「白狐ちゃん、ここに白狐ちゃんのスカートから見つかった盗聴器と、白狐ちゃんの部屋の本棚から見つかった盗聴器の2つがあります。
さて、どっちの盗聴器の電波を辿りますか?」
私の部屋を出る前に、カイちゃんが私にそう聞いてきた。
何故か事務的な口調で。
「うーんと、どっちでもいいんじゃないの?どっちも、同じ人が使ってる筈だし。」
「まあ、そうだよね。じゃあ、スカートの盗聴器の方が電波が強くて探知しやすいから、こっちを使おっか。」
「じゃ、それでいこう。」
そんな感じで話は纏まり、私達は家を出た。
まだ昼の2時頃で、外はまだ少し肌寒いけども、太陽がちゃんと存在を主張している良い天気だ。
私の格好は、ベージュのフード付きパーカーに白いキュロットパンツを履いたカジュアルな外出用の私服。
私のクセに妙にお洒落なのは、前にカイちゃんと一緒に服を買いに行って、お洒落に無頓着な私に色々とアドバイスをくれたからだ。
当のカイちゃんは、チェック柄のブラウスに黒いカーディガンを羽織り、白っぽいパンツを履いたお洒落オブお洒落な出で立ち。
流石はカイちゃんとも言うべき服装だ。
「白狐ちゃん、外に出る時はちゃんと服着てて偉いねぇ。」
「それは流石に私を馬鹿にしてるだろう?」
「ち、違うよー!ただ、白狐ちゃんが警察に捕まらないか心配で!」
「絶対馬鹿にしてるッ!」
などと戯れつつも、私達は歩き出した。
「それにしても、まさか卒業式の日に、ストーカー探しに出掛ける事になるとはな。」
「うん、必ず見つけ出そうね!」
「1人はもう発見したけどな。」
「だからごめんって〜!」
◆◆
「えっとー、ここの道を真っ直ぐ進んで、その先を左に曲がるっぽいな。」
ショウの奴が作った盗聴発見機は、思っていた以上に便利な代物だった。
盗聴器の電波を感知して、発信源であるおおよその方向を、潜水艦のレーダーみたいな小さいモニターに表示している。
私達は、それに従って歩いていけばいいだけの簡単なお仕事だ。
にしても、我が弟ながら、こんな便利アイテムをさらっと作っているのは、ある意味恐ろしくもあるな。
私も、こんな才能が欲しかった…。
「あ、白狐ちゃん!多分、あそこのお家なんじゃないかな?」
カイちゃんが指差す先には、ごくごく普通の二階建ての一軒家がある。
私の家からそんなに遠くはない近場だったけど、誰の家かは分からない。
というか私は半引きこもりなので、ご近所さんの顔と名前は殆ど知らないんだがな。
「よし、じゃあまずは、表札を確認するか。」
「うん!」
私とカイちゃんは、そろりそろりと犯人が住んでいると思しき民家へと近付いた。
私達はストーカーの犯人を追い詰めてるのに、なんだかこっちの方がやましい事をしているみたいだ。
てか、ここまでコソコソする必要もないんじゃ…?
「むうう、なんか緊張するな。」
「白狐ちゃん、あとちょっとで表札が…」
「あのー、ウチに何かご用でしょうか?」
「「ギックゥゥゥッッ!!?」」
並んで忍び歩きをしていた私達の背後から、突然謎の人物に声を掛けられてしまった!
マジでビックリし過ぎて心臓が口から飛び出るかと思った。
ん?いや待てよ。今の声、なんか聞き覚えがあるぞ?
恐る恐る振り返ってみると…
「…の、野茂咲さん…ッ!?」
「あれ?尾藤さんに山岸さん?私の家の前で何してるの?」
私達のクラスメイトであり友人でもある、野茂咲柑奈さんその人だった。
さっき学校の卒業式で出会った、ほんの数時間振りの再会である。
表札を見てみても、きちんと『野茂咲』と書かれている。
「尾藤さんも山岸さんも、確か私の家来た事無いよね?
どうしてウチの場所知ってるの?誰かに聞いたのかな?」
「あ、いや!えっと、これは、あのその…!」
思いがけない展開に、私は分かりやすくテンパってしまう。
これは、一体全体どういう事なんだ!?
発見機が反応しているという事は、まさかの野茂咲さんが…ッ!?
「野茂咲さん、突然訪問して悪いんだけど、ちょっと貴女にお話があって来たの。
時間、あるかな?」
すぐに冷静さを取り戻したカイちゃんが、見事に対応してくれた。
こういう時、コミュ力の権化であるカイちゃんの存在は頼もしいな。
ていうか、いよいよ私の長所が、不変力くらいしかなくなってきたな。
なんだか悲しくなってくるわ。
「お話?
…えっと、まあ、今買い物から帰って来たばかりだから、それ整理してからなら大丈夫だけど?」
「うん、お願い。」
「じゃあ、中に入って私の部屋で待っててね。」
野茂咲さんに案内されて、私とカイちゃんは彼女の部屋へと案内された。
◆◆
野茂咲さんの部屋は、普通に普通な普通の女子っぽい部屋だった。
整理整頓の行き届いた内装に、窓際にはインテリアの小さなサボテンが置かれていて、白黄色ピンクとカラフルなクッションが綺麗にいくつも床に並べられている。
野茂咲さんは割と几帳面な性格なので、こういう所にも彼女の性格が現れているのだろう。
いや、今はそんな事どうでもいいんだよ。
緊張しっぱなしの私に対して、カイちゃんは真顔で座っている。
少し待ってたら、野茂咲さんが扉を開けて入って来た。
「いやー、ごめんねお待たせー!」
「大丈夫大丈夫。」
「それで、私に話ってどうしたの急に?」
「うん、実は…」
私とカイちゃんは、私の家で発見された盗聴器に関する一連の話を、掻い摘んで聞かせた。
突然ストーカーの話を聞かされたというのに、野茂咲さんは終始落ち着いた様子で話を聞いていた。
その様子は、普段のムードメーカー的立ち位置で、更にはゴシップ好きな野茂咲さんからは想像出来ないような冷静さだった。
その態度が示すのは、やっぱり…
「…という事なんだけど、野茂咲さんは心当たりない?」
ひと通り聞き終わった野茂咲さんは、何も言わないままスッと立ち上がり、私達に向き直って…
「ごめんなさいっしたぁ!」
超高速で土下座なされた。
それはもう、今まで人生で見てきた土下座の中で、最も鮮やかな土下座だったそうな。
まあ、言うほど土下座なんて見た事無いけどさ。
「…ハァ、やっぱりそうだったか。」
「つ、つい出来心で…!ごめんなさい!」
「うん、まあ、謝罪の言葉はもうお腹いっぱいだから、理由を教えて。
どうして私に盗聴器なんか…」
いや、野茂咲さんの事だから、大体の理由は想像がつくけど。
「私、卒業したらもう、尾藤さんと山岸さんの素晴らしい関係性を、もう見れないかと思って、そしたら居ても立ってもいられなくなって…!
せめて音声だけでも保存して、いつでも聴けるようにしたくなって、尾藤さんのスカートに盗聴器を…!
本当に間違った事をしてしまったと、後悔してます。」
初めて見る野茂咲さんのしおらしい態度に、私も怒る気は起きなかった。
「あーもう、いいから。
全部許すから、スカートの盗聴器も、私の部屋に仕掛けたやつも、全部回収してってね。」
「へ?全部ってどういう事?」
「え?」
「私が仕掛けたのは、スカートのやつで一つだけの筈だけど。」
「……はい?」
んんーー??
これまたおかしな展開になってきたぞー?
「え?え?白狐ちゃん白狐ちゃん!
もし野茂咲さんの言う事が本当だとしたら、本棚から出てきた盗聴器は、アタシのでも野茂咲さんのでもなくなっちゃうよッ!?」
「ほえッ!?いやいやいやいや、そんなん無しだろオイイぃぃぃぃッッ!!」
もうなんか、現実感が無さ過ぎて頭が追いついていけない。
なんだ、つまりカイちゃんと野茂咲さん以外にも、第3のストーカーがいたって事か!?
「尾藤さん、どういう事?状況がよく分からないんだけど?」
「び、白狐ちゃん、大人気だね…。」
苦笑いしながらヘタクソなフォローをしてくるカイちゃんの言葉が、私の左耳から右耳へ素通りしていく。
嗚呼、事実は小説よりも奇なりとは、この事か。
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐の好きな飴の味は?
「ハッカでしょ。ハッカ一択でしょ。」
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