スペースシップ☆ユートピア

永遠の時を旅する2人の少女の愛の物語
千葉生まれのTさん
千葉生まれのTさん

64話・26年目・地元大事

公開日時: 2021年10月13日(水) 21:32
文字数:3,098



「あのさぁ、白狐ちゃん。」


「ん?どうしたの?」


私とカイちゃん、二人で仲良く湯舟に浸かりながら、話し合っていた。

あ、ちなみに場所は自宅じゃなくて、近所の昔ながらの銭湯です。

昭和からある所。


「もし白狐ちゃんが良かったらなんだけどさぁ、そろそろ私達、地元に戻って生活しない?」


「……あぁ〜。」


カイちゃんのその提案は、正直言って私も最近になって考えていた事だ。


「都会での暮らしも悪くないんだけど、何かこう……完全に馴染まないっていうか。

田舎で白狐ちゃんとのんびり暮らしたいなぁって、最近思うようになりまして。」


「…私は別に構わないよ。

その方がカイちゃんの為になるってんならそうした方がいいし、ぶっちゃけ私も都会での生活には飽きてきた頃合いだしね。」


まあ、自宅アパートのすぐそばに、コンビニやらファミレスなんかがあるのは都会の長所だけど、人間ってのは不思議なもんだ。

あまりに便利過ぎると、今度は逆に不自由さを求めてしまう。

田舎のあの不便さが、20年以上東京で暮らした今、妙に懐かしく感じてしまっているのだ。


「でもさ、私は良いけど、カイちゃんは大丈夫なの?

ほら、仕事とか。」


「ああ、それなら問題無いよ。

もうこれを期に、芸能界引退するから。」


「ふ〜ん………ええッ!?」


カイちゃんの衝撃的な発言に、ビックリすると同時に周囲を見渡す。

良かった、人はいない。お客の少ない銭湯で良かった。

もし今のが他人に聞かれてたら、きっとマズい事になったんじゃないか?


「いや、引退って…

カイちゃん的には、それでいいの?」


「うん、いいの。前々から考えてた事だし。

アタシって高校の頃から不変力で全く見た目が変わらないから、これ以上芸能活動続けてたら、流石に怪しまれちゃうよ。

既に、不老の魔女だとか変な噂や都市伝説が出回ってるし。」


「…ま、魔女!?」


「不本意ながら。」


「…そっか、でもそれって、カイちゃんを不変にした私の所為だよね。なんかごめん。」


私は、申し訳なくカイちゃんに謝る。


「いやいや、白狐ちゃんが謝る事ないよ!

白狐ちゃんと一緒にいる事を選んだのは、アタシ自身なんだし!

それに……」


「それに?」


悪戯っぽく含み笑いをして見せるカイちゃん。


「100年くらい経ってアタシの事を知ってる人が居なくなったら、また芸能界デビューしてみよっかなって!」


「あぁ〜。」


成る程、そりゃまた強かな事で。


「ハハ、100年越しで夢を語るなんて、私達にしか出来ない芸当だよな。」


「そうだねー!これもまた白狐ちゃんのお陰だよ!」


私のお陰、か。

そう言ってくれるだけで、ついさっきまで胸につかえていた罪悪感が、スルリと取れたような気がする。


「んじゃ、地元に戻る前に、東京観光とでも洒落込みますか!」


「やったー!また白狐ちゃんとデートだヤッホーイ!」


子供みたいに拳を天に突き上げるカイちゃん。

つい勢いで言っちゃった東京観光だけど……さて、どういうプランで行こうかな?

考えるだけでワクワクしてきた。













◆◆



「品川の水族館に来た。」


私の言葉通り、品川の水族館に来た。

品川駅から降りてすぐの、デカくて新しくて、とにかく凄い所だ。

ちなみに、今回はカイちゃんの提案でここに来た。


「アタシと白狐ちゃんのデートと言えば、やっぱり水族館は欠かせないよねー!」


「水族館が好きなのは認めるが、デートの部分はまだ認めんぞ。」


「もう、いけず〜。」


「はいはい。」


まあ確かに、言われてみれば私とカイちゃんは、妙に水族館に来る事が多い。

年に何回かはどこかしらの水族館に行っている気がする。

何故か動物園は滅多に行かないのに。


今度は動物園にしてみようかな。


「確か、この水族館は初めて来るよな?」


「そうだね、初めてだね!」


何故か興奮気味のカイちゃんを怪訝そうに思いながらも、私達は水族館の中へと入って行った。










「おおー、凄い綺麗。」


「そうそう!めっちゃ映えるよねー!」


「カイちゃんの好きそうな水族館だ。」


「白狐ちゃんも、満更でもなさそうだよ?」


「まあね。たまにはこういう水族館も悪くないかな。」


ここの水族館は特に魅せる方に特化していた。

色とりどりにライトアップされた水槽、SNS映えしそうな派手目な魚達。

どれも見てて飽きない、面白い水槽ばかりだ。

まるで、この館内だけ現実世界から切り離されているような、幻想的な雰囲気も感じられる。


「ほらほら見て見て白狐ちゃん!この魚の顔、凄い面白いよ!」


「んー、これはまたテンション高いカイちゃん。

気持ち悪くない方向にテンション高いカイちゃんだ、珍しい。」


「うへぇ、なにそれ褒めてるの?貶してるの?」


「どちらでもない。

お、こっちにピラニアいるってさ。見よ!」


「ピラニア怖ッ!」


「でも実際にはピラニアって、めっちゃ臆病なんだよね。」


「そうなの!?イメージに踊らされてた!」


「水槽のガラスを叩くだけで下手すればショック死する程、肝っ玉が小さいらしい。」


「うわ〜、メンタルが残念過ぎて逆に可愛く見えてくるパターン。」


のらりくらりと水族館を歩き回り、全部満喫してから外に出て来た頃には、既に日没近い時間帯になっていた。

どんだけ夢中になってたんだ私達は!


「うわー、思ってた以上に時間経ってたんだなぁ。」


「楽しい時間が過ぎるのはあっという間だねー!」


「晩御飯どうしよっか?どこで食べる?」


「それならほら、水族館を出てすぐそこに、ホテル内のフードコートがあります。」


「おお!カイちゃんナイス!泊まらなくても食べれるとこ?」


「泊まらなくても食べれるとこです!」


「それじゃレッツゴー!」










◆◆



「ふむ、色々お店あるねぇ。

私はお好み焼きとたこ焼きな。ガッツリ粉物攻めるわ。」


「そしたらアタシは、あっさり系のうどんでも食べよっかな。」


2人でそれぞれ食べたい料理を注文し、出来上がるまでテーブル席で待機。


しばらくして料理を取りに行って席に戻り、美味しい粉物料理に舌鼓を打っていたら、いつの間にやらテーブルの上がどんどん大量の料理に占領されていった。


「何じゃこりゃ?」


「エヘヘ、ついつい頼み過ぎちゃった♪」


「いいけど、私の食べるスペースの事も考えてよ?」


「もっちろん!」


とか笑顔で言ってるけど、実際私のスペースはギリギリだ。全くこの子は。

最初はうどん食うとか言ってたクセに、今じゃそれ以外にもカレーやラーメン、ピザなんかのガッツリメニューが所狭しと並んでいる。


「うまうま♪」


いつも通りのうまうま♪を聞き流しつつ、私は食事を平らげた。

うん、美味い!

カイちゃんじゃないけど、いくらでも食べれそうだ。

それくらい美味しい。





「そう言えばカイちゃん。」


「んー?どしたの?」


カイちゃんがピザを頬張りながらも、器用に聞き返してくる。


「私達さ、地元に戻るのは良いとして、その後の仕事はどうするの?

芸能界引退するんなら、カイちゃんも無職になるんじゃ?」


だとしたら、絶賛ニートど真ん中の私はどうすればいいのか?

実家に帰って家族に堂々と「カイちゃんとヒモ生活してます!」とか言ったら、しばき倒されて市中引き摺り回されそうだ。

今までずっと、カイちゃんに養われてた事は内緒にしてたからなぁ。



「大丈夫、次の仕事の事はしっかり考えてあるし、貯金もたっぷり溜め込んであるから!」


「凄い!流石はカイちゃん、有能極まる。

私なんて、今まで1円たりとも貯金なんてした事ないのに。」


「それと、地元に戻っても引き続き、白狐ちゃんを養ってあげられる手筈になってるから、心配しなくても平気だよ。

これからもずっと、一緒に居ようね。」


カイちゃんの天使の笑顔(口の周りにめっちゃ食べカス付いてるけど)が、私の不安な心に平穏をもたらしてくれた。






カイちゃん、感謝!



⚪︎2人に質問のコーナー


白狐ちゃんの苦手な果物は?


「苦手って程じゃないけど、パイナップルはあまり食べないかな。」

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