スペースシップ☆ユートピア

永遠の時を旅する2人の少女の愛の物語
千葉生まれのTさん
千葉生まれのTさん

13話・2年目・サーターアンダギーうまし!

公開日時: 2021年4月29日(木) 20:18
文字数:2,967




「沖縄、着いたねぇ。」


「うん、いい天気。」


空港から外に出て、カイちゃんが開口一番そう言ったので、私も適当に返しておいた。

事前に天気予報を確認したところ、運良く修学旅行の期間中は、沖縄県全域は好天に恵まれているとの予報が出ていた。

にしても、逆に天気が良過ぎて暑過ぎる。

早速南国の洗礼を受けていると言ったところか。

私みたいなガチインドア派には、この暑さはちと堪える。



「え〜と、まずはこっから国際通り近くのホテルに寄って、荷物整理や先生の挨拶。

それから2クラスごとにバスに乗って琉球村だね。」


野茂咲さんが、旅のしおりを読みながらそう言った。

彼女は班の中で一番しっかりした人なので、すっかりリーダー的存在だ。

私から見ても適任だと思う。


新藤君はというと、普段と変わらない体温低そうなポーカーフェイスなので、いまいち感情を読み取りにくい。

というかそもそも、女子3人のグループに1人だけ男子が投入させられて、今更だけど彼は居心地悪いんじゃなかろうか。

班のメンバー決めの抽選会は、なるべく男女比が2:2になるようにされていたんだけど、必ずしもクラスの男女の人数差が同じではない為、こういった班が出てくるものなのだ。


彼にとってこの修学旅行が黒歴史とならないよう、経験者である私が出来るだけフォローしてあげよう!

なんてカッコつけてるけど、私なんかが力になれる訳ないよねー、ハハ。












◆◆



ホテルでの予定を済ましてから、バスに揺られてしばらく、沖縄の伝統文化や芸能などに触れ合えるテーマパーク、琉球村へ到着。

ここでの主な目的は、サーターアンダギー作りの体験学習だ。

班ごとに分かれて、それぞれスタッフの人に調理手順を教わりながら、せっせと作っていく。


「美味しそう…」


生地を油で揚げていたら、隣に立って見ていたカイちゃんが小さな声で呟いた。

その声色に、奇妙な感覚を覚える。

カイちゃんの目の色がいつもと違って、美味しそうに揚げられているサーターアンダギーを、酩酊しているような瞳で凝視しているのだ。

ちょっ、怖いんだけどこの人。


一抹の不安を覚えながらも、やがてサーターアンダギーは出来上がる。

さて、早速実食の時間といこうじゃないか。


「お、美味い。」


「おいしー、けどサーターアンダギーって、カロリー高くて太っちゃうなぁ。」


先に食べた新藤君と野茂咲さんが、それぞれ感想を口にする。

確かに野茂咲さんの言う通り、サーターアンダギーは砂糖を油で揚げた、美味しいけれどカロリーの塊みたいな食べ物だ。糖質もヤバい。

だけど、私はそんな事気にする必要がない。

不変の力さえあれば、カロリーも健康も一切気にせず、好きなものを好きなだけ食べる事が出来るのだよ。ハッハッハ。


ただ、あんまり食べ過ぎるとまた悪目立ちしてしまうから、程々にしないといけない。

今日は朝っぱらから酷い目立ち方をしてしまったので、これ以上事態を悪化させないように細心の注意を払わなければ!




…そう考えてたらまた緊張してきて、何だか尿意を催してきた。


「…ちょっとお手洗いに行ってきます。」


「はいどうぞ〜。」


野茂咲さんに見送られ、しばしの間おトイレにGO!










◆◆



「ふぃ〜。」


トイレで用事を済ませてからサーターアンダギー作りの場所まで戻ると、異変が起こっていた。


「?」


なんだか、ザワザワしてて人だかりが出来ている。

しかも、ウチの班の所じゃないか。嫌な予感がするんだけど。



「すげーな山岸さん。一体どんだけ食うんだ?」


「いくら美味しいとはいえ、サーターアンダギーをこんなに…!」


「口の中パッサパサだろ。」




うわー、もう嫌な予感ゲージがMAXを振り切りました。



「うまうま♪」


人だかりの中心では、カイちゃんが幸せそうな笑顔でサーターアンダギーを頬張っている。

口の中に入れてる分プラス、両手にもそれぞれ一個ずつ。


「もうこれで30個目突破するぞ!」


30ッ!?


「よし、私からも一個あげる!」


「うまうま♪」


サーターアンダギー無限爆食マシーンと化したカイちゃんの目の前に、更に追加でカリッカリに揚げられたサーターアンダギーがずんずん積まれていく。

もう見てるだけで胸焼けしそうな光景だ。

私がトイレに行ってた、たった数分の間でカイちゃんが完全なモンスターと化していた。


「うまうま♪」


いや、うまうま♪じゃねーよ!

駄目だコイツ、完全に理性を失ってやがる。

確か去年、デャスコのフードコートで爆食した時に自重しろって言ったのに、全然反省してないな。

気持ち的には今すぐ思い切り引っ叩いて、足の裏を舐めさせて、きちんと反省するまで徹底的に分からせてやりたいところだけど、人目につきまくるこの場では到底不可能。

だから私は、戻る事にした。


トイレに。



「私は無関係、無関係。」


ほとぼりが冷めるまで自分にそう言い聞かせながら、こっそりトイレに避難しておこう。











◆◆



「あのさぁ…」


「ごごごごごめんなさいィィ!!」


自由時間になったのを見計らって、スマホを使いカイちゃんを人目の付かない場所に呼び出した。

パーク内の隅の方、木陰になっている場所だ。

単独行動について野茂咲さん達には、カイちゃんが適当に誤魔化しといてくれた。


「全く、あんなに私がいる側で目立つなって言ったのに。

いくら言っても分からないお馬鹿な雌犬には、もう体で分からせるしかないよなぁ。」


「うへッ!?ここでご褒美頂けるんですかッ!?」


カイちゃんが、正座をしながら犬みたいにハッハッしている。

フフフ、これだよこれ。やっぱりカイちゃんはこうでなきゃ。

このみっともない女を思う存分蹂躙してやりたいところだけど…。




「お馬鹿ッ!こんな所でやる訳ないだろ!見つかったらどうすんだよ!」


「うぅぅ、お預けプレイってやつですかぁ。これはこれで…。」


私は、カイちゃんから献上された詫びサーターアンダギーをムシャムシャ頬張りながら、アホな犬みたいになってるカイちゃんを見下している。

うまうま♪


「にしても、カイちゃんって昔からあんな大食いキャラだったの?」


「いや、そういう訳じゃないんだけど、ね。

ほら、今まで仕事の関係でプロポーション維持する為に、食生活にはかなり気を遣ってたから。

ずっと我慢してた分、その反動ってやつかな。」


「あぁ、そう言えばモデルやってるんだったね。

あったねー、そんな設定。」


「設定じゃないからッ!」


カイちゃんの高校生読者モデルという職業は、私みたいな人種からしたらまるで未知の異世界だ。

だけど、多くの人々に見られる仕事である以上、きっと普通の人の何倍も見た目に気を使うのであろう事は、私でも分かる。

そうじゃなきゃ成り立たない仕事だし、その為にカイちゃんは、私の知らない所で大変な努力と節制をしてきた筈だ。


だから、カイちゃんの爆食癖はぶっちゃけ大目に見てやりたいけれど、私もなかなか素直になれないものだなぁ。


「ま、今日の夕飯はホテルでバイキングらしいから、その時にでも沢山食べなよ。」


「うん、そうだねッ!沖縄のバイキング楽しみー!」


今たらふく食ったばかりなのに、まだまだ食べ足りないご様子だ。

ったく、一体誰がこの子をこんなにしちゃったんだ。って、私か。





「白狐ちゃんは優しいねぇ。」


急に、カイちゃんに頭を撫でられる。


「おい!急に何して…ッ!?」


「ウフフ〜、たまにはいいじゃな〜い。」


あーもう、だからもう少し人目を気にしろよコイツは!





⚪︎2人に質問のコーナー


白狐ちゃんの好きなテレビ番組は?


「アニメと、動物が出てる番組かな。

あ、動物って言っても可愛いペット系じゃなくて、大自然の中で生きてる系のやつね。」

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