「うーん……」
未開の惑星に不時着して、あの謎の地下帝国(仮)を発見してから、早くも1ヶ月が経過しようとしていたある日の夜、私は一人、パンイチのまま自室でテレビゲームをしていた。
もう深夜で、外では虫の鳴き声が響き、カイちゃんも熟睡してる筈の時間帯である。
私が夜更かししてゲームをするのはいつもの事だけど、今日はどうも気分が乗らない。
「……これ、本当に解読できんのかな?」
進行中のゲームをポーズ画面にして一時停止し、テーブルの上に置いてある紙束に手を伸ばす。
地下帝国(仮)で回収して来た資料のコピーだ。
原本は今、ツジが所持している。
そしてそのツジは、今もこの謎文字の解読に悪戦苦闘しているのだ。
彼女はこれまでの55億年の間に、保全シェルターに保管されていた全ての書物を読破してしまった。
最早、人類の叡智を全て詰め込んだアルティメットインテリジェンス・オブ・ライブラリーヒューマン(本人がそう呼んでくれって言ってた)と化したツジですら、ほぼお手上げ状態になっている。
勿論、私含む他3人なんかじゃ、相手にすらならない。
「文字の意味も法則性も、何もかもちんぷんかんぷんだもんなぁ。」
ゲームを終了して、資料片手にベッドの上で寝転がる。
まさかここまで苦戦するとは。
「いや、かつての考古学者の人達だって、古代文字を解読するのに何年も掛かってた筈なんだ。
まだまだこれからだろ。」
流石に眠くなってきたので、資料をテーブルに戻してゆっくりと眠りについた。
◆◆
「おや、久し振りだね。」
夢の中、今一番会いたかった〝アイツ〟が出て来た。
「おおーッ!やっと会えたー!」
「え?何そのリアクション?
珍し過ぎる反応に戸惑いを隠せないよ。」
「そんな事言ってさー、分かってる癖にー!」
テンションの上がってる私は、アイツこと影人間の脇腹らしき部位を肘で突いてやった。
「……まあね。
ワタクシも、分かってて顔を出したんだよ。」
「ほほう、そっちこそ珍しく空気読めてるじゃん。」
そんな軽口を交えつつ、早速私は本題に入った。
「それで、例のあの星は一体何なのさ?」
単刀直入に聞いてみた。
「そうだね、折角あの星まで来て貰った訳だし、一つお使いを頼まれてくれないかな?」
「お使い?」
「そう、簡単なお使いさ。
君達が『地下帝国(仮)』と呼んでいるあの場所の、例の研究施設には辿り着いたんだろう?」
「研究施設って………あの、お前みたいなのがいっぱい居た、あの場所か?」
「そう、あの場所に隠された隠し部屋を見つけて欲しい。
そこから辿り着ける深層にあるものを、君に解放して欲しいんだ。」
「え?はぁッ!?」
ちょっと待て、話に追いつけない。
あの場所に、更に隠し部屋があるってのか!?
「いやいやでもさ、隠し部屋なんてどこにあるの?」
この1ヶ月、手掛かりを求めてあの部屋は徹底的に探索したつもりだったけど、まだ足りなかったって事なのか?
「そうだね、口頭で説明するのは手間だから、脳内に直接情報を送っておくね。」
「え?脳内に直接ッ!?」
「うん、朝起きてあの施設に行ってごらん。
自然と隠し部屋の行き方が分かる筈だから。」
「ええー?何それ怖い。」
なんだよコイツ。
そんな事も出来るのかよ。
「えっと…脳内に直接はなんか怖いから、出来れば言葉での説明をお願いしようかなー、なんて……」
「それじゃ、任せたよ。
ワタクシの運命は、君に掛かっているんだから。」
「え?はあ?おいちょっと待ってスルーすんなって!
つーかお前の運命って何だよ!?
まるで意味が分からんぞ!」
意味深過ぎる台詞を言い残して、影人間は霧散するように消えてしまった。
「なんて奴だ!
言いたいことがあるならはっきり言えばいいのに!」
まあでもいっか。
どうせ明日になれば分かるんだし。
と、楽天的に考えながら、私は夢の中の宇宙空間で寝転がりながら目が覚めるのを待った。
◆◆
「ええーッ!?
例の影人間の人が、夢に出たのー!?」
翌朝、私の部屋にいつも通りカイちゃんがやって来たので、夢での出来事を一応教えた。
「ああ、うん。
カイちゃんの予想通り、アイツはあの地下帝国(仮)の関係者らしい。」
「やっぱり!」
「で、あの地下施設にまだ未発見の隠し部屋があるから、そこに行けってさ。
隠し部屋の場所は、私の脳内に直接送ったらしい。」
「脳内に直接ッ!?」
そう、脳内に直接情報を送られたらしいんだけど、今のところは何の変化もない。
影人間の言った通り、現地に着けば何か閃くのだろうか?
少し不安になってきた。
「まあいいや。
ツジとレンちゃんには連絡済みだから、二人と合流次第探索に向かおうか。」
「イエーイ!」
この1ヶ月、何の進展も無かった地下帝国(仮)の探索が、ここにきて大きく飛躍する可能性が見えてきた。
多少の不安はあるけど、それ以上にドキドキワクワクで胸が高鳴っている。
「よし、今日こそあの地下施設の謎を解くぞ!」
◆◆
その後、ツジ達とも無事に合流して、合計4人で地下帝国(仮)へと乗り込んで行った。
「白狐ちゃん、何か変わった事はある?」
「いや、まだ何も無いな。」
カイちゃんが、心配そうに尋ねてくる。
未だ得体の知れない存在と接触している私の事を、内心不安に思っているのだろう。
今は地下帝国(仮)の入り口部分、つまりまだ廃墟の中だ。
ここでも今のところ、何も異変は起こらない。
「やはり、一番奥まで進んでみる必要がありそうだね。
なに、この1ヶ月間何度も通った慣れた道だ。
足元と尾藤ちゃんの変化に気を配りつつ、探索するとしよう!」
「うん!」
ツジにそう言われるがまま、私達は誘われるかのように地下帝国(仮)の最奥へ向けて歩いて行った。
◆◆
案の定、異変は地下施設に着いてから起こった。
あの不変力の影響を受けてそうな綺麗な空間に踏み込んだ途端、私の意識は妙な感覚に陥った。
「あ、何だこの感じ。」
「白狐ちゃん、どうかしたの?」
「ああ、うん。
なんて言えばいいのかな。
なんかこうさ……隠し部屋への入り方が分かったような気がする。」
あまりにも不思議な感覚だった。
入り方なんて知ってる訳ないのに、何故か直感的に知っているような気がするのだ。
あくまでも、〝気がする〟レベルだけど。
「ええッ!?本当かい?」
私以外の3人は、眉を顰めて驚いている様子だ。
ハハ……そりゃそんなリアクションにもなりますわな。
「えっと、取り敢えず私に着いてきて。
多分、この無駄に広い部屋の一番奥の方に、鍵になる場所がある……と思うから。」
「……了解。」
まあ、今頼れる情報は、私の夢くらいしか無いからな。
どんなに疑わしいとしても、皆はついてくるしかないのだ。
そんなこんなで、私達は部屋の角の辺りまでやって来た。
見たところ、他の場所と変わらず影人間が入った巨大カプセルと、パソコンみたいな機械が並んでいる一角に過ぎない。
私自身、こんな所に本当に隠し部屋の入り口があるのかという不安に思う気持ちと、逆にこの辺りに間違いなく存在するという確信めいた2つの気持ちが混在していて、なんとも言えない。
「ん、多分この端末だ。」
私は、手近にあった端末を躊躇無く操作する。
操作方法なんて知らないのに、何故かスラスラと操作している。
キモいな。
「白狐ちゃん凄い。」
「ええと、この画面を表示して、表示される文字の左から4つ目をしばらくタッチし続ける。
そうするとパスワード入力画面が出てくるから、ほいほいっと。」
軽快な手つきでキーボードみたいな機械を操作する。
呆気に取られている3人をよそに、機械の画面から奇妙な機械音が鳴り、部屋のどこかで何かが動くような音がした。
「さあ、これで多分入り口が開いた筈だ。
行ってみよう。」
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんの新しい趣味は?
「最近は時々釣りをしてるなぁ。
ま、ウチの周りの魚は不変力がかかってて食べれないから、全部リリースするけど。」
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