「この度は、私のワガママに付き合って頂き、本当に感謝している。
ありがとう!」
「ありがとう!」
あれから沖縄で散々遊ぶ事、1週間。
そろそろ地元に帰ろうとなった矢先に、帰りのフェリーの客室内で、ツジとレンちゃんにそう言われた。
ちょいと照れ臭い。
「えぇ、いやいや、そんな畏まらなくても。
私達だってめっちゃ楽しんでたし!」
「そうそう!むしろアタシがビュッフェ食べ尽くして迷惑掛けちゃったりもしたし!」
唐突に感謝の言葉を掛けられたからか、私とカイちゃんはつい遠慮してしまう。
「……それでも、元々私から沖縄に行きたいと頼んだんだ。
こうして感謝の意を示すのは、至極当然のことだよ。」
「ワタシも、2人には世話になった。
そもそも白狐と海良がいなきゃ、ああやってバカンスを楽しんだり、美味しい料理を食べる事も出来なかったからな。」
そう言い切る2人に対して、私達は微笑する。
「あぁ、うん、じゃあその感謝の気持ちを素直に受け止めるとしよう。
喜んで貰えて嬉しいよ。」
「アハハ、帰ったらお礼をさせてくれたまえ。」
「うん、期待しとくわ。」
ツジとレンちゃんからのお礼、か。
正直、何なのか想像もつかないな。
◆◆
そして、楽しい沖縄旅行から帰って来て、ちょうど1年ほどの期間が経過した、ある日の出来事だった。
「ん?ツジちゃんからメッセージだ。」
私の部屋でいつも通りカイちゃんとゲームを嗜んでいたら、私のスマホにメッセージの通知がきた。
ゲームを一時停止して、確認してみる。
「なんて?」
「えっと……『去年の沖縄旅行のお礼が用意出来たから、2人とも近いうちに来てくれると嬉しい。』だって。」
「お礼?……ああ、そう言えばそんな話もあったねー。」
「うん、去年の事なのに忘れてなかったなんて、あの2人も結構律儀だなぁ。」
というか、お礼を用意するのに1年の空白があったのは謎だな。
すぐに渡せない物なのか、最近になって思い出したのか。
まあ、お礼をくれるってんだから、あんま細かい事は気にしないでおこう。
「それじゃ、明日にでも行ってみるか?」
「イエーイ!賛成!」
◆◆
で、翌日。
私達は、ツジとレンちゃんの待つ群馬の保全シェルター前までやって来た。
今回は陸路ではなく、カイちゃん保有のVTOL機で飛んで来た。
随分前に保全シェルターの近くに発着場を作ったので、こうして気軽に来れるのだ。
「それにしても、あの2人からのお礼ってのが何なのか気になるな。」
「そうだねー!アタシも何故だかドキドキしてきたよ!」
期待半分、不安半分といった心持ちで、私達はハイテクな保全シェルターの隠し扉を開いた。
「やあやあ、待っていたよ。
歓迎するよ、2人とも。」
扉を開けるなりツジがすぐに出迎えてくれた。
その後方の廊下の奥から、レンちゃんが駆けてくるのが見える。
「ああ、お邪魔します。」
「おっじゃましまーす!」
「おー!白狐に海良!
2人のお礼を作る為に、ワタシ達かなり頑張ったんだぞ!」
「…うん?作る?」
レンちゃんの口から作るって動詞が出たって事は、お礼は手作りの品って事かな。
「おっとレンちゃん、あんまりネタバレになりそうな発言は控えてくれたまえよ。」
「……あ゛…………ごめん。」
心苦しそうに謝罪するレンちゃん。
手作りなのか……むしろますます分からなくなってきたぞ。
「えっと……それで、件のお礼ってのは結局何なの?」
「フッフッフ、そう焦らずとも、まずはついて来て欲しいな。
別の部屋に安置してあるんだ。」
「ふむ。」
謎のドヤ顔をしている2人に誘われて、私とカイちゃんは廊下の奥へと歩いて行ったのであった。
「さ、この部屋だ。」
「…作業場って書いてあるね。」
案内されたのは、長い廊下の両側に無数に並ぶ同じ作りの扉の一つだった。
扉に掛けられた木製プレートには、カイちゃんの言う通り〝作業場〟と文字が書かれている。
「そう、ここでずっと制作作業をしていたんだ。
どうぞ遠慮無く入ってくれ。」
「それじゃあ、遠慮無く。」
緊張で唾を呑みながら、ドアノブを捻って扉をガチャリと開いた。
「………そ、そんな馬鹿な……ッ!?」
作業場の中に広がっていたのは、私にとって信じ難い光景だった。
2人の言う〝お礼〟という物の正体は、すぐに分かった。
それは、作業場のど真ん中に堂々と置かれていた。
嫌でも目立ち、私の視界に無理矢理にでも入り込んでくるそれは、しかし私の脳がその侵入を拒み、現実から目を逸らすよう訴えかけてくる。
「どうだい?傑作だろう!」
「めっちゃ頑張ったんだぞ!」
「わあ!すごーい!ステキー!」
自慢げなツジとレンちゃんに、大喜びのカイちゃん。
その様子を後ろから見つめている私は、苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべている。
自分の表情なんて見えないけど、そういう顔をしてるだろうってのは容易に想像出来る。
「んん?どうしたんだい尾藤ちゃん?
何だか浮かない顔をしているね。」
「どうした白狐、体調悪いのか?
ここちょっと臭うから、それで気持ち悪くなったのか?」
「それはいけないな。
確かに、スプレー缶のシンナーの臭いが少し残ってるのかもね。
換気はバッチリしている筈なんだが。」
……いや、違う。
「違う!そうじゃないッ!
………なんで……なんで〝コレ〟なんだよッ!?」
コレと言うのは……
紛うことなき、私とカイちゃんの像だった。
いや、像と言うより、等身大フィギュアって表現した方が正しいのかもしれない。
そんなやたらクオリティーの高い私とカイちゃんのフィギュアが並んで立っているではないか!
しかも、2体とも沖縄の海で遊んだ時と同じ水着を着ている。
自分で言うのもなんだけど、その筋の人にはウケそうだ。
「シェルター内の図書館に、フィギュア制作について書かれた本があったからね。
それで得た知識を活かして作った、君達2人の等身大フィギュアだ。
この1年間、レンちゃんと一緒に頑張って作り続けて、先日ようやく完成したんだ!」
「うッ!?」
「ほら、かなり昔の話だけど、元アンチョビ教団の人達にお祭りに招かれた時、彼らが尾藤ちゃんの銅像を作っていただろう?
その時に尾藤ちゃんがえらく喜んでいたのを思い出してね。
これならイケる!と思ったんだよ!」
このフィギュアを目にした瞬間から、あのお祭りの時の記憶(トラウマ)は蘇っていた。
別に喜んでねーし!
恥ずかしがってたのを、喜んでいると誤解されてたんか!
「……あ、あぁ……ぐぅ……!」
言い返したい!
こんなの求めてなかったと、言って聞かせたい!
でも、そんなの無理だ。
ツジとレンちゃんの、このやりきった感満載の顔!
友人への恩を返す為に、長期間お礼の品を作っていた職人の顔!
そんな顔に、私のつまらないワガママで泥を塗るなんて、到底出来ない!
「……わ、わーうれしいなー!(棒)
いえにもってかえって、だいじにするね。ありがとう!(棒)」
なので、感謝して受け取る事にした。
「そうか!喜んでくれて何よりだ!
こちらも作った甲斐があったよ。」
「……。」
◆◆
結局帰宅してから、2人の力作のフィギュアは、2体とも私の家の玄関ホールに飾る事になった。
飾り終えて、カイちゃんと2人、そのフィギュアをまじまじと見てみる。
「…初めはビックリしたけど、よくよく見てみると悪くないな。
ってか、出来がマジでプロ並みなんだけど。」
フィギュアはいずれも細部まで凝りに凝った完成度となっていて、とても素人が作ったとは思えないレベルだ。
元々あの2人は器用だし、素質があったのかもな。
「良かった、白狐ちゃん少し困った顔してたし。」
「…あぁ、やっぱカイちゃんは気付いてたか。」
「うん、まあね。」
「でも、やっぱ嬉しさの方が全然勝つわ。
2人とも、私達の事を想って作ってくれたんだし、その気持ちだけでもめっちゃ嬉しいもんだな。」
「だねー!同感だよ!」
これからまだまだ続く、長い長い時を、私とカイちゃん、そしてツジとレンちゃん。
いつまでも4人仲良くやっていけたらなと思う、そんな1日だった。
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんが自分に課してるルールは?
「YES白狐ちゃん!ほどほどにタッチ!
白狐ちゃんが困らない程度にお触りする事だね!」
……ほどほどじゃない時もあるけどな。
「そういう時はご愛嬌!」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!