「カッレぇ〜♪カレーカレーさいっこーのカレー♪フンフンフ〜ン♪」
軽快な鼻歌を歌いながら、私は特製カレーの調理を続ける。
ちゃんとデャスコで足りなかった豚肉も買い足して来たので(勿論店内は無人なので拝借してきた)、美味しいカレーが出来上がる筈だ。
「フッフッフ、よ〜し出来たぞ!良い匂いだ。」
遂に、私が脳内で思い描いていた至高のメニュー、〝チーズ入りカツカレー・納豆を添えて〟が完成した!
トロットロのチーズが内包された極上のカツに辛口のカレールーを掛け、ちょっとお値段高めの納豆を福神漬けみたいに傍に添えてある。
よし、これならカイちゃんも大喜びしてくれる筈だ。
「カイちゃーん!出来たぞー!」
「美味しそうな匂いが漂ってたから、そろそろだと思ったー!待ってましたー!」
カイちゃんが作業を中断して、私が持って来たカツカレーを見て瞳を輝かせている。
「ほれ、食べるといい。」
「わーい!いっただっきまーす!うんまーい!」
目にも止まらぬ速さでカツカレーにがっつくカイちゃん。
なんという速さだ。こやつ、やりおる…!
「さて、私も食べますか。」
納豆とチーズとカツカレーのハーモニー、我ながら最高に美味しかった!
お店出せるんじゃないか、私!
一瞬そう思ったけど、趣味が労働に変わった瞬間、私のモチベーションが下がるのは目に見えている。
というかそもそも、こんな世の中で商売もクソもないだろうに。
「ご馳走様でした。」
「ご馳走様ぁ!白狐ちゃんが作ってくれたカレーのお陰で、こっからの作業は倍速でいっくよー!」
「…あんまり無理はするなよ〜。」
カイちゃんが頑張り過ぎて無茶しないか心配だけど、多分大丈夫だろう。
私は特にやる事が無いので、空になった器を下げたら部屋でゲームでもしていよう。そうしよう。
◆◆
「出来たー!出来たよ白狐ちゃん!」
「お?流石はカイちゃん、仕事が早いな。」
部屋で1時間ほどゲームして待っていたら、カイちゃんが部屋に飛び込んで来た。
「ラジオの型が思ったより古いやつだったからちょっとばかし苦戦したけど、なんとかラジオの電波が出てる座標を特定出来たよ!」
「すげーなカイちゃん!
で、どこなの?」
なんかちょっとワクワクしてきたぞ。
「えっとね、こっからずっと北の方……もっと分かりやすく言えば、群馬県の山奥の方だね。」
「おおう、そんな所から出てたのか。
よくこんな遠くまで電波届いたなぁ。」
「だよねー、アタシも驚いたよー!」
「しっかし、群馬の山奥か…
カイちゃんのキャンピングカーで行ったとしても、多分片道で半日くらいは掛かるんじゃないか?」
「そうだねー。道路もなんもボロボロな今の時代じゃ、もしかしたらもっと掛かるかもね。」
「だよなぁ。高速道路の旦那が懐かしいや。」
文明がきちんと機能していたあの頃は本当に良かった。
当時は何とも思ってなかったけど、大事な物っていうのは、失ってから初めて実感するものだなぁ。
いや本当。
例のスーパーキャンピングカーがいかに悪路に適正があろうと、流石にスピードを出し過ぎる訳にはいかない。
安全性と快適性に特化している反面、速度を幾分か犠牲にしなければならないのだ。
「まあ、のんびり行こうよ。
なんたって白狐ちゃんは、暇潰しの達人なんだし。」
「お、やっぱ分かってんじゃん。
暇を潰せるアイテムは、ありったけ持ってくぞ!」
「おーいえーす!」
◆◆
3日後。
「よし、こんなもんで良いんじゃないかな。」
「うん!だいぶ思ってた通りに出来たねー!」
私とカイちゃんの共同作業で、車を塗装する事に成功した。
全体的に〝終末世界に打ち捨てられたボロッボロの車〟をイメージしていて、本当に動くのかと思えてしまうほどボロい見た目になった。
「これ、本当に大丈夫だよな?
途中で動かなくなったりしないよな?」
「大丈夫だって。ただ塗装しただけなんだし、そもそも白狐ちゃんの不変力で絶対に壊れないようになってるから。」
「…う、うん。でも、ここまで本格的に塗装しちゃうと、大丈夫って分かってても逆に不安になってくる。」
「……確かにね。その気持ちはちょっと分かるかも。」
「あと、こっちもよく出来たな。」
私が取り出したのは、2人分のボロの服。
程良く年季の入った感じに色を変えて、少しヴィンテージ感も漂っている。
「…一周回って、これはこれでオシャレかも。」
「うーん、そういうもんか?」
「そういうもんだよー。」
へぇ、そういうもんか。
相変わらずファッションてのはよく分からん。
取り敢えず着てみたら、予想以上に質素な感じが溢れ出てて、なんというかファンタジー世界のRPGに出て来るモブの村人AとBって感じだ。
「ごめん白狐ちゃん、やっぱりこれ全然オシャレじゃないや。」
「奇遇だな、私もそう思った。」
オシャレに疎い系女子の私でさえ、そう感じるレベルだ。
ただ、今回の目的には最適ではある。
「よし、これでひとまず三つの課題はクリア出来た訳だ!
今日は取り敢えずもう解散して、それぞれ必要な荷物を纏めてから、明日出発する事にしよう!」
「イエッサー大佐!」
誰が大佐じゃい。
◆◆
「持ってくゲームは〜、これとこれと〜、暇潰しにはこのゲームも最適だな。
んで、コラアドは全シリーズ必携と。」
夜になって、私は一人自室で、明日の準備をしていた。
地元のホームセンターで見つけてきた巨大なバッグの中に、次々とゲーム機を突っ込んでいく。
ちなみにこの馬鹿でかいバッグはゲーム収納専用のバッグで、着替えや小物など日用品なんかを入れるバッグはまた別に用意してある。
にしても、今までずっと危険&面倒臭いという理由でこの町に籠り、無視し続けてきた外の世界に、明日いよいよ踏み出す時が来たのだ。
外の世界は汚染されていて、どこも荒れ果てているだろうに、何故か修学旅行の前日みたいにドキドキワクワクしている。
荷造りが無性に楽しい。
もしかしたら、準備してる今が一番楽しいのかもしれないけど。
「フッ、私1人なら絶対に外の世界なんて行かないんだろうな。」
例のラジオの電波を聴いたところで、私1人しかこの町に居なかったら確実にラジオの発信源を探そうなんて発想には至らなかった筈だ。
きっと、「外の世界にも人がいるんだなー。」程度の無味乾燥な気持ちしか抱かなかったと思う。
私の人生のすぐ隣りにカイちゃんという大事な存在が居てくれるからこそ、私の視野が広がり、未知の世界に可能性と面白みを与えてくれる。
高校時代にカイちゃんに出会えて良かったと、こういう時つくづく思える。
と、そんな事を考えている時に限って、本人がご登場するものだ。
私の家に、ピンポーンとチャイムの音が鳴り響く。
「はいはーい。」
上機嫌な私は、軽快な足取りで玄関の向こうで待っている彼女を迎えに行った。
「白狐ちゃんッ!どうしようッ!」
玄関を開けるなり、切羽詰まったような表情のカイちゃんが飛び込んで来た。
「うん?どうしたの?」
「えっとね!えっと……家で明日の支度してたんだけどね!それで、すっごく困った事になって……!」
あーはい、カイちゃんが困ったって言う時は、大抵しょうもない用件の時と相場が決まっている。
「はいはい、一応聞いてあげるよ。」
「あのね、明日持っていく白狐ちゃんの等身大フィギュア、10種類のうちどれを持っていけば良いのか迷っちゃって!
白狐ちゃん選んで!」
「は?何それそんなん持ってんの?いつ作ったの?」
私の等身大フィギュアとか初耳なんだが?
「えっと……ずっと前!」
「どうでもいいけど、すっげぇキモいから全部捨てといて。」
「そんな!?」
カイちゃんのキモい趣味がまた一つ明らかになった。
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんが好きな武器は?
「武器かー、やっぱ刀が一番カッコいいよなぁ!」
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