スペースシップ☆ユートピア

永遠の時を旅する2人の少女の愛の物語
千葉生まれのTさん
千葉生まれのTさん

83話・100年目・私の想いとアイツの想い

公開日時: 2021年12月18日(土) 19:44
文字数:3,125



「…う、うぅ……!」


1月1日、元日の午前7時。

精神を落ち着かせる為にちょいとゲームをしようと思ったら、コントローラーの下にカイちゃんからの置き手紙があるのに気付いてしまった。


「カイちゃん、こんなものを。」


昨日はカイちゃんと年越しでワイワイしていたのだけど、1時間程前にちょっと用事があるからと、早々に帰ってしまった。


「それで、私がゲームをするのを見越して、こんな手紙を仕込んでたって事かい。」


まあ、そりゃあ100年も一緒にいる訳だし、私の単純な行動パターンなんて簡単に読めるだろう。

取り敢えず、手紙の文面を読んでみる。


『本日、お昼の16時半。

約束のあの場所で待ってます。

byあなたの山岸海良』


「なんじゃこの怪文書。」


約束の場所ってどこやねん。

時間も中途半端だな。

沖縄?秋葉原?江ノ島?

他にも2人で行った場所を色々思い浮かべてみるも、しっくりくるものが思い当たらない。



「分からないし、聞くか。」


カイちゃん本人に『約束の場所ってどこじゃい!』とスマホでメッセージを送ると、いつも通り10秒以内に返事がきた。

その内容を読んで、私は得心いった。


「あぁ、なるほどね。カイちゃんらしいわ。」










◆◆



指定された時間、指定された場所に私はやって来た。

カイちゃんの言う約束の場所というのは、我が母校の体育館裏だった。

あれだよ、100年前にカイちゃんが告白してきた場所だよ。

そっか、カイちゃんにとってあそこは大切な思い出の場所なんだな。


学校の入り口に着くと、既にカイちゃんが学校側に話を通しているらしく、職員室に顔を出すなり、数年前に学校見学に来た際に会った大河内先生が案内してくれた。

この先生まだいたんだ?と失礼な事を考えていたら、実は教頭先生だった大河内先生は、去年から出世して校長になったんだそうな。


冬休みな上にお正月なので、生徒達の姿はどこにも見えない。

大河内先生も、年始の忙しい中時間を割いて来てくれたのだろうか。

なんかちょっと悪い気がする。




「…あ、あの、大河内先生?」


「なんですか?尾藤さん。」


体育館裏への移動中、つい大河内先生に声をかけてしまった。

これからカイちゃんに会う緊張感と、あまり気の合わなそうな大河内先生と2人きりという状況。

それらが二重にのし掛かって、コミュ障な筈の私から気付いたら話し掛けてしまったのだ。

何やってんだ私!


「…えっと、忙しい筈なのに、わざわざ来てくださって……ありがとうございます。」


「いえ、忙しいのは事実ですが、問題はありませんよ。

山岸さんからは、たんまりと手間賃を……コホン、何でもありません。」


あ、これマネーが動いてるな。

大人の汚い部分を垣間見てしまった気がする。










◆◆



体育館の正面入り口に着いた。

そこで大河内先生とは別れて、ここから先は私一人だ。

ドキドキしながらも、歩を進める。


考えてみると不思議な話だ。

100年前、まだカイちゃんと仲良くなる前、突然クラスカーストトップの美少女に体育館裏に呼び出されて、酷い目に遭うんじゃないかと恐怖していた自分がいた。

でもそれは全くの誤解で、それから告白されたり、仲良くなったり、いつも一緒に過ごして絆を深め合って……


とにかく、色々な事があり過ぎて、結果としてカイちゃんは私の人生になくてはならない存在となり、誰よりも愛おしい人になった。


それなのに…

毎日のように顔を見ているのに…

昨日の大晦日も2人で楽しくどんちゃん騒ぎをしていたのに…


今、私はカイちゃんに会うのが怖いと感じてしまっている。

それも、100年前のあの時以上に。


「ううん、そんなんじゃ駄目だ!

駄目だろ、尾藤白狐ッ!」


両頬をパンパンと叩き、己を鼓舞して気合いを入れる。

よっし、いける!今の私は無敵だ!




「たのもう!」


「……白狐ちゃん?」


しまった、気合いを入れ過ぎた。

カイちゃんが待っている体育館裏に着くなり、道場破りみたいな台詞を叫んでしまった。

その所為で、カイちゃんも私自身も動揺している。


「あ、ごめん間違えた。

〝お待たせ!〟でいいのかな?」


「…う、うん、問題無いよ。」


出会い頭でちょいと失敗してしまったけど、そのお陰で緊張はほぐれたみたいだ。

さっきよりだいぶ気が楽になった。

というかむしろ、私よりもカイちゃんの方が緊張してるんじゃないか?

平静装ってるように見えるけど、よく見たら膝が震えてるし、笑顔もどこかぎこちない。




「それでカイちゃん、いきなり呼び出して何の用なの?」


分かってる。

実は用件については何も聞かされてないけど、このタイミングでこの場所に呼ばれたら、どんなに察しの悪い人間でも流石に気付くだろう。

今日はカイちゃんと〝あの約束〟をしてから、ちょうど100年目。

そして当時、約束を交わしたこの場所にわざわざ呼び出された。


「…あ、あのね、白狐ちゃん。

勘の鋭い白狐ちゃんなら、あの手紙を読んだ時点で何の用か気付いちゃってるよね?」


「……うん、まあ何となくは。

でもそれをカイちゃんが聞くのは無粋だろ?」


「あは……そうだよね。

アタシの用件は一つ、白狐ちゃんに伝えたい事があるの。」


カイちゃん、頑張って取り繕っていた平静さが、目に見えて崩れてきている。

正面で見てる私としては支えてあげたい場面だけど、ここはじっくり見守ってやらなくては!


「あの…えっと……その……ッ!

う、ううぅぅぅ、うぐ…!」


遂に緊張が限界を迎えたのか、カイちゃんは地面に膝をついて泣き出してしまった。

こんなに弱々しいカイちゃん、初めて見た。

きっと、万が一私に断られて縁を切られたらどうしようとか、そんな事でも考えているんだろう。

お馬鹿だなぁ、そんなの不安に感じることないのに。


「えぐ……うっぐ…!」


「はぁ…仕方ないなぁ、この子は。」


私はスタスタとカイちゃんに近づき、今だけなら小さく見えるその身体を。

過度の不安と重圧で縮こまってしまったその身体を、私はそっと腰まで手を回し、抱きしめた。

いつもなら私が抱きつかれる側だから、立場逆転だ。



「ふぇ…?」


「大丈夫、不安で心がいっぱいいっぱいなんだろうけどさ、そういう時こそ私の事を信じてよ。

私なら、カイちゃんが悲しむような事なんてしないからさ。」


少し恥ずかしいけど、耳元でそっと囁くようにそう言った。

たったそれだけでも、カイちゃんには効果的面だったみたいだ。


「…うん、ありがとう白狐ちゃん。」


カイちゃんは立ち上がり、私も元の立ち位置に戻る。

見守ると決めたのに結局手を貸して……私もやっぱ、カイちゃんには甘いなぁ。

さてと、カイちゃんは簡単に深呼吸を済ませて、私の顔を真剣な眼差しで見据えている。


「白狐ちゃんッ!」


「は、はい!」


気合いの入ったカイちゃんの声色にビックリしつつも、私もカイちゃんの顔をしっかりと見つめる。




「今まで長い間色々あったけど、アタシの一番の気持ちを単刀直入に伝えるね!」


「うん。」






「好きですッ!一目惚れでしたッ!

どうかアタシと、恋人になって下さいッ!」




歯を食いしばったまま頭を下げて、いつか聞いた告白の台詞を叫ぶカイちゃん。

ただそれだけで、彼女の実直過ぎる気持ちが伝わってくる。

それに対して、私もちゃんと想いを返さないとな。




「私もさ、一目惚れじゃないけど、想いは一緒だよ。」


「ッッ!?」


私の正直な言葉を聞いて、カイちゃんが目を見開く。


「いつの間にか、カイちゃんが側にいないと不安になってた。

カイちゃんと一緒にいると、自然と笑顔になってる自分がいた。

だからさ、私の人生にはカイちゃんがいないと駄目なんだよ。

カイちゃんの所為で、私はそうなっちゃったんだよ。」


「白狐ちゃん…」




「私も、カイちゃんが大好きだ。

山岸海良の事を、世界中の誰よりも愛してる!

これからもずっとずっと一緒にいよう!大好きなカイちゃんッ!」



⚪︎2人に質問のコーナー


白狐ちゃんが好きな人は?


「…ん?……あぁ、えっと………カイちゃん。」

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