※別作品(短編)執筆中なので、しばらくの間投稿頻度は遅くなるかもです。
街での買い物や食事は、特に問題無く済んだ。
街中はどこも監視の目がキツかったけど、建物の中は案外そうでもなかった。
あくまでも、街の表面的な部分のみを徹底して美化しているみたいだ。
そして楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、気付いたら既に周囲は暗くなっていた。
「カイちゃん、そろそろナイトサファリに行っても良い感じの時間なんじゃない?」
「そうだねー、この通りを道なりに進んで行った先に、ナイトサファリ専用のシャトルバスが出てるバス停があるらしいから、まずはそこを目指そっか。」
「オッケーオッケー!」
ナイトサファリ、実に楽しみだ。
こいつぁ生き物好きの血が騒ぐぞ!
◆◆
「あれ、2人とも奇遇ね!」
「…あ、エリザベちゃん!?」
ナイトサファリの受付前まで来たら、券売機でチケットを購入しようとしていたエリザベちゃんに出会った。
私達を見つけてはしゃぐ彼女の両隣には、両親と思わしき中年の男女が並んでいる。
するとあれか、このいかにもセレブっぽいおばさまが、超有名企業トレジャーピッツァの社長さんか!?
私とカイちゃんは失礼にならないよう、すぐさま挨拶をした。
「…ど、どどどうも、エリザベちゃんの友達というかなんというか、そういうのやらせて頂いてます、尾藤白狐と申しますです!」
やべ、焦って色々と変な感じになった。
「アタシもエリザベちゃんの友人で、白狐ちゃんのフィアンセでもある、山岸海良です。
あ、こちら名刺です。」
カイちゃん、私とは大違いでなんて流暢で完璧な挨拶!そして太陽のような笑顔!
しかも名刺なんて持ち歩いてるなんて!
私なんか人生で名刺なんざ、中学校の時の社会の授業で作って以来だぞ!
あと、さりげなくフィアンセに昇格してるし!
「あらあらどうもご丁寧に。
あらら!山岸さんの名前ってどこかで聞いた事あると思ったら、もしかしてあの『しろぎつね』を経営してる山岸海良さん!?」
カイちゃんの名刺を確認するなり、両親共に身振り手振りで大袈裟に驚いている。
まあ、経営の規模で言えばカイちゃんのグループとトレジャーピッツァは同格くらいだしな。
まさか娘がつい最近作った友人がそんなビッグネームだったとは思わなかったのだろう。
あと、一応言っておくと『しろぎつね』ってのはカイちゃんが経営してる全国チェーン店の焼肉屋だ。
おいしいのでオススメ。
「うそッ!山岸ちゃんってしろぎつねの社長さんだったの!?」
一番分かりやすく驚いてたのは、エリザベちゃんだった。
「あれ、まだ言ってなかったっけ?」
そういやそうだな。
言ってなかった気がする。
「初耳だよ初耳!
そっか、タダモノじゃないとは思ってたけど、そうだったのね。」
うーん、カイちゃんの変態っぷりを垣間見たエリザベちゃん的には、どういう意味でタダモノじゃないと思ってたのかな?
「ウチの娘から話は聞いてるかもしれないけど、アタクシはエリザベスの母の宝宮 佳奈子です。
山岸さんと同様、食品関連の会社を経営をしている身だから、お互い仲良くして欲しいわ。」
「ボクは、父のビルといいマス。
東京でタクシーの運転手してマス。」
子供であるエリザベちゃん同様、丁寧な所作で挨拶するご両親。
お母さんの方は二子玉のタワマンにでも住んでそうな(偏見)セレブ感全開のおばさまで、お父さんの方は紳士的で柔和な雰囲気の黒人男性だった。
そう言えば確か、パパがアメリカ人だって言ってたな。若干片言だし。
そして、2人とも当然のように名刺を取り出して、カイちゃんと私に手渡してきた。
まだ子供のエリザベちゃんはいいとして、カイちゃん除いて一番年長者の私一人が名刺を出せないのは、なんというか滅茶苦茶恥ずかしい!
なんだよ!
名刺を持ち歩くのが常識だなんて、今まで聞いた事ないぞ!
働いた事なんて無いからな!
「エリザベスから2人の話は沢山聞かせて貰ったわよ。
恋人同士で世界一周の旅だなんて、とっても素敵だわ〜。」
「若い頃を思い出すネ、佳奈子。」
「ヤダもうアナタったら、こんな所で!」
急に惚気出した。
うむ、おしどり夫婦なようで何より。
「はいはいもう、ママもパパも入り口なんかでイチャイチャしてないで、早く入ろうよ!
今夜の主役はナイトサファリでしょう?」
「あらら、そうだったわね、ごめんなさい。」
ラブラブな両親の間に割って入ったエリザベちゃんが、困ったように2人を急かした。
確かに、私としても早く中に入りたい。
初対面の夫婦のイチャコラを見せつけられても、どう反応すればいいか困るしな。
エリザベちゃん、ナイス!
◆◆
「おお!凄いぞカイちゃん!
あれ、暗くて分かりづらいけど、熊いるぞ熊!」
「本当だね!のっそり歩いてるねー!」
夜闇で視界の悪い中、私達は目を凝らして動物を探し、見つける度に一喜一憂する。
もしかしたら、こうやって頑張って動物を見つける楽しみこそが、ナイトサファリの醍醐味なのかもな。
つーか熊見つけにくいなホント!
黒っぽいからか!
「ねえねえ、あそこにいるのって何かしら?」
「うん?どれどれ…」
エリザベちゃんの指差す先を見てみると、そこには白い変な物体がゆらりと浮いているのが見えた。
一見生き物離れした見た目で超常現象的な何かと思ったけど、目を凝らしてみたらすぐに正体が分かった。
「あぁ、あれはマレーバクだね。
黒い部分が暗闇に紛れてる所為で、白い部分だけが目立って見えたんだな。」
「ほえ〜、変なの!」
「トラ!トラがこんなに近くにいるよッ!」
園内を移動する専用のサファリバスに乗っていたら、ガタイの良いトラがこちらに近づいて来た。
それもかなりの近距離で、もし襲われたら一瞬で頭にかぶり付かれそうな距離だ。
私とカイちゃんは不変力の影響があるから、万が一襲われても死にはしないけど、やっぱり猛獣にガンを付けられてると本能的に肝が冷えるってもんだ。
それに、エリザベちゃん達が襲われたら普通に大惨事だし。
当のエリザベちゃんは興奮気味だけど、流石に小声で騒いでいる。
グルルルと唸ってるトラを極力刺激しない為に、気を遣っているようだ。
「お、あっちにいるのはホワイトタイガーかな?」
「白虎ちゃんッ!?」
「漢字が違うわ。」
◆◆
一通り園内をぐるっと回り、パンフレットに書かれている動物は全て見終わった。
私達は入り口に戻り、ベンチに座って休んでいた。
「いやー、想像以上に面白かった!
日本の動物園じゃなかなかお目にかかれないような動物もいたし、大満足だわ。」
これはもう100%私の素直な感想だ。
生き物好きな私の欲求を、このナイトサファリは十全に満たしてくれた。
「そうだよねー!ジャコウネコとかボンゴとかスイギュウとか、ホンット激アツだった!」
「カイちゃんの好み、ちょい渋くていいな。」
私もカイちゃんも宝宮家の皆さんも、全員笑顔で楽しめた。
うんうん、ナイトサファリ来て大正解だったわ。
◆◆
ナイトサファリを後にしてエリザベちゃん達と一緒に船まで戻り、もう夜中なのですぐに寝る事にした。
エリザベちゃんにとっては結構な夜更かしだったのか、眠たそうに何度も欠伸を連発している。
宝宮家の部屋の前で別れて、私とカイちゃんは自分達の部屋へと入った。
「ういー、喉乾いた喉乾いた。」
私は冷蔵庫を開けて、中に入っていたペットボトルのコーラをがぶ飲みする。
ナイトサファリは蒸し暑かったので、喉が乾いてしまったのだ。
「ぷはッ!うん美味い!」
「ナイトサファリ楽しかったねー!
日本に戻ったら、久し振りに白狐ちゃんと動物園デート行きたいなー。」
「よし!なら24時間耐久動物園デートだッ!」
「それはもうデートの域を超えてるよ!」
エリザベちゃん達と一緒なのも楽しかったけど、今度はカイちゃんとゆっくり2人きりで行ってみるとしますか。
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんが好きな数字は?
「2かな。2番手ってなんかカッコいいじゃん?ボスの右腕的なポジション。」
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