「嬉しい!嬉しいなぁ!白狐ちゃん、ありがとうねぇ。」
カイちゃんは、感激のあまり涙を流して喜んでいる。
なんて喜びようだ。まるで死に別れたと思っていた家族が、生きていたのを知った時みたいなリアクションだ。
まだ玄関に上がった時点でここまで喜ぶだなんて、想像以上。
カレーの事を知ったら、下手すれば気絶するんじゃないか?
「まあまあ、この程度で喜んでたら、身が保たないぞ。
取り敢えず上がりなさい。パーティの準備は済ませてあるから。」
「パーティですとッ!?」
驚きに目を剥くカイちゃんを連れて、私は来客室へとカイちゃんを連れて行った。
◆◆
「おお〜!!凄い凄い凄いよぉ〜!!」
家族から許可を貰って、来客室は今日一日パーティの為に貸し切り状態だ。
数日前から仕込んでおいた飾り付けが部屋を彩り、天井からは『カイちゃん誕生日おめでとう!』と書かれた横断幕が吊り下げられている。
「どうだ!私の渾身のサプライズパーティは!
そしてあれこそが、私からの誕生日プレゼント!」
私が指差す先には、部屋の中央に位置するテーブルの上に置かれた、カレーの入った大鍋!
「…す、凄く良い匂い!」
目を見開きながら、一歩、また一歩と、カイちゃんはゆっくりカレー鍋の元へと歩いていく。
「…も、もしかしてこのカレー、白狐ちゃんの手作り、とか?」
「うん、よく分かったね?」
「だって、白狐ちゃんのニホヒがするもん!」
「キッモいなぁオイ!」
「あひんッ!」
気分が良かったので、笑顔のまま頭を引っ叩いておいた。
「さあ、取り敢えずお食べ。早くしないと冷めちゃうから。」
「うんッ!」
待ちきれないとばかりに、カイちゃんはカレー鍋へと突撃する。
その勢いたるや、まるで血の匂いを嗅いで獲物に飛び付く、人食い鮫の如し!
お皿にご飯とカレーを盛って、がっつくように食べている。
「うッ!うまうま〜♪」
今まで見てきたカイちゃんの食事顔で、一番幸せそうな顔が見れた。
「よしよし、頑張って作った甲斐があったってもんだ。」
「うまうま♪白狐ちゃんの味うまうま♪白狐ちゃんうまうま♪」
「うんうん、なんかキモいけどまあ許そう。」
「幸せ〜♪」
天にも昇りそうなほど、極上の笑顔を見せながら、物凄い勢いでカイちゃんはカレーを食べていく。
作り過ぎたかと思ったけど、全然そんな事はなかったみたいだ。
むしろ、足りないくらいか?
「白狐ちゃん白狐ちゃん!」
「ん?なあに?」
「あーんして、あーん!」
「はあ?」
カイちゃんがスプーンを私に手渡して、あーんを要求してくる。
いやいや、なんじゃそれ。
「お願い白狐ちゃん、そんな嫌な顔しないで。今日はアタシの誕生日だから!」
「ぐぬぬぬ…!」
あーんとか!
いや、あーんとか!
そんなん勿論やった事ないし、死ぬほど恥ずかし過ぎる!
「いやさ、そもそも友達同士でやる事じゃないだろ!」
「いいじゃん、女の子同士なんだから!これも誕プレの一環という事で、一つ!お願いします!」
なんか、両手を合わせて本気の頼み方をされた。
あーもう、ここまでされたら断れないじゃんかよぉ。
「…ったく、仕方ない奴だなぁ。」
私が渋々了承してやると、カイちゃんがまた嬉しそうにしている。
ま、今日はこの子が主役なんだし、少しくらいは我が儘を聞いてやるとするかい。
カイちゃんは、早く早くとウキウキ気分でスタンバッている。
「……ほら、あーん。」
お皿に盛られたカレーをスプーンで一掬いし、カイちゃんの口元に近付ける。
「ウフフ、あーん。」
パクッと、私が差し出したカレーを一口で頬張り、満足そうに食している。
存分に味わう為だろうか、クッチャクチャと通常よりも丁寧に咀嚼しているのが、なんか不快で気持ち悪い。
「キモい食い方するな!」
「あひィ!キモくてごめんなさぁい!」
「よーく味わってるのは分かる。けどキモい。」
「う、ウヒヒヒ、そうです、アタシがキモいJKです!」
「気持ち良くなるな!」
「だってぇ、白狐ちゃんにあーんして貰えるなんて、夢みたいだからぁ!」
「はいはい、分かった分かった。分かったから、一旦冷静になれ。深呼吸深呼吸。」
「スーハー、スーハー。」
キモさが暴走気味なカイちゃんを落ち着かせる為、3回ほど深呼吸をさせる。
「落ち着いた?」
「でへへェ!」
「ダメだこりゃ。」
もういいや、とことんキモくなれ。
「嬉しいなぁ、嬉しいなぁ!」
「アハハ…」
ま、幸せそうだからいっか。
カイちゃんの笑顔が見れれば、私も嬉しいしな。
◆◆
「ごちそうさまぁ!」
あれだけあった大鍋の中身が、欠片も残さず綺麗にすっからかんだ。
カイちゃんが私の手作りカレーを完食するのに掛かった時間、たった20分。
そう、20人分のカレーを完食するのに掛かった時間が、20分!
どんどん化け物っぷりを露わにしていってるな、コイツ。
「美味しかったぁ!アタシの今までの人生で食べてきた全ての食べ物の中で、一番美味しかったよぉ!」
「いやいや、それは言い過ぎでしょうが!今日初めて料理作った人間だぞ、私は!」
「ううん!本当に美味しかったよ!お世辞とかじゃなくって!
白狐ちゃんの込めた愛情と、手間と、その他色んなものが煮詰まったエキスが染み渡ってて、最高の味わいが楽しめました!」
「何そのキモいエキス、私知らない。」
度重なるカイちゃんのキモい言動に、流石に身震いしてくる。
「それにしても、カイちゃんの食べる速度があまりにも早かった所為で、だいぶ時間が余っちゃったんだよなぁ。どうしよっか?」
「じゃあ、ゲームでもする?」
「よしきた!」
◆◆
「カイちゃんカイちゃん。」
「ん?どうしたの?」
私の部屋でのんびりとゲームしながら、カイちゃんに聞く。
「なんか、折角の誕生日なのに、いつもと変わらずにゲームしちゃってるけど、これでいいの?」
「いいのいいの。こうやって白狐ちゃんと一緒にいられるのが、アタシにとって一番の幸せなんだから。」
「……えッ!?…………うん。」
…んん?なんだ、この気持ちは?
いつも同じような事言われてるのに、なんかこう、胸が熱を帯びているかのような、不思議な感覚を覚えてしまう。
こんなの、初めての感覚だぞ。
私は、どうかしてしまったのか?
「白狐ちゃん、どうしたの?体調悪いの?」
「あ、いや!そんなんじゃないから!なんの問題も無いから、ゲームやろゲーム!」
「え?うん、それなら良いんだけど。」
体の火照りはなかなか収まってくれない。
ゲームにもロクに集中出来ず、いつもよりも更に酷い状態で、カイちゃんに惨敗した。
◆◆
「今日はありがとうね、白狐ちゃん。本当に嬉しかった。」
「なあに、いいってことよ。私もそれなりに楽しかったし。」
それなりというか、滅茶苦茶楽しかった。
改めて、サプライズパーティを企画して良かったとマジで思えた。
「フフ、白狐ちゃんの誕生日ももうすぐだし、今度はアタシがサプライズするね!」
「あー、うん、楽しみにしてるよ。
…って、なんで私の誕生日知ってるの?多分今まで教えてないよね?」
「さっき、白狐ちゃんの部屋でちょこっと調べたから♪」
「えッ!?調べたって……?怖ッ!そういうストーカーみたいなのやめろ!」
「2月29日だもんね?白狐ちゃんの誕生日。」
「うう…、知られてしまったのならば仕方がない。せいぜい、盛大に祝ってくれよな。」
「オッケー、楽しみにしててね!」
「ん、期待してる。」
とは言ったものの、若干不安な気持ちもある。
あれだけ私に夢中なカイちゃんが私の誕生日パーティを企画したら、一体どんなものになってしまうのやら。
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんの好きな天体は?
「うーん、月かな。白狐ちゃんにね、『月が綺麗ですね。』って言いたいんだよねぇ。」
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