今日は、2月28日。その夜。
特に大した事はないんだけど、明日は私の誕生日だ。
カイちゃんが私の誕生日を知った以上、どんな祝い方をしてくるのか、期待半分不安半分といったところか。
実は今朝、カイちゃんからメッセージが届いていた。
文面はシンプルに、『明日は楽しみにしててね。』とだけ。
タイミング良く明日は休日なので、どんな準備をしているのだろうと想像を巡らす。
「カイちゃんの事だから、きっと私じゃ想像もつかないようなサプライズを用意してるんだろうなぁ。」
まあ、折角の誕生日だし、楽しみにさせて貰いますか。
◆◆
そして、2月29日。
朝早くピンポーンと、家の呼び出しチャイムが鳴り響いた。
「あふぁ…、誰だぁ?」
寝惚けてパンツ一丁で出そうになり、寸前で気付いて急いで着替える。
出ると、玄関口でカイちゃんが立っていた。
「どうも〜。」
「なんだ、着替えて損したわ。」
「へ?どゆこと?」
「何でもない。遊びに来たんでしょ?準備するから、上がんなよ。」
「いやいや違うよ白狐ちゃん!ほら、今日は白狐ちゃんの誕生日でしょ!?」
「んん?ああ、そっか、そうだね。ごめん、まだ寝惚けてたわ。」
まだ重たい瞼を擦りながら、カイちゃんと目を合わせる。
すると、玄関口に立つカイちゃんの背後、つまり家の正面の道路に停車している車が目についた。
「珍しいじゃん、いつも歩きか自転車で来てるのに。」
「ううん、今日は特別な日だから、お姉ちゃんに頼んで車で迎えに来たの。さあさお乗り下さい!」
そう言われて、カイちゃんに腕を引っ張られる。
「ちょ、ちょい待ち!まだ起きたばっかで、なんの支度もしてないから!少し待ちなさい!」
「あ!?ご、ごめんね!」
全くこの子は。
夢中になると、周りが見えなくなるタイプかな?
「んじゃ、5分ほど待っててね。急いで支度してくるから。」
「うん!」
◆◆
支度が済むのに、ジャスト5分。
眠気もすっかり覚めて、カイちゃんの主催する誕生日会に期待に胸を膨らませながら、ルンルン気分で階段を駆け降りた。
「お待たせカイちゃん、車に乗ればいいんだっけ?」
「うん、でもその前に、これを付けて。」
そう言って、笑顔のカイちゃんが私に手渡したのは、どこからどう見ても、アイマスクと耳栓だった。
「んあ?どういう事?」
「まあまあ、それは着いてからのお楽しみってやつで〜♪」
「いや、え?ちょっと怖いんだけど?不安しかなくなるんだが?」
「いいからいいから!」
半ば強引に着用を勧められて、仕方無くアイマスクと耳栓を付ける事にした。
つまり今の私の状況は、視界は真っ暗で音も一切聞こえない状態だ。
そんな中で、カイちゃんに補助されながらゆっくりと歩いていく。
「五感が不自由な白狐ちゃんを、アタシが先導して動きを支配している!なんか興奮する!ハァハァ!」
とか言ってそうなのを直感で感じ取ったので、カイちゃんの頭がありそうなところを適当に引っ叩いておいたら、見事に命中した。
きっと興奮してるだろう。
「しっかし怖いなぁ、オイ。」
カイちゃんに導かれるまま、私は車に乗り込んだ。
まあ、目も耳も不自由だから、本当に車の中かとは100%言い切れないけど、座ってて揺れてて車のシートの匂いなんかもするから、ほぼ間違いなく車の中だろう。
いやしかし、本当にカイちゃんは私をどこに連行するつもりなのだろうか。
傍から見たら、見た目小学生の幼女を、目隠し&耳栓して誘拐しているような画になってるんだろうなぁ、とか思ってたりする。
いかにもカイちゃんが興奮するようなシチュエーションだ。
「カイちゃんは本当にどうしようもない変態だなぁ。」
と呟いたら、隣で「あひィ!そうです、アタシが変態豚女でござぁい!」とか言ってる気がした。
◆◆
10分ほど車に揺られた頃だろうか。
少しずつ目隠しと耳栓の世界にも慣れ始めてきた矢先に、車がどこかに駐車するのを感じた。
それと同時に耳栓が片方だけ外されて、カイちゃんが耳打ちしてきた。
「お待たせ。目的地に着いたから、またアタシが先導するね。」
「ああ、うん。」
再び耳栓をされて、カイちゃんに腕を取られて車を降りる。
そのまま室外から室内へと、移動するのを感じた。
暖房が効いてるから、どこかの建物の中なのは確定だけど、それ以外は一切ヒントが無い。
どうしよう、どっかのネズミ講とかだったらどうしよう!
カイちゃんに限ってそれは無いと思うけど、もしも万が一、ドMで搾取されるのが大好きなカイちゃんが、私の知らない間にそういう輩に引っ掛かっていたら…!
そんなしょうもない事を考えていたら、唐突に耳栓を外された。
「ごめんね白狐ちゃん、不自由な思いさせちゃって。
でも、もう終わりだから安心して。」
続けて、アイマスクも外される。
そして、私の目に信じられない光景が映し出された。
「え?えッ!?うええェェッッ!?」
目の前に広がるのは、膨大な量の飾り付けで埋め尽くされた部屋だった。
ギラギラした派手な装飾品が其処彼処に飾られていて、部屋の一番奥の中央には巨大なモニター、その上には『白狐ちゃん誕生日おめでとう!happy birthday!』と書かれたドデカいプレートが、これまたド派手な装飾と共に飾り付けられている。
私もカイちゃんの誕生日の時に飾り付けはしたけど、これはその時の数倍の規模で展開されている。
「…なんていうか、凄いとしか言いようが無いな。
でも、私なんかの誕生日の為にここまでやってくれたのは、正直に言って嬉しいよ。ありがとうカイちゃん。」
これだけ準備するのも、相当大変だっただろう。
そう思うと、なんだかとても嬉しかったので、素直に笑顔で感謝の気持ちを伝えておいた。
「…び、びびび白狐ちゃんが、あああああありがとうって言ってくれたぁ…!こんな笑顔でッ!
準備した甲斐があったー!もうアタシの人生に一片の悔い無しッ!」
私に感謝されたのが嬉しかったのか、カイちゃんは飛び跳ねるように喜んでいる。
そういう子供っぽいところがまた可愛いんだけど、流石に恥ずかしいのでそこまでは口に出さないでおく。
「それにしても、ここってどこなの?カイちゃんの家じゃないよね?」
「フッフッフ、そうです!実はここ、カラオケボックスなのですッ!」
「カラオケボックスぅ!?」
カイちゃんの衝撃的な一言に、我が耳を疑った。
「かかかか、カラオケボックスって、あのカラオケボックス!?」
「うん、多分そのカラオケボックスだけど?」
「あの、クラス内でも選ばれし陽キャ達が一堂に会し、平和的に歌を歌い合うと見せかけつつ、フードメニューを注文する人間と、歌を歌える人間とを明確化して、その中でも合いの手を入れつつも、相手の粗を探すという、陽キャ同士のカーストをハッキリさせる大暗黒サバトが開催される、あのカラオケボックスっ!?」
「う〜ん?言ってる意味がいまいちよく分からないけど、それだいぶ偏見が入ってるよね?
白狐ちゃんって、もしかしてカラオケ初めて?」
「いや、初めても何も、陽キャ以外の人間は、入ると法律で罰せられるんじゃないの?」
「罰せられないよッ!とんでもない誤解だよそれは!」
カラオケなんてそんな、私みたいな陰キャにとったら、全くの異次元なんですけど!
宇宙の果てや深海の奥底よりも遠い場所なんですけど!?
「ていうか白狐ちゃん、本当にカラオケ来た事ないの!?JKなのに!」
「JKだからって必ずしもカラオケに行かなきゃいけないって法律は無いだろ!」
「あるよ!行かないと法律で罰せられるよッ!」
「嘘つけッ!」
カラオケなんて、一生行かないと思ってたわッ!
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんの好きな色は?
「セルリアンブルー!」
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