汚染地帯の廃ビルで発見した、謎の2人組の人間について考えてみた。
宇宙服みたいな服はかなりの重装備のようで、声がくぐもって男女の判別が付きにくい。
しかし、口調からして多分、片方が女でもう片方は男だと思う。
次に、彼らが口にした言葉だ。
まずあの大蜘蛛は、およそ1週間ほど前に彼らに住処を追いやられ、私達の町にやって来た事になる。
そして特に重要そうなワードが、女の方が言っていた〝教祖様〟という単語。
何らかの宗教団体に所属しているのが確定したけれど、この時代に於いて宗教団体といえば、〝あの組織〟しか考えられない。
「カイちゃん、あいつらの正体ってきっと…!」
「うん、アタシも白狐ちゃんと同じ事考えてる。」
心なしか、ジャイアント(略)コオロギも身震いしているように見える。
そう言えばこの子との出会いも、あの教団絡みだったからな。
「アンチョビ教団…!」
「うん、アタシもそう思う。」
数百年前、まだ世界中で人類の文明が進化を続けていた頃、一つの歪みが世に表出した。
それこそが、世界を滅びに導いた諸悪の根源、アンチョビ教団。
昔よりも遥かに勢力を拡大した彼らは、伝統的に教祖の思想一つによって教団全体の意思決定が決まる。
しばらくは温厚な教祖が続いた事によって平和な教団としてやっていたが、それに終止符を打つかのように、ある時期を境に極端に過激な思想を持つ教祖が台頭する。
そいつは世界各国の要人を手段を選ばずに教団に取り込み、邪魔な人間はバンバン粛清していった。
やがて世界最強の独裁者となった教祖は、その狂人っぷりを遺憾無く発揮して、世界中で化学兵器を用いた大戦争を誘発させ、人類が連綿と築き上げてきた文明をあっさりと崩壊させた。
率直に言って、私は奴らが大嫌いだ。
私の大好きなゲーム文化も、テレビも漫画もグルメも旅行も、何もかもあいつらの身勝手な行動によって台無しにされたからだ。
永遠に生きる道を選択した以上、いつか文明が崩壊するのは覚悟していたけれど、あんな下らない戦争ごときで早々に滅ぼされるのは納得がいかないってもんだ。
まだまだ人類は発展の余地があったのに、本当に悔やまれる。
「さて、大蜘蛛が引っ越しした原因は特定出来たけど、どうするのカイちゃん?
相手がアンチョビ教団じゃ、私達じゃどうにも出来ない気がするけど。」
いくらこっちに最強のカイちゃんと不変力があるとはいえ、流石に多勢に無勢。
今現在どれほどの規模なのかは分からないけど、間違いなくとんでもない数の信者がいる事だろう。
「…いや、大丈夫だよ白狐ちゃん。
アタシに良い考えがあるから。」
「考えだって?」
そんな事を口にしたカイちゃん、なんとも自信あり気な表情をしている。
「アタシを信じて、お願い。」
「……分かった、信じる。」
カイちゃんが信じてくれと言うのなら、私はそれを信じる。
きっと何か、彼女なりの奇策があるのだろう。
それからの作戦内容を、カイちゃんから耳打ちされた。
◆◆
「さて、この辺りも充分に捜索したし、そろそろ帰るとするか。」
「そうね、防護服を着てるとはいえ、こんな所に長居すべきじゃないものね。」
2人組が帰ろうとした、その時。
「そこの2人、待ちなさい!」
「ッ!?」
謎の威厳を含ませたカイちゃんの声と共に、私達は2人組の前に姿を現した。
「な、なんだお前ら!?」
「ちょっと待って!
なんで生身の人間が普通にここにいるの!?」
私達みたいな異質な存在が姿を現した事により、狙い通り2人組は明らかに動揺していた。
「普通の人間が、こんな場所で生きていける筈がない。
まさか、人間じゃないのか…?」
「それに、あのコオロギみたいな生き物は?」
狼狽している2人組に対して、カイちゃんは見下すように言い放つ。
「フン、さっきからジロジロと此方を見て失礼極まりない。
このお方を現人神、白狐ちゃん大明神様と知っての狼藉かー!」
なんなんだよ白狐ちゃん大明神様って!
「なんなんだよ白狐ちゃん大明神様って!」
良かった、相手方も私と全く同じ事を考えてた。
代わりに突っ込んでくれた。安心。
「君達、アンチョビ教団の者だろう?」
カイちゃんが聞く。
「ええ、そうだけど。それがどうかしたの!?」
強気に聞き返してくる女性らしき教徒の人。
表情が見えず強気だけど、動揺しているのが声色から手に取るように分かる。
「どうかしたも何も、物凄くどうかしてる!」
うん?どういう事だカイちゃん?
さっき聞かされた作戦内容も、『偉そうに立ってるだけで大丈夫』と言われただけなので、具体的にどうするのかは私自身よく分かっていない。
「どういう事だよ!?」
痺れを切らした男の方が怒鳴る。
「フッフッフ、何を隠そう白狐ちゃん大明神様こそ、アンチョビ教団の今後を宣告する為に、海底2000マイルの海の底から遥々やって来た、偉大なる神の子なのだから!」
「……なん…だと…!?」
マジかよ、こんな口から出まかせみたいな妄言を、信じかけてるぞ。
と思いながら、私は腕を組んで威厳たっぷりに立ち尽くす。
下手に喋ったらボロが出そうなので、ひたすら沈黙を守りつつカイちゃんに全てを任せる。
「海底2000マイルの海神様といえば、私達アンチョビ教団に伝わる伝説の救世の神。
特別な存在だっていう事を知ってて、その名を騙っているの?」
女性らしき方も、怒りの篭った口調で聞いてくる。
てかカイちゃん、よくアンチョビ教団の神様なんて知ってたな。
「失敬な。
白狐ちゃん大明神様の神格を疑うとは!
ならば、神の従者であるアタシが、その神髄を証明してみせよう。」
証明だと?
一体何をするつもりなんだ?
「白狐ちゃん大明神様の起こす奇跡の力、とくとご覧あれ!」
そう言ってカイちゃんは、私と2人組の間に仁王立ちになった。
「なんだ?どういう事だ?」
私にも分からん。
「2人とも、銃火器の装備はしてるでしょう?
それでアタシを撃ってみなさい。」
「……ハアッ!?」
2人組は揃って頓狂な声を上げた。
「白狐ちゃん大明神様の加護を受けたアタシには、弾丸など通用しない。
その事を証明してみせるのだよ。」
あー、なるほど。そういう事ね。
「なんなんだよこの女。
頭おかしいんじゃないのか?」
「でも実際、汚染地帯を平気で歩いてるし。
もしかしたら本物なのかも…」
男の方はまだ結構疑ってるみたいだけど、女の方は心が揺れているようだ。
もう一押しってところか?
「そもそも俺らの武装は、野盗や危険生物に対抗する為の物だ!
こんな少女を撃つための物じゃないぞ!」
至極真っ当な事を言い放つ男。
こうなったら埒があかなそうだな。
「あーもう、私がやる。」
このままグダグダになっても面倒なので、私が前に出た。
その時ついでに、こっそりカイちゃんの痛覚も不変にしといた。
「はい、銃貸して。」
「…あっ、え?」
拳銃を手にしていた女の前まで行き、半ば無理矢理拳銃を奪い取った。
いや、貸して貰った。
「ほら、撃つよ?」
「オッケー。」
「ばん。」
バン!バン!バン!と、カイちゃんの土手っ腹に3発の鉛玉を撃ち込む。
「ああッ!?」
焦る2人組。
まあマトモな反応だ。
私も不変力さえ無かったら、こんな狂気の沙汰みたいな事出来る訳がない。
「おいおい!そんな事して………え?」
「はあァ!?」
銃弾をモロに食らってピンピンしているカイちゃんを見て、2人組は目を丸くして驚いていた。
いやまあ、防護服で顔は見えないんだけど、多分そうなってる。
「…か、神だ…!」
「…ほ、本物…!」
どうやら、信じて貰えた様子だ。
流石はカイちゃん、口も八丁手も八丁とはこの事か。
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんの好きな肉料理は?
「チキンステーキ好きかな!お肉は何でも好きだけどね!」
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