「カイちゃんカイちゃん!
これもう食べれる!?」
「落ち着いて白狐ちゃん!
あともうちょっとで、ちょうどいい焼き加減だから。」
肉が良き焼き色に焼けていく。
それに比例して、私の食欲も上昇していく。
「あ、これもういいんじゃないかな。
はい白狐ちゃん、あーん。」
カイちゃんが箸で肉を一枚摘み、私の目の前に持ってくる。
「……え?何やってんの?」
「何って……あーんしてるだけだけど?」
「友達同士はそんな事しないだろ。」
私は素っ気なくそう返して、網の上でこんがり焼けている別の肉を取り、タレに浸けて頬張った。
「ん〜、美味いッ!」
「ちぇ、お肉に目が眩んだ白狐ちゃんが、食いついてくれると思ったのに。」
「はいはい、そういうのは恋人とやりなさいね。」
「んー、じゃああと19年経ったら白狐ちゃんにあーん出来るのかー。
楽しみだなー!」
「……19年?」
カイちゃんのその言葉を聞いて、私は思わず口の中で咀嚼していた肉を吹き出しそうになった。
「ゴホッ……あぁ、そっか、そうだった。
もう80年以上経ったんだったな。時が経つの早過ぎだろ。」
というか、最近カイちゃんがその事をあまり言わなかったから、忘れかけてたぞ。
そうだよ、100年経ったら私とカイちゃんは恋人として付き合う事になるんだった!
もう4分の3以上経過してたんかい!
「もー!白狐ちゃん忘れてたの!?」
「いやいや、そうじゃない。覚えてる覚えてる。
」
「ならいいんだけど。」
忘れてた……
というよりは、カイちゃんが側に居るのが当たり前過ぎて、もう既に夫婦みたいになってるって事か?
「いや結婚してねーしッ!」
「……結婚?」
一人でセルフツッコミをしている私の事を、カイちゃんが不思議そうに見ていた。
「ああいや、何でもないから気にしないで。
それより、肉もだいぶ焼けてきたから、カイちゃんも早く食べなよ。」
「うん、そうだね!」
私とカイちゃんは、次々に肉を焼いて食べていく。
カイちゃんが用意した肉の量は非常に多く、ざっと見て20人分以上は軽くある。
普通なら2人で食べるには異常且つ無謀過ぎる量だけど、無限の胃袋を持つ私達(特にカイちゃん)にとっては何の造作も無く処理出来る量だ。
体の事など一切心配する事なく、好きな物を好きなだけ食べ放題なのは、やっぱり不変力の賜物であり、醍醐味ともいえるだろう。
「んー、肉美味い!
美味いんだけど、なんか足りない気がするよなぁ。」
「そうそれ、アタシも感じてた。」
「んっとなぁ〜……あ、そうだ!」
私は急ぎ足で、自宅へと走った。
少し経って私が担いできたのは、キッチンにあった例のブツ。
「白狐ちゃんそれ、炊飯器!?」
「イエス!我々に足りなかったのはライス!
肉は米を愛す!」
「……何故にラップ調?」
私が韻を踏んでしまうのも無理はない。
「米は、日本人にとっての喜び。
焼き肉は、日本人にとっての誉れ。
その2つが出会いし時、私のテンションは臨界点にまで達するのだ。」
「…な、なんかよく分かんないけど、白狐ちゃんが嬉しそうにしてるには伝わってきたよ。」
「よし、そうしたらお茶碗にご飯よそって、焼き肉ご飯の時間と洒落込みますか!」
「イエーイ!」
見事な焼け具合のお肉を、タレに浸け、それからご飯と一緒に口に運ぶ。
「んー!こいつぁ美味過ぎるッ!」
「美味しい!美味しいよ白狐ちゃん!」
これぞ、シンプルにして至高の食べ方!
私もカイちゃんも、今日一番の笑顔になった。
「更に白狐ちゃん、アタシが用意していたリーサルウエポン、最強の切り札であるバーベキュー串もありますッ!」
「おおー!バーベキューすげー!」
カイちゃんが取り出した、肉と野菜が串刺しにされたバーベキュー串とやらを前に、私の目も更に輝きを増す。
バーベキュー、思ってたよりも遥かに良いものだな!
「…ふぅ、最高だった。ご馳走様。」
「アタシも満足、ご馳走様でした。」
私もカイちゃんも用意した全てのお肉を食べ尽くし、なんとも言えない充実感に満たされていた。
「今の私は、地球上の全ての牛、豚、鶏諸氏に感謝したい気分だ。」
「白狐ちゃん白狐ちゃん、今度鹿肉とか、猪肉とか食べに行ってみようよ!」
「お、ジビエ料理ってやつか、いいね!」
そうだな、こうなったら色んな種類の肉を喰らい尽くしてやろうじゃないか。
「今後の楽しみ、また一つ増えたね。」
「うん、そうだな!」
◆◆
「……うぅ、想像はしてたけど、やっぱり洗い物が面倒だなぁ、バーベキュー。」
「まあまあ、こういう面倒事もキャンプの醍醐味だよ。」
「くっそー、目先の肉に目が眩んで、バーベキューセットを不変にし忘れてた私が馬鹿だった。」
バーベキューセットにこびり付いた汚れ、なかなか落ちぬ。
いつも不変力のお陰で汚れることのない食器ばかり使ってたからか、こうしてマトモに洗い物をするのなんて何十年振りだろうか。
お陰で、我ながら皿洗いが下手過ぎる。
「よっし、これで食器は全部洗い終わったな。」
洗って拭いての行程を済まして、完璧ピッカピカになって山積みされているお皿さん達を眺める私。
というか、たった2人でどんだけ食ったんだと改めて思えるような、とんでもない食器の量だ。
「大変だったねー。
白狐ちゃん、お疲れ様!」
「うん、おつかれ。
そんじゃ食うもん食ったし、あとはゲームして風呂入って寝るかー!」
私が踵を返すように自宅へと戻ろうとしたら、目にも留まらぬ速さでカイちゃんが私の目の前へと回り込んできた。
僅かな音すら立てないその動き、まさに忍びの者!
「白狐ちゃん、まだキャンプは終わってないよ?」
「…あ、はい。ソーデスネー。」
……カイちゃんの笑顔が怖い!
◆◆
「キャンプファイヤー!」
「…キャンプファイヤー…」
辺りもすっかり暗くなった頃、私とカイちゃんはアウトドア用の折り畳み椅子に腰掛けつつ、小さなキャンプファイヤーの火を囲んでいた。
「…なるほど、こうしてただひたすら、燃え盛る炎を眺めているだけってのもオツなものだなぁ。」
最初はただ炎を眺めてるだけなんて絶対つまんないだろうと思ってたけども、いざこうしてみると、暗闇の中パチパチと必要最低限の音だけを出して燃えている炎は、なんと言えばいいのだろう……
人間としての本能レベルで、心地良さを感じている。
そんな気がする。
「私の全身の細胞に、ご先祖様の炎を愛する心が遥か遠い過去から連綿と刻まれている。
それをひしひしと実感するような心地だよ。」
「…ず、随分とスケールが大きいね、白狐ちゃん。」
「少し調べたけど、キャンプファイヤーって、歌を歌うのが定番なんだっけ?」
「そうだねー、白狐ちゃんの歌、久し振りに聴きたいなー!
白狐ちゃんって、物凄く歌上手いし。」
「んー、別に良いけど。」
私の歌は、どうやら結構上手いらしい。
私自身はあまり自覚が無いものの、前にカラオケの採点機能を使ってみたら、どの曲を歌ってもかなりの高得点を叩き出し、中には全国1位になったのもある。
私の歌が上手いのはカイちゃんのお世辞じゃなくて、本当の事なんだろう。
それに何より、私自身歌を歌うのが結構好きになれた。
初めこそ緊張してたものの、たまにカイちゃんとカラオケに行ったり、時には一人カラオケに行ったりして、そこそこ場数を踏んできたのだ。
「そして更に、雰囲気を出す為に中古ショップで買ってきたラジカセを持って来ました!」
カイちゃんが、古ぼけたラジカセを取り出した。
「うわ、なっつ!随分ボロいけど、使えんのそれ?」
「動作確認済みなので、ご安心を!」
それからというもの、カイちゃんが用意したキャンプの歌を色々と歌い、思いの外キャンプファイヤーも盛り上がった。
結果として、その後のテント内での寝袋体験も楽しかったし、おうちキャンプはとても良い経験になった。
……キャンプ。
カイちゃんと2人でやる分には、悪くないのかもな。
いつか、おうちじゃなくて、普通のキャンプにも付き合ってやるのも、やぶさかじゃないのかもしれない、かな?
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんの好きな犬の種類は?
「サモエド!モフモフは正義!」
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