人というのは、時として驚きが度を超すと、パニックになるのを通り越して、逆に沈黙してしまうんだなぁ、というのをこの日、学んだ。
「…………。」
「…………。」
私もカイちゃんも、揃って絶句していた。
目の前の光景に、何という言葉を述べればいいのか、私なんかのちっぽけな脳みそじゃ処理が追いつかない。
でも、たった一言だけ台詞が喉から押し出てきた。
「…カイちゃん。」
「え?」
「………これが、ロマンだ。」
「……そうなの?」
そうだよ。
私達の目の前に広がるこの景色こそが、ロマンそのものである事には違いないんだよ!
虚無の惑星で鉄の蓋を見つけた私達。
その蓋を開き、地下に続く螺旋階段を降り続け、鉄の扉まで辿り着いた。
その扉を開けた先に待っていたのは、想像を遥かに絶する程の巨大な空間だった。
天井は空のように高く、奥は果てしなく見えない。
そして無数に存在する建物らしき物体の残骸。
まるでここが、かつては巨大都市でしたと言わんばかりに、馬鹿でかい石や鉄の残骸が至る所にゴロゴロと転がっている。
そして、そのどれもが自然物ではなく、何者かが作り上げた人工物だというのが、私達のような素人から見ても一目瞭然だった。
「……凄いね、建造物の残骸が、どこまでもずっと広がってるよ。」
「ああ、間違いなく人類以外の地球外知的生命体が作り上げた、超高度文明の遺跡だ!
半端ないぞこれは!
かつての人類が成し得なかった、歴史的な大発見だッ!」
私の心は、かつてないロマンを前にどんどん昂っていた。
最初は唖然としていたけど、時間差で沸々と心の底から興奮の感情が湧き上がってくる!
「カイちゃん、こうなったら早速探索するぞ!
高度文明の手掛かりが見つかるかもしれん!」
「う、うん!」
私はカイちゃんの手を引っ張り、超巨大地下遺跡へと駆け出した。
◆◆
「しかしなぁ、地上とは全然違う景色なのに、ここも随分と寂しい場所なんだな。」
探索を始めて1時間。
私は率直に感じた意見を口にした。
どこも尽く崩壊している建造物群は、元々どんな形をしていたのかが殆ど分からない。
当然ながら人の気配は無く、動物や虫1匹すら見かけていない。
完全に何もかもが終わっている、死んだ世界と言うべきなのかもしれない。
「そうだね、動くものも音もしないし、まるでアタシと白狐ちゃん以外の時間が止まってるみたい。」
「お、ちょっとロマンチックな台詞じゃん。」
「そうかな?」
なんて呑気な会話をしてはいるものの、探索の方は難航している。
なにせ、巨大都市と見紛う程の大量の建造物が、全部崩れ落ちているのだ。
瓦礫の量とサイズが半端無く、少し前進するだけでもかなりの時間が掛かってしまう。
「ったく、また瓦礫の山だ。
これならさっきの階段の方が、200倍はマシだったぞ。」
瓦礫の山を次々とどかし、登り、姿勢を低くしてすり抜け、少しずつだけど着実に前へと進んでいく。
でも、所詮は亀の歩みだ。
更に言うと、目的地も定まっていないのに、ただ闇雲に進んでいるだけなので、意味があるのか分からなくなってくる。
都市の手掛かりになりそうなものも、風化してしまっているのか、何も見つからない。
「あーもうやめやめ!
一旦、目的地を明らかに………ん?」
その時、私は気付いた。
カイちゃんがどかした瓦礫のずっと向こう側に、まだ完全には崩壊していない、比較的綺麗な建造物が一つだけ建っていたのだ。
それも、結構デカい。
「おいおいカイちゃん!
あの建物!まだ無事っぽいぞ!」
「あ!本当だ!何なんだろうね?」
「それを今から調べに行くぞ!
目的地は、あの建物だ!」
目的さえ定まれば、かなり進みやすくなる。
相変わらず瓦礫の山が道を塞いでいるけど、そんなもの、私達の敵ではないわ!
◆◆
「……はぁ〜、やっと着いたかぁ!」
「もう、散々だったね。」
苦難を乗り越えて、やっとの事で謎の建物へと辿り着いた。
距離的にはそんなにあった訳ではないのだけれど、兎に角障害物が多過ぎる。
重たい瓦礫を何とかどかしたと思ったら、その反動で頭上から新手の瓦礫が降り注いだり、近道だと判断して通った道が、逆に大きく遠回りになってしまったり。
こういうハプニングも冒険の醍醐味なのかもしれないけど、これだけ立て続けに起こると流石にしんどくなってくる。
「まあ、苦労しただけの価値はありそうだぞ。
ほら、扉が壊れてるから、すんなり入れそうだ。」
目的地の建物は綺麗とは言ったものの、それはこの空間の他の建物と比べてのことだ。
私達の町の普通の建物と比べたら、どっからどう見ても心霊スポットめいた完全なる廃墟。
入り口含めてどの箇所も朽ち果てて、ギリギリ建物としての原型を留めてるって感じだ。
大きさは一般的な学校の校舎くらいで、パッと見で4、5階建てくらいの高さか。
建物の材質は……触ってもよく分からない、石みたいな触感。
ま、私はこういうのは詳しくないからな。
「カイちゃんは、この建物が何で出来てるか分かる?」
「うーん、アタシにはよく分からないなー。
コンクリートっぽいけど、ちょっと違う気がするね。
アタシもそんなに詳しくないから、お手上げだよ。」
「うーむ、まあいいや。
分からない事は後回しにするとして、まずは建物の中を探索だ!」
「オー!」
◆◆
「…………。」
「…………。」
私とカイちゃん、本日2度目の沈黙。
それもその筈、建物の内部は私達の想像を優に超えていた。
老朽化によってかなり荒廃しているものの、SFチックな鉄の床、壁、天井!
至る所に設置されているモニターらしき物体は全て破損していたり、照明も機能していないので薄暗い場所が多いけど、私達を驚愕させるには充分過ぎる程の光景だった。
外観は相当に痛んでいたけれど、中は思っていたよりも損害は少ないように見える。
「……すっごいな。
月並みな感想だけど、映画みたいだ。」
「……うん、空いた口が塞がらないよ。」
「よし、一頻り驚いたとこだし、ここも探索してみよーぜ!」
「あ、白狐ちゃん。暗いから足元には気を付けてね!」
「はいはい、大丈夫だって……………うん?」
私はふと、前に出かけた足を止める。
「どうしたの白狐ちゃん?」
「……あぁ、いや、なんか違和感が……。」
カイちゃんに注意喚起されてから感じた違和感を、腕を組んで考える。
「そうだ、今さっきカイちゃんが〝暗いから〟って言ったのを聞いて思ったんだけどさ。
ここって、地下だよな?」
「うん、バリバリの地下だね。」
「……建物の外って、明るかったよな?」
「……まあ、少し薄暗い感じもしたけど、曇りの日ぐらいには明るかった…………あッ!?」
2人して顔を見合わせた。
あまりにも違和感が無くて気にしてなかったけど、この地下帝国(仮)は何故か妙に明るかった。
「って事はだ、どっかにこの空間の明るさを維持する機能があって、それがまだ生きてるって事かも。」
「地下空間に暮らす人からしたら、照明は命綱だもん。
きっと他の設備よりも頑丈な作りになってて、そのお陰で未だに動いてるのかもね。」
「そうだな、その説は筋が通ってる。」
地下帝国(仮)の照明、か。
それも気にはなるけど、今はまず、この建物の探索が優先事項だ。
気を取り直して、私達は探索を再開した。
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんの好きな野菜は?
「アタシは白菜が好きかなー!
お鍋に入れても良いし、キムチにしても美味しいよね。」
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