「白狐ちゃ〜ん!ムフ、ウフフフフ!」
「……。」
今日も変わらず普段通りにゲームをしている私だが、そんな私にまるで、タコみたいに全身に纏わりついてくるカイちゃんがいる。
なんなんだこの女は。
いつにも増して変態性が上がってるじゃないか!
「…カイちゃん、あのさぁ?」
「ん?どうしたのぉ、白狐ちゃぁん?」
「いやぁ、キモいわその猫撫で声。」
「オぅッフ!?」
「最近、どんどんキモさが急増してるよね?
なんで?なんか大いなる災いが起こる前触れなの?」
ここのところ、カイちゃんが毎日のようにウザ絡みしてくる。
ずっと気にしないようにしてたけど、遂に我慢出来なくて聞いたのだった。
「災い?
そんな、むしろ真逆だよー!」
「ほほう?」
「だってー、いよいよ1週間後には白狐ちゃんと恋人になれるんだもん!
ソワソワしない方がおかしいよー!」
「ふ〜ん、そういうもんなのか……」
「ムッフフフ〜、人生最高の年末年始になりそうだなー!」
「あ〜、そっか。もう今年も終わるのか。
そろそろ年越し蕎麦でも作ろっかな。」
料理好きな私は、年越し蕎麦を毎年自宅で手打ちで作っている。
そして、手打ち蕎麦を作る話になると…
「白狐ちゃんの手打ち蕎麦ッ!
今年も絶対食べるー!楽しみー!」
このように、カイちゃんが必ず釣れるのです。
「まあまあ、落ち着きなって。
私の手打ち蕎麦がいかに絶品とはいえ、別に逃げたりしないんだから。
今年もたっぷり用意しとくよ。」
「イエーイ!やったー!ウエヒヒヒィィ!」
まるで滅びかけた世界が滅亡から救われたかのように、大はしゃぎで喜ぶカイちゃん。
しくじったな、余計にテンションを上げてしまう形になっちゃったぞ。
んで、年越し蕎麦を食べる当日は、コタツに入ってカイちゃんとふたりパーティーゲームで盛り上がりながら、蕎麦を含めたご馳走を食べる。
これが、毎年恒例の私達の年末の過ごし方だ。
ま、実際のところ私も結構楽しみにしてはいるんだけどな。
ん?
「あれ、カイちゃんさっき妙な事言ってなかった?」
「えー?そんな事ないよー!」
「そう?まあ、カイちゃんが変な事言ってるのはいつもの事だしな。
逆に変じゃないパターンなのか。」
「白狐ちゃんひどーい!」
うーん、なんか違うな。
もっとこう、重要な事を言ってたような気がするんだよなぁ。
あれ?
「カイちゃん、あとどのくらいで私と恋人になれるって言ったっけ?」
「んー?あとジャスト1週間だよ。
白狐ちゃんも楽しみでしょ?」
「………いっ……しゅうか……ん…?」
「イエス!1週間!」
…そっか、今日は12月25日でクリスマスの日。
この後は夜になったらカイちゃんとクリパ開いて、美味しいケーキやらチキンやらご馳走を平らげた後、プレゼント交換もして……
そっか、1週間後は1月1日で元日か。
それでえっと、去年が私とカイちゃんが出会って確か98年目。
今年が99年目。
……で、来年が100年目。
100年目……?
「ひ、ひゃくねんめェェェッッ!?」
「うえッ!?白狐ちゃんッ!?」
家中に響き渡る私の絶叫に、カイちゃんは尻餅をついて転んだ。
「え?え?え!?
あと1週間で100年目なのかよッ!
早過ぎない!?おかしいだろ!」
「な、何もおかしくなんてないよー。
逆にアタシはこの100年、早く白狐ちゃんと付き合いたいなーと期待しっぱなしで、物凄く長く感じてたくらいだもん!
まさに、一日千秋の想いでッ!」
「うわぁ、マジかぁ。
もしかして私、まともに社会貢献もせずに、毎日毎日部屋にこもってゲームばっかしてたから、時間の感覚がおかしくなってたのか?」
「その可能性はあるね。」
カイちゃんにもあっさりそう言われて、私は愕然とする。
「いや、別の視点から考えよう。
この100年、ゲームしてる以外にも、カイちゃんと色んな所へ行ったり、色んな遊びをしたり、とにかく充実しまくった100年でもあった。
だから楽し過ぎて、時間が早く過ぎたように感じた。
うん、そっちの説を信じる事にしよう。」
学生時代の楽しかった思い出。
大人になってからは、カイちゃんと東京やら色んな場所に旅行に行って、山のように沢山の思い出も作った。
野茂咲さんや新藤君、師匠など、個性的で愉快な人達との出会いもあった。
私が家にこもってたい時には、カイちゃんと夜通しでゲームをして盛り上がったりもしたもんだ。
「ホンット、色んな事があったよなぁ。」
「うん、本当に色々あったねー。」
2人して、しみじみと感傷に浸る。
学校に通ってカイちゃんと出会ったあの日の事が、昨日の事のようにも感じられるし、遠い昔の事のようにも感じる。
不思議な感覚だ。
「でも白狐ちゃん、これからこんな日常がずっと続くんだよね?」
「ああ、そうだな。」
「エヘヘ、楽しみだねー。」
「うん、私も楽しみだよ。
でも油断するなよ?
私達が変わらなくても、それ以外の世界や人々はどんどん目まぐるしく変わっていくんだ。
その流れに多少合わせるくらいなら問題無いだろうけど、完全に呑み込まれるのはマズいからな。」
世の中というのは、いつ何が起こるか分からないものだ。
安全に見えるこの国も、数百年後、数千年後には、どんな国になってるのかなんて分かりゃしない。
暴君みたいな支配者に抑圧されてるかもしれないし、逆に凄く良い国になってる可能性もある。
今と大して変わらないパターンもあるかもしれないけど。
「もう、そんなに心配しなくたって大丈夫だよ。
アタシには白狐ちゃんがいるから、それだけで大丈夫なんだよ。」
「何その変な根拠。
まあ、カイちゃんは絶対にぶれないだろうから、確かに大丈夫そうだな。」
「うんうん、ぶれないぶれない!」
この子の愛は、いつだって一直線だ。
そして私も、そんな真っ直ぐな愛情に向き合わなければならない時なのだ。
今までは「まだ時間があるから大丈夫」と悠長に構え、のらりくらりとカイちゃんの愛を躱してきたけど、今度ばかりはそうはいかない。
「ま、逆に私も大丈夫そうかな。
カイちゃんが常に側にいてくれるから、いざって時は守ってくれるもんな。」
「もちのロンだよッ!
白狐ちゃんが困ってる時は、どんなに離れててもマッハで駆け付けてあげるからね!」
「ハハ、カイちゃんの事だから本当にマッハで来そうだな。」
冗談のつもりで言った一言なのに……
「うん、マジでマッハだよ!
こないだ、最新式音速飛行型のVTOL機買ったからね!
移動用兼白狐ちゃんの元へ駆け付ける用で!」
「……え?マジですか?」
「うん、マジだよ。
そっかごめん、言うの忘れてたね。
ちょっと高い買い物だったけど、これで海外に出張してても、なる早で白狐ちゃんの元に来れるようになったからね。安いもんだよ!
あ!今度白狐ちゃんに不変にして貰わなきゃ。」
「それは構わないけど、マジかぁ。
カイちゃんも遂に、そこまで来たかぁ。」
まさか、そこまでの財力を有していたとは。底の知れない女だ。
このままだといつか、国ですら買えちゃうんじゃないか?
「まあでもカイちゃん、お金は大切な物だから、よーく考えて使いなよ?」
「もう、白狐ちゃんったら!
アタシにとって白狐ちゃん以上に大切なものなんて無いんだから、白狐ちゃんの為にお金を使うのは全然惜しくないんだよ。
そうだ!今度白狐ちゃんの分も買っとくね、アタシとお揃いのVTOL機。」
「いや、流石に遠慮しときます。」
なんなんだよそのノリは。
「お揃いのカチューシャ買お!」みたいなノリでVTOL機を買おうとすんな!
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんの誕生日は?
「7月18日だよ!」
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