「適合体ってのは、殆どの地球人が該当してたって事だよね?
でも、なんでその中で白狐ちゃんだけが不変力を持つ事になったのかな?」
カイちゃんがそう聞く。
確かに、大勢の候補者の中から私1人が選出された理由が謎だ。
「それには勿論、理由があります。
不変力を持つにはまず、永遠の不変に耐えられる強靭な精神力が必要です。」
「……強靭?」
きょとんとする私。
「……ええと、白狐さんの場合は、強靭と言うより柔軟……ですかね。
永遠の時間にも対応出来る、非常に柔軟な精神性です。」
「柔軟、ねぇ……」
まあ、そう言われてみればそうなのかもしれない。
自分がそういう人間だという自負はあるな。
「そっか、それが理由なのか。」
「あと、他の地球人よりも適性が高かったと言うのもありますね。
ワタクシは何度も高度AIによるシミュレーションと演算を繰り返し、その結果最も最適な地球人として算出されたのが、貴女だったのです。」
「ほえ〜、流石は私だ。」
「凄いよ白狐ちゃん!」
「どうも、地球人代表の尾藤白狐ちゃんです。」
ついつい調子に乗ってしまう。
「えっと……話を戻しますね?」
「あ、はい。」
「え〜、しばらくの間は平和に鉱石と不変力の研究を続けていた我々ですが、あらゆる物を不変に出来るという可能性に溢れた夢の力です。
それを狙う輩は、いつの世もどの世界でも、必ず現れるというのが相場なのです。」
おっと、話が不穏な空気を帯びてきたな。
「当時の金星は、2つの大国に分かれていて、お互いに不干渉を貫いていたのですが、どこから情報を仕入れたのか、ワタクシの国とは違うもう一つの国の王が、愚かにも不変力を我が物にせんと狙いをつけてきたのです。」
「……まあ、そうなってもおかしくはないわな。」
金星人も地球人も、結局その本質はあまり変わりがないという事だろう。
表面上は平和を保っていても、少しその皮を捲ってみれば、醜い欲望や悪意がグルグル渦巻いていたりするもんだ。
「もう一つの国の王は、典型的な俗物でした。
何がなんでも不変力を手に入れようと、暗殺者やスパイなどの刺客を幾度も送り込んできました。」
「……随分と物騒な話だな。
アンタは無事だったの?」
そう聞くと、リグリーは少し物憂げな表情を見せながら首肯する。
「ええ、そういった事態を見越して、セキュリティは厳重にしてありましたから。
あのように地下深い場所に研究施設を設けたのも、そういう事情があったからこそです。」
そっか、それならあの面倒臭い入り口も仕方ないか。
「恐らく、もう一つの国の王には、野心とは別に恐怖や焦りのような感情もあったのでしょう。」
「恐怖?」
「もしも我々が不変力の研究を完成させ、自在にコントロール出来るようになってしまえば、どんなに攻撃を受けても傷一つ付かない無敵の軍隊を作り上げる事も可能です。
そうなる前に、どうあっても不変力を奪取したかったのでしょう。
俗物な上に、小心者だったのです。あの愚王は。」
「………。」
「いくら刺客を送り込んでも一向に不変力に辿り着けない現状に、もう一つの国の王は、ついに最悪の手段を取る事になります。」
「……え?」
「彼は、殺傷力と感染力の非常に高いウイルス兵器を、我が国にばら撒いたのです。」
「なッ!?」
なんという事だ。
不変力欲しさに、まさかそこまでするとは!
「ワタクシの同胞達は、治療法の存在しない強力なウイルスを前に、尋常ではないスピードで死んでいきました。
そのウイルスは生命を根絶やしにする事に特化していて、驚異的な威力と速度で、感染したあらゆる生物を死に至らしめます。
このままではすぐに国民全員が全滅してしまうと悟った我々は、残された2つの希望に縋る事になったのです。」
……2つの希望、か。
「もうお察しかもしれませんが、その一つが皆さんの言う影人間………正式な機体名称は『メイトウ』。
我々の言葉で、〝影の人〟を意味する特別なロボットです。」
これもまた衝撃的だった。
「……ろ、ロボットだったのか、アレ。」
どう見ても機械からはかけ離れた見た目だけど、リグリーがロボットだと言うのだからロボットなのだろう。きっと。
「ワタクシはメイトウを不変力でコーティングし、更にウイルス感染を避ける為に自分自身の肉体をコールドスリープさせた上、意識を分離させメイトウに転移させたのです。」
意識を分離とかサラッと言ってるけど、そんな超技術も持ってたんか。
まあでも、これであの地下施設の謎は大体解けたな。
影人間が作られた理由は、侵略国家がばら撒いたウイルスを凌ぐ為で、でも結局生き残れたのはリグリーたった一人。
私と違って、何十億年もの間リグリーは、ずっと独りぼっちだったのだ。
まあ、たまに私と会ってたけど。
「無論、そんな強力過ぎる殺人ウイルスを、一国家程度では制御しきれる筈がありません。
もう一つの国はほんの小さな管理ミスから自国内でのウイルスの感染拡大を許してしまい、不変力を手にする事なく自滅してしまいました。
この時点で、金星に残る生命体はワタクシ一人となってしまいました。」
「…………。」
なんて……
なんて重い話なんだ。
「全ての生命が死に絶え、宿主を失ったウイルスは生きていく事が出来ずに、間も無く全滅します。
頃合いを見計らってコールドスリープを解き、元の体に戻ろうとしていたワタクシは、最悪のトラブルに見舞われる事になります。」
「うわ、嫌な予感。」
「そうですね、本当に嫌な事でした。
メイトウ………ややこしいのでもうワタクシも影人間と呼びますね。
影人間の不具合によって、自力で元の体に戻る事が出来なくなっていたのです。」
「……そっか。」
「未完成且つ不完全な影人間のボディは、ワタクシの意思で操作する事も出来ません。
ウイルスの感染スピードが早過ぎて、細かい部分まで開発が間に合わなかったのです。」
つまりは、殆どただの置き物人形みたいな物だった影人間の中に、意識だけが閉じ込められたって事なのか。
本当に不憫だ。
「ですが、それらは最悪の事態でしたが、実行する前から予測されていた想定内の出来事ではありました。
そんな事態を見越して、地球に向けて放ったのが、2つ目の希望なのです。」
「え?放ったって?」
リグリーの視線が、私に向く。
「白狐さん、貴女は不変力を手に入れた時の事を覚えていますか?」
突然の質問に、私は少し戸惑う。
「えーと、当時はまだ小学生の時で、寝て起きたら不変力が身に付いてたな、確か。」
ありのままの事実を話す。
別に劇的なストーリーや、不可思議な出会いとかそんなのは無く、本当にただ寝て起きたらそうなってたのだ。
「……ワタクシは影人間に意識を移す少し前に、黒白の鉱石から抽出した不変力のエネルギーを極小のナノマシンに詰め込み、地球にいる不変力への適応力が最も高い人間……白狐さんに向けて射出しました。」
「……あー、なるほど。」
そいつが、当時の私が寝てる間にやって来て、私の身に不変力を宿したって訳か。
得心いったよ。
「影人間と化したワタクシは、影人間に搭載された惑星間超遠距離テレパシー機能によって、白狐さんの夢の中に時折現れては、意思疎通を図っていました。」
「生意気な奴だったけどな。」
「……ご、ごめんなさい。」
「あ、いや、気にするなって。」
私が皮肉っぽく言っただけで、リグリーはしょげてしまった。
つくづくあの影人間と同一人物とは思えない、真面目な人柄だ。
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんがなってみたい職業は?
「基本的には働きたくないけど、強いて言うならそうだなぁ………小説家とか良いかもね。
1人でひたすら物語を書くの好きだし。」
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