スペースシップ☆ユートピア

永遠の時を旅する2人の少女の愛の物語
千葉生まれのTさん
千葉生まれのTさん

57話・20年目・教団とゲーセンとラー油とご飯のお供

公開日時: 2021年9月23日(木) 16:06
文字数:3,060



「新興宗教団体〝アンチョビ教団〟、先日の豪雨で大きな被害を受けた地域に赴いて、積極的にボランティアとして支援活動に励む、だって。」


とある日の昼間、ファミレスでカイちゃんと一緒に昼食を摂りながら、日課であるSNS巡回をしていると、そんな記事がトレンドに上がっていた。


「あー、磧さんの立ち上げた変な宗教団体。

白狐ちゃん、興味あるの?」


「そんなまさか。ただ、最近になって少しずつ勢力拡大してて信者も増えてるみたいだしな。

変な事しなきゃいいけど。」


「うん、感じが変わったとはいえ、あの磧さんだからね。

っと、今は教祖カワラーナ様、だっけ?」


「どっちでもいいよ、そんなん。」


磧環は現在、多摩川たまがわカワラーナという洗礼名を名乗り、アンチョビ教団の教祖としてトップの座に君臨している。

ちなみに、彼女は普段からあの妙ちくりんな魚の被り物をしている為、その正体は未だ世間にはバレていない。


「ボランティア活動とか慈善事業にも積極的に参加してて、世間の評判は良いみたいだよ?」


「とは言え、私達はアイツの正体知っちゃってるしなー。

ま、ぽっと出の宗教団体なんて、何年かすれば自然消滅してるでしょ。」


「……うん、そうだね。」


そう言いつつ、不安そうな顔をしているカイちゃん。


「んー、なんか気になるの?」


「あ、いや、そうじゃなくて。

…ちょっとだけ、嫌な予感がするんだよね。」


「…そんなんカイちゃんが気にしててもしょうがないって。

それより、今日のメインイベント行こうぜ!ゲーセン!

カイちゃんの好きなアニメキャラのフィギュア、ゲットするんだろ?」


「…うん!UFOキャッチャーマスターのアタシが、ゲーセン荒らしをする時間だッ!」


「よし来た!」


カイちゃんの尻を叩き、元気を出して貰ったところで、本日のメインイベント会場へと向かった。












◆◆



「えへへ〜、大漁大漁!」


ゲーセンという名の戦場から出て来た女の子二人。

笑顔のカイちゃんと涙目の私が、横に並んでゲーセンの前に立っていた。


カイちゃんが両手に持っているデカめのビニール袋には、容量ギリギリまでぶち込まれたUFOキャッチャーの景品がギッチリ詰まっている。

カイちゃんはゲームが得意だけど、ゲーセンのゲームも例に漏れず得意だというのだから羨ましい事この上ない。

対してエグい程に惨敗した私は、唯一取る事が出来たご飯にかけるラー油の瓶を手に、これ一つ取る為に失った数千円のお小遣い達に思いを馳せていた。


「…えっと、白狐ちゃんドンマイ。」


生気を失った私に気を遣ってくるカイちゃん。


「やめてくれ、虚しいだけだから。」


「そんな事言っても…。

そうだ、アタシが取ったこのクッション、プレゼントしよっか?」


「だからやめろッ!

勝者から施しを受けるくらいなら、今すぐ舌を噛み切って死んでやるぁ!」


「ヒィ!白狐ちゃんがご乱心ッ!?」


行き場の無い怒りをぶつけるが如く、私はラー油の瓶をガジガジと意味も無く齧り続けた。














◆◆



「ラー油うめー!

世界一ご飯に合う食材だわ、コレ!」


家に帰ってからの夕食、大枚を叩いて手に入れた黄金の食べるラー油が大活躍していた。


「これほんっと、美味すぎるって!

うん千円使って手に入れた甲斐あったー!」


「…白狐ちゃん…」




…はい、そうです。空元気です。

あまりにも失ったものがデカ過ぎたので、無理矢理テンション上げて誤魔化してるだけです。

いやまあ、ラー油かけご飯が美味しいのは事実なんだけども。

ほら、カイちゃんが心配そうに私を見てるよ。

大丈夫大丈夫、私なら見ての通り元気だって!




「そうだ!このラー油美味過ぎるからさ、不変力で不変にして、減らないようにしちゃおう!」


「うわー……」


「そんな目で見るなよッ!こちとら定価の10倍以上の値段で手に入れたんだ!

永遠に減らないオプションが付いてたって、バチは当たらないだろ!?」


私、再び涙目。

涙目のまま、叫ぶ!


「う〜ん、バチは別に当たらないだろうけど、白狐ちゃん、器がちょっと小さいって言うか…」


「うっさいバーカ!これは帳尻合わせって言うんだよ!覚えとけ!」


「…う、うん。」


…べ、別に人としての器が小さい訳じゃ無いんだからねッ!

あくまでも損得のバランスを取るのを重視して、精神の均衡を保つ事を優先しただけなんだからねッ!

つまりこれは精神的自己防衛!異議は認めない。




「それに、永遠に減らないご飯のお供があれば、カイちゃんだって嬉しいでしょ?」


「………うん。」


想像してしまったのか、ゴクリと唾を飲み込むカイちゃん。

フッ、チョロい女だ。


「という訳で、カイちゃんも一緒にご飯にラー油かけて食べよう!

ほらほら、美味いぞー!」


「食べるー!」


ファッファッファ、実に愚かな女よ。

これでもうカイちゃんは、食べるラー油無しでは生きていけない体になった。

私にかかればこの程度、朝飯前よ!


「うーん、ラー油ご飯美味しいねー。サイコー!」


さあ、画面前の読者のみんなも、レッツ!ラー油かけご飯!













◆◆



くどいようだけど、食べるラー油は最高だった。

なにせ、単体でも充分美味しいのに、鮭フレークとか納豆なんかと一緒に食べると、更に美味しくなるときたもんだ!

まさに、万能の食材と言っても過言ではないだろう。


それからというもの、軽く1ヶ月の間は三食ラー油かけご飯を食べてた気がする。

美味しいものはなかなかどうして飽きないものだ。


でも、流石に1ヶ月ずっと食べてたら飽きてきた。

なので、カイちゃんと共に新たなご飯のお供を探す事にしたのだ!



「えー、それではただ今より、第一回チキチキ尾藤&山岸家ご飯のお供選手権を開催しまーす!」


「イエーイ!パチパチパチ〜!」


「という訳で、優勝はマヨネーズ選手に決定しました。」


「始まった1秒後に決まっちゃったよ!?

ていうか白狐ちゃん、まさかのマヨラー!?」


「そこまで熱烈な信者じゃないけど、ラー油抜きだとだいぶ絞られるからなぁ。

マヨネーズ、ご飯に合うじゃん。」


「合うけどもッ!他にも色々あるでしょ!?」


「ちぇッ、カイちゃんは食べ物の事が絡むと厳しくなるなぁ。」


「食に関しては妥協せず、常に真剣に向き合うこのアタシです!」


茶番とはいえ、真面目に取り組まざるを得ないか。


「マヨネーズ以外か。だったら、私はマーガリン推しだね!

米一粒一粒をマーガリンでギッタギタに塗り潰した上に、醤油ぶっ掛けて食らいつきたい。」


「ぐぅッ、ものすごーく食欲を唆る言い方!その言葉を聞いただけで、涎がじゃんじゃん溢れてくる!」


なんか知らんけど、私の言霊パワーで勝手にダメージを受けているカイちゃん。


「そんで、カイちゃんは?」


「アタシはねぇ、コレだよ!じゃじゃんッ!」


カイちゃんが取り出したのは、一枚の黒き海苔。

パリパリで美味しそうだ。


「ほう、海苔で来たか。」


「イエス!ビバ!海苔!

こちらもお醤油に少しだけチョンと浸しつつ、ご飯に巻いてひと口で頬張るのが吉!」


「おほうッ!それもまた魅力的なこって!」





その後も、私とカイちゃんのご飯のお供談義は続いた。

鶏そぼろ、鮭フレーク、肉に生卵など、並み居る強豪を退け、第一回大会の優勝者の栄冠を手にしたお供……。



それこそが……ッ!











「おめでとう、醤油選手。君こそが優勝者だ。」


「アタシも、異論は無いよ。醤油最強。」


他の食材に掛けて美味しく食べれる上に、醤油単体でご飯に掛けてもいける。

そんな万能性を鑑みて、私とカイちゃんの両者一致の意見で醤油そのものが優勝に輝いた。


「醤油のみでご飯を食べる背徳感、美味しさ。得難いものだよ。」


「アタシ達は大丈夫だけど、良い子のみんなはかけ過ぎないように注意しようね!」



⚪︎2人に質問のコーナー


白狐ちゃんが好きな乗り物は?


「船が好き。のんびり揺られながら眠ってたいな。」

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