「何なんだ一体……よく分からんな。」
空に瞬いていた星々が、突如として消え失せてしまった。
それも、綺麗さっぱり一つ残らず。
私達の町の空は、陽光だけを不変にしてある。
だから、昼間でも空は真っ暗で夜と同じように星が見える。
だけど、陽の光は差してるからしっかり明るいという不思議な天気だ。
太陽は無いのにな。
まあ今はそんな事より、この異変に注目しよう。
雲がある訳でもないから、空の星が一斉に消えるなんて現象はまず有り得ない。
雲があってもおかしい現象だけど。
「むぅ…何が起こってるってんだ。
取り敢えず、カイちゃんに教えよう。」
異変の事など露知らず、コンビニの中でカップヌードルを既に10個近く平らげているカイちゃん。
ガラス面積が広めだから、食べてる様子が外から丸見えだぞ。
自動ドアから再び店内に戻り、カイちゃんの元へと向かう。
「おーいカイちゃーん!」
「うあ?あっおあん?おーなああええおーひあお?」
麺をズルズルと啜ってる最中だった。
美味そうだな。
「何言ってんのか分からんけど、今外で起こったことをそのまま伝えよう。
星がまるっと消えた。」
「ん、モグモグゴクン。
……えっと、白狐ちゃんの方が何言ってるのか意味不明だよ?」
「あー、やっぱそうなっちゃう?
まあ、外出てみれば分かるって。」
「外がどうかしたの?
あ、待って、全部食べてからでいい?
早く食べないとラーメンが伸びちゃう。」
「ったく、しょうがないなぁ。
待っててやるから早くしてよな。」
「はいはーい。」
そして少し待ち。
「お待たせー!」
「ん、じゃあ外出るぞ。」
満足げなカイちゃんを連れて、改めて外に出る。
「うわー、ホントだねー。
見事にお星様がゼロだ。」
「だろう?
本当に急に消えたんだよ!
パッて、手品みたいに!」
「うーん、謎だねー。」
なんかカイちゃんの喋り方は緊迫感を感じさせないな。
まあ、そんな私もどういう状況なのかまだ理解出来てないから、どういった態度でいればいいのか分からないんだけど。
もっと焦った方が良いのかな?
「…まあ、私達であれこれ言ってても埒が明かないからな。
リグリーだったらこういうの詳しそうだし、聞きに行ってみる?」
「お、そうだねー!
リグリーちゃん、科学者だもんねー!」
科学者だからといって何でも知ってる訳ではないだろうけど、少なくとも私達よりは知識はあるだろう。
私とカイちゃんは、リグリーが住んでいるアパートへと向かった。
◆◆
「星が……消えたですって!?」
「うん。」
リグリーは、自室で寝転びながら本を読んでいた。
最近お気に入りの時代小説らしい。
部屋の中にいたから、空の異変には気付いていなかった。
「いやそんなまさか……うーん、でも……」
「まあまあ、取り敢えず外に出て、実際に見てみてよ。」
「あ、はい。」
リグリーは一度考え出すと長くなるので、背中を押して外へと連れ出した。
「……確かに、いつもなら空を埋め尽くしている星々が、今は一つも見当たりませんね。」
「でしょー?」
アパートの庭先に出てから、私はリグリーに星が消滅した時の状況を出来るだけ詳細に説明した。
とは言っても、説明出来る情報の量なんてたかが知れてるけど。
「成る程、白狐さんがコンビニから出てすぐに、空の星が消滅するところを目撃した、と。」
「ああ、あまりにも一瞬過ぎて、何が起こってるのか全く分からなかった。」
「ふむ、そうですね……」
リグリーは顎に手を当てて少し黙考した後、再び口を開く。
「一旦、部屋に戻って考えさせて下さい。
明日には、おおよその答えを出せると思いますので。」
「明日って……もしかして、リグリーには何が起こってるのか分かってるのか?」
「そうですね、確証は無いですが、大体の見当はついています。
なので、より考えを纏める時間が欲しいのです。」
「そっか。
じゃあ、明日改めて話してみようか。」
「ツジちゃんとレンちゃんにも声掛けておくね!」
「そうだな、頼むよ。」
よし、まずは話し合いだな。
◆◆
さて、次の日になって事情を聞きつけたツジとレンちゃんがこちらにやって来て、私の家の広い応接間に集まった。
「うーん、リグリーはまだ来ないか。」
「まだ朝早いからね。
我々も昨日の夜に到着したばかりだし。」
そう言うツジは、レンちゃんと一緒に昨夜から私の家に泊まっていた。
今はまだ朝の8時過ぎ。
リグリーはいつも9時を過ぎてから起きるので、まだ来ていないのは道理だろう。
「んじゃ仕方ない。
来るまで朝ご飯にしよう。」
「そうだねー!まだ食べてないもんねー!」
「やった!白狐の手料理食べれるのはラッキー!」
「アッハハ、腹ごしらえしとかないと、話し合いも捗らないからね。」
よし、皆ノリノリだな。
「今日はそうだなぁ、私特製のエッグベネディクトでいこうか!」
「わーい!」
で、少し時間が経過。
「エッグベネディクト丼完成ッ!」
「エッグベネディクト丼ッ!?」
私が作った特製料理、エッグベネディクト丼!
その勇ましくも美味しそうな見た目に、ツジとレンちゃんはビックリしていた。
「成る程、エッグベネディクトをご飯の上に乗せた、シンプル極まりない料理だね。」
「シンプルと言っても、エッグベネディクトは手間掛かってるけどな。」
そう、私特製エッグベネディクト丼とは、エッグベネディクトをどんぶりご飯の上に乗せただけの料理で、それ以上でも以下でもない!以上ッ!
ただし、めっちゃ美味いのは保証する!
「エッグベネディクト丼は、青春の味だッ!
うら若き乙女も少年も、須くエッグベネディクト丼を食すべしぃ!」
などと、エッグベネディクト丼への情熱を熱く語っていたら
ピンポーン
と、家のチャイムが鳴った。
「ほいほーい。」
他の皆はエッグベネディクト丼を食べている最中だったので、私が1人で出迎えることにした。
「おや、皆さんお早いお着きで。」
やたら広い玄関の横、温泉施設の入り口なんかにありそうなやたらデカくて長い下駄箱を見て、リグリーがそう言った。
普通なら、それだけを見てもすぐに分かりづらいものだが、ツジ、レンちゃん、カイちゃんが履き物を入れる位置は大体決まっている為、パッと見ただけでも即座に居るか居ないかが分かるのだ。
「うん、カイちゃんはいつも通り朝イチで来てるし、ツジちゃんとレンちゃんは昨日から泊まりだったからな。」
「そうだったんですね。
あれ?何やらあちらから良い匂いが…。」
「ああ、リグリーが来るのを待ってる間、皆で朝食のエッグベネディクト丼を食べてたからな。」
「エッグベネディクト丼……ですか?
よく分からないですけど、美味しそうな響きの料理ですね。」
「だろう!ちゃんとリグリーの分も用意してあるから、是非とも食べていくといい!」
「そ、それじゃあお言葉に甘えて。」
ゴクリと唾を呑みながら、リグリーは応接間へと着いてきた。
「エッグベネディクト丼、素晴らしいですね!
ワタクシの、美味しいものアーカイブに追加しておきます!」
今回、一番エッグベネディクト丼にハマってくれたのはリグリーだった。
もう既にお代わりし続けて4杯目だ。
量こそ負けてはいるものの、ハマり度はカイちゃん以上だろう。
「さて、エッグベネディクト丼という伏兵のお陰でだいぶ話が脱線してしまったけど、そろそろ本題に入る頃合いじゃないかな?」
リグリーが満腹になるタイミングを見計らって、ツジが話を本線に戻してくれた。
空気を読んでくれて助かる。
「そ、そうでしたね、ワタクシとしたことが……
兎に角、あの星の消失について、ワタクシなりの見解を述べさせて貰いますね。」
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんご飯好きなスープは?
「コーンスープかな。寒い日には特に。」
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