「ここでアタシ達がパンツを回収して帰ったとしても、また犯人が懲りずに盗みに来たら意味無いからね。
根本的に犯人をどうにかしないと、この問題は解決しないと思うよ。」
まあ、そりゃそうだ。
こればっかりはカイちゃんの言う通りだ。
「それじゃ、犯人が戻って来るまでここで待機して、戻って来たらカイちゃんがボコボコにしてやってくれ。
もうパンツを見るだけで恐怖で失禁するくらい、徹底的にぶちのめしてやってくれ。」
「そ、それはやり過ぎだよ…。
話し合いが通じそうな相手だったら、話し合いで解決しよう?」
「フン、人のパンツを片っ端から強奪してくような野蛮生物が、大人しく人の話に耳を傾けるとは思えんがな。」
話し合いなんて、殆ど期待していない。
そもそも人類が滅亡して途方もない時間が経過しているのに、日本語が通じる訳が無い。
「まあ、その時はその時だよ。
話が通じなかったら、肉体言語で説得するまで!」
そう言いながら、ファイティングポーズを取りシャドーボクシングを始める気合十分なカイちゃん。
「出た。どんな世界のどんな時代でも絶対に通じる最強の共通言語!その名もカイちゃんの腕力!」
カイちゃんが負ける姿は、正直想像出来ない。
でも、相手は恐らく大自然の申し子だろうしなー。
凶暴な野生動物相手に、カイちゃんの腕力がどこまで通用するのやら。
「頑張れカイちゃん!」
「頑張るアタシ!」
そして10分後。
「ギー!ギギー!」
「なんだなんだ!?」
巣の中で待機していたら、突然外から奇声が聞こえた。
明らかに人間のものではない、猿の叫び声のような鳴き声で、私とカイちゃんはすぐさま巣から飛び出した。
「ギギギギ!ギー!」
外では、見張り役だったジャイアント(略)コオロギが、猿っぽい動物と枝の上で睨み合いを繰り広げていた。
ゴリラと猿を足して2で割ったみたいな見た目で、筋肉質な肉体が何とも手強そうだ。
まさか、こいつが犯人なのか?
こんな奴が私の部屋に侵入してたなんて、改めて考えるとめっちゃ怖いな。
「白狐ちゃん、下がってて!」
「あ、うん。」
カイちゃんに言われた通り、私は一歩後退する。
代わりにカイちゃんが前に出て、対峙していたジャイアント(略)コオロギと並んで大猿と睨み合った。
「ギギギー!ギギー!」
大猿は興奮していて、とても穏便に事を運べそうもない。
さて、どうしたもんか。
カイちゃんも、いつでも応戦出来るように身構えている。
「ギギー!………ギギッ!?」
ふと、荒れていた大猿の様子に異変が起きる。
カイちゃんとジャイアント(略)コオロギを注視していた大猿の視線が、不意に私の方へと向けられたのだ。
「え、何!?」
「ギッギッギー!ギギギーッ!」
「いや、何なの!?怖ッ!」
大猿は私を見て、より一層興奮して吠え猛っている。
いやいや、意味分かんないし怖いわ!
「白狐ちゃんが狙い……なのかな?」
「勘弁してくれ。
って、よく考えたらパンツ盗まれまくってる訳だし、私が狙われても不思議じゃないか。」
しかし、この状態じゃどうしようもないな。
どうにかして、この大猿を鎮められる方法があれば良いんだが。
「カイちゃん、まずはあの猿を落ち着かせないと!」
「オッケー任せて!」
てっきり肉体言語で語り合うのかと思ったら、カイちゃんは何故かスマホを取り出し、何かの画面を大猿に見せた。
「これ見て!」
「…ギギ?」
どういう訳か、大猿はスマホの画面に興味を持ち、一定の距離を保ちながらそちらに注視している。
「ギー!ギー!」
少ししたら、大猿は喜んでるみたいに胸をドラミングし出した。
一体カイちゃんは何を見せたんだ。
……いや、大体想像はつくか。
「念の為に聞くけどカイちゃん、何の画像見せたの?」
「パンツ姿の白狐ちゃんの画像!」
「おいこら。」
もうツッコミも適当になる。
これ以上この変態を気にしてもキリが無いからな。
「でも、なんでコイツは私のパンツなんか気に入ってんだ?」
「理由、聞いてみよっか?」
「は?どうやって?」
「先生、通訳お願いします。」
カイちゃんが頼んだのは、ジャイアント(略)コオロギだった。
いやまあ、確かにこの子は他の虫なんかと会話出来るっぽいけど、この大猿とも可能なのか?
一方、ジャイアント(略)コオロギは、自信有り気な感じで前に出た。
任せんしゃいと、言わんばかりに。
「……ゴクリ。」
息を呑んで見守っていたら、ジャイアント(略)コオロギが大猿に何かを訴えるかのように、二本の触覚をブンブンと不規則に振り回した。
この動きは確か、他の生物と交信している時のものだ。
原理はよく分からないけど。
「ギッギギ!ギギギ!」
大猿も意外と理性的にジャイアント(略)コオロギと会話らしき事をしている。
少し待っていたら、会話がひと段落ついたのか、ジャイアント(略)コオロギが私達の元へ戻ってきた。
そして、今度はカイちゃんに向かって触角を振り回している。
「うんうん、ふむふむ、なーるほど!」
「え!?カイちゃん分かるの!?」
「まあ、少しならね。簡単な意思疎通程度なら。」
嘘だろ?
いくらジャイアント(略)コオロギが賢いとはいえ、遂に人間であるカイちゃんと話せるようになったってのか!?
「ど、どうやって?」
「触角の動きを、そのまま日本語の五十音に当て嵌められるように、前に教育しといたの。
だから、あのお猿さんと話してたのとは別種のパターンの会話だよ。」
「馬鹿な……そんなのいつの間に!」
「この子がアタシの家に遊びに来た時、ちょこっとね。」
そりゃ、確かにジャイアント(略)コオロギは、たまに私の家から勝手にいなくなってる時はあったけども。
てっきり外に散歩にでも行ってるのかと思ってたけど、まさかカイちゃんの家に遊びに行っていたとは。
「で、そいつは結局何て言ってるんだ?」
「えっとね、まずこのお猿さん自体は、別に白狐ちゃんのパンツに興味がある訳じゃないみたい。」
は?
「はああぁぁ!?
じゃあ何か、私は特に興味を持たれてる訳でもないのに、大事なパンツを全部盗まれたってのか!?」
ますます意味が分からん!
なんじゃそれは!
「お、落ち着いて白狐ちゃん。
確かにこのお猿さんは興味無いけど、重要なのはそっちじゃないの!
お猿さんの子供なの!」
「……子供、だと?」
子持ちなのかよコイツ!
「うん、このお猿さんは三児のお母さんらしいんだけど…」
「待った待った……え?なに?
コイツ母親なの?いよいよパンツ盗んだ意味が分からんのだけど。」
「そうだよね。
だけど、白狐ちゃんのパンツに興味を持ったのが、その子供達って言ったら、どうする?」
「……どうするって、お前…」
どうリアクションすればいいのか分からないんだが?
「以前、アタシ達の町にお猿さんと子供達がこっそり迷い込んできた事があったらしくて、その時にパンツ一丁のまま自宅の庭で日光浴してる白狐ちゃんを目撃したんだって。」
「おいマジか。」
「それで、お猿さんの子供達が発じょ…」
「やめろ!その先は言わんでいい!」
危ない危ない。
身の毛もよだつタブーに触れる所だった。
「…コホン。兎に角、子供達が白狐ちゃんのパンツをえらく気に入っちゃったらしくて、お母さん猿が子供達の為に、忍び込んで拝借したんだって。」
「だからって、根こそぎ持ってくなよ。
加減を知れ。」
「でも、直接パンツに触れさせるのは子供達の教育上悪いから、ああやって飾るだけにしたらしいよ。」
「変な所で妙な倫理観を出してくるな!
てかそもそも、盗みに入ってる時点で子供の教育に悪いからな!」
「ギギギギー!」
「自然界では盗むのは一般教養、だって。」
「…考えうる最悪の形で自然界の厳しさを知ってしまった。」
これからは、下着は全部鍵付きのタンスに入れようと決意した一日だった。
あ、ちゃんと下着は全部無事に取り返したからな!
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんが好きな祝日は?
「海の日かな。これから夏休みって感じで好きだった。」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!