「ふいー、大漁大漁!」
今回の買い物は、なかなかの成果だった。
前々から欲しかったゲームソフトが売ってて無事にそれを確保出来たし、他にも面白そうなゲームを二つほど購入する事が出来たのだ!
「うはあ!早く家帰ってプレイするのが楽しみ!」
レジでの会計が済んだ後、カイちゃんの隣でついつい興奮が抑えきれずにプチ叫んでしまった。
「白狐ちゃん、お目当てのゲームが買えて良かったねぇ。」
まるで、はしゃぐ子供を見守る母親のような眼差しで、私を見てくる。
違う、コイツの目線はそんな高尚なものじゃなくて、悪いロリコンが幼女をギラギラした目で睨め回す視線だ、間違いない。
「あれ?白狐ちゃん今、失礼な事考えなかった?」
「ギックー!いや何の事?気の所為でしょ。」
いやしかし、勘の鋭い女だ。
◆◆
「で、次はどこ行こっか?」
ゲームを買い終わってホクホク気分のまま、カイちゃんに聞いてみた。
「え?」
「私の買い物にわざわざ付き合ってくれたんだから、カイちゃんの行きたい場所にも行かなきゃフェアじゃないでしょ。
ま、私も友達として、カイちゃんの事は今のうちに色々知っときたいし。」
「び、白狐ちゃぁぁんッ!!嬉しいィィ!!」
「うわッ!おいやめろ!公衆の面前で抱き付くなオイッ!」
んー、やっぱりカイちゃんが大人しくしてるってのは無理があったか。
今後、色々と分からせてやる必要があるな、うん。
◆◆
「で、カイちゃんが来たかった場所がここ、と?」
「うんッ!」
私達は、デャスコ内のフードコートのテーブル席に、向かい合って座っていた。
ここは、私もちょくちょく買い物ついでに利用している所だ。
人もそんなに多くなく、人の多い場所が苦手な私でも割と居心地が良い。
正直、SNSで話題のお洒落全振りカフェだとか、そういった類のお店じゃなくて心底安心した。
きっと、カイちゃんが私のレベルに合わせてくれたのかもしれない。
「白狐ちゃん何食べるー?」
「んー、今日は中華な気分。」
「ラーメンかな?」
「ラーメンと餃子セットに限る!」
不変になった私は、別に食べ物を摂取する必要は無い。
でも、この体でも普通に味覚は正常だし、元から食べる事自体が好きなので、不変になる前と変わらずに食事は摂っている。
というか、どんなにジャンクで体に悪そうな食べ物を食べても、一切健康や体形に影響しないし、いくらでもお腹に入るので、こういう点は不変力の大きなメリットでもある。
「カイちゃんも、折角私と同じ体になったんだから、好きな物を好きなだけ食べなよ。」
「う、うん。でも、やっぱり抵抗が…。」
まあ、だろうね。
カイちゃんみたいな人種は特に、食事バランスには気を遣ってる筈だろう。
「ふむふむ、カイちゃんは読者モデルやってるらしいし、今まで美容の為に血の滲むような努力と我慢をしてきたんだろうさ。
でも、もうその必要は無いんだよ。」
「…ゴクリ。」
私は、悪魔のような笑みを浮かべてカイちゃんを誘惑する。
フッフフ、コイツは堕ちるまでもう一息だ。
「これからは、ラーメンをスープまで残さず啜っていいし、ハンバーガー、ポテト、シェイクのセットを頼んだ上で、ナゲットやアップルパイを頼んでもいい。
牛丼のマックス盛りを容赦無く掻き込んでもOKだし、ドーナツをお店の箱パンパンに買って、たらふく食べても体形は1ミリも変わらない。
私の言う事を信じるなら、食べるんだ!
欲望のままに好きな物を貪り、本能を呼び覚ませ!」
「…い、イエッサー!」
カイちゃんは飛び上がるように席を立ち、注文しに行った。
さてと、私も食べるとしますか。
「…それにしても、食べ過ぎでしょ。」
理性の蓋が外れたカイちゃんは、私の想像以上の爆食モンスターと化していた。
チャーシュー麺大盛り、チャーハン大盛り、餃子セット、ステーキ500g、ご飯特盛、ピザ丸々3枚に、牛丼マックス盛り、大盛りカレー、天丼特盛りに、極め付けとしてハンバーガーを全種類一つずつ食べていた。
その後、食後のデザートとして巨大パフェ、アイスクリームのアソートセットとケーキ1ホールを1人で平らげた頃には、私達の周りに軽く人だかりが出来ていた。
「す、凄い、これはもう人間じゃないぞ。」
「どんな体してんだ。臓器が胃袋しかないのか?」
「美人フードファイター、マジ尊い。」
全く、目立ちたくないって言ってんのにこの女は…ッ!
私の思いなどつゆ知らず、幸せそうな笑顔で口元をナプキンで拭いている。
放っとくとまだまだ食べそうなので、小休止のタイミングで私は暴走バカ食い女の腕を引っ張り、人だかりを掻き分けてそそくさと退散したのであった。
◆◆
「…ご、ごめんなさい、白狐ちゃん。
ついつい、我を忘れちゃって。」
「あーうん、気持ちは分かるから。
下手に誘惑した私も悪かったし。」
取り敢えずフードコートから、人気の無さそうな3階の休憩スペースまで脱出して来た。
カイちゃんは私を困らせてしまった事を相当反省しているようで、半泣きみたくなっている。
弱ったな、こういう場合はどうやって対処すればいいんだ。
「うぅ…」
「ほ、ほら、なんだかんだ、カイちゃんの食べっぷりも見てて気持ち良かったからさ!
こう見えて私も結構楽しめたよ。」
我ながら、下手過ぎるフォローだ。
でも、カイちゃんはそれだけで表情を明るくしてくれた。
「ホントッ!?白狐ちゃんが喜んでくれたなら、アタシも嬉しいなッ!」
「でも、次からは自重してよね。特に私と一緒の時は。」
「はーい!」
良かった、通常運転に戻ってくれた。
なんだか、こうやって人の気持ちに気を遣うのって、慣れてない分疲れるなぁ。
でも、相手がカイちゃんだからなのか、そんなに悪い気はしない。
むしろ、楽しい感じもしないでもない。
この子の笑顔をもっと見てたいと、正直言うとそんな想いもあったり無かったり。
本人にゃ言えんけど。
「ていうかカイちゃん、よくあんなに食べるだけのお金、あったね?」
「アハハ、アタシこう見えて、そこそこ稼いでますので〜。」
カイちゃんが、財布の中の諭吉っつぁんを何枚かチラ見せしてきた。
何だコイツ、嫌味か!?
私の家は素封家だけど、貰えるお小遣いは普通の学生並みなんだぞ!
絶対に働かないと堅く誓った私は、ゲームにお金使い過ぎて常にギリギリの極貧生活だってのによぉ!
「んでも、毎回あんなペースでドカ食いしてたら、あっという間に素寒貧コースだからな。」
「はぁい、気を付けます。」
◆◆
「おお〜、ここが白狐ちゃんのおウチ…!」
「…うわぁ、マジで来やがった。」
とか言いつつ、強引に押し切られて仕方なく案内したのがこの私です。
「で、デカい!門も庭も家も全部デカいッ!」
自宅の門の前で、カイちゃんが驚嘆の声を上げている。
自分の家を見られて子供みたいにはしゃがれると、何だか小っ恥ずかしいな。
確かに、私の家は他の平均的な家と比べるとデカいのだろう。
「私、母親がロシア人だからさ。
私がまだ産まれる前、成金で日本人のお父さんが、財力に物を言わせてこの家を結婚指輪と一緒にプレゼントしたんだって。」
「何それすっごい!」
これは、両親から何度も自慢げに聞かされたエピソードだ。
聞くたびに、もしもプロポーズに失敗していたら、折角買ったこの家はどうなっていたのだろうと考えてしまう。
きっと、お父さんがこの広い家に一人寂しく暮らしてたのかな?
「あ、ちなみにウチの家族は私が不老不死だって事知ってるから。」
「そうなの?」
「まあ、流石にずっと体が成長しない理由を、身内に誤魔化し続けるのは無理があるから。」
「確かに。」
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんの好きな本は?
「漫画好きだけど、小説とかも結構読むよ。」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!