活では滅多に役に立たないスキルだな。


「しかし、これ以上クーラーボックスに魚は入らないね。

開始してから間もないけれど、ここらで引き上げた方がいいんじゃないかい?」


「ああ、それがいいな。

これ以上釣ってもリリースするだけだし。」


こうも釣れ過ぎると、逆に面白さも薄れてしまう。

釣りの醍醐味といえば、魚が餌に掛かるまでの〝待ち〟と、掛かった後の攻防だっていうのに。


ここの魚達はすぐ餌に食い付くうえに、殆ど無抵抗に近い状態ですぐに釣り上げられてしまう。

なんとも情けない魚達であろうか。


まあでも、魚が情けないのと、味が美味しいかは全くの別問題だ。

コイツらをどう調理するか、私の腕の見せ所だな!


「にしても、こんなに大荷物を持って、あの小さな水中トンネルをいちいち泳いでいくのも、流石に面倒だな。」


ふと、私がそう漏らすと、カイちゃんが何かを閃いたようにニヤリと笑った。


「そうしたら白狐ちゃん、新しいトンネル作っちゃおうよ!」


「……ふむ。」


少し黙考する。





「いいね、それ。」


「私も賛成だ。

君達の町から、重機でも拝借するかい?」


ツジも乗ってきた。


「でしたら、ワタクシが金星から持ち出してきた、建築物解体用の爆弾もありますよ。」


そんな物騒な物も持ち出してたのかよと、心の中でリグリーにツッコミを入れた。



⚪︎2人に質問のコーナー


カイちゃんが好きな模様は?


「水色と白の縞模様かな。

白狐ちゃんのお気に入りの下着の柄を思い出すから!」


めっちゃキモいな。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート