「ん?おやおやレンちゃんおかえり。
ははぁ、少し狩りに出掛けたと思ったら、まさか新しいお友達を2人も作っていたとは。
君は本当に抜け目ない子だねぇ。」
此方に背を向けて座っていた謎の人物が、石槍の少女に連行されているのに気付き、立ち上がって大仰な喋り方でそう言ってきた。
石槍の少女の名前はどうやら、〝レンちゃん〟というらしい。
「…こいつら、ツジ姉の事を背後から襲おうとしてた。
どうする?殺す?」
冷淡な口調で、ストレートに物騒な台詞を吐き出すレンちゃんとやら。
不変力が無かったら、今頃私は縮み上がってビビり倒していただろう。
てか、さっき敵意が無い事を説明した筈なのに、全然信用されてなかったみたいだ。
「こら、可憐な少女2人捕まえて、いきなりそれは無いだろう。
見たところ非武装のようだし、是非歓迎しようじゃないか。」
「……………チッ。」
ツジ姉と呼ばれた人物は、レンちゃんとは正反対で愛想が良く、慇懃な態度を一貫している。
見たところ中性的な喋り方と見た目だけど、カイちゃんばりの胸の膨らみから女性である事が伺える。
首筋まで伸びた栗色の髪を右側頭部で纏めたサイドテールの髪。
服装もレンちゃんとは対照的で、縦縞のセーターとジーンズを履いたうえに白衣を羽織るという、普通にシャレオツな格好をしていなさる。
ていうか今、レンちゃん思いっきり舌打ちしたよな?
本当、態度の悪い子だ。そんなに私達が気に入らないのか。
「アタシ達は、貴女達に危害を加えるつもりは無いよ。
この辺りからラジオの電波が発信されてるのに気付いたから、見に来てみただけ。」
「…ほほう?」
ツジはカイちゃんの言葉に興味を示したようだ。
「そうだね、立ち話もなんだし、あの木の所まで来て貰ってもいいかな?
腰を落ち着けて、ゆっくりと話し合おうじゃないか。
レンちゃん、予備の椅子を用意してきてくれるかな?」
「……………分かった。」
ツジが指し示したのは、つい先程まで彼女が座っていた場所にある巨木の根元だった。
そして、私達の分の椅子をどこかに取りに行ったレンちゃんは、途轍もなく不機嫌そうだった。
◆◆
「悪いね、木製の椅子は生憎、私とレンちゃんの分しかないんだ。
君達にはそれで我慢して貰っても構わないかな?」
「うん、全然大丈夫だよ。」
レンちゃんが持って来た椅子は、ごくごく普通のパイプ椅子だった。
こんな物、一体どこから持って来たんだ?
まさか、その辺の建物の廃墟の中とか?
いや、その割には随分と状態が綺麗だ。
まるで新品のように錆や汚れが殆ど無くて、廃墟から持って来たとは考えづらい。
「さて、まずは君達からの疑問に答えるとしようか。
我々からの質問は、後の楽しみに取っておきたいからね。」
木製の長テーブルを挟むように、私の正面にレンちゃん、カイちゃんの正面にツジといった構図で座っている。
ツジは優雅な所作で腰掛けているのに対して、レンちゃんはやはりと言うか警戒心丸出しで、前のめりに私達を睨め付けている。
「質問の前に、お互いに自己紹介しよっか。
アタシは山岸海良。此方の白狐ちゃんの恋人で、一緒に暮らしてます!」
いきなり交際してるのをカミングアウトしおった。
「…あぁ、どうも、尾藤白狐です。」
ツジとレンちゃんの前で初めて口を開いた私だけど、吃るような感じの自己紹介になってしまい後悔する。
「ほう、2人は好き合っているのか。
それは実に素晴らしいね!」
「……ッ!」
私達を祝福してくれるツジに、恋人というワードにピクっと若干の反応を示したレンちゃん。
ふむ、どういう事だ?
「では、今度は此方が自己紹介する番だね。
いや、本当はもっと早くするべきなのに、遅れてしまって申し訳ない。」
ツジは、悪びれているのかそうじゃないのかよく分からない笑顔を浮かべながら、自己紹介に繋げる。
「コホン……ではまず私からの自己紹介だが、姓は京終、名は辻音。生まれは日の本最後の楽園、群馬大山林のど真ん中。
まあ気軽にツジ姉とでも呼んでくれ。」
「っ!ダメッ!」
ツジのやたら大袈裟極まる自己紹介の直後、何故かレンちゃんがいきなり激昂して叫んだ。
「…どうしたんだい、レンちゃん?」
ツジにとっても予想外だったのか、目をパチクリとさせている。
一方レンちゃんは、失言したかのようにハッとなり、顔面を紅潮させていた。
「…な、なんでもない。」
そのままレンちゃんは顔を俯かせてしまった。
いや、分かりやすッ!
あれか、ツジ姉と呼んでいいのは自分だけってやつか!
しかもここまで恥ずかしそうにするって事は、完全にツジにお熱じゃん!
鈍感な私でも分かるぞ!
カイちゃんの方をチラリと見たら、レンちゃんの様子を見てニマニマと笑っていた。
うん、その気持ち何となく分かるわ。
レンちゃん怖いから、本人には直接言えないけど。
「まあ、気を取り直して…
此方の目付きの悪いチビっ子が、上木戸 蓮香、通称レンちゃんだ。
お互いに仲良くしてあげてくれ。」
「……よろしく。」
「よろしくね、レンちゃん。」
私とカイちゃんはそれぞれ挨拶するも…
「…………フン。」
見事にそっぽを向かれてしまった。
仲良しであろうツジの仲介があっても、私達には微塵も心を開いてくれるつもりは無いらしい。
「アハハ、お互いに親睦を深めたところで、まずは君達の疑問に答えようじゃないか。
さあ、何なりと質問したまえ。」
親睦なんて1ミリも深まってない気がするのに、ツジは大型犬の突進でも受け止めるかのように、ニコニコ笑いながら両手を広げて質問されるのを待っている。
こんな時代なのに、随分と人生を楽しんでそうな人だ。
「それじゃあ聞くけど、例のラジオの電波は2人が発信してたの?」
「うん、いかにも。
資料を読み漁って、ようやっとガラクタから作り上げたポンコツだと思っていたが、予想以上に出来が良かったみたいだね。」
「どうしてラジオを?」
「作ったのかって?
いや何、大した理由は無いよ。
作れそうだったから作っただけさ。
どうせリスナー0人の飯事感覚だったけど、聴いてた人がいたなんて思ってもみなかった。」
「殆どノイズだらけで、内容は聞き取れなかったけどね。」
「それでも大成功だ!こうして我々と君達を引き合わせてくれた!
これはどう考えても運命だろう!」
ツジが立ち上がり、テーブルの上に添えてあったカイちゃんの両手に、己の手のひらをそっと重ねた。
この行為に対し、私とレンちゃんはムッとする。
初めてこの子と気が合ったと思う。
「おっと失礼、恋人の前で不躾な事をしてしまったね。許してくれ。」
苦笑いするカイちゃんを見て察したのか、ツジはすぐに手を離した。
マイペースなように見えて、多少は空気を読む事も出来るのかな。
「…じゃあ、お詫びって事でもう一つ質問に答えてくれない?」
カイちゃんにばかり話を進ませるのも悪いので、人見知りな私もここから参加する事にした。
「おや、構わないとも。
君の声も聞きたかったんだ、遠慮しないでジャンジャン聞いてくれ。」
いきなり口を開いた私に臆するどころか、余計に機嫌が良くなったみたいだ。
「ツジさんとレンちゃんは、普段どこで暮らしてるの?
もしかして、この近くに集落みたいなのがあったりとか?」
まさか、この木の下で暮らしてる訳じゃないだろう。
妖精の類じゃあるまいに。
「……そうだね、確かにあるよ。
だいぶ昔に、滅んじゃったけどね。」
途端、場の空気が重くなった。
直前まで明るかったツジも、殺気満々だったレンちゃんでさえも、僅かに表情を暗くしている。
…しまったな、この話題は地雷だったか?
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんが好きな防具は?
「アタシは武者鎧派かなー。日本古来のやつ。」
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