「いやいや、いやいやいや!
ショウさんのお姉さんって、随分とお若いんっスね〜!」
「ん〜?あぁ、まあな。」
複数人の暑苦しいレスラー達に取り囲まれて、奇異の視線で注目を集めてしまった。
誰か助けて!お願いだから!
「姉貴はまぁ、色々あって小学生の頃から見た目が成長してないんだよ。
中身も変わってないから、小学生に接するのと同じように扱ってくれ。」
「なッ!なにをう……ッ!」
クッソ、いちいち一言余計な愚弟だ!
怒りに震えるも、即座にレスラー達に囲まれているという現実を思い出し、怒るどころじゃなくなった。
「へぇ〜、そうなんスか。」
「お嬢ちゃん、色々美味しいものあるけど、一緒に食べてくかい?」
「クッソー!馬鹿にしやがって!うわーん!」
逃げた。
齢うん十年にして、弟に半泣きにさせられた。
悔し過ぎて、今夜はマトモに寝られそうにないな。
ちなみに、釣った魚はどうしたかというと、普通にカイちゃんが弟達と交渉して、キッチンを使わせて貰った。
カイちゃんは有名人だから出て来た瞬間レスラー達がビックリしてたし、美人でコミュ力もあるから話し合いも驚くほどスムーズに進んだ。
どいつもこいつも、美人にゃ弱いって事かい。
◆◆
カイちゃんお手製の魚料理を堪能した後、私の部屋に入って2人で対戦ゲームをする事になった。
この流れはいつもの流れなんだけど、今回は久々の実家の私の部屋だから、妙に懐かしい感覚だ。
高校の頃を思い出す。
「そう言えば、アタシと白狐ちゃんのあの運命の出会いから、もう20年以上経ったんだね。」
2人でのんびり双六系のテレビゲームをプレイしている最中、カイちゃんがふとそう言った。
「ん?あぁ、あの体育館裏にカイちゃんに呼び出された、あの時か。
あの時はなぁ、マジでビビったなぁ。」
あれはなぁ、カイちゃんと初めて話した良い思い出でもあり、呼び出された事にビビり過ぎて挙動不審っぷりを全開にしてしまった嫌な思い出でもある。
クラスカーストトップの陽キャ女子からの呼び出しだったから、カツアゲでもされるんじゃないかと勘違いしてたんだっけ。
「そうだね、あの時の白狐ちゃんは少しキョドってたよね。
ま、そこがまた可愛かったんだけど!」
「うえ、やっぱり覚えてたんか。
あの時の私なんて、忘れちゃっていいよ恥ずかしい。」
「そんな!白狐ちゃんとの思い出は、全部1秒たりとも忘れられないよッ!」
「あーそう、ったく…」
「あっ、やっと白狐ちゃん追い抜いた。」
「ぬあッ!?くっ、いつの間に!?」
話す方に集中していたら、折角ゲームで優勢だったのに逆転されてしまった。
「カイちゃん、私を油断させる為に雑談始めたな?」
「いやー、そんなつもりじゃなかったんだけど。
結果的にはそんな感じになっちゃったね。」
悪びれる様子もなくそう言ってのけるカイちゃん。
くそ〜、ここまで舐められて大人しく負けられるか!
格ゲーとかレースゲームみたいな実力で左右されるタイプのゲームならともかく、今やってるような双六ゲームみたいな運要素の強いゲームなら、私にも充分勝機は有る!
実際、ついさっきまで私が勝ってたし!
「うおー!私を怒らせたが最後!
溜めに溜めた嫌がらせ妨害アイテムの応酬を受けてみろッ!」
「ひえェェェェッ!?理不尽過ぎる!」
怒りに燃える私の猛反撃をマトモに浴びせられた所為で、トップだったカイちゃんはあっという間に首位転落!
「ハッ、どうだ思い知ったか!
この私に逆らう愚かな輩は、必ず地獄へ真っ逆さまなのだよ!」
「くうっ、悔しい!でも負けないッ!
闇次元に堕ちた白狐ちゃんの目を覚まして、再び平和な日常を取り戻す、その時まで!」
「おおう、ノリ良いね。
だが私の手元にはまだ、妨害アイテムは山のようにある!
もはや貴様に勝ち目など残されていないのだよ!」
この後、突然カイちゃんの豪運っぷりが発揮され、私は普通に負けました。
◆◆
「いやー、今日は楽しかったね白狐ちゃん!」
「ああ、うん。ゲームは相変わらず負けまくりだったけど、カイちゃんと遊ぶのはやっぱ楽しいよ。」
「そっか、嬉しいなっ!」
「どさくさに紛れて抱きつこうとするな。」
自然な流れでハグしてこようとするカイちゃんの顔面を、両手で押さえつけてなんとか制止する。
やっぱりこの女はパワーが強い。
少しでも油断したら、一瞬で色々持ってかれそうだ。
「白狐ちゃん、なんか最近アタシを止めるの上手くなったよね?
もしかして、こっそり鍛えてる?」
「お馬鹿、不変力で肉体を不変にしてるんだから、鍛えたって意味無いだろ。
ただ単に、カイちゃんを制御するコツを、長年の付き合いのお陰で掴んだだけだよ。」
「そっかー、それもなんか嬉しいなー。
白狐ちゃんが、アタシの事を詳しく知ってくれてるって事だもんね!」
若干の皮肉を混ぜたつもりが、かえって喜ばせてしまった。
「ものは言いようだな。
ほら、もう夜になるし、そろそろ帰った方が良いんじゃないの?」
「うーん、正直帰りたくないなー。
東京で暮らしてた時は白狐ちゃんと夜を共にするのが当たり前だったから、今更離れ離れになるのはやだなー。」
「ぬうぅ、誰かが聞いたら誤解されるような物言いはやめろ。
私達は友達なんだから、本来はこういう流れになるのが普通なの。」
そりゃ確かに、少し前まで一日中一緒に居るのが当然みたいに過ごしてたからな。
でも、私だって1人になれる時間はある程度欲しい。
東京に住んでた時は、カイちゃんが仕事で忙しかった所為で1人の時間を確保出来たから、あまり気にならなかったけど。
「…うん、分かったよ白狐ちゃん。
白狐ちゃんも、プライベートは大事だもんね。」
私の気持ちを察したカイちゃんが、大人しく素直に引き下がった。
「…まあでも、私は基本、いつでもこの部屋に居るからな。
会いたい時は、いつでも一報入れてくれ。」
「……白狐ちゃん!うんッ!」
私が歓迎しているという意をきちんと伝えて、カイちゃんは満足した様子で帰って行った。
◆◆
「…ん〜。」
カイちゃんが帰った後、私は自室のテレビ前にある愛用ソファに腰を下ろし、体を伸ばした。
「……そっか、カイちゃん居ないのか。」
東京に住んでた期間は、地元で暮らしていた時間よりも長かった。
だからこそあのアパートにも結構思い入れがあったし、カイちゃんと同じ屋根の下で暮らすのも当たり前みたいになっていた。
そりゃあ、私だってカイちゃんの事は好きだよ。
あ、友達的な意味でな。
でも、元々一人で過ごす事の多かった私には、一人きりで過ごすプライベートな時間も必要なのだ。
別にカイちゃんと一緒に居たくないという訳じゃないけど、何事もバランスというものが大切なのだよ。
「カイちゃん…」
私は、テレビの隣のフォトフレームに入れてある写真に目をやった。
大きめのフォトフレームで、複数枚の写真を一緒に飾れるやつだ。
その中に、私達の高校卒業写真、沖縄修学旅行の写真、江ノ島デートの時の写真、コスプレした時の写真、ジャイアントジャンボクソデカビッグオオコオロギを捕まえに行った時の写真などなど、数々の思い出深い写真が飾られていた。
あ、ちなみにジャイアント(略)コオロギは現在、私の家で飼ってる。
10年以上生きてピンピンしてる辺り、寿命も長めらしい。
「……あっふぅ、なんか眠いな。寝るか。」
まだいつもよりは寝るには早い時間だけど、私はベッドに入った。
前よりも小さなベッドなのに、妙に広く感じるのは何故だろう。
襲い来る眠気に抗う事もせず、私は眠りについた。
深い深い眠りについた。
それから、50年後……
〜現代編・完〜
⚪︎2人に質問のコーナー
カイちゃんの好きな漢字は?
「〝愛〟!具体的には白狐ちゃんへの愛!アタシの胸の内から溢れる、白狐ちゃんへの無限の愛ッ!」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!