「…さて、えー、本日はお忙しい中ご足労いただき、大変ご苦労様でございます。
本日はお日柄も良く、昨日より計画しておりました〝ラジオ電波捜索計画〟の作戦を立てるにはうってつけの日和となった事を喜ばしく思う所存にございます。」
「うーん、白狐ちゃんがそういう口調で喋ると、物凄い違和感を感じるね。
多少日本語が変な部分もあるし。」
「それな。慣れない仕事はするもんじゃないわ。」
取り敢えず形から入ろうと思って、カイちゃんを私の家の応接間まで招き、ラジオ捜索の為の作戦会議を開く事にした。
一応それっぽい雰囲気にする為に、会議室とかでよく見るホワイトボードとか、ペットボトルのお茶も用意してある。
「でもほら、私って今まで働いた事が無いからさ、こういうオフィス的な空気を一度味わってみたかったんだよ。」
「アタシとしても、ちょっとだけ懐かしい気持ちはあるかなー。」
二人揃ってしみじみとしつつ、すぐに本題に入る。
「それじゃあ早速会議を始める訳だけども、昨日の夜に、要点となる部分を私なりに纏めてみた。」
「おお!白狐ちゃん優秀!」
「フッ、もっと褒めるといいぞ。」
カイちゃんの気持ちの良い賛辞を浴びながら、私はホワイトボードに要点なるものを書き込んでいく。
「大事な点は、取り敢えずこの3つ。
まず最も大事な一つ目は、ラジオの電波の発信源の特定。
これが分からなきゃ、日本中を闇雲に探し回る羽目になるからな。」
「うわぁ、何百年掛かるんだろ…。」
「そんなに探してたら、私達は平気でもラジオやってる人がいなくなっちゃうから、特定するのは必須事項だ。
続いて二つ目は、移動手段の確保。
出来る限り頑丈で、悪路も快適に運転出来る車両があれば最適なんだけど。」
「はいはーい!」
カイちゃんが待ってましたとばかりに勢い良く手を挙げる。
まるで、学校の先生と生徒みたいでなんか新鮮だ。
「はい、カイちゃん。」
なので、私も先生っぽくカイちゃんを指名した。
「それならアタシが最高の車を持ってます!」
「ほほう、それってまさか…!」
カイちゃんは以前、私との遠距離デートに行く為と言って、特別製の車両を目玉が飛び出るようなお金で購入して、実際デートに行った事がある。
「そうだよ!久し振りにあのスーパーキャンピングカーの出番だよ!」
スーパーキャンピングカーという名前は私達が勝手に呼んでいる名前で、実際にはもっとイカした英語の名前があるのだ(とっくに忘れた)。
数百年前、人類が最も高い科学技術を持っていた頃に、当時最高の技術水準を誇っていた自動車メーカーにカイちゃんが発注して造って貰った、かなり特別なキャンピングカーだ。
まず常識外れに頑丈で、戦車の砲撃をマトモに喰らっても傷一つ付かないボディ……まあ、別に耐久性は私の不変力でどうにでもなるんだけど。
更に、車両の周囲には常に謎の超技術による電磁シールドなるバリアーが張られていて、車両に認証されている私とカイちゃんしか搭乗する事が出来ない仕様になっている。
これのお陰で車上荒らしや強盗される事もないから安心だ。
オマケに、鳥のフンなんかも防御してくれる。
そして、特殊な性質のタイヤを採用しているので、どんな荒地でもスイスイ進み、オマケに車内には殆ど振動が無い。
まさに、皆の理想のキャンピングカーを体現したような逸品だ。
「よっし!じゃあ二つ目の問題は解決だな!
それで、三つ目の問題はあれだな、外の世界の人達と会ったところで、ちゃんとコミュニケーションが取れるかだな。」
「…コミュニケーション?」
カイちゃんが怪訝そうに聞いてくる。
「そうそう、例えばもしも外の世界の人々が暮らす集落に着いたとして、その人達が極端に閉鎖的且つ排他的な性質だったらどうする?」
「…う〜ん、難しい問題だね。」
「最悪、向こうから攻撃される可能性もある。
だから、なるべく相手に刺激を与えないのが得策なんだ。」
「なるほど、だとしたらアタシのVTOL機は使えないねー。
空から来たらみんなビックリしちゃうしね。」
「そもそもVTOL機なんて、こんな崩壊した世界じゃ停める場所を確保するのも大変だしなぁ。
という訳で、怪しまれないようにカイちゃんのスーパーキャンピングカーに、ボロボロの塗装を施そうと思う。」
「ついでに、アタシ達の服装も地味なのを用意しとくね。」
「カイちゃんのファッションセンスを、いつもとは逆のベクトルにしなきゃだな。」
取り敢えずはこんなところで、探索の要点と対策案を一通り纏める事が出来た。
これで、今後私達が挑むべき課題が明確になった訳だ。
「さて、それじゃあ分かりやすくなった問題を一つ一つクリアしていきますか。」
「いやー、白狐ちゃんは凄いね!
上手く議題を纏められてて、昔会社経営してた時の会議を思い出したよ。」
そんな大層な事をカイちゃんに言われて、働いた事の無い私はなんだか複雑な気持ちになった。
◆◆
作戦会議を終えて、まずは一つ目に挙げた問題に取り掛かろうという事になり、そのまま応接間でカイちゃんと話し合いをしていた。
「さっきはラジオの発信源を特定するなんて簡単に言ったけど、具体的にどうすればいいんだろうか?」
「フフン、その点はこの海良ちゃんに任せてよ!」
カイちゃんが自信満々に胸を張りながら言ってきた。
なんなんだこのカイちゃんは。
「え?カイちゃんどうにか出来んの?」
「アタシ、これでも結構機械には強いからね。
この場合は、ラジオの電波がどの方向、どのくらいの距離から発信されてるか特定すれば良いだけだから、そんなに難しくもないと思うよ。」
「…カイちゃんすげー。流石ハイスペック女は違うなぁ。」
「エヘヘ、それ程でもないよー。」
照れつつもカイちゃんは、持参していたデカめのバッグの中から、昨日渡したラジオと、なんか凄くハイスペックそうな、流線形でメタリックなノートパソコンを取り出した。
これも確か、人類史上最上級のスペックを誇る型のパソコンだった気がする。
「カイちゃん、こんなとんでもないパソコン使ってたのか。」
「あー、これは昔、仕事で使ってたやつを引っ張り出してきたの。
こんな世の中になって、パソコンを使う機会もめっきり無くなっちゃったから、腕が多少鈍ってるかもしれないけど、頑張ってみるよー。」
やっぱ、元セレブ社長さんは持ってる物からして違うな。
「そしたら、私は暇になるな。
折角だし、カイちゃんの元気が出るような料理でも作ってるよ。」
「えッ!?やったー!白狐ちゃんの手料理!
これで5万倍頑張れるッ!」
「よし、5万倍頑張れ。」
さて、何を作ろうか。
別に何を作ってもカイちゃんは喜ぶだろうけど、どうせなら目一杯美味しいものを作ってやりたい。
私はパソコンでの作業に集中しているカイちゃんに背を向けて、キッチンへと足を運び、思案する。
「よし!『チーズ入りカツカレー・納豆を添えて』にしよう!」
たった今、脳裏に浮かんだ新メニューだ。
個人的に、カレーと合わせたら美味そうな物を三段重ねにしてみただけだが。
「雑な発想だけど、めっちゃ美味そうだ。
むしろ私が食べたいくらいだわ。」
湧き上がる食欲を抑えつつ、冷蔵庫の中身を確認。
冷蔵庫の中の食材にも勿論不変力の影響が及んでいて、どんなに食べても気付いたら補充されている。
腐りもしないから、正直冷蔵庫に入れる必要も無いんだけどな。
「んーと、豚肉が無いからデャスコに行って調達して来るか。」
カイちゃんに良い仕事をして貰う為に、私も5万倍頑張るとしますか!
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんが苦手だった科目は?
「うーん、特に苦手なのは無かったと思うけど、強いて言うなら国語はちょっと苦手だったかなー。」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!