「……な、なんてこった!」
「…………凄い!こんなに沢山の人、初めて見た。」
お祭り当日となり、スーパーキャンピングカーに乗って元アンチョビ教団本部のある街へとやって来た。
ここに来たのは初めて来た6年前以来だけど、お祭りというのを加味しても、明らかに活気が段違いに高まっていた。
予算の都合上か、ドロテーアちゃんの意向なのか、派手な飾り付けや華美な演出なんてのはあんまり無さそうだ。
どうにも質素な雰囲気は拭えないけど、それでもこの賑わいは相当なものだ。
一緒に連れて来たツジとレンちゃんは、すっかりお祭りの空気に魅了されている。
…まあ、私とカイちゃんも、それなりにウズウズしてはいるんだが。
「おお!あっちには出店があるみたいだぞ!」
「…や、焼きそば!」
「ちょいちょい、落ち着けって。」
興奮して今にも駆け出して行ってしまいそうなツジとレンちゃんを止める。
「…す、済まない。私とした事が、少々冷静さを欠いていたようだ。」
「うぅ…」
ツジとレンちゃん、反省。
「この人混みだから、ちょっと目を離しただけで迷子になっちゃいそうだからな。
そうだ、もし迷子になったら、あの銅像の前に集合………ん?」
ふと目についた手頃な銅像に集まるよう提案した私だけど、その銅像を注視したら、気付きたくなかった事実に気付いてしまった。
「あの銅像、私じゃんッ!?」
「あ、隣にアタシのもあるねー。」
なんてこった!
あんな物が作られてたなんて、聞いてないぞ!
両手を腰に当てて、偉そうにドヤ顔してるポーズの私の隣に、にこやかに手を挙げているポーズのカイちゃんが立っている。
バカでかい銅像として!
一番目立つ街の中央広場に!
しかも、ガチの神様が纏うような天衣的な物を身に纏っていて、かなり露出度が高い。
いやマジで何なんだこれは!
新手の公開処刑かッ!?
「ハハハハ、凄いじゃないか2人とも!
アンチョビ教団での話は聞いたけど、まさかこんなに崇め奉られているなんて!
なんて立派な銅像なんだ!羨ましいよ!」
「銅像は凄い!ガチの偉人だ!」
うん、ツジとレンちゃんに悪気は無いのは分かる。
2人とも、心から称賛してくれている。
でもこの状況じゃ、ただ煽られてるようにしか聞こえないんだよッ!
「うぐ…くそぉ……恥ずかし過ぎる………今すぐ帰りたい…」
「やったね白狐ちゃん!アタシ達人気者だよ!」
「うるせー馬鹿!こんな事になってるって知ってたら来なかったわボケぇ!」
私の魂の叫びが、更なる災禍を呼び込んだ。
大声に反応して、周囲の人達の注目を集めてしまったのだ。
「おいおい、あの子ってまさか、伝説の海底4000マイルの海神様じゃないのか?」
「銅像とそっくり!?そんなまさか!」
「着てる服は浴衣だけど、薄っすらと神のオーラを感じる…!
私には分かる!」
「やっば神様めっちゃ可愛いんですけど!デュフフ!」
いやいや勘弁してくれって!
なんか言われたい放題されてるし。
最悪だ…こんな悪目立ちは、私が最も苦手なやつだ。
「…び、白狐ちゃん大丈夫?顔色悪いよ?
あっちのベンチで休もっか?」
流石に私の様子を察したカイちゃんが、気を遣ってくれた。
ツジとレンちゃんも心配そうにしてくれてる。
「…いや、大丈夫だから。
想定外の事態に、ちょっと脳がオーバーヒートしただけ。」
「あッ!皆さーん!」
銅像の広場から離れようとしたら、廃墟みたいなビルから出て来た女性に声を掛けられた。
6年前に本部まで案内してくれた鹿原さんだ。
前回の無機質な防護服姿じゃなくて、Tシャツにジーンズとだいぶラフな格好だ。
というか、服装が全然違う上に6年も経ってるから、最初は誰だか分からなかった。
声が特徴的なハスキーボイスだったから、それでギリギリ思い出せた訳だ。
そんな鹿原さんが、嬉しそうに駆け寄って来た。
「…えっと、鹿原さん。お久し振り。」
「どうもお久し振りです!
こちらのお二方は、もしかしてご友人ですか?」
「うん、そうだよー!」
私の代わりにカイちゃんが答えた。
取り敢えず簡単にツジとレンちゃんの紹介も済ませ(シェルターの事は念の為伏せた)、鹿原さんに銅像について問い質した。
「も、申し訳ありません!
お二人の偉業を後世に伝えたく作ったつもりが、逆にお二人に迷惑を掛けていたとは!」
「アタシは良いんだけど、白狐ちゃんはこういうの苦手だから…」
「恥ずかし過ぎて千回死ねる。」
どうやら、あの銅像を作ろうと言い出した元凶は鹿原さんだったらしい。
厚意からの提案だったんだろうけど、本人に無許可で銅像はやめて欲しいって。
「直ちにあの銅像は撤去して、未来永劫人目に触れぬよう、地下深くに封印しておきます!」
「あーいやいや、待って待って。」
慌てふためきながら銅像撤去宣言をする鹿原さんに、待ったをする私。
あの銅像、よく見ると細部のディテールまで凝っていて、非常にクオリティが高いのだ。
問題なのはコレが衆目に晒されているという点であって、銅像自体に罪は無い!
「どうせ封印するんなら、私が貰っても良い?」
と、ダメもとで聞いてみたら。
「えッ!?
…あぁ、それならどうぞどうぞ!
そんな事でお二人が喜んでくれるなら、願ったり叶ったりです!」
めっちゃ快諾してくれた。
どうやら、私達自身が思っているよりも遥かに、尾藤白狐という人間は神格化されているのかもしれない。
宗教組織じゃなくなったっていうのに、これで大丈夫なのかな?
「そうだ!教祖様……じゃなくって、ドロテーアさんがさっきまですぐ近くにいたので、呼んで来ましょうか?」
「じゃあ、お願いしよっかな。」
ドロテーアちゃんの事も、ツジとレンちゃんには伝えてある。
アンチョビ教団が解散して、この街は生まれ変わった。
そして教祖の地位を失ったドロテーアちゃんは今、特別顧問という立場でここのボスを支えているんだとか。
簡単に言えば、ボスの副官みたいな感じらしい。
さて、私達にお願いされた鹿原さんは、まるでお転婆娘が如く元気に走り去って行き、ものの数秒でドロテーアちゃんを引き連れて戻って来た。
衝撃的な速さ!
「これはこれは皆さん、お待ちしていました!
遠路遥々ご足労頂き、大変ありがたいです!」
相変わらず、年齢に似合わない慇懃な物言いで挨拶を交わすドロテーアちゃん。
とは言え、成長期だった彼女にとって、6年という月日はデカい。
背丈はカイちゃん並みに伸びて、スリーサイズはボンキュッボン!
何という事でしょう。
少し見ないうちにこんなに大きくなって。
まさかこれが、孫の成長に驚くお年寄りの気持ちってやつか!?
「ど、ドロテーアちゃん久し振り。
ヒヒ…色々大きく成長してくれたみたいで嬉しいよぉ…!」
「…えッ!?………アハハ…」
「白狐ちゃん、ドロテーアちゃんが引いてるよ。」
やっべェ!動揺した所為で、キモい時のカイちゃんみたいな挨拶してしまった!
これじゃただのセクハラ親父だ。
反省反省。
取り敢えず鹿原さんの時同様、ツジとレンちゃんを簡単に紹介する。
「えっと、皆さんはもう街を回られましたか?」
ドロテーアちゃんに聞かれ
「いや、今さっき着いたところだから、まだまだだよ。」
カイちゃんが答える。
「そうですか。
でしたら、存分に見て回って下さい。
古代の文献を読み解き、日本の昔のお店を再現させたお店もあるので、是非堪能して行って下さいね。」
ほほう、日本の昔のお店とな。
だったら、楽しみが更に増えたな。
「ツジ姉!太古のお店だって!」
「ああ、実に興味深いよ。
我が友人が与えてくれたこの機会、遠慮無く満喫させて貰うとしよう!」
大仰にそう言うツジ。
さて、私達も程良くドキドキしてきたから、早速参加するとしよう!
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんが行きたい日本の観光地は?
「福岡の中洲でお酒飲みながら屋台ハシゴしたい!」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!