スペースシップ☆ユートピア

永遠の時を旅する2人の少女の愛の物語
千葉生まれのTさん
千葉生まれのTさん

147話・9810万年目・海は広いな…

公開日時: 2022年10月9日(日) 21:17
文字数:3,057



「いやー、久々のフェリーって何か良いなぁ!」


フェリー内の客席に腰掛け、持参したポテトチップスを摘みながら、窓越しに広大な海を見渡している。

何となく、セレブな気分だ。

乗ってるのは普通のフェリーだけど。




「フフ、私達も初めての船旅に興奮を隠しきれないよ。」


「……ソワソワ。」


ツジもレンちゃんも、分かりやすくソワソワしている。

その気持ち分かるぞ。

私もクールな感じを取り繕ってはいるけど、内心ウズウズが止まらなかったからな。

カイちゃんのVTOL機にちょくちょく乗ってて雲の上に慣れてた所為なのか、海上の旅は本当に久し振りだからだ。

これからも、時折ゆっくりクルージングしてみるのも悪くないな。








「おや、カモメ達が団体でやって来たぞ!」


気まぐれにデッキに出てみたら、ツジが興奮気味にそう叫んでいた。


「おおー!美味そう!狩っていい!?」


「駄目だって。つーかあのカモメ、私の不変力の影響受けてるから、狩りたくても狩れないぞ。」


お預けを食らって残念そうにしているレンちゃん。

こんなとこで野生児の血を騒がされても困るな。


フェリーに並んで気ままに飛んでいるカモメの群れは、私達の町を不変にした際に、巻き込まれた連中だ。


「でも何で、船に並ぶように飛んでるんだ?」


レンちゃんの疑問も分かる。

てか、私もビックリしてる。

カモメ達の〝この習性〟も、未だに不変だったとは。


「コイツらはだな、私達のおこぼれを貰おうとしてるんだよ。

そうだな、ちょっとそこで見てるといい。」


そう言って私は一旦船内に戻り、食べかけのポテトチップスの袋を手に取って再びデッキへと戻って来た。


「ほいっと!」


手に取った数枚のポテチを、海に向かって放り投げる。

すると、気楽そうに空を飛んでいたカモメ達が一転、我先にと素早い動きで宙空のポテチを掻っ攫っていった!


「おお!なるほど、人間からの餌付けを待っていたのか!」


得心いったとばかりのツジ。


「そゆこと。

何万年も経ってるから、とっくに失われた習性だと思ってたけど、こんなとこも地味に不変になって残ってたんだなぁ。」


「単に食い意地が張ってるだけなんじゃ?」


「ハハ、否定は出来ない。

カモメ達も大概強かだな。」


レンちゃんにそう言われて、苦笑いで返す。

まあでも、面白い発見ではあった。










◆◆



翌日。



『ピンポンパンポーン!船内連絡〜!

航路前方に〝クラーケン〟を確認!

念の為、回避行動しとくねー!』


「お、マジか。」


船内各所に設置された船内放送用のスピーカーから、操舵室にいるカイちゃんの声が聞こえた。

客室でのんびりスマホを弄っていた私は、ふらりと立ち上がってデッキへと向かった。



「お〜、本当だ、いるいる。」


船の前方には、海面を突き破って揺らめいている、山のように巨大な何かが確認出来る。


あれの名前はクラーケン。

神話から飛び出しかのようなそいつの見た目は、名前の通り超巨大なお化けイカだ。

正確には、100メートル以上の体長を誇るウルトラジャンボなイカ人に分類される。

地上に進出して独自の進化を遂げたイカ人ではあるが、逆に海で生き続ける道を選択したイカ人達も実は存在する。

彼らは地上の仲間よりも大幅に体を肥大化させる進化を果たし、結果としてあんなんになった。


で、ゲームとかに出てきそうな、まんま神話のクラーケンな見た目なので、安直にクラーケンと呼ばせて貰っている。

私達の町の近海にも度々現れるので、だいぶ見慣れてる感はあるな。

食べるものは主にプランクトンや海藻で、性格は非常に温厚且つ知性的。

神話のクラーケンと違って、人を襲うなんて事はまず有り得ない。


「おおー!クラーケンだ!久々に見るね。」


「うん、相変わらずデカい。」


船内で休んでいたツジとレンちゃんも、カイちゃんの放送を聞いて表に出て来た。

彼女ら2人も、以前私の家に遊びに来た時なんかに、何度かクラーケンを目撃している。


「でもまあ、こっちから刺激しなけりゃ何もされないから大丈夫でしょ。」


「恐ろしい見た目と体躯なのに、性格は極めて温和とは……まさにギャップ萌えというやつだね。

まるでレンちゃんみたいだ。」


ツジにそう言われて、ムッとするレンちゃん。


「ツジ姉、それどういう意味?」


「気になるかい?

それはもうズバリ、一見レンちゃんは怖そうな女の子に見えるけど、実は凄く友達思いな優しい女の子だからね。

人は見かけによらないものさ。」


「……そう。」


一切悪気無く言い切るツジに対して、レンちゃんは怒る気を失ってしまったようだ。

確かにレンちゃんは、知らない人から見たら目付きの鋭い怖い雰囲気の少女なのかもしれないな。

実際私達だって、初めて会った時は殺されそうになったしなぁ。

でも、私達との交流があった所為なのか、彼女の性格は当時よりはかなり丸くなったと言える。




「しかし、クラーケンがいくら大人しいとは言え、万が一の事故が起こる可能性もあるからね。

山岸ちゃんの判断通り、回避行動を取るに越した事はないだろう。」


「だな。向こうがついうっかり船にぶつかって、フェリーがひっくり返ったら大問題だもんな。」


何年も前に、私の家の近くの海に、凶暴な巨大マッコウクジラが迷い込んで来た事がある。

そいつは散々海中で暴れ回った後、たまたま地元の海に来ていたクラーケンにも果敢に喧嘩を売った。


結果は、クラーケンの圧勝。

ほぼ勝負にすらなっていなかった。

温厚なイメージだったクラーケンは、自身が敵意に晒された瞬間に豹変し、その巨大な脚の一本で一蹴。

たった一撃で、凶悪なマッコウクジラを絶命させてしまったのだ。


まあ要は、それだけの強大なパワーを秘めている生物でもあるので、あんまり無警戒に近寄るのも危険という訳だ。

この程度のフェリーなんて、一発で木っ端微塵にされてしまうだろう。


「お、ちゃんと避けた。」


船は斜め45度に進路を傾け、海上に顔を出しているクラーケンをスルーしていった。

クラーケンの側を通り抜けている最中、クラーケンがずっとこちらを無機質な眼でジッと見つめていた。

威圧感半端無いし、めっちゃ怖かった。


「ヤバいなあのイカ。

仮にワタシと海良が連携して狩ろうとしても、勝てる気が全くしないぞ。」


うん、丸くなったとはいえ、レンちゃんの野生児的発想は健在だ。

クラーケンと敵対するなんて展開だけは、絶対に避けたいな。

クラーケンは地上のイカ人とも仲が良いから、私達と親交のあるイカ人をも敵に回す事になるし。


「物騒な考えはしまっておいた方が良いからな。

アイツらは賢い分、敵意にも敏感だから。」


「……わ、分かった。

いや、最初から本気で狩ろうなんて思ってないけど!」









◆◆



「びゃーっこちゃんッ!」


「おわッ!?」


客席でくつろいでいたら、突然視界が真っ暗になった。

一瞬焦ったけど、すぐにカイちゃんが目を塞いできたのだと理解する。


「私をそう呼ぶのは、1人しかいないだろ。

なんだこの超古典的なバカップルムーブは。」


「エヘヘ〜バレちゃった。」


うッ、なんか今の可愛かった。

視界が晴れるのと同時に、不覚にもそう思った。




「沖縄、楽しみだね!」


「うん、まあ、楽しみだな。」


「もうすっごい昔の話だけど、修学旅行楽しかったもんねー。」


「そうだなぁ、カイちゃんがサーターアンダギー食べ過ぎたり、バイキング食べ過ぎたり……


色々あったよなぁ。」


「アタシの食い意地エピソードばっかりッ!?」


あの時は野茂咲さんや新藤君もいて、コミュ障な私でも楽しい修学旅行を満喫出来たものだ。

沖縄が不変になったのは私の不注意による事故だけど、何だかんだ思い出の地が変わらず残ってるってのは、嬉しいものだ。



⚪︎2人に質問のコーナー


白狐が好きな沖縄料理は?


「ソーキそば!美味いぞ!」

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