「へいお待ち!尾藤白狐ちゃん特製、オリジナルスペシャル豚骨ラーメンの出来上がり!」
我が家の食堂で楽しみに待っているツジとレンちゃん。
今回彼女達に提供した私の手料理は、チャーシュー、味玉、海苔、全部乗せのこってり豚骨ラーメン!
……え?あんま女の子っぽい料理じゃないって?
いやいや、まずはこれで良いんだよ。
誰かの胃袋を魅了するには、まず手堅くラーメンよ。
これ常識。
「……これが、ラーメンという料理か。
本ではよく見るが、実物は初めてだね。」
「…匂い嗅いでるだけで、お腹が鳴る…。」
「さあさ、伸びないうちにお食べ。」
どうやら2人は箸は普通に使えるらしく、箸に麺を絡ませてジッとそれを注視している。
おいおい、早く食べろって言ってんのに。
興味があるのは分かるけどさ。
「では、いざ…!」
覚悟を決めたツジが、先陣を切って麺を啜る。
「んぐッ!?」
初めこそ恐る恐る口にしてたものの、勢いはすぐに加速し、ズルズルと勢い良くラーメンを啜る啜る。
「うっ!美味いッ!こんなに美味な食べ物、初めて食べた!
想像を遥かに絶するこの味、感動だッ!
この瞬間を、私は生涯忘れないだろう!」
よっぽど感動したのか、立ち上がって演説でもするかのようにそう叫ぶツジ。
普段の冷静さをかなぐり捨てて、かなり興奮しているみたいだ。
「いやいや、大袈裟過ぎるって。
喜んでくれたんなら良いけどさ。」
「ちっとも大袈裟なんかじゃないさ!
本当に美味しいと感じたから、ありのまま事実を述べた。
私はこういう事で嘘は言わないよ。」
「そっか、ありがと。」
大真面目にそう宣言するツジの言葉を、私は信じた。
「…で、お次はレンちゃんの番か。」
「………ゴクリ。」
と、私達の耳朶にも伝わってくるくらい、分かりやすく息を呑んだレンちゃん。
麺を警戒していた彼女もようやく意を決して、最初の一口目を口にした。
「………ッッ!!」
どうやら、お気に召してくれたようだ。
ツジ以上の勢いとスピードでがっつき、あっという間にどんぶりがすっからかんになってしまった。
「お気に召して頂いたようで、何よりでございます。」
敢えて高級レストランの料理人っぽく丁寧にお辞儀してそう言ってみたら、レンちゃんは恥ずかしそうに
「……まあまあ美味しかった。」
とだけ言った。
まあまあってレベルのがっつき方じゃなかったけどな。
この子はなかなか素直になれないようだけど、そこが逆に可愛いポイントなのかもしれない。
「……ふぅ、私とレンちゃんの胃袋も満足した事だし、一つ気になっていた事を聞いても大丈夫かな?」
「うん?何が気になってたの?」
「先程、車の中でもチラッと話したけど、この町は尾藤ちゃん、君が不変にしたんだろう?」
「ああ、そうだけど。」
「では、不変にしたのは具体的に何年前の話なんだい?」
「えっと……2000年前くらい?」
「正確には、2205年前だよ、白狐ちゃん。」
カイちゃんはマメな性格なので、年数をちゃんと覚えていた。
「成る程、2200年ほど前だと、確か西暦2000年代の初頭辺り。
そんな途方も無い年月の間、一切の形状を変えず、汚染の影響も完全に無効化か。
しかも、人体や物体への悪影響や副作用も無い様子。
だとすれば……」
なんか、ツジがブツブツ独り言を言い出して、自分の世界に没入してしまった。
「えーと、ツジさん?」
「あぁ、一旦こうなるとツジ姉は長いから。
30分くらいこのまま。」
「へぇ、集中力が高いんだね。」
集中力低めな私には想像もつかないけど、めっちゃ集中力高い人は、一度集中し始めると周りの音が耳に入ってこないって聞いた事ある。
何を考えてるのか分からないけど、今はそっとしておこう。
「それより白狐、他にも何か美味し……食べれる物はないのか?」
両手に箸とスプーンを持ってそう要求してくるレンちゃん。
無表情を装ってるけど、その瞳はキラキラと輝いている。
「フッフフ、レンちゃんは料理の作り甲斐があるねぇ。
んじゃ、こっからは延長戦で、更なる料理達を振る舞ってあげよう!」
「ふおぉぉーーッ!?」
レンちゃんのクールさという名のダム、即決壊。
ここまで来たらなんか面白くなってきたし、とことんレンちゃんの胃袋を掴みまくって笑顔にしてあげよう!
「こちら、デザートのザッハトルテになります。」
ミートスパゲッティ、唐揚げ、ドリア、青椒肉絲、カレー、寿司、焼きそば。
私のフルコースをたらふく食べて、幸せそうにお腹をポンポン叩いてるレンちゃんの前に、濃厚なチョコレートを使用した渾身のザッハトルテを提供する。
しかもホールで。
「……良い匂い……美味そうッ!」
不変力の影響を受けてもいないのに、レンちゃんの食欲はとんでもない底無し胃袋だ。
流石に不変力によって無限に食える私達程じゃないけれど、時代が時代なら、有望なフードファイターになってただろう。
「こ、これがスイーツってやつか…!
よく、ゆるふわ美少女4コマ漫画とかで見るやつだな!」
「君ら美少女4コマ好きだね〜。」
レンちゃんが、今日一番の興奮っぷりを見せている。
スイーツ食べるのも初めてっぽいし、相当嬉しいんだろうな。
「…じゃあ、食べるぞ?」
「どうぞどうぞ〜。」
「…………ぱくり。」
レンちゃんが、緊張の面持ちでザッハトルテを一口、口に運んだ。
「……………んッ!?」
一瞬、珍妙な声を上げたと思ったら、次の瞬間に信じられない光景を目にした。
レンちゃんが、泣いていた。
「……う、うぅ……ぐずっ!」
「ちょっと!?どうしたのいきなり!」
あまりにも予想外な急展開に、私もカイちゃんも焦る。
「……レンちゃんが泣くのなんて、随分久し振りに見たねぇ。」
ちょうど良いタイミングで、ツジが復活したみたいだ。
「いや、何で泣いてるの!?教えてツジさん!」
「ふむ、これはきっと……」
「きっと?」
「……こんなに美味しい物食べたの……初めてだからだよぉ…!」
レンちゃんが、顔中涙と鼻水だらけでグシャグシャになりながら、辛うじて絞り出した声でそう言った。
「そうかそうか、気の済むまでお食べなさい。」
泣く程感動してくれるだなんて、料理を作る立場としては冥利に尽きるリアクションだ。
カイちゃんに匹敵するくらい、作り甲斐があるな。
結局、ザッハトルテ1ホールのうち、6分の1はツジが食べて、残りは全部レンちゃんが平らげてしまった。
「……白狐、ちょっといい?」
「ん?」
食事が終わり、後片付けも済んだ辺りで、私はレンちゃんに呼び出しされた。
呼び出しと言っても、さっきまで皆で食事会していた食堂に呼ばれただけで、すぐ側にはカイちゃんとツジもいる。
「あのさ……なんていうか……ありがと。」
レンちゃんが、モニョモニョと呟くように感謝の言葉を言った。
それに対し、私も笑顔になる。
なんか微笑ましい。
「いいのいいの、久々に出来た友人をもてなしただけだし。」
「…でもワタシ、最初あんなに酷い事言ったりしたのに……こんなに歓迎して貰っていいのかなって思って……」
「いいんだって、気にしない気にしない。」
とは言ったものの、レンちゃんはかなり気にしてるっぽい。
…まあ、そりゃあ最初の印象は怖かったけどさ。
こうして言葉を交わし、美味しい物を食べあえば、その人の本質だって見えてくるってもんだ。
あんなに強くて怖かったレンちゃんは、実は凄く優しくて、人にちゃんと感謝できる女の子だったのだ。
「…レンちゃんは優しい子だなぁ。」
「はぁッ!?」
「その優しさを、大事にするんだぞ?」
「………………うん。」
今日は良い友人が2人も出来た、素晴らしい日だった。
⚪︎2人に質問のコーナー
白狐ちゃんが好きな四字熟語は?
「んー、虚心坦懐かな。何事も広い視野で臨むの大事。」
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