未来というのは、どのように転ぶものか全くもって予測不可能だ。
長く生きている私はつくづく、それを実感する。
「ん〜、今日は良い天気で何よりだ。」
ある日の早朝、目を覚ました私はベッドから起き上がり、パンイチのまま自室の窓から外の景色を見渡した。
何年経っても変わらない、いつもの町の景色。
ただし、それは不変となった町にのみ限った話。
遠くまで目を凝らすと、町と外との境界から途端に景色が激変しているのがすぐ分かる。
背の高さも幹の太さもビル並みに巨大な樹木が、地平の先まで鬱蒼と生い茂っているのだ。
「よし、今日はカイちゃんが来るよりも早く起きれたぞ。」
珍しく早起きに成功した私は、着替えもせずに上機嫌で下の階へと降りて行った。
「白狐ちゃーん!おはぐはァッ!?」
階段を降りた瞬間、玄関の扉を勢いよく開け放ってきたカイちゃんが、入ると同時に鼻血を噴き出してうつ伏せで倒れた。
「ん、おはよう。
なに?今日は随分とテンション高いね。キモいよ。」
「アハハ……朝イチから白狐ちゃんの裸は、些か刺激が強いな〜と思いまして。」
玄関脇の下駄箱に手を掛けながら起き上がるカイちゃんに、私は怪訝そうな表情を向ける。
「いや、私の裸なんて普段から見慣れてんでしょ。」
「そうなんだけど、なんかこう……朝イチで改めて正面から目にすると何というか、扇状的で妖艶でめっちゃえっちですハイ!」
「あーはいはい、朝から欲情してる肉女はほっといて、さっさと朝ご飯でも食べよっと。」
「あひィん!どうか汚い肉女であるアタシをオカズにして下さいィ!」
「うっさいわ!飯が不味くなるから正座してろ!」
「喜んでッ!」
普段通り、一応愛している彼女に罵声を浴びせる私は、喜んでいるカイちゃんを尻目にキッチンへと向かう。
「朝ご飯食べる?」
「もっちろん!」
今日の朝食は、シンプルに白米と目玉焼き、そしてレタスとトマトのサラダ。
テーブルを挟み、私の正面に座るカイちゃんは、それを心底美味しそうに食べている。
いつもの事ながら、ご飯の作り甲斐のある女だ。
「それにしても白狐ちゃん、今日の朝ご飯は随分とシンプルだね?」
ツッコまれた。
「不満?」
「いや全然!シンプルゆえに超美味しい!」
この子の私への褒め言葉は、全部お世辞じゃなく本音だというのは分かる。
だから私も素直に嬉しいし、また次も作ってやろうという気にもなる。
さて、そんな惚気話はさておいて、もっと重要な本題に入るとしよう。
「ま、朝ご飯がシンプルなのは、今日これからのイベントの為だよ。」
「そうだねー!ピクニック楽しみだねー!」
「ピクニック兼、新たな食糧探しの冒険だな。
その為、今日の朝食は簡単な物で済ませたんだよ。
これからめっちゃクオリティーの高いお弁当作るんだからな。」
私のその言葉を聞いて、カイちゃんの瞳がより一層輝いた。
「白狐ちゃんのッ!お弁当ッ!
楽しみ過ぎるー!」
「フッフッフ、楽しみにしておけ。
これから腕に縒りをかけて最高の逸品を作ってやるからな。」
「わはーい!」
どんなお弁当を作るか既に考えてあるし、食材も用意してあるので、あとは作るだけなのだ。
さて、腕が鳴るぞ!
◆◆
「ジャングルの探索、久々で胸が高鳴るな。」
「うん!いつ来てもロマンに溢れてるね。」
私達は今、町の外のジャングルの入り口に立っている。
カイちゃんは動きやすいサファリジャケットを着ていて、私はいつものパーカーとキュロットパンツ。
持ち物はお弁当に加えて、ロープやナイフなんかのサバイバルセットも一応リュックに詰めて持って来ている。
そんなに遠出するつもりも無いけど、念の為の装備だ。
ジャングルってのは未踏の地。
未踏の地とは、すなわちロマン!
ロマン溢れる地には、必ず危険が伴うものなのだ。
ピクニックに行くだけとはいえ、油断するのは褒められたものじゃない。
ジャングルをほんの少し進んだだけでも、様々な発見があって非常に楽しい。
この長い年月の間に、世界は大きく変わったものだ。
まず、人類が滅んだ。
歴史は繰り返さないが、韻を踏むと昔の人は言ったが、全くもってその通りである。
アンチョビ教団解体後はしばらく平和だったものの、結局数千年後に現れた新手のカルト団体が力を付けて、あっという間に誰もが手を付けられないような一大勢力と化してしまった。
世界中で大戦争が巻き起こり、一時期は私達の町にも戦火が及びそうになったので、ツジとレンちゃんの保全シェルターに、事態が落ち着くまでしばらく匿って貰ったりもしたもんだ。
全く、私達は誰にも犯されない平穏を謳歌したいだけだというのに、どうしてこんなにも邪魔ばかり入るというんだ。
まあ、そんな戦争で世界人口は加速度的に減っていき、ついに私達以外の人類は滅んでしまった。
奇跡的に生き残りがいたとしても、流石にこんなに年月が経っていればもう全滅しているだろう。
終焉というのは呆気ないもんだ。
人類が居なくなった事で、当然地球上の生態系は、それに合わせてどんどん変遷していった。
今私達が足を踏み入れているこのジャングルも良い例だ。
汚染地帯は地球の自浄作用でとっくの昔に消えて無くなり、大自然そのものが縄張りをがっつり拡大していった。
それを止める人類は、もう居ないのだから。
「しっかし、未開のジャングルとはいえ、この境界線付近は何度も来てるからなぁ。
そうそう新しい発見なんてないぞ?」
「うーん、確かにそうだねー。」
私達の町とジャングルの境目の辺りは、比較的安全が確認されているので、普段からよく来るのだ。
「そうだ、たまには〝アイツら〟の集落にでも行ってみない?」
「…あ、いいね!白狐ちゃんナイスアイディア!
確か、〝道路〟に沿って行けば良かったんだよね。」
「そうだな。
結構歩くことになるだろうけど、一時的に体力を不変にすれば問題無いか。
最低でも、夕方までには帰って来れるんじゃないかな。」
私達は一旦引き返し、別の入り口からジャングルに入ることにした。
◆◆
別の入り口、通称〝道路〟。
その名の通り、コンクリートで舗装された道路が、ジャングルを貫いて遥か先へと続いている。
どこまで続いているのかと言うとズバリ、ツジとレンちゃんの住む群馬県のシェルターまで繋がっている。
そう、この道路はお国が公共事業で作った道路なんかじゃない、私達が長い期間をかけて作り上げた、お手製の道路なのだ!
いくらスーパーキャンピングカーが悪路に強いとはいえ、これ程までに屈強なジャングル相手では流石に分が悪い。
という訳で、確か数千年前だったか……
兎に角、移動における不便さを解消する為に、私達4人の共同作業で頑張って作ったのだ。
血と汗と涙の結晶が、この道路だ。
普段は働かない主義の私でも、自分の生活を向上させる為なら話は変わってくるってもんだ。
多分、これで一生分は働いた。
「さて、そんじゃ行きますか。」
「オッケー!」
素人4人で作った道路だから、勿論ちゃんとした道路に比べたら粗はいくらでも出てくる。
それでも、スーパーキャンピングカーなら何の問題もなく走れる。
ま、今回はそんな道路を徒歩で移動する訳だが。
今回の目的地は、とある生物達の暮らしている集落。
地球から消え失せた人類に取って代わった、新たな地球の支配者となり得る、知的生命体達だ。
彼らを初めて発見した時は、私もカイちゃんも目が飛び出るくらい驚いた。
この長い人生の中でも、トップクラスにランクインする程、ビックリした瞬間だ。
さて、楽しい楽しいピクニックになりそうだぞ。
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんが好きな想像上の生物は?
「龍!ロマンの塊!」
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