「うーん、ジャングルか。」
「だねー、ジャングルだねー。」
パンツ泥棒の足跡を辿って行った結果、犯人は私達の町の外に広がる大樹海へと逃亡したのが判明した。
この鬱蒼と茂る巨大ジャングルはあいも変わらず鬱蒼としており、兎にも角にも鬱蒼としていて、常識外れの鬱蒼度を誇っている。
「フッ、鬱蒼とした危険なジャングルに逃げ込む事で、私達が諦めるとでも思ってるのか?
甘いんだよ、こちとらこのジャングルと何万年も付き合ってきてるんだからなぁ!」
私が威勢良く啖呵を切ると、その声に反応した鳥らしき生物が、私達の目に届かない場所でギャアギャアと鳴き声をあげる。
さて、気合いも入れたことだし、ぶっ込みに行きますか!
◆◆
「気合いだけじゃ、どうにもならない事もあるんだな。」
「うん、世の中そんなに甘くはないよ。」
足跡探しは、ジャングルに入って更にその難易度を上げた。
何しろ、このジャングルに自生している樹木の高さは、どれもビル並みに巨大なのだ。
そんな木を伝って逃げているのだから、ただの人類である私達には無理がある。
カイちゃんの身体能力を持ってしても、流石にこれはキツいものがある。
お手上げ状態の私達は、ジャングルの入り口付近で立ち往生していた。
「ぬうぅ、まいったな。」
「大丈夫だよ白狐ちゃん、アタシ達には切り札があるじゃない。」
「へ?切り札だって?」
「そうだよ、ちょっと呼んでくるから待っててね。」
「呼ぶって……おい、ちょっ!」
私が制止するよりも早く、カイちゃんは来た道を一目散に走って行ってしまった。
仕方ない、下手に動いて迷子になるのも嫌だし、大人しく待ってるとしますか。
30分後。
「白狐ちゃんお待たせー!」
「お、戻って来た。」
待っている間、暇潰し用に持ち歩いている携帯ゲーム機をプレイしながら巨木に寄り掛かっていた私は、ゲームをスリープ状態にして、走って来るカイちゃんに視線を向けた。
すると、カイちゃんの隣に見慣れた〝アイツ〟が一緒になって走っていた。
「あぁ、切り札ってそいつの事ね。」
「うん!ジャイアントジャンボクソデカビッグオオコオロギちゃんでーす!」
そういう事か。
確かに、色々な面に於いて万能で何でも出来るジャイアント(略)コオロギなら、巨木によじ登って犯人の足跡を追うのも容易だろう。
身近な存在過ぎて、逆に盲点だったわ。
「カイちゃんナイスアイディア!」
「えへへ、頑張って貰うのはジャイアント(略)コオロギちゃんだけどねー。」
「よっしゃ!早速任せた!」
ジャイアント(略)コオロギは、その高い知能指数で既に状況を把握しているのか、私が何を言うでもなくすぐさま巨木をよじ登り、私達に見える位置からこっちに来いと言わんばかりに誘導している。
流石は我がペット、賢いこっちゃ。
◆◆
「おいおいおい、あれじゃね?」
ジャイアント(略)コオロギに誘導されて、遂に事件の犯人の棲家を発見した!
ジャングルの入り口から比較的近くて、私達の町に侵入してくるには都合が良さそうな場所だ。
木の上に登れば、町を一望する事も出来る。
そんなエリアの樹上に、木材を組み合わせて作ったツリーハウスのような物が作られていた。
いや、ツリーハウスと言うほど立派な物ではなく、鳥の巣みたいに乱雑に木片を組み合わせてる感じで、あまり安定感があるように見えない。
大きさは私の部屋の広さと同じくらいのサイズがあるにも関わらず、巨木に接着剤で貼り付いているかのように固定されている。
一体、どのようにして作られてるのか謎が深まるが、ジャイアント(略)コオロギが前脚でその巣を指差しているので、多分それが犯人の巣なのだろう。
「どうやら、巣の主は留守みたいだな。
でも、あそこまでどうやって行けばいいんだか。」
巨木の上に作られたその巣は、パッと見でも地上から20メートル以上は高い位置にある。
非力な私にはとても登れるような高さではない。
そもそもこの巨木、木の上層部からしか枝が伸びていないから、足場に出来るものもない。
こんなんじゃ、カイちゃんでも登るのは不可能だ。
登れるのは、昆虫の脚を持つジャイアント(略)コオロギだけ、か。
「さて、どうしたもんかね。」
「任せて白狐ちゃん、こんな事もあろうかと、さっき戻った時に役に立ちそうなアイテムを持って来たから!」
「何だって!?」
自信満々なカイちゃんが取り出したのは、やたらデカくてゴツい見た目の、ライフルみたいな道具だった。
どこから出したんだってツッコミは、野暮だから避けておこう。
「何それ?」
「まあ見てて。」
カイちゃんがライフルを構えて、巣の辺りに狙いを定める。
そして撃った!
「おおッ!」
銃口から発射されたのは、銃弾ではなく細長いワイヤーだった。
しかも先端がフック状の鋭い銛のような金属になっていて、それがブスリと巣付近の枝に突き刺さった。
「白狐ちゃん、アタシの体にしっかりしがみ付いてて!」
「あ、はい。」
流石にここまできたら、私も次の展開は予想出来る。
出来る、けども……
「きゃあァァァァ!?」
思わず、女の子みたいな悲鳴を上げてしまった。
まあ、女の子だけどさ。
カイちゃんの体にしがみ付いた直後、銛の側からワイヤーを巻き取る事で、ワイヤーガンを持ったカイちゃんの体が着弾点である巨木の枝に一気に引き寄せられた。
勿論、しがみ付いてた私もセットで。
そのスピードたるや、体感で新幹線以上。
半端ないスピードを生で感じ、らしくない悲鳴が気付いたら私の口から飛び出ていた。
ビビり散らす私とは真逆に、カイちゃんはしっかりと木の枝を掴み、私の体重などものともせずに、華麗に木の枝をよじ登った。
ちなみに巨木のサイズがサイズなだけに、木の枝の太さと長さも相当なもので、普通の木ぐらいの大きさを誇っている。
人間2人が立って歩くくらいなら何の問題も無い。
「ハァ…ハァ……なんて刺激的なんだ。」
「これぞ、遥か昔に人類が開発した、特製ワイヤーガン!」
「…そう言えば、そんなの昔買ったな。
全然使ってないから忘れてたよ。」
「うんうん、お陰で白狐ちゃんの貴重で可愛いスクリームが聞けて最高だったよ。」
「……忘れろ。」
「スマホにも録音済みです。」
「消せ!今すぐ!」
私がカイちゃんのスマホを奪おうとするも、身長差を悪用されて届かない。
挙げ句、下手に動いた所為で木の枝から足を踏み外しそうになり、冷や汗を掻いた。
「くそッ!もういい、行くぞ!」
「はーい!」
今の最優先事項は、あくまでも私のパンツ奪還だ。
こんな些事で時間を無駄遣いする訳にはいかない。
巣の主が戻って来る前に、とっとと捜索を始めなくては!
「うっわ……なんじゃこりゃ。」
巣の中は案の定、私のパンツでいっぱいだった。
私が今までに集めた百着以上のパンツ達が、巣の壁部分に一つ一つ丁寧に飾られている。
まるで高名なパンツ蒐集家のコレクションルームだ。
いや、パンツ蒐集家ってなんやねん。
「ったく、私のパンツなんざコレクションしやがって、御大層な趣味をお持ちなこって。」
「だよねー、アタシもすっごく羨ましいもん。」
「は?」
「ほら、このパンツはアタシと白狐ちゃんが付き合って100年目の記念日にアタシがプレゼントしたやつだし、こっちのは361年目に白狐ちゃんがいつもより大人な下着を買ってみたくて1人で銀座の高級ランジェリーショップに行って買ったやつ、あそこのは1240年目に白狐ちゃんが…」
「おい待て変態。なんでお前が知らない筈の事まで知ってる。」
「………それはそうと、これからどうしよっか?」
「おい話を逸らすな。」
「でも、巣の主がいつ帰って来るか分からないし、早く対策考えないとだよ?」
「うっぐ……確かにそうだ。」
仕方ない、今の件については後日問い詰めるとしよう。
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんが好きな木は?
「アタシも桜の木が好きだよー!」
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