修学旅行2日目の朝。
今日は確かウチの班は、海に泳ぎに行く予定の日だ。
正直なところ海水浴なんて、私はほぼ経験が無い。
特に海水浴場なんてのは、湘南とかにいるような色黒パリピ集団が跋扈してる、無秩序な無法地帯だとずっと思っていた。
ああいう連中は、私みたいな人種にとって不倶戴天の相入れない存在だ。
そんな事を以前、カイちゃんに話したら、「それは誤解だよ〜。確かにナンパとかはされるかもしれないけど、アタシが白狐ちゃんを守ってあげるから大丈夫。海水浴自体はすっごく楽しいから、一度は体験してみるといいよ!」とか言われた。
確かに、一方的なイメージで決め付けてしまうのは、私の良くない癖だ。
それに、沖縄の綺麗な海で遊ぶのは、インドア派の私が想像しても普通に面白そうでもある。
ただ、人間以上に気を付けないといけない点が、海に潜む猛毒危険生物や、離岸流なんかの海難事故の原因になるもの辺りか。
そういったものにきちんと気を付ければ、海水浴はとても楽しいのだろう。
あと、沖縄特有の強烈な日差しによる熱中症や、日焼けもか。
あ、なんかそう考えると、そんなリスクを沢山背負ってまで、海で遊びたいものかとも思えてしまう。
とは言え、予定を決めてた時に賛成してしまった手前、今更それを変更する訳にもいかないし、ここはいっちょ腹を括るしかない、か。
そこまで考えておいて、私はふと思い出した。
不変力があるから、別に心配する必要無いじゃん、と。
どうやら海水浴に対するマイナスイメージが先行するあまり、大事な所を見落としていたみたいだ。
でも、いくら不変力があるとはいえ、チャラい連中からのナンパ攻撃を防ぐ事は出来ないし、溺れても死にはしないものの、元の場所に戻れなかったり、色々他人に迷惑を掛ける事になる。
最悪、不変力の事が周囲にバレる可能性もあるぞ。
うん、海水浴を楽しむのも良いけど、注意すべき点にはしっかり注意した上で楽しむとしよう。
「山岸さんの班って、今日海水浴だよねー?」
「うん、そうだよ。楽しみだなぁ。」
「いいなぁ、羨ましい!ウチの班は、日焼けがやだからって無しになっちゃったんだよぉ。」
ホテルの部屋で、カイちゃんが他の班の女子と話しているのをボーッと眺める。
部屋は当然だけど男女別で、私の泊まっている部屋は、私とカイちゃんと野茂咲さん、そして別の班の女子が2人の計5人の部屋だ。
カイちゃんと私が仲良しなのはクラスの人達も薄々気付いているらしいので、以前よりも隠す度合いは低くなったとは言え、まだ堂々と雑談したりする気にはなれない。
よって、カイちゃんと2人きりにでもならない限り、私は基本やる事がなく暇なのだ。
「…海、かぁ…。」
◆◆
海だ。
それも、沖縄の透き通る宝石のような海だ。
毎日見ている東京湾の比ではない、白い砂浜とエメラルドグリーンの綺麗な海だ。
しかも、プライベートビーチとかいうやつなのか、周りに人は殆どいない。
想像以上に美しい光景に、思わず見惚れてしまっていた。
「おー、綺麗な海!早速着替えて泳ぎに行こっか!」
元気に飛び跳ねている野茂咲さんが、先陣を切ってはしゃいでいる。
カイちゃんも、私同様感動しているようだ。
新藤君はいつものポーカーフェイスかと思ったら、目を丸くして魅入っているみたい。
うーん、やはり美しいものは人の心を動かすってもんだ。
「凄いね野茂咲さん。よくこんな穴場スポット知ってたね?」
カイちゃんが、驚嘆しながら野茂咲さんにそう聞く。
そう、海水浴をするにあたって、この海岸に行こうと提案したのは、野茂咲さんなのだ。
「えへへ、凄いでしょ!実は、私のお母さんの実家が沖縄でね。
この近くに実家があって、前に一度だけここに連れて来て貰ったんだー!」
「そうだったの!?」
「へぇ、沖縄が実家って羨ましいな。」
新藤君が、本音かどうか知らんけど羨ましがってる。
確かに、沖縄が実家の人って勝ち組感あるよね。
つまり、野茂咲さんは勝ち組。
◆◆
更衣室は、海岸沿いの海の家にあった。
木造で結構な築年数が経っているみたいで、正直言ってボロい。
でも、人がいない静かで素敵なビーチを紹介して貰った手前、我が儘なんか言っちゃあお終いよ。
今、女子更衣室にいるのは、私とカイちゃんと野茂咲さんの3人。
だからもう、言っちゃってもいいだろう。
「カイちゃん。」
「え?白狐ちゃん?どしたの?」
服を脱ごうとしたカイちゃんが、突然私にニックネームで呼ばれて、びっくりしたのか動きが止まっている。
それはそうだろう、野茂咲さんという第三者がいる前で私がカイちゃん呼びするのは、今のが初めてなのだから。
「野茂咲さんは、私とカイちゃんの関係知ってるから、普段通りに話し掛けてもいいよ。」
「え、そうなの?やったー!」
カイちゃん、めっちゃ喜びながらハグしてきた。
うんうん、我慢させちゃってて悪かったなぁ。
「アハハハ、間近で2人のイチャラブを見れるなんて眼福眼福♪」
「イチャラブじゃないから!普通のお友達だから!」
一人で勝手に興奮し始めた野茂咲さんに、私が迅速にツッコむ。
出来れば他人には秘密にしておきたかったけど、それだとカイちゃんのストレスも溜まっちゃうからね。
どっちみち野茂咲さんにはバレてるんだし、明かしてしまってもいいだろうという私の判断だ。
「確かに今はまだ友情かもしれない。でも、いつかはその先にぶち進み、見事ゴールインしたいと思っている次第です。」
「世迷言を抜かすなッ!」
初めて人前でカイちゃんの頭を引っ叩く。
スパァンと、心地良い音が更衣室内に響いた。
「アッハハ、これはもう、2人の結婚式を見るまで死ねないねー。ウヘヘヘ。」
野茂咲さんが、本性を隠す気も無く涎ダラダラで瞳を輝かせている。
薄々気付いてはいたけど、コイツ変態だッ!
カイちゃんと同類じゃねーかッ!
ていうかこの人結婚式とか言ってるけど、カイちゃんが私の恋人になれるのは、あと99年後だぞ!
去年交わした2人の約束で、100年間私と一緒にいれたら恋人になるっていうのを、カイちゃんは未だに諦めていない。
つまり、私がカイちゃんと結婚するとしたら、野茂咲さんは最低でもあと99年は生きなくてはならない。
未来の日本で延命技術が発達でもしない限り、多分無理だろうなぁ。可哀想に。
そんなこんなで思ってた以上に雑談が盛り上がり、同時に着替えも終了したので外に出た。
まず私が着ているのは、上下黒色でフリルがたっぷり付いたフレアビキニ。
前にカイちゃんと水着を買いに行って、「白狐ちゃんにはこれが似合うと思うよぉ!ハァハァ!」と、興奮気味にオススメされたやつだ。
ま、私もこういう可愛い水着に憧れが無かったと言えば嘘になるかもだし?
カイちゃんの要求を大人しく呑んで、この水着をチョイスしたんだよ。
正直、気に入ってる。まあまあ可愛いし。
「白狐ちゃん可愛いいいィィィィッ!!
その見目麗しい白銀の髪と、対を為す黒い水着のコントラストが、超化学反応を起こしてケミストリーでッ!もう訳わかんないくらい可愛いッッ!!」
「あー、はいはい。言ってる意味はよく分からんけど、伝えたい事はよく分かった。」
「ぎゃわいいよおおォォォォォ!!」
「鬱陶しいわッ!」
スキンシップが解禁された所為で、情け容赦無く私に抱き付いてくるカイちゃん。
エスカレートしてほぼ鯖折り状態なので、例の如く頭を引っ叩いて正気に戻した。
改めて、カイちゃんの水着はシンプルな白い三角ビキニ。
シンプル故に、素材の良さが引き立つ。
ていうか、美人なカイちゃんは何着ても似合うわな。
同性の私が見ても、思わず見惚れちゃうような着こなしだ。流石は現役モデル。
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんの苦手な動物は?
「トゲアリトゲナシトゲハムシ。名前が言い難いんだよね。」
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