スペースシップ☆ユートピア

永遠の時を旅する2人の少女の愛の物語
千葉生まれのTさん
千葉生まれのTさん

123話・2211年目・君から貰った感動

公開日時: 2022年6月6日(月) 21:23
文字数:3,129



ツジとレンちゃんと出会ってから、数年の年月が過ぎた。

彼女達と保全シェルターの図書館を不変にして、ついでにカイちゃんが車を一台プレゼントした。

ツジは運転について飲み込みが早く、カイちゃんの指導のもと、すぐに運転はできるようになった。


まあ、今は他に運転してる人もいないし、教習所で教えるような交通ルールとかは殆ど割愛してたけど。





「カイちゃーん。」


で、今日はカイちゃんと私の家で対戦ゲームをしている。

その最中に、私に余裕の勝利を収めたカイちゃんに声を掛けた。


「なーにー?白狐ちゃーん!」


上機嫌なカイちゃんは、甘ったるい声色で返してくる。


「そろそろまた、ツジちゃん達の所行ってみる?」


「おぉ、それ良いね!半年振りくらい?」


「正確には、5ヶ月と11日だな。」


「無駄に細かいッ!」


「んじゃ、電話してアポ取りしてくる。」


ここ数年は、大体半年に1回くらいのペースでツジとレンちゃんに会っている。

何となくそのくらいのペースに落ち着いたのだ。

彼女達には事前に連絡用のスマホも渡しており、電話してどっちに遊びに行くか決めてから会っている。


とは言え、巨大図書館という一大施設が存在する向こうに行く方が多いのもまた事実。

ぶっちゃけ、個人的には図書館に行った方が得るものが多いので、そっちに行きたい気持ちが強かったりする。

さて、今回はどちらになるのやら。










◆◆



「よし、着いたな。」


協議の結果、今回は図書館側になった。

スーパーキャンピングカーで隠し洞窟まで赴き、隠し扉の前まで歩いて来た。

しかし、この洞窟だけはどうも苦手なんだよな。

暗いし、蝙蝠いっぱいいるし、ジメジメしてるし。

こういう人が寄り付かない場所だからこそ、あのシェルターを隠すのには打って付けなんだろうけどさ。


洞窟の一番奥まで辿り着き、何も無い岩壁に手を翳すと、淡い光が扉の形に浮かび上がり、静かに左右に分かれて開く。

本来はツジとレンちゃんしか開けられない扉だけど、私とカイちゃんも設定を弄って開けられるようにして貰ったのだ。


「さて、ツジちゃーん!レンちゃーん!」


扉の中に入り、高級ホテルみたいなシェルターの中に入って、施設の主である2人の名を呼ぶ。

でも、何故か反応が無い。


「おかしいね、いつもならすぐに出迎えてくれるのに。」


「だよな。もしかして外出中とか?」


「来る約束してたの、忘れちゃったのかな?」


「取り敢えず、奥まで見てみよう。」


私とカイちゃんは、2人を探しにシェルターの奥まで進んでみる事にした。


廊下を少し進んだところで、小さな円盤型のロボットが床を掃除しているのを発見した。

このロボットはこの施設に十数台ほど配置してあり、広大なこのシェルター内の掃除を担当してくれている。

高度なAIを搭載されていて効率的に仕事をこなし、壁に貼り付いて天井も掃除出来る優れものだ。

ちなみにこのロボット達は元からこの施設にあった物で、私達があげたりした訳じゃない。

むしろ欲しい。


「私の部屋にある〝キャタピラ芋子ちゃん〟より高性能なんだよな、この子らは。」


キャタピラ芋子…

私がだいぶ昔に買った、当時最先端の技術で作られたイモムシ型全自動掃除機の名前だ。

今も不変力のお陰で現役バリバリで働いてくれている。


「芋子ちゃんが発売したのって、確かもう2000年くらい前だもんね。

それよりもずっと後の時代に作られた施設だから、高性能なのは当然だよね。」


「うーん、羨ましい。」


このロボット達も、私が不変にした。

だから、壊れる事なく永遠に働き続ける事だろう。


永遠に働かされるとか、想像するだけでゾッとする。

ロボットじゃかったら、確実に頭がおかしくなるやつだわ。

ロボットに生まれ(?)なくて良かったと心の中で両親に感謝しつつ、歩を進める。


進めるも、なかなかツジとレンちゃんのどちらとも遭遇しない。

もしかして、2人の身に何かあったのではないかと不安に思い始めた時に、ここではあまりにも場違いな異変を感じた。





「…ん?何かちょっと良い匂いしない?」


「あぁ、そう言えばそうだね。」


「なんていうかほら、濃厚な豚骨スープの芳醇なかほりが…」


「どうやら、あの部屋みたいだね。」


シェルターであり図書館でもあるこの施設に、豚骨ラーメンの匂いってどういうこっちゃ。

そんな疑問を胸に抱きつつ、匂いの元凶と思われる部屋の前に歩いていく。

扉には、〝厨房〟とだけ書かれている。


「まさか…!」


突如として心の中に浮かび上がった予感!

それを信じて、秘められし扉を開け放った!






「…あ!白狐!?それに海良も…!」


まず出迎えてくれたのは、扉からすぐの位置で冷蔵庫の中身を漁っている、割烹着姿のレンちゃんだった。


「レンちゃん……何してるの?こんな所で。」


カイちゃんがそう聞くも、レンちゃんはどうも私達の来訪に動揺しているみたいだった。

何でだ?私達が今日来るのは知ってた筈なのに。


「な、何してるって言われても、ラーメン作ってるとしか…!

って言うか、2人こそどうして今日いきなり来たんだ!?

遊びに来るのは、明日の予定だっただろ!」


抗議するようにそう言ってくるレンちゃん。

ん?明日?いやいやどういう事だってばよ。


「ちょい待ちレンちゃん。

ツジちゃんには、今日行くって連絡入れた筈なんだけど。」


「…え?ツジ姉?」


レンちゃんが、厨房の奥の方を見やる。

そこでは、一生懸命に麺の湯切りに勤しむツジの姿があった。












◆◆



「いやー、すまないね。本当にすまない。

まさかこの私とした事が、日程を1日間違えてしまったとは!」


食堂のテーブルを挟んで私の向かいの席に座りながら、ツジはあっけらかんに笑って謝罪していた。

あまり反省しているようには見えないけども、目の前にお詫びの印として出された豚骨ラーメンの力により許さざるを得ない。

私の隣に座るカイちゃんも同様だ。

てか、既に半分以上食べてやがるこの女。


私も伸びないうちに食べちゃおう。




うん、細麺でしっかりとしたコシもあり、麺に絡むスープも実に濃厚!

九州は博多の豚骨ラーメンを意識したツジの手作りラーメンは、まだ少し粗はあれど、独学で修行したとは思えないレベルの絶品だった。

意外なほどの才能だ。



「しっかし、またなんで急にラーメンを?」


完食してから、私はまず気になった事をツジに聞いてみた。


「それはだね、数ヶ月前にふと、思い出したんだ。

尾藤ちゃんの家に初めて訪れた時、食べたあのラーメンの味と感動を!」


「…あー、そう言えば作ったな。」


白狐ちゃん特製オリジナルスペシャル豚骨ラーメンの事か。

あれは私の自信作だ。


「あの日食べた料理の中でも、あの〝豚骨ラーメン〟なる料理は、特に筆舌に尽くし難い逸品だった!

あれを是非、自らの手で再現してみたいという欲求に駆られたのだよ!」


…マジか。

そんなに絶賛されると、なんかむず痒いような照れ臭さを感じる。

そして、素直に嬉しい。


「必要な材料や器材は、ここにある本で一通り勉強した後、白狐達の町のお店に寄って、色々と拝借させて貰ったからな。

前にツジ姉と遊びに行った帰りに。」


レンちゃんがそう補足説明をする。

そうか、確かに私達の町くらいでしか、ラーメンを作るのに必要な物は手に入らないわな。こんな時代じゃ。


「一度作り始めたら、これが存外楽しくてね。

スープ作りから麺に具材に、どれも奥深くてついついハマってしまったんだ。」


「ほへぇ〜、でも〝ついついハマった〟ってレベルにしちゃ、相当美味いよこれ!

もっと突き詰めたら、行列出来るほどの美味さだって!」


「そうかい?そう言って貰えたら嬉しいね。

これからも修行と研究を積み重ねて、いつか至高の豚骨ラーメンを作ってみせるよ!」


「楽しみにしてる!」


ツジのラーメン、ガチで美味かった。

これはまた、未来への楽しみが一つ増えたなぁ。



⚪︎2人に質問のコーナー


白狐ちゃんが好きな米料理は?


「やっぱ牛丼だな!チェーン店の大盛り牛丼最高!」

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