「ほうほう……ふむふむ。」
『リアルなイラスト付き古代生物図鑑』
『漫画で覚える昔の生き物!』
『新説・古生代の支配者達』
などといった本を片っ端から持ち出し、近くの読書スペースで本を山積みにしながら皆で読み漁っていた。
「あ、この生き物ってこのページに載ってるやつじゃん!」
「このヘンテコな植物も載ってるねー!」
スマホで撮影した写真と図鑑のイラストを参照していく度に、私達の予感が次々と的中していった。
「多少イラストと相違があるのは仕方ない事とはいえ、あまりにも図鑑の生物と合致するものが多いですね。」
リグリーの言う通りだ。
図鑑のイラストは、人間達の想像の部分があったりもするので、確かに色や形が違ったりもする。
「へぇ……アノマロカリスって古生代の生き物だったんだなぁ。」
「面白い形してるよねー、アノマロカリスって。」
「うん、もしいるんだったら是非とも捕まえときたいな。」
「いいねーそれ名案だよ白狐ちゃん!
捕まえて、どんな味がするのか確かめよー!」
「食うのかい!
……まあ、確かに味も気にはなるけど!」
うん、気になる。
一度気になりだしたら、際限なく気になってくるぞ!
「よっしゃ!明日はアノマロカリス釣りにゴーだぁ!」
「イエーイ!」
「イエーイって……尾藤ちゃん、何だか目的が脱線してないかい?」
ツジにそう言われるも、私達の食への熱き好奇心がそう簡単に止められる訳がない!
「いえ、ツジさん。
そうとも限りませんよ。」
「え?」
意外にも私達の肩を持ったのは、リグリーだった。
「アノマロカリスを捕まえる事が出来れば、この謎の星の研究も捗る可能性があります。
アノマロカリスを調理解体する際に胃の内容物を調べる事が出来れば、謎に包まれた生態を暴く近道になるかもしれないのですから……じゅるり。」
「……リグリーちゃん、そんな風に涎を垂らしながら言われても説得力無いよ?」
「おっと、これは失礼しました。」
リグリーが手持ちのハンカチで口元の涎を拭う。
リグリーはすっかり食いしん坊キャラになりつつあるが、彼女の場合はカイちゃんみたいな大食い方面ではなく、知的好奇心に基づいた美食家的な位置付けだ。
「でも、アノマロカリスって普段何食べてるのかな?」
「………あぁ、それが分からなきゃ釣りなんて出来ないよなぁ。」
そういえば餌をどうするか考えてなかったな。
一番重要なところじゃん。
「ふむ…アノマロカリスの捕食対象については諸説あるけれども、有力なのは同じ海に生息する甲虫類を食べていたという説だね。
それこそ、あの磯場にいた三葉虫(仮)辺りが適任なんじゃないかな?」
「成る程、そうなのか。
それじゃあまずは、三葉虫(仮)を捕獲するぞー!」
「おー!」
次にやる事が決まりましたとさ。
◆◆
翌朝。
起床してから、朝食である昨日の夕飯の残りカレーを平らげる。美味い。
パンイチだったので外出用の服に着替えて、〝本日の用事〟の支度も済ませ、いざ玄関へ!
「よし、今日は三葉虫(仮)捕獲作戦の決行日だ!
待ってろよ愚かな三葉虫(仮)どもめ!
こないだは準備不足で不覚をとったけど、今回は万全の最強装備で挑むからな!」
前回は素早い動きの三葉虫(仮)に翻弄されてしまい、ロクに捕まえる事が出来なかった。
カイちゃんは例外だけど。
それを踏まえて今回は、何故か自宅の地下倉庫にあった小型動物用の麻酔銃に、大きめの虫取り網、大きめのバケツなどなど、装備は完璧に揃えてきた!
もう負ける気がしない!
「いざ!決戦の地へッ!」
バーン!と玄関の大扉を開け放った瞬間だった。
「あ、おはよー白狐ちゃん。」
「あん?」
扉の向こうにカイちゃんが立っていた。
両手に、大量の生きた三葉虫(仮)が無造作に放り込まれたバケツを持って。
◆◆
「むすっ!」
「ごめん白狐ちゃん、機嫌直してー。」
あんなに気合いを入れて武装して張り切ってたのに、完全に空回りになってしまった。
どうやらカイちゃんは、私が起きるよりも前からあの磯場に先行して、道具を一切使わずに素手で三葉虫(仮)をじゃんじゃん乱獲していたそうな。
「……昨日から楽しみにしてたのに。」
「うえぇ…拗ねてる白狐ちゃんも狂おしいほど可愛いけど、お願い機嫌直してー。」
「んー、まあそうだな。
カイちゃんは気を回して私の為に獲ってきてくれた訳だし、事前に何も言わなかった私も悪いからなぁ。
チュー1回で許してあげよう。」
「イエスチュー!」
カイちゃんがマッハの速度で私の頬にキスしてくる。
「ふむ、前回よりも0コンマ013秒早いな。
おめでとう、今年に入ってからの最高記録だ。」
「やったー!白狐ちゃんキス道は奥が深い!」
さて、いつものバカップルなお戯れはここまでにして、さっさと本題に移るとしようかい。
「それで、この三葉虫(仮)だけど、どうやって釣りの餌にするんだ?」
「ふっふっふ〜、そこはちゃんと考えてあるんだよ!」
「ほほう?」
自信ありげにそう言い張るカイちゃん。
おもむろに三葉虫(仮)を1匹ガシッと鷲掴み、キッチンへと向かって行く。
「まずはこの三葉虫(仮)を、まな板の上に置きます。」
「はい。」
「で、一番切れ味の良さそうな大きい包丁……この中華包丁で良いかな。これを用意します。」
「あ、この先は見ないようにしとくわ。」
笑顔で中華包丁を握るカイちゃんを前にして嫌な予感がしたので、体を反転させて後ろを向いた。
「えいっ!」
ズダンッ!
と、カイちゃんの掛け声と共に、私の背後で包丁がまな板に食い込む音がキッチンに響き渡っている。
あの硬そうな甲殻を持つ三葉虫(仮)を一発で両断とは、やっぱカイちゃんすげぇわ。
料理スキルは私の方が上だけど、こういう力仕事は圧倒的にカイちゃんの出番だ。
カボチャ切るのとかも、よく頼んでるし。
「あー、私はリビングで休んでるから、終わったら声掛けてちょうだいな。」
「はいはーい!」
精神衛生上、エグい絵面の直視は避けとくに越したことはない。
◆◆
「でけたー!」
「お?早いね。」
ご機嫌な様子のカイちゃんが、お皿を片手にリビングまでやって来た。
お皿には、料理を隠す為のドーム上の被せる蓋|(高級料理店なんかでよく見るやつ)みたいなのが被せてある。
どうやらサプライズ感を演出したいようだ。
カイちゃんらしい。
「わざわざこんな蓋まで用意するなんて、随分気合い入ってるなぁ。」
「もっちろん!
ちなみにこの蓋の正式名称はクローシュって言って、料理の鮮度や温度を保つ為の物なんだよ!」
「へぇ。」
また一つ知識を得た。
「それでは早速、オープン!」
クローシュ……とやらをカパっと開くカイちゃん。
その中に入っていたのは、黒っぽい色の泥団子みたいな物体が数個入っているだけだった。
「……何これ?」
「アノマロカリス専用の特製フードになります。」
「………まさかこれ、三葉虫(仮)の成れの果ての姿か?」
「チッチッチ、成れの果てなんて表現はよろしくないですよ白狐ちゃん。
これは、三葉虫(仮)を切って叩いて捏ねて煮詰めて焼いて伸ばして練って千切って丸めて出来上がった、三葉虫(仮)100%配合のスペシャルフード!
命名、『スリーリーフ団子』!」
会心の出来と言わんばかりに、その豊かな胸を張っているカイちゃん。
スリーリーフって………三葉虫だからか。
「うーん、元の姿を知ってるだけに、使うのにちょいと抵抗があるなぁ。」
「でも、きっと効果は抜群だと思うよ!
アノマロカリスが好みそうな、三葉虫(仮)の旨みエキスがこれでもかと滲み出るよう作ったから、夢中になって齧り付く筈!」
……無事に成功してくれる事を祈ろう。
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんのフェチは?
「フェチ!?……まあ、おっぱいは大好きだ。
特にカイちゃんの。」
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